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部屋へとやって来たソフィアはレイフォードがいる事に物凄く驚いていたが、仲睦まじい二人の様子に笑顔になると纏めて支度をしてくれた。
その途中で「良かったですね」と言われ気恥ずかしく思いながらも頷く。
治水調査の仕事はまだ完全には終わっていないようだが、食事は一緒にしてくれるというレイフォードと共に食堂へ向かうと、既に席に着いていたルナリエが彼の姿を見るなり立ち上がり粛々と歩み寄って来た。
「陛下、お初にお目に掛かります。私、西に御座いますミラーゼル国第一王女、ルナリエ・テス・ミラーゼルと申します。お会い出来る日を心より待ちしておりました」
「待たせてすまなかったな、ルナリエ王女。仕事で城を留守にしていて、昨日戻って来たところなんだ」
「とんでも御座いません。陛下とお食事が出来るだけでも光栄ですわ」
己の美しさを計算し尽くした艶やかな微笑みと隙のない仕草。城にいる従僕がこぞって頬を染めて見惚れるほど綺麗な彼女だが、レイフォードは興味がないのかルカの手を引いていつもの椅子に座るとこれまたいつものように膝へと座らせカトラリーを手に取った。
それを見たルナリエの口端が一瞬ヒクつきはしたもののさすがは一国の王女、すぐに持ち直して席につきレイフォードへと話し掛ける。
「お仕事は順調でしたか?」
「ああ。みなが頑張ってくれたおかげで予定通り終えられた。ほら、ルカの好きな揚げ鶏だ」
「ん」
アッシェンベルグは竜族が育てる作物や家畜の他に、下界の食料も許可を得た商人が売りに来る為食べ慣れた物もたくさんある。ここに来て初めて食べた魚を始め、柔らかい肉も甘い果物も好きになったルカは、特に揚げた料理がお気に入りだった。
揚げたての鶏肉を一口サイズに切り分けたレイフォードが、ある程度冷ましてから口元へ寄せ頭を撫でてくれる。
「⋯陛下とルカ様は、いつもそのようにお食事をされていらっしゃるのですか?」
「そうだが、何か問題でも?」
「あ、い、いえ⋯⋯仲が宜しいんですのね」
「ルカは私にとって最も大切な人だからな」
ルカが咀嚼している間にレイフォードも食事を進めるのだが、嚥下するまでに三口も四口も食べるのは喉に詰めないか少し心配になる。果たしてルカが遅いのかレイフォードが早いのかは分からないが、もしかしたら竜族は食べるスピードが早いのかもしれない。
基本的に食べ物が口の中に入ってる時は喋らないようにしているルカは、何か言うたびに転がり出そうになっていた飴の件もあり今は完全に沈黙して二人の会話を聞いていた。
「ところで、ルナリエ王女は蓮の花のアザを持っていると聞いたが」
「はい。今は隠れて見えませんが、首筋に御座います」
「王女を疑っている訳ではないが、アザを偽装する者がいるのも確かだからな。悪いが念の為、真贋を見極める〝精霊眼〟を持つ者を手配させて貰う」
「心得ておりますわ」
にっこりと微笑むルナリエは本当に自分の持つアザが本物だと信じているようだ。蓮の花を知らないルカは見たところで分からないが、知っている人が見ればそうだと言えるくらいのものなのかもしれない。
「ルカ、次はどれが食べたい?」
「野菜包んでるやつ」
「これだな」
口の中がなくなった頃を見計らってレイフォードが聞いてくる。人差し指で示した食べ物がまた一口サイズに切られて寄せられ、パクリと食べたところで口端を拭われこめかみに唇が触れた。
さっきからずっとルナリエから見られている事には気付いていたが、ルカは敢えて知らないフリをして与えられるままに口を動かす。
(レイの奴、何でこんなにくっ付けてくるんだ?)
食事中にこんなに触れてくる事はまずなくて、いつもならルカが集中出来るようにしてくれるはずなのにどうしてかスキンシップが止まらない。ルナリエがいるからこそレイフォードはわざとしているのだが、それが分からないルカは不思議で仕方なかった。
だけど決して嫌な訳ではなく、むしろ嬉しいまであるからルカも何疑問に思いながらも大人しくされるがままになってる。
その後も食べるたびにまるで褒めるように頭を中心に口付けられ、その都度ピリッとするような視線を感じて普段以上に疲れた食事に感じたルカだった。
朝食後、お土産があるからと執務室へと向かうレイフォードについて行きながら、食事中の会話の中で出て来た聞きなれない言葉の意味をルカは尋ねた。
「なぁ、レイ。〝せいれいがん〟って何だ?」
「遙か昔から代々精霊より加護を賜っている者が持つ瞳の事だ。私も詳しくは知らないが、とある経緯で精霊を救った事により、末代までその恩返しを受けていると聞いた。絶対的な幸福が約束されている上に、唯一アザの真偽を確かめる事が出来るから、我が国にとっては最も護るべき存在となっている」
「へぇ⋯だから彫ってても分かるんだ」
「そもそも、彫ってある物はその部分の肌質が変わるから、精霊眼でなくとも分かるからな」
つまり、見える位置にさえあれば肉眼でも確認は可能だったという事か。あのチョーカーがお洒落ではなくアザ隠しなのだとしたら、ルナリエのアザが偽物だという可能性も出てきた。
(結果はその人に見て貰わないとなんだろうけど、もし本物だったとしたら王女様は引かないだろうな)
どうにかしてレイフォードの気を引こうとしていたし、食事が終わったあとも執拗くお茶に誘っていて少しだけリックスが苛立っていた気がする。
一応、一国の王女ということで午後の約束を受け入れていたが、如何にも渋々といった様子のレイフォードには苦笑してしまった。
「ルカ」
「うん?」
考え事をしていて少し遅れていたらしい。
声をかけられハッとしたルカが急いで駆け寄れば、微笑んだレイフォードに肩を抱かれ口付けられた。目を丸くするルカに、悪戯が成功した子供のようにニヤリと笑ったレイフォードは、ルカを抱き上げるとそのまま執務室へと歩き出す。
不意にリックスと目が合い、その生暖かな目にあっと気付いたルカがほんの少しだけ頬を染めたのはリックスだけの秘密だ。
その途中で「良かったですね」と言われ気恥ずかしく思いながらも頷く。
治水調査の仕事はまだ完全には終わっていないようだが、食事は一緒にしてくれるというレイフォードと共に食堂へ向かうと、既に席に着いていたルナリエが彼の姿を見るなり立ち上がり粛々と歩み寄って来た。
「陛下、お初にお目に掛かります。私、西に御座いますミラーゼル国第一王女、ルナリエ・テス・ミラーゼルと申します。お会い出来る日を心より待ちしておりました」
「待たせてすまなかったな、ルナリエ王女。仕事で城を留守にしていて、昨日戻って来たところなんだ」
「とんでも御座いません。陛下とお食事が出来るだけでも光栄ですわ」
己の美しさを計算し尽くした艶やかな微笑みと隙のない仕草。城にいる従僕がこぞって頬を染めて見惚れるほど綺麗な彼女だが、レイフォードは興味がないのかルカの手を引いていつもの椅子に座るとこれまたいつものように膝へと座らせカトラリーを手に取った。
それを見たルナリエの口端が一瞬ヒクつきはしたもののさすがは一国の王女、すぐに持ち直して席につきレイフォードへと話し掛ける。
「お仕事は順調でしたか?」
「ああ。みなが頑張ってくれたおかげで予定通り終えられた。ほら、ルカの好きな揚げ鶏だ」
「ん」
アッシェンベルグは竜族が育てる作物や家畜の他に、下界の食料も許可を得た商人が売りに来る為食べ慣れた物もたくさんある。ここに来て初めて食べた魚を始め、柔らかい肉も甘い果物も好きになったルカは、特に揚げた料理がお気に入りだった。
揚げたての鶏肉を一口サイズに切り分けたレイフォードが、ある程度冷ましてから口元へ寄せ頭を撫でてくれる。
「⋯陛下とルカ様は、いつもそのようにお食事をされていらっしゃるのですか?」
「そうだが、何か問題でも?」
「あ、い、いえ⋯⋯仲が宜しいんですのね」
「ルカは私にとって最も大切な人だからな」
ルカが咀嚼している間にレイフォードも食事を進めるのだが、嚥下するまでに三口も四口も食べるのは喉に詰めないか少し心配になる。果たしてルカが遅いのかレイフォードが早いのかは分からないが、もしかしたら竜族は食べるスピードが早いのかもしれない。
基本的に食べ物が口の中に入ってる時は喋らないようにしているルカは、何か言うたびに転がり出そうになっていた飴の件もあり今は完全に沈黙して二人の会話を聞いていた。
「ところで、ルナリエ王女は蓮の花のアザを持っていると聞いたが」
「はい。今は隠れて見えませんが、首筋に御座います」
「王女を疑っている訳ではないが、アザを偽装する者がいるのも確かだからな。悪いが念の為、真贋を見極める〝精霊眼〟を持つ者を手配させて貰う」
「心得ておりますわ」
にっこりと微笑むルナリエは本当に自分の持つアザが本物だと信じているようだ。蓮の花を知らないルカは見たところで分からないが、知っている人が見ればそうだと言えるくらいのものなのかもしれない。
「ルカ、次はどれが食べたい?」
「野菜包んでるやつ」
「これだな」
口の中がなくなった頃を見計らってレイフォードが聞いてくる。人差し指で示した食べ物がまた一口サイズに切られて寄せられ、パクリと食べたところで口端を拭われこめかみに唇が触れた。
さっきからずっとルナリエから見られている事には気付いていたが、ルカは敢えて知らないフリをして与えられるままに口を動かす。
(レイの奴、何でこんなにくっ付けてくるんだ?)
食事中にこんなに触れてくる事はまずなくて、いつもならルカが集中出来るようにしてくれるはずなのにどうしてかスキンシップが止まらない。ルナリエがいるからこそレイフォードはわざとしているのだが、それが分からないルカは不思議で仕方なかった。
だけど決して嫌な訳ではなく、むしろ嬉しいまであるからルカも何疑問に思いながらも大人しくされるがままになってる。
その後も食べるたびにまるで褒めるように頭を中心に口付けられ、その都度ピリッとするような視線を感じて普段以上に疲れた食事に感じたルカだった。
朝食後、お土産があるからと執務室へと向かうレイフォードについて行きながら、食事中の会話の中で出て来た聞きなれない言葉の意味をルカは尋ねた。
「なぁ、レイ。〝せいれいがん〟って何だ?」
「遙か昔から代々精霊より加護を賜っている者が持つ瞳の事だ。私も詳しくは知らないが、とある経緯で精霊を救った事により、末代までその恩返しを受けていると聞いた。絶対的な幸福が約束されている上に、唯一アザの真偽を確かめる事が出来るから、我が国にとっては最も護るべき存在となっている」
「へぇ⋯だから彫ってても分かるんだ」
「そもそも、彫ってある物はその部分の肌質が変わるから、精霊眼でなくとも分かるからな」
つまり、見える位置にさえあれば肉眼でも確認は可能だったという事か。あのチョーカーがお洒落ではなくアザ隠しなのだとしたら、ルナリエのアザが偽物だという可能性も出てきた。
(結果はその人に見て貰わないとなんだろうけど、もし本物だったとしたら王女様は引かないだろうな)
どうにかしてレイフォードの気を引こうとしていたし、食事が終わったあとも執拗くお茶に誘っていて少しだけリックスが苛立っていた気がする。
一応、一国の王女ということで午後の約束を受け入れていたが、如何にも渋々といった様子のレイフォードには苦笑してしまった。
「ルカ」
「うん?」
考え事をしていて少し遅れていたらしい。
声をかけられハッとしたルカが急いで駆け寄れば、微笑んだレイフォードに肩を抱かれ口付けられた。目を丸くするルカに、悪戯が成功した子供のようにニヤリと笑ったレイフォードは、ルカを抱き上げるとそのまま執務室へと歩き出す。
不意にリックスと目が合い、その生暖かな目にあっと気付いたルカがほんの少しだけ頬を染めたのはリックスだけの秘密だ。
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