竜王陛下の愛し子

ミヅハ

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想いを言葉にして

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 図書館にいるセノールは、膨大な本の管理を任されているだけあってとても物知りだ。最近のルカは分からない事は彼に聞くようにしていたのだが、レイフォードと恋仲になってからはそれ関連の質問が増え、呆れてか答えてくれない事もある。
 だが、教えて貰わないと糸口さえ見付けられないルカは諦めずに聞くものだから、セノールも面倒ではあるが答えるようにしていた。

(辺境でジジババに囲まれて暮らしてると、こんな無知に育つのか? 勉強はともかく、知らない事多すぎだろ)

 祖母も村人も基本的には村から出る事はなかった為、彼女たち自身も知らない事は多々ある。それで暮らしてはいけていたんだから、学ぶ必要がないと思っていても仕方がなかった。



「なぁ、セノール。俺っておかしいのかな」
「何が?」

 三日振りに現れたルカは、物語の本を読み終わるとパタンと閉じるなりそんな事を言い始めた。
 またかと思いつつ問い掛け高い天井を見上げて小さく息を吐く。

「レイと一緒にいると、手とかほっぺたとかすっごく触りたくなる。あと、逆にレイに触られると、触られたところが熱くなってふわふわするんだけど⋯これって病気?」
「⋯⋯⋯」

 王がルカに対してかなり熱を上げているというのはこの城にいる者なら誰もが知っているが、ルカはほんの少し前に自覚をしたばかりな上に色恋とは無縁で生きてきた為、言うなれば恋愛初心者を通り越して生まれたばかりの赤ちゃんだ。
 家族には持たない感情を持て余しては、こうしてセノールへと聞いてくる。
 どうしたものかと考え込んだセノールは、状態を見るために手にしていた本を戻して腕を組んだ。

「至って普通の事だ。おかしくないし病気でもねぇ」
「普通⋯」
「だから、触りたけりゃ触りゃいい。陛下なら喜ぶだろ」

 自分の手を見下ろすルカに端的に答えたセノールは、人差し指を立てて本棚に向かって振り一冊の本を手元に下ろすと、それをルカへと差し出した。

「お前はコレを読め」
「? ⋯⋯〝恋愛指南書〟?」
「必要なら夜伽の手解きの本も出してやる」
「よとぎ?」
「⋯⋯まぁそれはおいおいだな」

 赤ちゃんという事は性的な事など一切知らないという事で、セノールはしっかり大人なレイフォードに同情しつつ純真無垢な目でこっちを見てくるルカを手で払った。

「それ貸し出ししてやるから持って帰れ。いいか、お前は陛下に対して遠慮しなくていい。困らせるとか申し訳ないとか、ンなもん考えんな。むしろ陛下みたいなタイプはお前が甘えれば甘えるほど喜ぶ」
「甘えるって何」
「それもその本に書いてある。俺は忙しいから、今日は閉館。じゃあな」
「う、うん。ありがとう」

 追い出され感は否めないが、忙しいなら仕方ないとルカは借りた本を胸に抱きリックスと共に部屋へと戻ると、ソファに腰を下ろしてさっそく読み始める。
 途中でソフィアが入ってきて、真剣な顔で本を読むルカを優しい目で見ていたが、「押してダメなら引いてみろってどういう意味」と聞くと「ルカ様は押すだけで大丈夫ですよ」と返されて混乱してしまった。
 押したところで、レイフォードはぴくりともしなさそうだが。



 レイフォードが忙しくしている間、何度も恋愛指南書を読んだルカはある程度は理解出来るようになっていた。

(特別な好き同士は恋人って言うんだ⋯ホントに家族とは違うんだな)

 家族にはドキドキしないし、こんなにも自分から触れたいとも思わない。大好きだけど、そのベクトルが違う事だけはちゃんと分かったルカはレイフォードに言いたくて仕方がなかった。
 言葉にするのは恥ずかしいけど、想いを伝える事が大事だと本にも書いてあったから。

 そんな彼の公務が落ち着いたのは雪もあまり降らなくなった頃で、入浴を済ませたルカがベッドの上で仕掛け絵本を見ていたら二枚扉のこちら側がノックされ、ラフな格好をしたレイフォードが入ってきた。

「あれ、レイ。仕事終わったのか?」
「どうにか一段落ついた。⋯一緒にいられなくてすまなかったな」
「そんなの気にしたくていいって。お疲れ様」
「ありがとう」

 食事が別でも会話が少なくても、僅かでも時間が出来ればレイフォードは会いに来てくれた。それがどれだけ愛情に溢れた事なのかもあの本のおかげで知る事が出来て、ルカの心はずっとポカポカだ。
 ベッドの端に腰掛けたレイフォードに髪を撫でられ、もっと傍に行きたくなったルカは絵本を閉じると自分から彼の膝に乗り上げた。

「⋯ルカ?」

 ピクリと反応したレイフォードが不思議そうに呼ぶが、構わず肩に頭を寄り掛からせたらふっと笑って髪に口付けてくれる。

「レイ」
「ん?」
「俺、レイが大好きだよ」

 もちろん家族愛ではなく恋愛感情でだ。
 レイフォードも同じように返してくれると思っていたのだが、しばらく待っても彼からは何の反応もなく、怪訝に思ったルカは見上げて驚いた。
 そこには顔を赤くしたレイフォードがいて、ルカと目が合うなりパッと逸らして片手で隠す。初めて見る姿に何故か胸がいつもとは違う反応をしルカは堪らず抱き着いた。

(うわー⋯レイでも赤くなる事あるんだ…)
(⋯不意打ち過ぎる)

 言った本人は気付いていないが、ルカがレイフォードへはっきり〝好き〟と告げたのはこれが初めてだ。
 この年になって、愛する人のたった一言にここまで赤面するとは思わなかった。

(本当にルカは、私に色んな表情をさせてくれる)

 そんな自分が少しも嫌ではないのだから、ルカが齎してくれるものは何物にも代えがたいのだと思う。
 レイフォードは胸元に顔を埋めるルカを抱き締めると、小振りな耳へと唇を寄せ甘く囁いた。

「私も、君を愛しているよ。ルカ」
(⋯⋯愛してる?)

 聞き慣れない言葉に頭の中がハテナで埋まる。それは好きとどう違うのか、初めて聞くルカには良く分からない。
 どうやらまだまだ勉強しなくてはいけないみたいだ。
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