竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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祖母と友人

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 精霊の森から戻って来てすぐルカを部屋へと連れて来たレイフォードは、ベッドに座らせたルカの足元に跪くと握った両手に口付けてきた。

「ルカ、私は明日から少し忙しくなる。なるべく一緒にいる時間は作るが、どうしても寂しくなったら言って欲しい」
「う、うん」
「もしかしたらルカの周りも騒がしくなるかもしれない。だが、絶対にルカを危険な目には遭わせないと誓うから」

 何をするつもりなのかは分からないが、真剣な表情でそんな事を言うレイフォードにキョトンとしたあと微笑んだルカは、握られていた手を離すと彼の頬を挟み額に口付けた。
 
「大丈夫だよ。レイの事信じてるから」

 僅かに目を見瞠ったレイフォードの首にそのまま抱き着いたら、背中に腕が回されて胸元に顔が埋められる。何故かそれが可愛く見えて髪に頬を寄せると更に力が強くなった。
 こういう気持ちを何というのかは分からないが、とにかくレイフォードに対して好きが溢れている。

「ルカ」
「うん?」
「全て終わったら、結婚式を挙げようか」
「けっこんしき?」
「精霊たちに、私たちが夫夫となる事を認めて貰う式だ」

〝ふうふ〟と聞いて祖母と今は亡き祖父の事を思い浮かべる。二人は本当に仲が良くて、何をするにもどこに行くにも一緒でいつも笑顔だった。
 ルカはそんな二人を見るのが好きで、縁側に並ぶ背中は今でもルカの心を温めてくれる。
 そんな二人のように、自分たちもなれるのだろうか。

「それって、ダメって言われる事あるのか?」
「基本的には当人が幸せなら問題ない」

 ふわりと身体が浮き立ち上がったレイフォードにベッドへと倒され頬に口付けられる。見上げた顔は優しくて、髪を撫でる手も声も、彼の全部がルカにとっては何物にも代えがたいものだ。
 幸せかどうかなんて、そんなの当然決まってる。

「じゃあ大丈夫だな。俺、すっごく幸せだから」

 きっとレイフォードとじゃなければこんなに幸せにはなれなかった。
 ルカは大輪の花が綻ぶように笑うと、頭を浮かせてレイフォードの唇へと自分の唇を押し当てた。





 時間によっては暑さすら感じる午前中のガゼボの中、ルカは祖母となぜかセノールと一緒に話に花を咲かせていた。

「まあまあ、あのルカにお友達が出来るなんてねぇ」
って何だよ、ばあちゃん」
「ルカは迷惑をかけていませんか?」

 ルカのツッコミなんて何のその、祖母はセノールの方へと顔を向けて問い掛ける。聞かれたセノールは外行きの笑顔で首を振ると、サンドイッチを祖母の前に置いてチラリとルカを見た。

「ルカ様は裏表のない真っ直ぐな方なので、一緒にお話するのは楽しいですよ。嘘もお世辞も言わないですし」
「ばば馬鹿かもしれないけど、本当にいい子に育ってくれましてねぇ。優しくて心の温かい子なんです」
「純粋ですよね」
「可愛いでしょう?」
「もういいって……」

 セノールの口振りからして揶揄いも入ってそうだが、祖母は本心からだから恥ずかしくなって二人の間に手を出したら、セノールがニヤニヤと笑い紅茶に口を付けた。
 ムッとしてクッキーを口に放り込み咀嚼したルカは、サンドイッチを食べる祖母を見てふっと微笑む。
 最近は年のせいか体調を崩す者も出始めルカは不安が募っていた。

(このままがずっと続かないのは分かってる。でもせめて…せめて俺に覚悟が出来るまでは…)

 祖母が心配していた、〝自分たちがいなくなったあとルカが一人になる事〟はもうないが、それでも恋人と家族は違うからみんなには可能な限り生きて欲しい。
 これまで以上にそう思うのは、長命な竜族が傍にいるからだというのもあるが、村人たちに少しずつ死期が近付いてる事を感じるからだろう。

「ところでルカ。最近は陛下もお忙しそうだけど、仲良くしているかい?」
「うん、してるよ。でもあんまり一緒にはいられないから結構寂しいんだよな」
「ルカは寂しがり屋だからねぇ」
「それをそのまま陛下に伝えてみればいいのに…」
「分かってるんだけど…」

 祖母に愛想良くした手前か小さな声でセノールがそう言ってくるが、レイフォードを困らせるかもしれないと思うとなかなか口には出せなかった。
 いくら言って欲しいと請われていたとしても、時間が取れない事をレイフォード自身が気にしているのだから言える訳もない。

「何でそういうとこだけ遠慮しいなんだか」

 呆れ顔で言うセノールからふんっと顔を背けたルカは、紅茶に口を付けると執務室がある方を視線だけで見上げる。
 あの時の言葉通り、レイフォードはなるべく時間を作ってくれていた。短くて五分や、長くて十五分など日によってマチマチだが、ほんの少しでも触れ合える時間がある事がルカには嬉しかった。
 レイフォードと出会うまでその存在さえ知らなかったこの気持ちは、際限がないのかどんどん大きく膨らんでいくし、会えなければ会えないだけ恋しさが募って苦しくなる。
 治水調査でレイフォードが城を空けた時よりも確実にその感情は育っていた。

(我儘を言うなら、もっとくっついていたいんだけど)
「おや? あそこにいらっしゃるのは陛下じゃないかい?」
「え?」
「…飛んで行かれましたね」

 自分をすっぽりと包んでくれる腕を思い出した切なげに眉根を寄せた時、祖母のそんな声が聞こえてルカは勢い良く顔を上げる。
 このガゼボからは庭園の中心にある噴水が見えるのだが、確かにそこには難しい顔をしたレイフォードが立っており、ルカが見た時には既に銀色の翼を出していてこちらへ気付く事なくどこかへと飛び立ってしまった。

「ご無理をされていないといいんだけどねぇ」
「うん…」

 本当にその通りだと思う。
 ルカは貴族の事も王族の事も知らないから何も言えないが、本来なら王には補佐的なものが仕えているとソフィアに聞いた事がある。でもレイフォードは必要性を感じなかったらしく今までつけておらず、全ての公務を一人で回していたらしい。
 今は前向きに考えているようだが、それまでは忙しいのは当たり前で身体だけは大事にして欲しいとルカは思っていた。

「お前が笑ってりゃ大丈夫だよ」
「セノール……ありがとう」

 ぶっきらぼうだけどセノールの優しい言葉に微笑んだルカは、レイフォードが飛んで行った方を見上げると眩しさに目を細め耳飾りに触れた。
 ルカに出来る事は自分を大切にする事だ。それから、いつだって笑顔でレイフォードを迎えてあげられるようにする事。
 一人気合いを入れていたルカは、セノールにポンっと肩を叩かれると友人を見て笑い大きく頷いた。
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