竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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一緒にお風呂

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「見て見てレイ、雲みたい」

 目の前で両手の平にこんもりと泡を乗せたルカが眩しいくらいの笑顔でそれを見せてくれるのだが、その格好といる場所にレイフォードは必死に自分の欲望と戦っていた。


 数十分ほど前、レイフォードの自室。
 ロッキングチェアに揺られながら読書に耽っていたレイフォードは、突然入ってきたルカに僅かに目を見瞠りながらも本を閉じたのだが、にこにこと傍に来たルカは驚くべき事を口にしてきた。

「レイ、一緒にお風呂入ろ」
「……ん?」

 何だか既視感のある聞き間違いだなと思っていたら、妙にご機嫌なルカが首に抱き着きながら再び同じ事を言って理由を教えてくれる。

「ソフィアが泡風呂にしてくれたんだって。せっかくだしレイとも遊びたいなって思って」
「泡風呂…」

 恐らくルカにとっては初めてだろう泡風呂に誘ってくれるのは嬉しいが、ルカ自身が純粋な気持ちしか持っていない事が分かるだけに安易に頷けない。
 夫夫として身も心も結ばれたが、ルカはその行為の意味は分かっていないから、なるべくならベッド以外では手を出してしまいそうな状況になる事は避けたかった。
 レイフォードはそんな内心を隠して微笑むと、目を輝かせているルカの頭を撫でる。

「私はいいよ。楽しんでおいで」
「え、入らないのか? 泡、ふわふわしてたぞ?」
「ああ。目と口に入らないように気を付けて」

 目を瞬くルカに努めて冷静に答えていたレイフォードだったが、本当に入らないと分かった途端しゅんと俯かれ胸に痛みが走った。
 綺麗な蒼碧が悲しそうに伏せられ首に回されていた手がゆっくり離れていく。

「…そっか…」
「……」
「じゃあ入ってくる…」

 よほど一緒に入りたかったのか、目に見えて落ち込んだルカはとぼとぼと扉の方へ向かう。その後ろ姿をレイフォードがただ見送れるはずもなく、眉間に皺を寄せてまで悩んだ末に立ち上がった。

(愛しい妻がこんなにも願っているのだ。夫として応えなくてどうする)

 こんな背中を見るくらいなら、自分が我慢すればいいだけだ。今までだってそうして来たのだから、入浴の間くらい容易だろう。

「ルカ、一緒に入ろう」

 声をかけた瞬間ピタッと止まり、振り向いたルカはとても嬉しそうに笑っていてレイフォードはホッとした。
 どんな状況でも、ルカの悲しい顔だけは見たくない。


 そうして広めのバスタブに二人で浸かっているのだが、予想以上に目に毒でレイフォードはさりげなさを装いつつ目を逸らしていた。
 濡れて項に張り付く髪や水分を纏ってしっとりしている肌、湯気で上気した頬も楽しそうな笑顔も声も、全てがレイフォードを刺激して堪らない。
 しかもルカは、充分な広さがあるにも関わらず当然のように背を向けて膝に座っているから、少しでも視線を落とせば剥き出しの肩が目に入ってくる。
 肌を見る事は初めてではないのに無意識に手が伸びてしまいそうで、それを堪えるのに必死だった。

(夫夫なのだから、もう少し意識してくれても良いと思うのだが…)

 想いが通じ合ってからはレイフォードも恋人扱いしているし、結婚式を挙げてからはより夫夫らしくしているのだが、ルカは口付けて身体に触れなければ甘い雰囲気には気付きもしない。
 ただキスをする際、顔を近付けるだけでも目を閉じてくれるようにはなったからそこは成長しているのだが、それにしたってあまりにも無防備過ぎだ。

「うーん…泡じゃ雪みたいに上手く重ならないな。おっきくしてもヘタレて萎むし」
「ルカ、顔に泡がついてる」
「あ、ありがと」

 先ほどから泡を集めて何をしているのかと思っていたら雪だるまのようなものを作ろうとしていたようで、上に乗せても一体になる泡に残念そうに呟いている。その目の下に小さく飛んだ泡をタオルで拭いてやると、にこっと笑って見上げてきた。
 その無垢な笑顔に邪な気持ちを抱く自分が嫌になるなと思っていると、突然身体ごとこっちを向いたルカに泡塗れの手で左腕を撫でられ目を瞬く。

「この泡、ほんとふわふわしてて気持ちいい」
「きめが細かいからだろう」
「レイの腕、すべすべになるな」

 普段は前髪で隠れている額が露わになり表情がよく見える。初めての泡風呂はルカにとって楽しい以外の何物でもないようだ。
 小さな手が二の腕から肘まで行ったり来たりするが、満足したのか今度は右腕に移ろうとする手を掴んだレイフォードは、キョトンとするルカの肩に触れ泡を塗り付けるように手首まで滑らせる。

「はは、擽ったい」
「ルカ」
「?」
「私も男だ」
「え? うん、知ってる」

 どうしてそんな当たり前の事を言うのかと不思議そうだが、レイフォードとしてはどうしても確認しておきたかった。
 同じ男ではあるものの、自分たちは精霊にも認めて貰った夫夫なのだから、せめてもう少しドキドキくらいはして欲しいものだ。
 ルカの脇の下に手を入れて自分の目線よりも高く抱き上げたレイフォードは、片手で腰を支え蒼碧の瞳をじっと見つめる。

「君の夫でもある」
「う、うん…?」
「…ルカからの口付けが欲しい」

 顎を上げそうねだると目を瞬きながらも首に腕を回して唇を重ねてくれる。敢えて自分からは行動せずルカに任せていたら、遠慮がちに舌が差し込まれてちょんっと舌先が触れた。
 もどかしいくらいにぎこちない動きだが、いつもレイフォードがしているように絡めてくるルカに目を細めて胸元の尖りを擦るとビクリと震える。

「ん…んぅ…」

 指先で引っ掻くように弾くと逃げ腰になるがそれをぐっと押さえ軽く摘んだら唇が離れた。

「…っ…息、出来なくなる…」
「…私のルカは可愛いな」
「んん…っ」

 キスと胸への愛撫だけでいっぱいいっぱいになるルカに微笑み、今度は自分から唇を塞いで膨らんできた突起を優しく親指の腹で撫でると、甘えた声が鼻から抜け出で堪らなく煽られる。
 ルカの口内を味わいながら痛くない程度に弄り、反応して胸元に当たり始めたものに内心でほくそ笑んだレイフォードは小さな舌に吸い付いた。
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