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祝福の町
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大聖堂内は入り口から凄い事になっていた。
祝砲が上がり、周りにある建物の屋上から紙吹雪が撒かれヒラヒラと落ちてくる。
前回は式場となる場所だけを見たのだが、そこに続く通路も両開きの扉もお祝いムード満載で飾り付けられていた。
馬車を降りる際にもレイフォードに抱き上げられたルカは、入れないものの大聖堂の周りに集まってくれた国民を振り返る。
みなとてもいい笑顔をしていてルカは胸が暖かくなった。
(こんなにたくさんの人が俺とレイの事お祝いしてくれてる…ほんとにここは素敵な国だな)
誰一人眉を顰めたり嘲笑ったりしていない。
竜族は野蛮で恐ろしい種族だと言って怖がっている人間にこの光景を見せたいくらいだ。
「りゅうひさま」
町の人の笑顔がたくさん見れた喜びを噛み締めていると、下の方で舌っ足らずな声が聞こえてきた。レイフォードと共に視線を下げるとおさげ髪の小さな女の子がいて、もう一度「りゅうひさま」と声をかける。
察したレイフォードが降ろしてくれて、ルカが目線を合わせるようしゃがみ込んだら女の子は両手で握っていたピンク色の花を差し出してきた。
「?」
「えっと、ごけっこん、おめでとうございます」
「え? くれるの? ありがとう!」
おおよそ五歳くらいの女の子が可愛らしい笑顔でそんな事を言ってくれるものだから、嬉しくなったルカは思わず抱き締めてしまった。すぐに咳払いが聞こえ顔を上げるとレイフォードがムッとしていて、それがヤキモチだと分かり小さく笑って離すと女の子は赤くなっていて目を瞬く。
少しして母親と思しき女性に呼ばれた女の子が手を振りながら去っていったが、もしかしていけない事をしてしまったのだろうか。
「…悪い事、した?」
「いや。ルカがあまりにも綺麗だから、あの子も照れたんだろう」
「…良く分かんないけど、二本あるしレイにも一本あげる。ここに挿しとくな」
「ああ、ありがとう」
ピンク色の小さな花は控えめだがあの女の子のように可愛らしく、せっかくだしとルカはレイフォードの胸ポケットに挿してはにかむ。ルカの花はレイフォードの手に渡り髪に差し込まれた。
それから再び横抱きにされ入り口へと向かう。扉の左右に待機しているバルドーとアルマがそれぞれに引いて開けてくれて、ルカは閉まり切るまで町の人たちへと手を振っていた。
「もう少しで式場に着くが、大丈夫か?」
「ん、うーん…たぶん。お披露目の時よりはマシかな」
「躓いても転びそうになっても、私が支えるからルカは前だけ見ていればいい」
「ありがと」
相変わらず頼もしい言葉を言ってくれる。
ドレスに何かあっては困るから下手に動けない為、ルカはいつものように抱き着けなくて正直物足りない。もっとくっつきたいのにと腹の前で組んだ指をもぞもぞさせていると、ソフィアたちが大きな扉の前に立っている事に気付いた。
「あれ、ソフィアもリックスもいつの間に?」
「リックス様に飛んで頂きました」
「そうだったんだ」
「ルカ様、お水です」
「あ、ありがとう。ちょうど喉渇いてたんだ」
リックスから水の入ったグラスを渡され一気に仰る。グラスの縁に口紅が着いてしまい「あ」と思ったが、気にしていないのかリックスが笑顔で引き取って下がり、レイフォードの腕からそっと降ろされた。
すぐにソフィアが傍にきて髪や化粧が直される。
この唇がプルツヤになる口紅は何度塗られても慣れない。
「ではルカ様、こちらを左手で持って、右手を陛下の腕に添えて頂けますか」
「う、うん」
「陛下が合わせて下さいますから、焦らずゆっくり、ルカ様のペースで歩いて下さいね」
ソフィアからレイフォードの花をメインにしたブーケが手渡され、そのあまりの綺麗さにじっと見ていたら右手が取られレイフォードの腕に回される。それからベールのフロント部分が顔の前に下ろされ、トレーンの部分とベールのバックが軽く後ろに引かれ整えられた。
ショートブーツを履いてから有り難い事にずっと抱っこして貰っていた為ちゃんと歩くのは初めてなのだが、ヒール部分が太めとはいえまともに歩けるだろうか。
「どうしても不安なら抱き上げるが…」
「い、いや。大丈夫、頑張る」
「そうか。でも、疲れたらすぐに言ってくれ」
いつまでもレイフォードに甘えている訳にはいかないと首を振りつつも添えているだけだった手でしっかりと服を掴み、なるべく身を寄せる。
この扉の向こうには上位貴族の当主や夫婦が一同に介しているらしい。
もし無様な姿を晒したり下手な事をしたらレイフォードの評価が下がってしまう為、絶対に失敗する事だけは許されないと深呼吸をしたルカは、レイフォードを横目で見てポツリと呟いた
「レイにぎゅってして貰えれば、ちょっとは落ち着くんだけどな…」
「………」
ルカは独り言を呟いたつもりだったのだが、ここは外とは違い静かな空間でしかも現状誰も話していないから、レイフォードを始めとしたこの場にいる面々にはバッチリ聞こえていた。
途端に生暖かな目になる一同に小さく咳払いしたレイフォードは、恐らくは無意識に頭を寄せてくるルカに微笑みバルドーとアルマへ頷く。
扉が開く直前、前を向いているルカの耳元へと唇を寄せたレイフォードはルカだけに聞かせる甘い声で囁いた。
「式が終わったら、いくらでもぎゅっとしてやろうな」
祝砲が上がり、周りにある建物の屋上から紙吹雪が撒かれヒラヒラと落ちてくる。
前回は式場となる場所だけを見たのだが、そこに続く通路も両開きの扉もお祝いムード満載で飾り付けられていた。
馬車を降りる際にもレイフォードに抱き上げられたルカは、入れないものの大聖堂の周りに集まってくれた国民を振り返る。
みなとてもいい笑顔をしていてルカは胸が暖かくなった。
(こんなにたくさんの人が俺とレイの事お祝いしてくれてる…ほんとにここは素敵な国だな)
誰一人眉を顰めたり嘲笑ったりしていない。
竜族は野蛮で恐ろしい種族だと言って怖がっている人間にこの光景を見せたいくらいだ。
「りゅうひさま」
町の人の笑顔がたくさん見れた喜びを噛み締めていると、下の方で舌っ足らずな声が聞こえてきた。レイフォードと共に視線を下げるとおさげ髪の小さな女の子がいて、もう一度「りゅうひさま」と声をかける。
察したレイフォードが降ろしてくれて、ルカが目線を合わせるようしゃがみ込んだら女の子は両手で握っていたピンク色の花を差し出してきた。
「?」
「えっと、ごけっこん、おめでとうございます」
「え? くれるの? ありがとう!」
おおよそ五歳くらいの女の子が可愛らしい笑顔でそんな事を言ってくれるものだから、嬉しくなったルカは思わず抱き締めてしまった。すぐに咳払いが聞こえ顔を上げるとレイフォードがムッとしていて、それがヤキモチだと分かり小さく笑って離すと女の子は赤くなっていて目を瞬く。
少しして母親と思しき女性に呼ばれた女の子が手を振りながら去っていったが、もしかしていけない事をしてしまったのだろうか。
「…悪い事、した?」
「いや。ルカがあまりにも綺麗だから、あの子も照れたんだろう」
「…良く分かんないけど、二本あるしレイにも一本あげる。ここに挿しとくな」
「ああ、ありがとう」
ピンク色の小さな花は控えめだがあの女の子のように可愛らしく、せっかくだしとルカはレイフォードの胸ポケットに挿してはにかむ。ルカの花はレイフォードの手に渡り髪に差し込まれた。
それから再び横抱きにされ入り口へと向かう。扉の左右に待機しているバルドーとアルマがそれぞれに引いて開けてくれて、ルカは閉まり切るまで町の人たちへと手を振っていた。
「もう少しで式場に着くが、大丈夫か?」
「ん、うーん…たぶん。お披露目の時よりはマシかな」
「躓いても転びそうになっても、私が支えるからルカは前だけ見ていればいい」
「ありがと」
相変わらず頼もしい言葉を言ってくれる。
ドレスに何かあっては困るから下手に動けない為、ルカはいつものように抱き着けなくて正直物足りない。もっとくっつきたいのにと腹の前で組んだ指をもぞもぞさせていると、ソフィアたちが大きな扉の前に立っている事に気付いた。
「あれ、ソフィアもリックスもいつの間に?」
「リックス様に飛んで頂きました」
「そうだったんだ」
「ルカ様、お水です」
「あ、ありがとう。ちょうど喉渇いてたんだ」
リックスから水の入ったグラスを渡され一気に仰る。グラスの縁に口紅が着いてしまい「あ」と思ったが、気にしていないのかリックスが笑顔で引き取って下がり、レイフォードの腕からそっと降ろされた。
すぐにソフィアが傍にきて髪や化粧が直される。
この唇がプルツヤになる口紅は何度塗られても慣れない。
「ではルカ様、こちらを左手で持って、右手を陛下の腕に添えて頂けますか」
「う、うん」
「陛下が合わせて下さいますから、焦らずゆっくり、ルカ様のペースで歩いて下さいね」
ソフィアからレイフォードの花をメインにしたブーケが手渡され、そのあまりの綺麗さにじっと見ていたら右手が取られレイフォードの腕に回される。それからベールのフロント部分が顔の前に下ろされ、トレーンの部分とベールのバックが軽く後ろに引かれ整えられた。
ショートブーツを履いてから有り難い事にずっと抱っこして貰っていた為ちゃんと歩くのは初めてなのだが、ヒール部分が太めとはいえまともに歩けるだろうか。
「どうしても不安なら抱き上げるが…」
「い、いや。大丈夫、頑張る」
「そうか。でも、疲れたらすぐに言ってくれ」
いつまでもレイフォードに甘えている訳にはいかないと首を振りつつも添えているだけだった手でしっかりと服を掴み、なるべく身を寄せる。
この扉の向こうには上位貴族の当主や夫婦が一同に介しているらしい。
もし無様な姿を晒したり下手な事をしたらレイフォードの評価が下がってしまう為、絶対に失敗する事だけは許されないと深呼吸をしたルカは、レイフォードを横目で見てポツリと呟いた
「レイにぎゅってして貰えれば、ちょっとは落ち着くんだけどな…」
「………」
ルカは独り言を呟いたつもりだったのだが、ここは外とは違い静かな空間でしかも現状誰も話していないから、レイフォードを始めとしたこの場にいる面々にはバッチリ聞こえていた。
途端に生暖かな目になる一同に小さく咳払いしたレイフォードは、恐らくは無意識に頭を寄せてくるルカに微笑みバルドーとアルマへ頷く。
扉が開く直前、前を向いているルカの耳元へと唇を寄せたレイフォードはルカだけに聞かせる甘い声で囁いた。
「式が終わったら、いくらでもぎゅっとしてやろうな」
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