竜王陛下の愛し子

ミヅハ

文字の大きさ
上 下
76 / 126

仲睦まじい夫婦

しおりを挟む
 大盛り上がりの結婚式が終わったあとは城の大広間にて披露宴が行われた。といっても、お披露目の時のように音楽隊が楽器を奏で、中央では貴族たちが手を取り踊るパーティのようなものだが名目上は披露宴である。食事も立食形式で、ダンスをしない人たちはいくつか摘んでは舌鼓を打っていた。
 挙式時のドレスのような派手さはないが、緻密で繊細な刺繍と装飾が施された純白のドレスに衣装チェンジしたルカは相も変わらず注目の的だ。
 ボリュームを抑えたスレンダーなロングスカート、最大限肌を見せない為のハイネックに袖口にかけて広がるベルスリーブはレイフォードの独占欲が遺憾なく発揮されたものだが、ルカの黒髪と白のコントラストがマッチしてこれぞ主役といった感じだ。
 耳と首元には先ほどとは違うジュエリーがついていて、小振りなものだがその価値はとてもじゃないが計り知れないだろう。

「なぁ、レイ」
「ん?」
「今日は踊らないよな?」

 花や宝石で飾られた王族席に置かれたソファに座ったルカは、同じように隣に腰掛けているレイフォードの袖を引きながら問い掛ける。何の事か分からなかったのか一瞬キョトンとしたレイフォードは、しかしすぐに理解すると表情を緩めルカの肩を抱き寄せた。

「踊らない。それに、式を挙げたからご令嬢と踊る事は二度とないな」
「そっか…良かった」
「もしかして、嫉妬してくれていたのか」
「するに決まってるだろ」

 自他共に認めるほど外見に興味のないルカだが、これだけの美形に囲まれていればさすがに目も育つもので、着飾った令嬢を綺麗だと思ったし、レイフォードと並んでいる姿を見てお似合いだとも思ってしまった。
 だからこそモヤモヤしていたのに。
 どこか嬉しそうなレイフォードにムッとして返すとこめかみに唇が押し当てられた。

「すまなかった」
「…別に、仕方ないとは思ってるけど…」
「他にして欲しくない事はあるか?」
「あんまり綺麗な人の傍には行かないで欲しい」

 例え他人同士でも美男美女というものはそれだけで注目の的になる。その気はなくても「素敵ね」なんて言葉が聞こえてきたら嫌だし、もうお似合いだなんて思いたくない。
 だからそう答えればふっと笑ったレイフォードが視界を遮るように被さってきた。

「私が綺麗だと思う者はルカだけなのだが…」
「え、そんな事ないだろ」
「本当だ。ルカを見て、初めて人を美しいと思ったのだから」
「……自分の方が綺麗な顔してるくせに」
「それこそないな。ルカが一番綺麗だ」

 何を言っても譲る気はないのか、ひたすらにルカを褒めながら顔を近付けてきたレイフォードに軽く口付けられる。たくさんの人がいるからと緩く首を振ったら目を細めてまた寄せてきて、慌てて肩を押したら笑い声が聞こえてきた。

「仲が良いわね」
「ルカくんといる時のレイフォードはまるで知らない人みたいだな」
「恋をすると人は変わるものだもの」
「父上、母上」

 すっとレイフォードが離れてくれた事にホッと息を吐き、まだクスクスと笑っているイルヴァンとシルヴィアへと視線を移す。先ほどまで色んな貴族に囲まれて話をしていたが、ようやく落ち着いてここまで来てくれたのだろう。
 思えば今日初めての会話だ。
 先に立ち上がったレイフォードの手が差し出され、それを支えにして腰を上げたルカの前に一口サイズにカットされた厚切り肉の乗った皿とフォークが差し出される。

「え?」
「ルカくん、まだ何も食べてないんじゃない? このお肉、柔らかくて美味しいわよ」
「食べてないけど…何かお腹空かなくて」
「疲れで食欲がなくなったか?」
「そうじゃなくて、何て言えばいいのかな……胸がいっぱい?」

 本当は腹は減っているのかもしれないが、不思議な事に虫は鳴かないし食べる気にもならない。
 胸の辺りを押さえながら答えるルカに微笑んだシルヴィアは、フォークに一つ刺すとそれを口元へと寄せてきた。

「幸せに満ちているからかしらね。でも、食べておかないとあとが大変よ?」
「?」
「……母上」

 肉のいい匂いがして誘われるように口に入れると、シルヴィアが首を傾げてそんな事を言ってきた。何かあるのかと目を瞬いたらレイフォードの声が被せられ今度はシルヴィアが不思議そうな顔をする。

「? どうしたの?」
「ルカはまだ何も知りませんから」
「あら、そうなの? いいわねぇ。自分色に染めるってやつじゃない」

 貴族のご令嬢なら絶対言わないような、平民育ち故の奔放さを持つシルヴィアの言い様にはさすがのイルヴァンも苦笑してしまう。
 一つも染まっていない真っ白な恋人がレイフォードの手により色を変えていくのは男としては堪らないが、ルカには白いままでいて欲しいとも思ってしまう為複雑だ。
 レイフォードは額を押さえシルヴィアから皿を受け取ると、新しい肉をフォークに刺してルカへと食べさせる。

「美味いか?」
「ん」
「他にも食べたい物があったら言ってくれ」
「うん」

 返事を求めるたびにこくこくと頷くルカが何とも言えず可愛らしい。
 控えているリックスに飲み物を頼み、食欲の湧いてきたルカの口へと肉を運びながらレイフォードは微笑んだ。
 その様子を見ていたイルヴァンは顎に手を当て「ふむ」と頷く。

「番への給餌行為が竜族の特性とはいえ、レイフォードは今までの誰よりもそれが強く出ているようだな」
「それだけ愛が深いのよ。若い時のイルヴァン様に良く似ているわ」
「心外だな。今でも君への愛は海よりも深いのに」
「ふふ、嬉しいわ」

 仄かに頬を染めてイルヴァンへと寄り添うシルヴィアの姿にいつかの祖母と祖父が重なったルカは、胸が暖かくなるのを感じて口元を緩める。何年経とうとも仲睦まじいのは良い事だ。

(俺も、レイとずっと仲良しでいたいな)

 大人で穏やかで優しいレイフォードとはきっと喧嘩にさえならないだろうけど、叶うなら毎日笑い合える生活を送りたい。
 相変わらずタイミング良く肉を差し出してくるレイフォードを見上げたルカは、目が合えば柔らかく微笑んでくれる彼に笑顔を返すと腰元に腕を回してぎゅっと抱き着いた。
 すぐに肩が抱かれ頭に口付けられる。
 今は、ただこの腕の中にいられるだけでも幸せだ。
 

 賑やかな音楽が鳴り響く煌びやかな披露宴は夜が更けるまで続き、最後はレイフォードのお礼と感謝の言葉で締め括られた。
 だが、レイフォードにとっての本当の意味での勝負はこれからである。
 列席者を見送ったレイフォードは長く息を吐くと、バルドーとアルマに一声かけてから自室へと足を向けるのだった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾
BL
 【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

処理中です...