竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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目が覚めたら

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 ふっと目が覚めた時、目蓋が重くて軽く擦ってから開けると室内が明るかったから一瞬朝かと思ってしまった。けれど窓の外は暗く、月の位置が高い為まだ夜だということが分かったルカは起き上がろうとして自分が誰かの膝を借りている事に気付く。

「?」

 顔を上げて確かめると予想通りレイフォードの膝で、彼はクッションに寄り掛かり座ったまま眠っていた。彼の寝顔はなかなかにレアで、殊更にゆっくりと身体を起こしたルカはその端正な顔をじっと見つめる。

(レイのおかげで、いろいろ吹っ切れた気がする)

 悪者三人組に襲撃されてからは事が終わるまで心配だからと片時も離れず傍にいてくれた。おかげで悪夢の事も、忘れていた記憶の事も、アイリスへの恐怖心もなくなって、思ったよりも落ち着いていられた気がする。
 どんな時だって最後に助けてくれるのはレイフォードで、不安も苦しみも取り除いてくれるのはいつだってレイフォードだ。

(今日だって、レイがいてくれたおかげでどうにか踏ん張れたし)

 あの屋敷に行く事も、クレイルに会う事も、レイフォードがいなければ言葉にも出来なかったかもしれない。
 もし仮にアイリスがあの村まで辿り着きルカを見付けて連れ戻したとして、失っていた記憶を取り戻した時点で今の状況じゃなければ、きっと絶望して自暴自棄になって言う事を聞いていただろう。
 それほど、レイフォードの存在はルカにとっては大きかった。

「……レイ…」

 一瞬も逸らす事なく見ていたら何だか無性にくっつきたくなってきた。
 ルカといる時は良く眠れると言うだけあって普段なら絶対に感じてるだろう気配にも起きないレイフォードに顔を寄せたルカは、伏せられた目がピクリともしないのを見て頬に軽く口付けてみる。
 ほんの僅かに反応した気はするが紫の目が開く事はなくて、少し考えたルカは今度は唇を触れ合わせてみた。
 数秒くっつけたあと離れようとしたら、後頭部を押さえられ驚きで身体が跳ねる。

「ん…っ」

 間髪入れずに肉厚な舌が入ってきて、さっきまで寝ていたのにという思いと口内をねぶられるゾワゾワとした痺れに戸惑っていたら舌を吸われて唇が離れた。
 少しだけ上がった呼吸を整えながら視線だけで見上げると、微笑んだレイフォードがいてドキッとする。

「可愛過ぎて耐えられなかった」
「い、いつから起きてたんだ…」
「ルカが起きてから」
「寝たフリしてたのか? 意地悪いな」

 という事は、ルカがじっと見ていたのも気付いていたという事になる。騙されたと膨れっ面をすると、ふっと笑ったレイフォードがその膨らんだ頬を人差し指で突ついてきた。
 それから腕を広げられたから膝の上に横向きで座れば目蓋をなぞられる。

「大丈夫か?」
「え? ……あー…うん、大丈夫」

 一瞬何の事かと思ったが、すぐにクレイルの事だと知り苦笑混じりに頷いたら頭を撫でられる。その優しい手に胸が暖かくなるのを感じてレイフォードの腰元に腕を回したルカは、ふわりと舞った彼の香りに一人口元を緩めた。

(レイの匂い…好きだなぁ…)

 祖母とも家族とも違うのに、いつの間にかルカにとっては一番安心出来る香りになっていた。土の匂いも木や葉っぱの匂いも覚えているし好きだけど、もうレイフォードには何も敵わない。
 しばらく無言でくっついていたのだが、落ち着いて完全に気が抜けたのがいけなかった。

―ぐうぅぅ~…―

 ルカの腹の虫が盛大に空腹を訴えてきた。

「!!」
「……ふ…」

 静かな空間に響いた情けない音に自分で驚いたルカが腹を押さえるのとレイフォードが吹き出すのが同時で、恥ずかしくなったルカは手で口を隠し笑いを堪えている恋人をジロリと見た。
 まさかこんなタイミングで鳴るとは誰も思わないだろう。

「……笑うな」
「…ッ、はは……す、すまない…」
「もー…最悪…」
「何も食べずに眠ったからな、腹も減るだろう。ソフィアが軽食を用意してくれているから食べようか」

 まだ笑い混じりに話すレイフォードにぶすっとしつつも頷いたら、一度膝から下ろされてベッドから降りた彼に抱き上げられる。机の上には布が掛けられた何かがあり、それを捲るとサンドイッチが現れそれを見たルカの腹がまた主張しレイフォードが笑った。

「ルカと同じで素直な腹だな」
「何でお腹って空くと鳴るんだ」
「ルカのように、空腹にも気付かない者がいるからじゃないか?」
「あんまりにも空いてたら気付くし」

 そこまで鈍くないと勢い良く顔を逸らせば、楽しそうな顔をするものだから何も言えなくなる。
 サンドイッチが並んだ皿が持たされ、ロッキングチェアへと腰掛けたレイフォードが手に取る様子を見ていたら当然のように口元へと寄せられるからこれまた当然と齧り付いた。
 葉野菜と卵とハムのシンプルなサンドイッチだが、鳴くほど空きまくっていた腹に染み渡って満たされる。

「美味いか?」
「んー」
「良かったな」

 咀嚼しながら頷き食べていたルカは、食べさせてばかりで一つも食べようとしないレイフォードに気付き新しいサンドイッチを持つと、それを弧を描く口へと差し出した。
 僅かに目を見瞠ったレイフォードだったが、すぐに微笑みに変わり食べてくれる。その後も何度か食べさせ合いをしていたら満腹になり、ルカは口を動かしながら腹を撫でて首を振った。

「ほら、果実水だ」
「ん。……あ」

 果実水の注がれたグラスを受け取り嚥下してから口を付けたのだが、傾け過ぎたのか口端から零れ顎から首筋を伝う。手で拭こうとしたら押さえられレイフォードの舌が辿るように鎖骨から口元まで口付けてきた。
 所々舐められ吸われ、ルカはふるりと身体を震わせる。

「ん…っ」

 ゾワゾワとした感覚が背中に走り小さく声を漏らすと、グラスが取り上げられ今度はレイフォードがそれを仰る。喉が渇いていたのかと思って見ていたら唇が塞がれ、冷たい果実水が口の中に流れ込んできた。

「…っ…」
「……」
「ふぁ……ん…」

 飲み干したあとも唇は離れなくて、今度は肉厚な舌が入り込みルカの舌と擦り合わせてきた。これが気持ち良い事を知っているルカは空いた両手を上げレイフォードの首へと回す。
 ぎこちなく応えているとグラスと皿が置かれた音がして更に深くなった。

(息、苦しくなるけど…レイとずっとこうしてたい…)

 ズクズクと腹の下は疼いてて身体は熱いけど、やめて欲しくないから必死でレイフォードの舌に吸い付く。
 そんなルカに煽られまくっているレイフォードには気付かず甘えた声を漏らしながら口付けていたのだが、いい加減耐え切れなくなったレイフォードにより無理やり離され、そそくさとベッドへと連れて行かれたルカは優しくて大きな手に半ば無理やり寝かしつけられたのだった。
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