竜王陛下の愛し子

ミヅハ

文字の大きさ
上 下
92 / 126

みんながいるから頑張れる

しおりを挟む
 気持ちの整理をつける為、レイフォードの計らいによりクレイルの墓の傍に建てられた祖母の墓石へと出向いたルカは、祖母に竜族になる事を告げ祖父と共に見守っていて欲しい事をお願いした。
 存命の時にその選択をしたとしても、何よりもルカの幸せを願っていた祖母ならきっと受け入れて応援してくれただろうから、今頃祖父の手を取って大喜びしている事だろう。
 その姿が容易に想像出来てルカは小さく笑みを零した。
 それからソフィアとリックスにも伝える為部屋に呼ぶと、二人は凄くホッとしていて今更ながらに心配を掛け過ぎていた事を思い出す。

「たくさん心配掛けてごめんな、二人とも」
「いいえ⋯⋯いいえ、ルカ様がお元気でいて下さるならもうそれだけで⋯っ」
「そうですよ。むしろ何も出来なくて⋯申し訳ございません」
「え、待って。謝んなくていいよ。頭上げて、リックス」

 目に涙を浮かべるソフィアにも申し訳ない気持ちでいっぱいだが、頭を下げるリックスにはさすがに慌ててしまう。
 手を振りながらリックスの顔を覗き込むと物凄く悲しそうな顔をしていた。

「リックスもソフィアも優しいな」
「優しさとかでは⋯」
「ありがとう。二人とも大好きだ」

 もちろん、二人が優しさだけでルカを心配してくれている訳ではない事は本人が一番分かっている。
 それぞれに腕を伸ばしてソフィアの首元とリックスの腕に回したルカは、そう言ってぎゅっと抱き着いた。レイフォードに対してもそうだが、この二人もルカにとっては心から信頼出来る存在だ。
 グスリと鼻を啜ったソフィアの手がルカの背中を撫でる。

「私も大好きです、ルカ様」
「私もです」
「うん、ありがとな」

 自分よりもずっと年上なのに素直に返してくれる二人に笑顔を向けると、再び涙を零し始めたソフィアに強く抱き締められてしまった。
 そういえば、二人に笑い掛けたのも久し振りだ。




「「竜族になられるのですか?」」

 ソフィアが落ち着いた頃、せっかくだしと渋るリックスを誘って三人でお茶を飲んでいる時、神鱗の事と竜族になる事を話したら二人の言葉が見事にハモりルカは堪らず吹き出した。
 ソフィアもリックスも顔を見合わせたが、それよりもルカが竜族になる事が気になるのか眉尻を下げる。

「ルカ様が竜族になられる事は歓迎しますが⋯とてつもなく辛い事だと聞いた事があります」
「人間と竜族では身体の作りが違いますからね⋯」
「ここ何代かの王の番は竜族でしたから私も聞き齧った程度ですが⋯亡くなった方もおられるとか」

 いつの時代の話かは分からないまでも、やはり亡くなった人は確かにいるのだろう。
 見るからに丈夫そうで多少の傷では痛みすら感じない竜族と、少しの傷でさえ下手をすれば死に至る人間とでは何もかもが違う。脆弱な人間から頑丈な竜族へと変わるのだから、ある程度の痛みや苦しみなどあって当然だ。
 ルカは温くなった紅茶を一口飲むと、狼狽える二人に向かって「まあまあ」と声をかけた。

「これは、俺とレイがちゃんと話し合って決めた事だから。痛いのも苦しいのも辛いのも、俺はちゃんと受け入れて乗り越える」
「ルカ様⋯」
「それに、俺は一人じゃないだろ? レイもいるし、ソフィアとリックスとセノールもいる。バルドーもアルマもハルマンも、この城にいるみんなだってそう。じいちゃんとばあちゃんも見守ってくれてるだろうし、庭の屋敷には家族がいるんだよ。俺、すっごく幸せ者」

 家族と村での生活がすべてだったルカにはもうこんなにもたくさんのかけがえのない人がいる。その人たちの為にも、ルカはやり切らなければいけないのだ。

「だから頑張ろうって思えるんだ」
「⋯⋯分かりました。ルカ様がお決めになった事ならもう何も言いません。その代わりお傍にいて、全力でサポートさせて頂きますから」
「力仕事が必要でしたらお申し付け下さい」
「はい。共にルカ様をお支えしましょう」

 ずっと眉尻が下がっていた二人が吹っ切れたように頼もしくなり、ルカはホッと胸を撫で下ろすと壁に下げられた祖母の御守りを見て小さく微笑んだ。
 大丈夫、きっと何もかも上手くいくはずだから。

 ソフィアとリックスに話をしたあとセノールにも会いに行ったのだが、自分が竜族になる事を告げたら目を見瞠ったあと目線を下げ、唐突にしがみつかれて驚いた。

「⋯⋯死んだら毎日墓の前で文句言ってやるからな」

 言葉は悪いが、震える声にセノールの気持ちが現れている気がして苦笑したルカは、そっと友人の背中に腕を回し小さく頷いた。
 これもまた約束の一つだ。





 薄明かりの下、ソフィアがレイフォードの項にナイフを滑らせる様子を見ていたルカは心配そうに眉を顰めた。

「痛くないのか?」
「少しピリッとはするが、大した事ではない」
「⋯⋯外れましたよ、陛下」
「ありがとう」
「では、私は外で待機しておりますので」
「ああ」

 パキッという音がして銀の神鱗が外れ、ソフィアがそれをレイフォードへと手渡し会釈をして扉から出て行く。ずいぶんあっさりしているなと見送っていたら、大きな手が頬に触れ労るように撫でてきた。

「本当にいいんだな?」
「外したのにまだ聞くか。俺はもう覚悟は決めてるんだからな」
「⋯そうだな、いつまでもグダグダしていては始まらないな。それじゃあ、口を開けてくれるか」
「あー」

 最後の最後まで心配するのは予想していたが、もう神鱗まで外したのに切ない顔をするレイフォードには困ってしまう。だがルカがハッキリと答えれば息を吐いて頷き、神鱗を指先で持ち頬に触れていた手で顎を上向かされた。
 目を閉じて口を開けると、どうしてか影が掛かり唇が塞がれる。

「ん⋯」

 それがレイフォードの唇であるのは確かで、じっとしていたら彼の舌がルカの舌に平たい何かを乗せてきた。恐らく神鱗だろうが、そのまま口内をまさぐられ身体を震わせていたルカは口の中に溜まった唾液と一緒に神鱗を飲み込んだ。
 大きめで少し不安だったが、するりと食道を抜けていってくれてホッとしたのも束の間、心臓がドクリと大きく脈打つ。

「⋯っ⋯!」

 まるで燃えているかのように身体が熱くなり目眩を起こしたルカは、レイフォードが自分を呼ぶ声を最後にプツリと意識を失った。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾
BL
 【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

処理中です...