竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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理由

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 エッシェンド領に訪れてから早一週間。
 レイフォードの視察は難航を極めており、何を調べても精霊が減った現象の原因を突き止める事が出来ないでいる。

「特に街の空気が悪くなった訳でもないし、変わらず大事にされている。精霊たちもさして気にした様子もないが⋯どういう事だ?」

 二人交代で入浴を済ませ、足を組んでソファに座り唸っていると、ソフィアに髪を整えて貰ったルカが隣に腰を下ろし、バルドーとアルマからの報告書を持つ腕に抱き着き覗き込んできた。
 別に読まれても構わないが、ルカは見る気はなかったのかすぐに俯いて寄り掛かってきたから頭を撫でる。

「眠いか?」
「ううん。⋯まだ掛かりそう?」
「いや、確認だけだったからもう終わった」

 報告書をテーブルに置きルカが抱き着いている腕を離させると、そのまま抱き上げ組んだままの膝の上に乗せる。いつもより少しだけ顔が近くなり、見上げてきたから目蓋に鼻先を擦り寄せて目を閉じた。

「では、私は失礼致しますね」
「ああ、ありがとう」
「おやすみ、ソフィア」
「おやすみなさいませ」

 片付けを済ませたソフィアが仲睦まじい二人の様子を見て笑みを零しながら頭を下げる。手を振って見送るルカに微笑み、二人きりになった途端ルカにだけ聞かせる甘い声で問い掛けた。

「それで、私の愛しい妻は何が望みなんだ?」
「構って欲しかっただけだからもう満足なんだけど⋯⋯あの、さ⋯」
「ん?」
「何でレイは、俺はもう元気になったのにしないの?」

 言われて一瞬何の事か分からなかったレイフォードだったが、ルカの探るような視線に意味を察して思わず言葉に詰まると、それをどう取ったのかしゅんとしてしまい慌てて頬に触れる。

「すまない、少し驚いて言葉が出なかっただけなんだ。何故急にそんな事を?」
「急じゃない、ずっと思ってた。⋯俺が竜族になる前はたくさん触ってくれたのに、今は俺のがおっきくなった時だけだろ? 最初は竜族になったばっかだったから心配してくれてるのかなと思ったけど⋯」
「確かに、ルカの身体を第一には考えていたが…」
「でも、元気になったのにしないから⋯⋯竜族の俺じゃもうダメなのかなって⋯」
「そんな事、ある訳ないだろう」

 食い気味に言葉を返せば、ルカは数回目を瞬いたあと「じゃあ何で?」と聞いてくる。
 それにどう答えようか悩み、まずは安易に抱けなかった理由を説明しようとルカの肩を抱いたレイフォードは前髪で隠れた額に口付けた。

「ルカは、どうしたら子供が出来るか知っているか?」
「竜族はお母さんがお腹の中で卵を育てるんだろ? 本で見た」
「その卵がどう出来るかは?」
「分かんない。お父さんも手伝うってソフィアは言ってたけど、お母さんのお腹の中なのにどうやって手伝うのかは教えてくれなかった」
「そうか⋯」

 さすがのソフィアも上手く答えられなかったようで、慌てふためく乳母の姿が容易に思い浮かんで苦笑する。難しい言葉を使ってもルカには分からないから、レイフォードは選びつつゆっくりと続けた。

「確かに卵は母親の腹の中である程度までは育つ。だがソフィアの言うように、父親がいなければ卵は作れないんだ。子供は親の血を半分ずつ受け継いでいるからな。それはルカも分かっているだろう?」
「う、ん⋯」
「難しいな。⋯本来なら、今ルカが望んでいる事は人間の男女や竜族にとっては子供を作るという行為だ。もちろん愛し合うという意味もあるが⋯今はそこは置いておこうか」

 説明するのも一苦労だが、何も知らないまま妊娠してしまえばルカは困惑するだろう。だからこそしっかり理解した上で身篭り、共に喜んで欲しいとレイフォードは思った。
 不安そうな顔をするルカの手を握り頬に当てるともう片方の手が触れ挟まれる。

「人間の時はいくら中に注ごうとも男なら妊娠する事はないが、竜族は違う。私がルカを抱く事で、何も知らないルカの腹に卵が宿るかもしれないと思うと申し訳なくて出来なかった」
「? 俺、お母さんじゃないけど⋯」
「母親というのは子供から見た呼称だ。ルカの腹に卵が宿れば、ルカはその子にとってお母さんになる」
「じゃあ、レイがお父さん?」
「ああ」

 ルカは知識はないが、一つずつ教えていけばちゃんと理解していく。
 父親という響きに慣れずぎこちなく笑みを返し、薄い腹を撫でるとルカがピクリと反応した。

「最中のルカは蕩けているから知らないだろうが、私は何度もルカの中で達しているからな」
「?」
「ルカが竜族だったならもう既に卵が宿っていてもおかしくないほどの行為はしているという事だ。ルカが人間だったからしなかっただけで、竜族になった以上いつかは必ず宿る」
「⋯⋯⋯それってダメな事なのか?」
「いや、私たちは夫夫だからむしろいい事なんだが、ルカは妊娠も出産も知らないだろう? だから、せめてルカが理解出来てからと思っていたんだ」

 どうにも小難しい言い回しになってしまうが、抱き締めて頬に口付けながら言えばルカはルカなりに噛み砕いたらしく、小さな声で「そっか」と呟いたあと背中に腕を回してきた。
 少しの沈黙のあと、ルカの腕の力が増す。

「俺、レイとの子ならお腹に来て欲しい」
「私もルカとの子が欲しいよ」
「じゃあ一緒に頑張ろうな」
「ああ」

 竜族は男でも妊娠が出来るとは敢えて言わなかったのだが、それに対しては特に疑問はないらしい。ルカらしいなと思いながら一緒にという言葉に頷くと可愛らしくはにかんだ。
 基本的に否とは言わないルカに多少は心配になるものの、自分との子を望んでくれた事は素直に嬉しい。
 甘えるように首筋に頬擦りしてくるルカの髪を撫でながらホッと微笑んだレイフォードは、近い未来に出会えるかもしれない我が子へと思いを馳せた。
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