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ある人からの手紙
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身の回りが落ち着き始めた夏の暑い日。
執務室で仕事をしているレイフォードの元に、少し慌てた様子のハルマンが何かを手に駆け込んできた。
いつもは悠然と仕事をこなすハルマンに珍しく慌ただしいと思いながら、机の傍にあるソファで本を読んでいたルカが顔を上げると気付いて柔和な笑みを向けてくれる。
「どうした、ハルマン」
「陛下、こちらをご覧下さい」
「ん?」
ハルマンが持っていた物はどうやら手紙のようで、受け取ったレイフォードは不思議そうにしながらもそれを読み器用に片眉を跳ね上げた。それからその様子を眺めていたルカの方へと来て隣に座ると、困ったように手紙をヒラヒラさせ頭を撫でる。
「?」
「悲報でも朗報でもないんだが……近々、父と母が登城してくるそうだ」
「…え?」
「ルカに会いたいらしい」
「お、俺に?」
レイフォードの父と母といえば先代の王と竜妃である。
今は王族としてではなく、ただの竜族として下界での暮らしを謳歌していると以前にリックスから聞いていたがそんな人たちがどうしてルカに会いたいのか、目を瞬くルカに苦笑したレイフォードはテーブルへと手紙を置いて肩を抱き寄せた。
「これまで誰にも惹かれなかった私が唯一選んだ相手だからな。息子の恋人がどんな人か知りたいのだろう」
「……俺、ダメって言われるかも…」
何でも出来てみんなから慕われ頼りにされているレイフォードと違い、学がなく子供でも知っているような事をほとんどを知らないルカは誰が見ても彼に相応しいとは言い難い。
いくらアザ持ちで、息子が選んだとはいえそんなルカでは認めて貰えないのではないかと不安になり俯いたルカだったが、顎に指がかかり上向かされると何かを言う前に唇が塞がれた。
唇が舐められゾクリと背中が震える。
「ん…っ」
「……安心しろ、そんな事で人を判断するような人たちではない。むしろ、ルカは気に入られるだろうな」
「え?」
「あの人たちは人間が好きなんだ。特に小さくて可愛い人や物は、無条件で愛でようとする」
確かにルカは年齢を考慮しても小柄な方ではあるものの、竜族と並べば大抵の人は小さいのではとレイフォードを見上げたが、優しく微笑まれるとそれを言うのも野暮な気がして黙って腰元に腕を回す。
襟足を撫でられ擽ったさで首を竦めたら額に唇が触れた。
「ルカはルカらしくいればいい」
甘やかされてるなと思いつつもそれが嬉しくて身を寄せたルカは、例えレイフォードの言う通りだったとしても好いて貰えるよう頑張る事に決めて一人気合いを入れる。
気付いたら、ハルマンはいなくなっていた。
先代の王と竜妃が訪れるという事で城の中はてんやわんやの大忙しだ。
いつも以上に掃除に気合いが入り、城内の花瓶に生けられている花が全て一新され、調度品も新しい物が追加されてピッカピカに磨かれていた。
貯蔵庫にも食品が増えて、商人の出入りも普段より多くなっている。
最前を退いたとはいえ偉い人には変わりなく、さすがのルカも初対面時にいつものヒラヒラした服で会う訳にもいかず、超絶ご機嫌なソフィアにドレスを新調しましょうと言われ、朝早くから夕方まで再び着せ替え人形状態になっていた。
今回はデザインも装飾も控えめなワンピースタイプのドレスで、透け感のあるバルーン袖と繋がった上衣はスクエアネックになっており薄紫の宝石が縫い付けられている。
裾に花の刺繍が施されたスカート部分は広がりを抑えた膝下丈になっていて、足元はローヒールの白いパンプスを履く事になっていた。
夏らしく爽やかなオフホワイトにレイフォードの瞳の色である紫色は良く映えて、お披露目の時とは違う小さめのダイカットデザインのイヤリングとネックレスがそれぞれに揺れている。
化粧も薄いピンクのリップを引いたくらいでほとんど素のルカだ。
どうしてソフィアはこういう時、ここぞとばかりに女性の格好をさせたがるんだろうか。
身支度が終わったと聞き部屋まで迎えに来てくれたレイフォードが、扉を開けて座ったままのルカを見るなりふわりと微笑んだ。
「前回は綺麗だったが、今日は可愛らしいな」
「レイはいつも通り?」
「まぁ公用の服ではあるし、両親に会うのだからそこまで畏まらなくてもいいだろう」
「それもそっか」
確かにそうだと納得して頷くと、傍まで来たレイフォードがルカの足元に傅き裸足の足にパンプスを履かせてくれる。それから手を引かれて立たされたが、まるで物語本で見た王子様のような仕草に目を瞬くと頬にキスされルカは力が抜けたように微笑んだ。
「レイは王様っていうより、王子様だな」
「ルカの王子様になれるのなら本望だ」
「でも俺、お姫様ってガラじゃないんだけど」
「どんなルカでも、私だけの姫君だよ」
いくらドレスを纏って女性のような格好になろうと、ルカは決してお姫様のようにお淑やかではないしまず性別からして違う。そういうつもりで言ったのに、レイフォードはそんなものは関係ないとばかりに答えて肩を抱いてくるからそれ以上は何も言えなくなった。
「もうすぐ父上と母上がいらっしゃるから、出迎えに行こうか」
「うん」
初めての人と会うのは緊張するけど、レイフォードの両親だし大丈夫だろうと言い聞かせ彼の腕に自分の腕を回す。
ここからはなるようにしかならないのだ。
執務室で仕事をしているレイフォードの元に、少し慌てた様子のハルマンが何かを手に駆け込んできた。
いつもは悠然と仕事をこなすハルマンに珍しく慌ただしいと思いながら、机の傍にあるソファで本を読んでいたルカが顔を上げると気付いて柔和な笑みを向けてくれる。
「どうした、ハルマン」
「陛下、こちらをご覧下さい」
「ん?」
ハルマンが持っていた物はどうやら手紙のようで、受け取ったレイフォードは不思議そうにしながらもそれを読み器用に片眉を跳ね上げた。それからその様子を眺めていたルカの方へと来て隣に座ると、困ったように手紙をヒラヒラさせ頭を撫でる。
「?」
「悲報でも朗報でもないんだが……近々、父と母が登城してくるそうだ」
「…え?」
「ルカに会いたいらしい」
「お、俺に?」
レイフォードの父と母といえば先代の王と竜妃である。
今は王族としてではなく、ただの竜族として下界での暮らしを謳歌していると以前にリックスから聞いていたがそんな人たちがどうしてルカに会いたいのか、目を瞬くルカに苦笑したレイフォードはテーブルへと手紙を置いて肩を抱き寄せた。
「これまで誰にも惹かれなかった私が唯一選んだ相手だからな。息子の恋人がどんな人か知りたいのだろう」
「……俺、ダメって言われるかも…」
何でも出来てみんなから慕われ頼りにされているレイフォードと違い、学がなく子供でも知っているような事をほとんどを知らないルカは誰が見ても彼に相応しいとは言い難い。
いくらアザ持ちで、息子が選んだとはいえそんなルカでは認めて貰えないのではないかと不安になり俯いたルカだったが、顎に指がかかり上向かされると何かを言う前に唇が塞がれた。
唇が舐められゾクリと背中が震える。
「ん…っ」
「……安心しろ、そんな事で人を判断するような人たちではない。むしろ、ルカは気に入られるだろうな」
「え?」
「あの人たちは人間が好きなんだ。特に小さくて可愛い人や物は、無条件で愛でようとする」
確かにルカは年齢を考慮しても小柄な方ではあるものの、竜族と並べば大抵の人は小さいのではとレイフォードを見上げたが、優しく微笑まれるとそれを言うのも野暮な気がして黙って腰元に腕を回す。
襟足を撫でられ擽ったさで首を竦めたら額に唇が触れた。
「ルカはルカらしくいればいい」
甘やかされてるなと思いつつもそれが嬉しくて身を寄せたルカは、例えレイフォードの言う通りだったとしても好いて貰えるよう頑張る事に決めて一人気合いを入れる。
気付いたら、ハルマンはいなくなっていた。
先代の王と竜妃が訪れるという事で城の中はてんやわんやの大忙しだ。
いつも以上に掃除に気合いが入り、城内の花瓶に生けられている花が全て一新され、調度品も新しい物が追加されてピッカピカに磨かれていた。
貯蔵庫にも食品が増えて、商人の出入りも普段より多くなっている。
最前を退いたとはいえ偉い人には変わりなく、さすがのルカも初対面時にいつものヒラヒラした服で会う訳にもいかず、超絶ご機嫌なソフィアにドレスを新調しましょうと言われ、朝早くから夕方まで再び着せ替え人形状態になっていた。
今回はデザインも装飾も控えめなワンピースタイプのドレスで、透け感のあるバルーン袖と繋がった上衣はスクエアネックになっており薄紫の宝石が縫い付けられている。
裾に花の刺繍が施されたスカート部分は広がりを抑えた膝下丈になっていて、足元はローヒールの白いパンプスを履く事になっていた。
夏らしく爽やかなオフホワイトにレイフォードの瞳の色である紫色は良く映えて、お披露目の時とは違う小さめのダイカットデザインのイヤリングとネックレスがそれぞれに揺れている。
化粧も薄いピンクのリップを引いたくらいでほとんど素のルカだ。
どうしてソフィアはこういう時、ここぞとばかりに女性の格好をさせたがるんだろうか。
身支度が終わったと聞き部屋まで迎えに来てくれたレイフォードが、扉を開けて座ったままのルカを見るなりふわりと微笑んだ。
「前回は綺麗だったが、今日は可愛らしいな」
「レイはいつも通り?」
「まぁ公用の服ではあるし、両親に会うのだからそこまで畏まらなくてもいいだろう」
「それもそっか」
確かにそうだと納得して頷くと、傍まで来たレイフォードがルカの足元に傅き裸足の足にパンプスを履かせてくれる。それから手を引かれて立たされたが、まるで物語本で見た王子様のような仕草に目を瞬くと頬にキスされルカは力が抜けたように微笑んだ。
「レイは王様っていうより、王子様だな」
「ルカの王子様になれるのなら本望だ」
「でも俺、お姫様ってガラじゃないんだけど」
「どんなルカでも、私だけの姫君だよ」
いくらドレスを纏って女性のような格好になろうと、ルカは決してお姫様のようにお淑やかではないしまず性別からして違う。そういうつもりで言ったのに、レイフォードはそんなものは関係ないとばかりに答えて肩を抱いてくるからそれ以上は何も言えなくなった。
「もうすぐ父上と母上がいらっしゃるから、出迎えに行こうか」
「うん」
初めての人と会うのは緊張するけど、レイフォードの両親だし大丈夫だろうと言い聞かせ彼の腕に自分の腕を回す。
ここからはなるようにしかならないのだ。
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