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贈り物
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結婚式から早くも二週間が経った。
その二週間の間に変わった事と言えば、挿入があるないに関わらず寝る前の触れ合いが前よりも増え、レイフォードがルカに向ける雰囲気が殊更に甘くなったくらいだろうか。
忙しくなければ執務室に行くのも変わりないが、今までソファで過ごしていたルカを膝に乗せるようになりその状態で仕事をしている。
邪魔にならないのかと聞いたら「むしろルカがいる方が捗る」と言われ、それならとなるべく動かないようにしているのにちょっかいを出される事もしばしばだ。
明らかにスキンシップも増えて、これまで以上にレイフォードが近くに感じるようになった。
日が落ちると肌寒さを感じるようになり始め、日中の時間も短くなってきたこの頃、ルカはソフィアから編み物を教えて貰っていた。
物でも気持ちでも、くれてばかりのレイフォードに自分が返せるものは何かと色んな本を読んでいた時、寒い季節の贈り物として最適だと書いてあるのを見付けソフィアにお願いしたのだ。
編み針に毛糸を巻き付けて二段目まではソフィアがしてくれたが、三段目からは一つ一つ確認しながら手を動かす。途中で抜けたり編み方が緩かったりとハプニングはありつつも三分の一ほど熱心に向き合っていれば手慣れるもので、まだ失敗はするもののそれなりに編めるようになってきていた。
あまり派手な色は似合わないだろうからダークグレーのシンプルなものにしたのだが、これを着けているレイフォードを想像するだけでも楽しくて仕方がない。
ただここまで編んではみたが、編目はガタガタで最初の方は隙間が空きまくって不格好だ。もう一度やり直したい気持ちはあるが、今解くともっと時間が掛かるからこれで完成させるしかなかった。
「今更なんだけど…本当にこれ、あげていいと思う?」
「もちろんです。ルカ様が丹精込めて編んだものですもの。陛下はとてもお喜びになりますよ」
「そっか…じゃあ次はもっと上手に出来た物を渡せるように頑張る」
小さな手を懸命に動かしながら一目一目大事に編んでいくルカに、ソフィアは勝手に頬が緩んで止まらなかった。真剣な横顔も、確認のたびに寄せられる眉も、必死になり過ぎて手に力が入りまくりで途中で疲れて振っている姿も可愛すぎるのだ。
(ルカ様が何かをされているというだけで、心がほっこりするわ)
親の欲目というものもあるのかもしれないが、ルカの言動はこの城においては一番の癒しだ。庭を駆け回る姿を見るだけで癒されるし、明るい声を聞くだけでこちらまで元気になる。
笑顔を向けて貰えた日にはその日一日幸せでいられるほど、ルカの存在自体がこの城を暖かくしてくれていた。
「わ、ソフィア、毛糸がなくなる!」
「ふふ、大丈夫ですよ。お待ち下さいね」
夢中になり過ぎてギリギリのところで気付いたルカが慌てたようにソフィアを呼ぶ。それに応え、新しい毛糸を取り出し繋げながら、ソフィアはこんな日がいつまでも続けばいいのにと願うのだった。
ルカが編み物を始めて一月。ほとんどの時間をこれに費やしたおかげで思ったよりも早く完成したものはマフラーだった。
編み始めと編み終わりの差が歴然としているが、ソフィアから応援された以上頑張って渡すしかない。
寝る準備を済ませたルカは、包装紙がヨレヨレになりながらもどうにか包めたマフラーを手にレイフォードの寝室へと向かった。
「ああルカ、ちょうどいいところに」
「何?」
「少し面白い物を見付けてな。こういうものは好きか?」
「?」
ベッドに腰掛け何か本を見ていたレイフォードがそう言って手招きしてくる。プレゼントは後ろに隠し、首を傾げながらそれを覗くと何とも奇抜な模様の箱の絵がいくつか載っていて目がぐるぐるしそうだ。
「何、これ」
「下界にある東の国の伝統作品で〝からくり箱〟というらしい。きちんとした手順でなければ開かない、不思議な箱だ」
「へぇ…」
「試しに一つ取り寄せてみるか」
ただの箱という感じだが、きちんとした手順とはどういう事だろうか。
良く分かっていないルカに微笑み本を閉じたレイフォードは、それをサイドテーブルに置くと気になっていた事を口にした。
「ところでルカ。後ろに何を隠しているんだ?」
「え?」
「入って来た時からずっと両手を後ろに回しているだろう?」
一瞬ポカンとしたが、さすがにバレない訳ないかと諦めたルカはプレゼントを持ち直すとそれをレイフォードへと差し出した。
今度はレイフォードが不思議そうな顔をする。
その表情に何となく気恥しさを感じながらも押し付けるようにして持たせたルカは、逃げるようにベッドに上がり突っ伏した。
「ルカ、これは? 開けてもいいのか?」
「…ん」
好きな人に自分が作った物を渡すだけなのにどうしてこんなに照れ臭いのか、訳が分からないルカはレイフォードが包装を解いていく音にさえソワソワして落ち着かない。
少しして紙の音がしなくなり、レイフォードの息を飲む音が聞こえた。
「これはマフラーか。…もしかして、ルカが編んでくれたのか?」
「……うん」
「そうか、大変だっただろう」
レイフォードが使う物だからとなるべく長くしたから途中で頭がこんがらがりそうだったが、それでもレイフォードの為を思えばまったく苦じゃなかった。
起き上がり、レイフォードの手からマフラーを取ると彼の首に緩く巻き付けはにかむ。
「大変だったけど、レイの事想いながらだったから楽しかった」
「…ルカ」
「んっ」
編目に引っ掛からないよう手の平で撫でれば、唐突に後頭部が掴まれ勢い良く唇が塞がれた。すぐに舌が入ってきて絡め取られ、口の中を舐め回される。
まるでこのまま食べられてしまいそうなほどの激しい口付けにクラクラしながらレイフォードの服に爪を立てると、糸を引きながらもようやく離れ抱き締められた。
くたっと寄り掛かり上がった息を整える。
「…は…ぅ…」
「ありがとう、ルカ」
大きな手に髪を撫でられ、低いけど嬉しそうな声が耳元で聞こえてルカも嬉しくなる。
こうして少しずつでも自分に出来る何かを見付けて練習して、たくさん返していこうとルカは心に決めたのだった。
その二週間の間に変わった事と言えば、挿入があるないに関わらず寝る前の触れ合いが前よりも増え、レイフォードがルカに向ける雰囲気が殊更に甘くなったくらいだろうか。
忙しくなければ執務室に行くのも変わりないが、今までソファで過ごしていたルカを膝に乗せるようになりその状態で仕事をしている。
邪魔にならないのかと聞いたら「むしろルカがいる方が捗る」と言われ、それならとなるべく動かないようにしているのにちょっかいを出される事もしばしばだ。
明らかにスキンシップも増えて、これまで以上にレイフォードが近くに感じるようになった。
日が落ちると肌寒さを感じるようになり始め、日中の時間も短くなってきたこの頃、ルカはソフィアから編み物を教えて貰っていた。
物でも気持ちでも、くれてばかりのレイフォードに自分が返せるものは何かと色んな本を読んでいた時、寒い季節の贈り物として最適だと書いてあるのを見付けソフィアにお願いしたのだ。
編み針に毛糸を巻き付けて二段目まではソフィアがしてくれたが、三段目からは一つ一つ確認しながら手を動かす。途中で抜けたり編み方が緩かったりとハプニングはありつつも三分の一ほど熱心に向き合っていれば手慣れるもので、まだ失敗はするもののそれなりに編めるようになってきていた。
あまり派手な色は似合わないだろうからダークグレーのシンプルなものにしたのだが、これを着けているレイフォードを想像するだけでも楽しくて仕方がない。
ただここまで編んではみたが、編目はガタガタで最初の方は隙間が空きまくって不格好だ。もう一度やり直したい気持ちはあるが、今解くともっと時間が掛かるからこれで完成させるしかなかった。
「今更なんだけど…本当にこれ、あげていいと思う?」
「もちろんです。ルカ様が丹精込めて編んだものですもの。陛下はとてもお喜びになりますよ」
「そっか…じゃあ次はもっと上手に出来た物を渡せるように頑張る」
小さな手を懸命に動かしながら一目一目大事に編んでいくルカに、ソフィアは勝手に頬が緩んで止まらなかった。真剣な横顔も、確認のたびに寄せられる眉も、必死になり過ぎて手に力が入りまくりで途中で疲れて振っている姿も可愛すぎるのだ。
(ルカ様が何かをされているというだけで、心がほっこりするわ)
親の欲目というものもあるのかもしれないが、ルカの言動はこの城においては一番の癒しだ。庭を駆け回る姿を見るだけで癒されるし、明るい声を聞くだけでこちらまで元気になる。
笑顔を向けて貰えた日にはその日一日幸せでいられるほど、ルカの存在自体がこの城を暖かくしてくれていた。
「わ、ソフィア、毛糸がなくなる!」
「ふふ、大丈夫ですよ。お待ち下さいね」
夢中になり過ぎてギリギリのところで気付いたルカが慌てたようにソフィアを呼ぶ。それに応え、新しい毛糸を取り出し繋げながら、ソフィアはこんな日がいつまでも続けばいいのにと願うのだった。
ルカが編み物を始めて一月。ほとんどの時間をこれに費やしたおかげで思ったよりも早く完成したものはマフラーだった。
編み始めと編み終わりの差が歴然としているが、ソフィアから応援された以上頑張って渡すしかない。
寝る準備を済ませたルカは、包装紙がヨレヨレになりながらもどうにか包めたマフラーを手にレイフォードの寝室へと向かった。
「ああルカ、ちょうどいいところに」
「何?」
「少し面白い物を見付けてな。こういうものは好きか?」
「?」
ベッドに腰掛け何か本を見ていたレイフォードがそう言って手招きしてくる。プレゼントは後ろに隠し、首を傾げながらそれを覗くと何とも奇抜な模様の箱の絵がいくつか載っていて目がぐるぐるしそうだ。
「何、これ」
「下界にある東の国の伝統作品で〝からくり箱〟というらしい。きちんとした手順でなければ開かない、不思議な箱だ」
「へぇ…」
「試しに一つ取り寄せてみるか」
ただの箱という感じだが、きちんとした手順とはどういう事だろうか。
良く分かっていないルカに微笑み本を閉じたレイフォードは、それをサイドテーブルに置くと気になっていた事を口にした。
「ところでルカ。後ろに何を隠しているんだ?」
「え?」
「入って来た時からずっと両手を後ろに回しているだろう?」
一瞬ポカンとしたが、さすがにバレない訳ないかと諦めたルカはプレゼントを持ち直すとそれをレイフォードへと差し出した。
今度はレイフォードが不思議そうな顔をする。
その表情に何となく気恥しさを感じながらも押し付けるようにして持たせたルカは、逃げるようにベッドに上がり突っ伏した。
「ルカ、これは? 開けてもいいのか?」
「…ん」
好きな人に自分が作った物を渡すだけなのにどうしてこんなに照れ臭いのか、訳が分からないルカはレイフォードが包装を解いていく音にさえソワソワして落ち着かない。
少しして紙の音がしなくなり、レイフォードの息を飲む音が聞こえた。
「これはマフラーか。…もしかして、ルカが編んでくれたのか?」
「……うん」
「そうか、大変だっただろう」
レイフォードが使う物だからとなるべく長くしたから途中で頭がこんがらがりそうだったが、それでもレイフォードの為を思えばまったく苦じゃなかった。
起き上がり、レイフォードの手からマフラーを取ると彼の首に緩く巻き付けはにかむ。
「大変だったけど、レイの事想いながらだったから楽しかった」
「…ルカ」
「んっ」
編目に引っ掛からないよう手の平で撫でれば、唐突に後頭部が掴まれ勢い良く唇が塞がれた。すぐに舌が入ってきて絡め取られ、口の中を舐め回される。
まるでこのまま食べられてしまいそうなほどの激しい口付けにクラクラしながらレイフォードの服に爪を立てると、糸を引きながらもようやく離れ抱き締められた。
くたっと寄り掛かり上がった息を整える。
「…は…ぅ…」
「ありがとう、ルカ」
大きな手に髪を撫でられ、低いけど嬉しそうな声が耳元で聞こえてルカも嬉しくなる。
こうして少しずつでも自分に出来る何かを見付けて練習して、たくさん返していこうとルカは心に決めたのだった。
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