竜王陛下の愛し子

ミヅハ

文字の大きさ
上 下
33 / 126

その言葉だけで

しおりを挟む
 ルカは今、目の前の出来事にとても混乱していた。

 朝いつものように意識が浮上したルカは、包み込むような暖かさと腰元に感じる重みを不思議に思いつつ目を覚ましたのだが、眼前に何かの布が見え心底驚いた。
 寝起きの頭ではなかなか理解する事は出来なかったが、それでもそれが誰かの胸元である事は分かり恐る恐る視線を上げた先に見えた顔に今度はポカンとしてしまう。

(⋯⋯え? 何でレイが?)

 確かに今日が帰って来る日だというのは知っていた。だがそれは夕方くらいだと思っていたし、早くてもお昼頃かなと考えていただけに今の状況が良く分からない。
 まさか夢を見ているのかと軽く自分の頬を抓ってみたら痛かった。

(夢じゃない⋯って事は、ここで寝てるのは本物のレイだ)

 そういえば、昨日夢現にレイフォードの姿を見た気がするが、まさかあそこから現実だったのかと目を瞬く。
 じわじわと現状が理解出来て嬉しくなったルカは、今だ自分を抱くようにして眠っているレイフォードの胸元へと頬を擦り寄せた。どうしてルカのベッドにいるのか、いつ戻って来たのか、聞きたい事も言いたい事もたくさんあるが、そんな事どうでも良くなるくらい嬉しい。

「⋯ん⋯」

 小さな声がしてレイフォードが僅かに身動ぎルカの身体を抱き寄せる。片手だけ背中に回したら少しして名前を呼ばれた。
 見上げると優しく微笑む恋人がいて思わずドキッとする。

「おはよ、レイ。あと、おかえり」
「おはよう。ただいま」

 寝起き特有の気怠げな声が返してくれて、額や目蓋に何度も口付けられる。ドキドキしながらそれを受け入れていたら、身体を起こしたレイフォードが被さってきて端正な顔が近付いてきた。
 その意味を知っているルカが目を閉じると互いの唇が重なる。
 口同士のキスは何度かしているが、全然慣れないし何となく照れ臭くて恥ずかしい。
 数秒触れ合ったあとに離れ、完全に身体を起こしたレイフォードをじっと見ていたら不意に何かに反応し苦笑した。

「ルカ、精霊が怒っている」
「え?」
「大方アザ持ちに対してだろうが⋯⋯精霊に何か言ったのか?」

 起き上がりレイフォードが見ている辺りに視線を向けながらその問い掛けに頷く。
 メアリーの時にも思ったが、精霊は本当に容赦がなくて、ルカの為ならと躊躇いなく力を振るうからいつか大変な事が起きそうで心配になり、見える人がいる時に直談判したのだ。

「俺の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、あんまり人を傷付けるような事はしないで欲しいって。どうしても助けて欲しい時はお願いするから、出来るだけ見守っててって」
「納得したのか」
「ソフィアが言うには、不満そうだったけど俺の言葉だから受け入れてくれたんだって」
「そうか。だから怒っているだけなんだな」

 怒っているのか、とルカは苦笑し視線を戻してベッドから降りると、両開きの窓を押し開けて大きく伸びをする。
 そういえば、起きたらすぐに聞こえてくるはずのノックがしないが、どれくらい早い時間に目が覚めたんだろうか。そう思いながら振り返ったらレイフォードが目の前にいて、声もなく驚いてると抱き締められた。

「やはり、ルカと一緒だと良く眠れるな」
「寝れないのって問題あると思うぞ」
「まぁ、長年こうだから慣れてはいるが⋯」
「慣れるもんじゃないって。別に一緒に寝てもいいんだけどなぁ」

 こういう関係になったからこそ言える事だが、朝起きて一番最初にレイフォードの顔を見られるのは意外にも嬉しい為そう言えば、レイフォードは吐息だけで笑ったあとルカを抱き上げこめかみに鼻筋を寄せてきた。

「今は寝るだけでは済まなくなりそうだが⋯」
「?」
「⋯⋯何でもない」

 寝る以外に何があるのかと首を傾げたら、レイフォードは困ったように笑って話を終わらせルカを抱いたままベッドへと腰掛ける。手を取られ指先に口付ける様子を見ていると、真剣な顔に変わったレイフォードが「すまない」と謝ってきた。

「え?」
「私がいない間にアザを持つ者が現れて不安だったろう? 傍にいてやれなくてすまなかった」
「何でレイは、悪くない時も謝るんだよ」
「私がいれば防げた事だからだ」

 ルカとしてはただタイミングが悪かっただけに過ぎなくて、確かにいろいろ言われて不安だったが理不尽な事には引くつもりはなかった。
 現にこの部屋の事はハッキリ拒否したし。
 ルカにとっての一番の悩み事はルナリエが竜妃になる件だけだ。リックスは本物かどうか分からないと言っていたが、あの様子だと彫って入れるような事はしないだろうから確率としては高いのではないかと思う。
 ルカは両手でレイフォードの手を取るとぎゅっと握って頬に寄せた。

「あの人のアザが本物だったら、レイはあの人を竜妃にするんだよな?」
「しない。アザがあろうとなかろうと、私が愛しく思うのはルカだけだ」
「でも、アザ持ちを選べばこの国はもっと平和になるんだろ?」
「平和くらい、私が自分の力で保ってみせる。それに、アザ持ちを選ばない後悔より、ルカを選ばない後悔の方が私には大きいからな」
「レイ⋯」
「ルカのいない人生など考えられない」

 この世界に於いて絶対的な存在であるレイフォードが言うと、本当に彼の力だけで成し遂げてしまいそうだから恐ろしい。
 指先で頬を擽りながら、まるで安心させるように優しく微笑んだレイフォードに頭を抱き寄せられたルカは、それでもまだ胸をチクチクと刺す不安を消すように抱き着いた。

「すぐに調べさせる」

 例え本物でも、本物でなくても、レイフォードは変わらず傍にいてくれる。その言葉を信じていればいいだけだと心に決めたルカは、時間になってソフィアが訪れるまで彼の胸元に顔を埋めていた。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

処理中です...