竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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みんながいるから頑張れる

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 気持ちの整理をつける為、レイフォードの計らいによりクレイルの墓の傍に建てられた祖母の墓石へと出向いたルカは、祖母に竜族になる事を告げ祖父と共に見守っていて欲しい事をお願いした。
 存命の時にその選択をしたとしても、何よりもルカの幸せを願っていた祖母ならきっと受け入れて応援してくれただろうから、今頃祖父の手を取って大喜びしている事だろう。
 その姿が容易に想像出来てルカは小さく笑みを零した。
 それからソフィアとリックスにも伝える為部屋に呼ぶと、二人は凄くホッとしていて今更ながらに心配を掛け過ぎていた事を思い出す。

「たくさん心配掛けてごめんな、二人とも」
「いいえ⋯⋯いいえ、ルカ様がお元気でいて下さるならもうそれだけで⋯っ」
「そうですよ。むしろ何も出来なくて⋯申し訳ございません」
「え、待って。謝んなくていいよ。頭上げて、リックス」

 目に涙を浮かべるソフィアにも申し訳ない気持ちでいっぱいだが、頭を下げるリックスにはさすがに慌ててしまう。
 手を振りながらリックスの顔を覗き込むと物凄く悲しそうな顔をしていた。

「リックスもソフィアも優しいな」
「優しさとかでは⋯」
「ありがとう。二人とも大好きだ」

 もちろん、二人が優しさだけでルカを心配してくれている訳ではない事は本人が一番分かっている。
 それぞれに腕を伸ばしてソフィアの首元とリックスの腕に回したルカは、そう言ってぎゅっと抱き着いた。レイフォードに対してもそうだが、この二人もルカにとっては心から信頼出来る存在だ。
 グスリと鼻を啜ったソフィアの手がルカの背中を撫でる。

「私も大好きです、ルカ様」
「私もです」
「うん、ありがとな」

 自分よりもずっと年上なのに素直に返してくれる二人に笑顔を向けると、再び涙を零し始めたソフィアに強く抱き締められてしまった。
 そういえば、二人に笑い掛けたのも久し振りだ。




「「竜族になられるのですか?」」

 ソフィアが落ち着いた頃、せっかくだしと渋るリックスを誘って三人でお茶を飲んでいる時、神鱗の事と竜族になる事を話したら二人の言葉が見事にハモりルカは堪らず吹き出した。
 ソフィアもリックスも顔を見合わせたが、それよりもルカが竜族になる事が気になるのか眉尻を下げる。

「ルカ様が竜族になられる事は歓迎しますが⋯とてつもなく辛い事だと聞いた事があります」
「人間と竜族では身体の作りが違いますからね⋯」
「ここ何代かの王の番は竜族でしたから私も聞き齧った程度ですが⋯亡くなった方もおられるとか」

 いつの時代の話かは分からないまでも、やはり亡くなった人は確かにいるのだろう。
 見るからに丈夫そうで多少の傷では痛みすら感じない竜族と、少しの傷でさえ下手をすれば死に至る人間とでは何もかもが違う。脆弱な人間から頑丈な竜族へと変わるのだから、ある程度の痛みや苦しみなどあって当然だ。
 ルカは温くなった紅茶を一口飲むと、狼狽える二人に向かって「まあまあ」と声をかけた。

「これは、俺とレイがちゃんと話し合って決めた事だから。痛いのも苦しいのも辛いのも、俺はちゃんと受け入れて乗り越える」
「ルカ様⋯」
「それに、俺は一人じゃないだろ? レイもいるし、ソフィアとリックスとセノールもいる。バルドーもアルマもハルマンも、この城にいるみんなだってそう。じいちゃんとばあちゃんも見守ってくれてるだろうし、庭の屋敷には家族がいるんだよ。俺、すっごく幸せ者」

 家族と村での生活がすべてだったルカにはもうこんなにもたくさんのかけがえのない人がいる。その人たちの為にも、ルカはやり切らなければいけないのだ。

「だから頑張ろうって思えるんだ」
「⋯⋯分かりました。ルカ様がお決めになった事ならもう何も言いません。その代わりお傍にいて、全力でサポートさせて頂きますから」
「力仕事が必要でしたらお申し付け下さい」
「はい。共にルカ様をお支えしましょう」

 ずっと眉尻が下がっていた二人が吹っ切れたように頼もしくなり、ルカはホッと胸を撫で下ろすと壁に下げられた祖母の御守りを見て小さく微笑んだ。
 大丈夫、きっと何もかも上手くいくはずだから。

 ソフィアとリックスに話をしたあとセノールにも会いに行ったのだが、自分が竜族になる事を告げたら目を見瞠ったあと目線を下げ、唐突にしがみつかれて驚いた。

「⋯⋯死んだら毎日墓の前で文句言ってやるからな」

 言葉は悪いが、震える声にセノールの気持ちが現れている気がして苦笑したルカは、そっと友人の背中に腕を回し小さく頷いた。
 これもまた約束の一つだ。





 薄明かりの下、ソフィアがレイフォードの項にナイフを滑らせる様子を見ていたルカは心配そうに眉を顰めた。

「痛くないのか?」
「少しピリッとはするが、大した事ではない」
「⋯⋯外れましたよ、陛下」
「ありがとう」
「では、私は外で待機しておりますので」
「ああ」

 パキッという音がして銀の神鱗が外れ、ソフィアがそれをレイフォードへと手渡し会釈をして扉から出て行く。ずいぶんあっさりしているなと見送っていたら、大きな手が頬に触れ労るように撫でてきた。

「本当にいいんだな?」
「外したのにまだ聞くか。俺はもう覚悟は決めてるんだからな」
「⋯そうだな、いつまでもグダグダしていては始まらないな。それじゃあ、口を開けてくれるか」
「あー」

 最後の最後まで心配するのは予想していたが、もう神鱗まで外したのに切ない顔をするレイフォードには困ってしまう。だがルカがハッキリと答えれば息を吐いて頷き、神鱗を指先で持ち頬に触れていた手で顎を上向かされた。
 目を閉じて口を開けると、どうしてか影が掛かり唇が塞がれる。

「ん⋯」

 それがレイフォードの唇であるのは確かで、じっとしていたら彼の舌がルカの舌に平たい何かを乗せてきた。恐らく神鱗だろうが、そのまま口内をまさぐられ身体を震わせていたルカは口の中に溜まった唾液と一緒に神鱗を飲み込んだ。
 大きめで少し不安だったが、するりと食道を抜けていってくれてホッとしたのも束の間、心臓がドクリと大きく脈打つ。

「⋯っ⋯!」

 まるで燃えているかのように身体が熱くなり目眩を起こしたルカは、レイフォードが自分を呼ぶ声を最後にプツリと意識を失った。
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