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悪夢
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暗い部屋に横たわる小さな身体。顔は青白くまるで死んだようにも見えるが、その胸元は小刻みに上下していて生きているのが分かる。
周りにはローブを着てフードを目深に被った大人が数人いて、横たわる子供と自分を取り囲み何かを唱えていた。
『大丈夫よ。痛い事なんて何もないわ』
なんの感情も篭っていない女性の声が頭の方から聞こえる。
恐怖と絶望で竦んだ身体がガタガタと震えて止まらない。
今から何が行われようとしているのか自分は知ってる。その先の事も。
『そうしたらお前を、───────』
「──…っ!」
ビクリと身体が大きく跳ねて唐突に意識が浮上した。
勢い良く起き上がり周りを確認してここが自分の部屋だと認識出来たルカは大きく息を吐く。
じっとりと嫌な汗を掻いているせいで服が張り付いて気持ち悪い。
着替えるべくベッドから降り予備のナイトウェアに替えたのだが、どうしてか戻る気になれず立ち尽くしていると二枚扉がカチャリと音を立てて開いた。
レイフォードならノックをする為一瞬誰かがいるのかと身構えたものの誰もいなくてポカンとなる。だが不思議な事柄には精霊が関わっている事をすでに知っているルカは肩の力を抜き、ゆっくりと近付いて狭い空間に身体を滑り込ませると迷いながらもレイフォードの部屋へと進みそっとベッドへと近付いた。
「………」
寝るギリギリまで仕事をしていたのか、枕元に書類が置かれていて思わず笑みが零れる。
ヨレたり破れたりしたら大変だと、なるべく起こさないよう気を付けながら拾い上げた瞬間腕を掴まれ肩が跳ねた。
「!?」
「……ルカ?」
「あ、あの、起こしてごめ…わっ」
見た事ないくらい眉間に皺を寄せて目を開けたレイフォードはすぐに気付いて表情を緩めてくれ小さく欠伸を零す。
起こすつもりはなかったけど、起こしてしまった事への謝罪を口にしたら途中で腕を引かれ身体に乗り上げた形で抱き締められた。
額にレイフォードの唇が触れ髪が撫でられる。
「どうした? 眠れないのか?」
「…怖い夢見て…」
「怖い夢? どんな?」
「えっと…………あれ? どんな夢だったっけ」
どんな夢だったか説明しようとしたのだが、抜け落ちたようにその部分の記憶がなくてルカは自分でも驚いた。レイフォードの胸に手をついて起き上がり、座り込んで思い出そうとするが欠片も思い出せない。
そんなルカを見て自分も身体を起こしたレイフォードは、ルカの肩を抱くと不意に唇を重ねてきた。
「思い出せないなら思い出さなくていい。怖い夢だったのなら尚更」
「そう、かな」
「そうだよ。ほら、まだ時間も早いから寝よう」
「うん」
肩を抱かれたまま寝転ばれレイの腕に頭を乗せたルカは自分をすっぽりと包み込む恋人の香りに目を閉じようとしたのだが、再び目を開けて顔を上げると寝ようとしているレイフォードへと声をかけた。
「レイ」
「ん?」
「もう一回。今度はベロくっ付けるやつ」
「……」
そうねだったあとべっと舌を出してみせると、レイフォードは眉間に皺を寄せたあと深く溜め息をついてルカへと被さってきた。
どうしてそんな反応をされるのか分からないルカはキョトンとするも、顔が近付いてきたから目を閉じてレイフォードの首に腕を回す。
「…本当にタチが悪い」
「? ん…」
唇が触れる直前小さな声が何かを呟いたが、聞こえなかったルカは不思議に思いつつも心地良いキスに身体を震わせる。何度目かのキスで応える事を覚えた為拙いながらも舌を擦り合わせたらまるで褒めるように頭を撫でられた。
夢の内容は忘れてしまったけど、どうして感じるのか分からない恐怖はまだ残っている。それでもレイフォードとこうしていればそれだけに意識が向き、そんな気持ちも薄れていった。
「んん…っ…ふ……レイ…」
「……ルカ」
唾液の絡み合う音とリップ音が静かな部屋に響き、レイフォードの手に腰を撫でられゾワゾワとした何かが背中を這い上がるのを感じながら、ルカは甘い口付けに夢中になった。
それからもルカは毎晩悪夢を見ては飛び起きる日が続き、次第に眠る事が怖くなっていった。
それでも眠気は襲ってくるし、うっかり寝て悪夢で起きた時に何度もレイフォードの部屋に行く事を躊躇ってしまったが故に寝不足に陥ったルカは、ある日目眩を起こして倒れてしまった。
その時のソフィアとリックスの慌てようは凄かったし、話を聞いて駆け付けてくれたレイフォードには叱られてしょんぼりしてしまう。
「ルカ、倒れたと聞いた時私がどれほど心配したか分かるか? …心臓が止まるかと思った」
「ごめんなさい…」
「もうあんな思いはしたくない。今日からは私の部屋で眠る事にしよう。いいな?」
「でも迷惑じゃ…」
「私がルカを迷惑だと思うはずがないだろう? むしろ、今は離れている方が不安だ」
心配性で優しいレイフォードにそう言われルカは申し訳なさを感じながらも小さく頷いた。
起きてからは自室や庭や図書館でいつも通り過ごし、就寝時間になったらレイフォードがいようといまいと彼の部屋に行く。それに慣れてきても夜中に目が覚めてしまう事は変わらず、ルカはいい加減気味が悪くなってきていた。
悪夢を見た事は分かるのに、その内容を少しも覚えていないのはどうしてなのか。まるで誰かに無理やり見せられているような、そんな不安感に苛まれたルカは今日も主のいないベッドに入り込み目を閉じる。
本当は眠りたくないけど、寝なければ余計に寝不足になり周りを心配させてしまう。
早くこの訳の分からない状況が終わればいいのにと思いながら、ルカはレイフォードから借りたシャツを抱き締めた。
周りにはローブを着てフードを目深に被った大人が数人いて、横たわる子供と自分を取り囲み何かを唱えていた。
『大丈夫よ。痛い事なんて何もないわ』
なんの感情も篭っていない女性の声が頭の方から聞こえる。
恐怖と絶望で竦んだ身体がガタガタと震えて止まらない。
今から何が行われようとしているのか自分は知ってる。その先の事も。
『そうしたらお前を、───────』
「──…っ!」
ビクリと身体が大きく跳ねて唐突に意識が浮上した。
勢い良く起き上がり周りを確認してここが自分の部屋だと認識出来たルカは大きく息を吐く。
じっとりと嫌な汗を掻いているせいで服が張り付いて気持ち悪い。
着替えるべくベッドから降り予備のナイトウェアに替えたのだが、どうしてか戻る気になれず立ち尽くしていると二枚扉がカチャリと音を立てて開いた。
レイフォードならノックをする為一瞬誰かがいるのかと身構えたものの誰もいなくてポカンとなる。だが不思議な事柄には精霊が関わっている事をすでに知っているルカは肩の力を抜き、ゆっくりと近付いて狭い空間に身体を滑り込ませると迷いながらもレイフォードの部屋へと進みそっとベッドへと近付いた。
「………」
寝るギリギリまで仕事をしていたのか、枕元に書類が置かれていて思わず笑みが零れる。
ヨレたり破れたりしたら大変だと、なるべく起こさないよう気を付けながら拾い上げた瞬間腕を掴まれ肩が跳ねた。
「!?」
「……ルカ?」
「あ、あの、起こしてごめ…わっ」
見た事ないくらい眉間に皺を寄せて目を開けたレイフォードはすぐに気付いて表情を緩めてくれ小さく欠伸を零す。
起こすつもりはなかったけど、起こしてしまった事への謝罪を口にしたら途中で腕を引かれ身体に乗り上げた形で抱き締められた。
額にレイフォードの唇が触れ髪が撫でられる。
「どうした? 眠れないのか?」
「…怖い夢見て…」
「怖い夢? どんな?」
「えっと…………あれ? どんな夢だったっけ」
どんな夢だったか説明しようとしたのだが、抜け落ちたようにその部分の記憶がなくてルカは自分でも驚いた。レイフォードの胸に手をついて起き上がり、座り込んで思い出そうとするが欠片も思い出せない。
そんなルカを見て自分も身体を起こしたレイフォードは、ルカの肩を抱くと不意に唇を重ねてきた。
「思い出せないなら思い出さなくていい。怖い夢だったのなら尚更」
「そう、かな」
「そうだよ。ほら、まだ時間も早いから寝よう」
「うん」
肩を抱かれたまま寝転ばれレイの腕に頭を乗せたルカは自分をすっぽりと包み込む恋人の香りに目を閉じようとしたのだが、再び目を開けて顔を上げると寝ようとしているレイフォードへと声をかけた。
「レイ」
「ん?」
「もう一回。今度はベロくっ付けるやつ」
「……」
そうねだったあとべっと舌を出してみせると、レイフォードは眉間に皺を寄せたあと深く溜め息をついてルカへと被さってきた。
どうしてそんな反応をされるのか分からないルカはキョトンとするも、顔が近付いてきたから目を閉じてレイフォードの首に腕を回す。
「…本当にタチが悪い」
「? ん…」
唇が触れる直前小さな声が何かを呟いたが、聞こえなかったルカは不思議に思いつつも心地良いキスに身体を震わせる。何度目かのキスで応える事を覚えた為拙いながらも舌を擦り合わせたらまるで褒めるように頭を撫でられた。
夢の内容は忘れてしまったけど、どうして感じるのか分からない恐怖はまだ残っている。それでもレイフォードとこうしていればそれだけに意識が向き、そんな気持ちも薄れていった。
「んん…っ…ふ……レイ…」
「……ルカ」
唾液の絡み合う音とリップ音が静かな部屋に響き、レイフォードの手に腰を撫でられゾワゾワとした何かが背中を這い上がるのを感じながら、ルカは甘い口付けに夢中になった。
それからもルカは毎晩悪夢を見ては飛び起きる日が続き、次第に眠る事が怖くなっていった。
それでも眠気は襲ってくるし、うっかり寝て悪夢で起きた時に何度もレイフォードの部屋に行く事を躊躇ってしまったが故に寝不足に陥ったルカは、ある日目眩を起こして倒れてしまった。
その時のソフィアとリックスの慌てようは凄かったし、話を聞いて駆け付けてくれたレイフォードには叱られてしょんぼりしてしまう。
「ルカ、倒れたと聞いた時私がどれほど心配したか分かるか? …心臓が止まるかと思った」
「ごめんなさい…」
「もうあんな思いはしたくない。今日からは私の部屋で眠る事にしよう。いいな?」
「でも迷惑じゃ…」
「私がルカを迷惑だと思うはずがないだろう? むしろ、今は離れている方が不安だ」
心配性で優しいレイフォードにそう言われルカは申し訳なさを感じながらも小さく頷いた。
起きてからは自室や庭や図書館でいつも通り過ごし、就寝時間になったらレイフォードがいようといまいと彼の部屋に行く。それに慣れてきても夜中に目が覚めてしまう事は変わらず、ルカはいい加減気味が悪くなってきていた。
悪夢を見た事は分かるのに、その内容を少しも覚えていないのはどうしてなのか。まるで誰かに無理やり見せられているような、そんな不安感に苛まれたルカは今日も主のいないベッドに入り込み目を閉じる。
本当は眠りたくないけど、寝なければ余計に寝不足になり周りを心配させてしまう。
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