竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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その言葉だけで

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 ルカは今、目の前の出来事にとても混乱していた。

 朝いつものように意識が浮上したルカは、包み込むような暖かさと腰元に感じる重みを不思議に思いつつ目を覚ましたのだが、眼前に何かの布が見え心底驚いた。
 寝起きの頭ではなかなか理解する事は出来なかったが、それでもそれが誰かの胸元である事は分かり恐る恐る視線を上げた先に見えた顔に今度はポカンとしてしまう。

(⋯⋯え? 何でレイが?)

 確かに今日が帰って来る日だというのは知っていた。だがそれは夕方くらいだと思っていたし、早くてもお昼頃かなと考えていただけに今の状況が良く分からない。
 まさか夢を見ているのかと軽く自分の頬を抓ってみたら痛かった。

(夢じゃない⋯って事は、ここで寝てるのは本物のレイだ)

 そういえば、昨日夢現にレイフォードの姿を見た気がするが、まさかあそこから現実だったのかと目を瞬く。
 じわじわと現状が理解出来て嬉しくなったルカは、今だ自分を抱くようにして眠っているレイフォードの胸元へと頬を擦り寄せた。どうしてルカのベッドにいるのか、いつ戻って来たのか、聞きたい事も言いたい事もたくさんあるが、そんな事どうでも良くなるくらい嬉しい。

「⋯ん⋯」

 小さな声がしてレイフォードが僅かに身動ぎルカの身体を抱き寄せる。片手だけ背中に回したら少しして名前を呼ばれた。
 見上げると優しく微笑む恋人がいて思わずドキッとする。

「おはよ、レイ。あと、おかえり」
「おはよう。ただいま」

 寝起き特有の気怠げな声が返してくれて、額や目蓋に何度も口付けられる。ドキドキしながらそれを受け入れていたら、身体を起こしたレイフォードが被さってきて端正な顔が近付いてきた。
 その意味を知っているルカが目を閉じると互いの唇が重なる。
 口同士のキスは何度かしているが、全然慣れないし何となく照れ臭くて恥ずかしい。
 数秒触れ合ったあとに離れ、完全に身体を起こしたレイフォードをじっと見ていたら不意に何かに反応し苦笑した。

「ルカ、精霊が怒っている」
「え?」
「大方アザ持ちに対してだろうが⋯⋯精霊に何か言ったのか?」

 起き上がりレイフォードが見ている辺りに視線を向けながらその問い掛けに頷く。
 メアリーの時にも思ったが、精霊は本当に容赦がなくて、ルカの為ならと躊躇いなく力を振るうからいつか大変な事が起きそうで心配になり、見える人がいる時に直談判したのだ。

「俺の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、あんまり人を傷付けるような事はしないで欲しいって。どうしても助けて欲しい時はお願いするから、出来るだけ見守っててって」
「納得したのか」
「ソフィアが言うには、不満そうだったけど俺の言葉だから受け入れてくれたんだって」
「そうか。だから怒っているだけなんだな」

 怒っているのか、とルカは苦笑し視線を戻してベッドから降りると、両開きの窓を押し開けて大きく伸びをする。
 そういえば、起きたらすぐに聞こえてくるはずのノックがしないが、どれくらい早い時間に目が覚めたんだろうか。そう思いながら振り返ったらレイフォードが目の前にいて、声もなく驚いてると抱き締められた。

「やはり、ルカと一緒だと良く眠れるな」
「寝れないのって問題あると思うぞ」
「まぁ、長年こうだから慣れてはいるが⋯」
「慣れるもんじゃないって。別に一緒に寝てもいいんだけどなぁ」

 こういう関係になったからこそ言える事だが、朝起きて一番最初にレイフォードの顔を見られるのは意外にも嬉しい為そう言えば、レイフォードは吐息だけで笑ったあとルカを抱き上げこめかみに鼻筋を寄せてきた。

「今は寝るだけでは済まなくなりそうだが⋯」
「?」
「⋯⋯何でもない」

 寝る以外に何があるのかと首を傾げたら、レイフォードは困ったように笑って話を終わらせルカを抱いたままベッドへと腰掛ける。手を取られ指先に口付ける様子を見ていると、真剣な顔に変わったレイフォードが「すまない」と謝ってきた。

「え?」
「私がいない間にアザを持つ者が現れて不安だったろう? 傍にいてやれなくてすまなかった」
「何でレイは、悪くない時も謝るんだよ」
「私がいれば防げた事だからだ」

 ルカとしてはただタイミングが悪かっただけに過ぎなくて、確かにいろいろ言われて不安だったが理不尽な事には引くつもりはなかった。
 現にこの部屋の事はハッキリ拒否したし。
 ルカにとっての一番の悩み事はルナリエが竜妃になる件だけだ。リックスは本物かどうか分からないと言っていたが、あの様子だと彫って入れるような事はしないだろうから確率としては高いのではないかと思う。
 ルカは両手でレイフォードの手を取るとぎゅっと握って頬に寄せた。

「あの人のアザが本物だったら、レイはあの人を竜妃にするんだよな?」
「しない。アザがあろうとなかろうと、私が愛しく思うのはルカだけだ」
「でも、アザ持ちを選べばこの国はもっと平和になるんだろ?」
「平和くらい、私が自分の力で保ってみせる。それに、アザ持ちを選ばない後悔より、ルカを選ばない後悔の方が私には大きいからな」
「レイ⋯」
「ルカのいない人生など考えられない」

 この世界に於いて絶対的な存在であるレイフォードが言うと、本当に彼の力だけで成し遂げてしまいそうだから恐ろしい。
 指先で頬を擽りながら、まるで安心させるように優しく微笑んだレイフォードに頭を抱き寄せられたルカは、それでもまだ胸をチクチクと刺す不安を消すように抱き着いた。

「すぐに調べさせる」

 例え本物でも、本物でなくても、レイフォードは変わらず傍にいてくれる。その言葉を信じていればいいだけだと心に決めたルカは、時間になってソフィアが訪れるまで彼の胸元に顔を埋めていた。
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