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「ルカ様!」
レイフォードに抱かれたまま城へと戻ったルカを待っていたのは、ボロボロと涙を流すソフィアと今にも泣きそうなリックス、それから深々と頭を下げている近衛隊の面々だった。
呆気に取られているとソフィアが駆け寄って来て、降ろされた瞬間抱き締められる。
「お帰りなさいませ⋯!」
「ソフィア⋯」
その言葉に全ての気持ちが篭っていてルカも泣きそうになった。いつもどんな時でも優しくて暖かいソフィアは、実の親を知らないルカにとって姉とも母とも言える存在だ。
涙ぐむソフィアの背中に腕を回したルカは宥めるように撫でる。
「心配掛けてごめんな? それから髪も…」
「ルカ様がご無事だったならそれでいいんです⋯! ⋯それに、髪は伸びますもの⋯」
「ソフィアの為に頑張って伸ばす」
「⋯ありがとうございます。髪はあとで綺麗に整えましょうね」
「うん」
ナイフで無理やり切ったからガタガタになってて、腕を離したソフィアが長さの違う毛先に触れてそう言って微笑む。
それに頷いたルカはそのすぐあとに「あ」と声を上げてソフィアの耳元に口を近付けると、周りに聞こえないように内緒話を始めた。
「あのさ、ソフィアの言葉当たった」
「?」
「レイが俺の特別になるってやつ」
「では⋯⋯」
「でもまだ本人には言ってないから、内緒な」
「ふふ、分かりました」
人差し指を口に当てて真剣な顔で言うと、ソフィアはクスクスと笑いながらも了承してくれたから安堵する。それから今度は俯いているリックスへと視線を向け駆け寄れば声をかける前に傅かれ目を瞬いた。
おまけに近衛隊の面々まで同じように膝を折るものだから、ルカは困惑してしまう。
「え!? ちょ、あの⋯」
「申し訳御座いませんでした! 私がお傍を離れたばかりに、ルカ様を危険な目に遭わせてしまいました⋯っ」
「いえ。陛下より任されておきながらあのような事態になってしまったのは、全て私の責任で御座います」
「や、待って、あれは俺が⋯」
「護衛としてあるまじき失態です」
「あの時ルカ様の一番近くにいた私がもっと警戒するべきでした」
「いや、だから⋯」
あの時リックスもアルマもちゃんとルカとセノールを護衛してくれていた。リックスはルカの為に温かい飲み物を買いに行ってくれただけだし、勝手にアルマから離れたのはルカだ。
だが双方とも譲らない意見にどう言えばいいか分からずオロオロしていると、ポンっと頭に手が乗せられて頭上から声が降ってきた。
「お前たち落ち着け。この件に関しては後ほどきちんと場を設けるから、そこで詳しく聞かせてくれればいい。今はルカを休ませたいからな」
「⋯畏まりました」
「はっ」
「リックス、アルマ。心配掛けてごめんな。みんなも、助けに来てくれてありがとう」
「勿体ないお言葉に御座います」
「ルカ様がご無事で何よりです」
頭を下げ続ける二人に苦笑しつつもとりあえずは話も一段落ついて落ち着いたのだが、途端に身体から力が抜けてよろめいたらレイフォードがすぐに支えて抱き上げてくれた。
「疲れただろう。今はゆっくり休むといい」
「ありがとう」
「起きたら食事にしよう」
「ん」
優しい声と髪を撫でる手の心地良さに次第に目蓋が重くなる。やはりレイフォードの腕の中はどこよりも安心出来るから、このまま身を預けていれば幸せな夢が見られそうだ。
だが、どうしてもその前に言いたい事があるルカは凭れ掛かっているレイフォードの肩へと頬を寄せた。
「レイ⋯」
「ん?」
「俺もレイの事⋯独り占めしたい…」
「⋯!」
ほぼ寝落ち掛けている状態で口にした事だからきちんと伝わっているか不安なルカだったが、そのまま沈むように寝入ってしまいレイフォードの反応は見れないままだった。
だが、その場にいた全員は見ていた。これまでにないほど驚愕している王の姿を。
不意打ちを食らったレイフォードは苦笑して息を吐くと、眠るルカの髪に鼻先を埋め小さな身体を抱き締めた。
翌日。リックスを連れて図書館へとやって来たルカは、泣きそうな顔で出迎えてくれたセノールに肩を掴まれて揺さぶられていた。
「ルカ! お前はバカだ! 大バカ野郎だ!」
「ご、ごめ⋯⋯ぐぇ、待っ、酔う…っ、酔うから⋯!」
「どれだけ心配したと⋯!」
「わわ、分かってる⋯っ⋯俺が悪い、ごめん!」
あの場にいたセノールは見ているだけしか出来なくて、たった一人の友人すら救う力がないと戻って来てからも嘆いていた。
だからこそ、五体満足で帰って来てくれた事に心の底からホッとしてる。
「⋯クソ、俺に攻撃出来る魔法でもあれば、あの場でお前の足を潰してやったのに⋯っ」
「怖い事言うな」
セノールのとんでもない発言にルカは本当に持ってなくて良かったと胸を撫で下ろす。物理的に歩けなくされるのはたまったものじゃない。
一頻りブツブツ呟いてスッキリしたのか、いつもの顔に戻ったセノールはすっかり短くなった髪の襟足に触れ眉尻を下げた。
「にしても、ずいぶん思い切ったな」
「別に伸ばしたくて伸ばしてた訳じゃないし。首がスースーしてるけど、頭軽いし楽だからこれで良かったかも」
「もう伸ばさないのか?」
「ううん。ソフィアの為にも伸ばそうかなって」
「ふーん。ま、頑張れよ」
「おう」
にっと笑って頷いたルカに表情を緩めたセノールは、本屋でルカの為にと見繕っていたとある本を手に取ると、照れ臭さから部屋に戻ってから見るようにと告げてから渡す。
初めての友人から贈られた初めてのプレゼントに、ルカが大喜びしたのは言うまでもない。
その日の夜、ベッドの上でセノールから貰った仕掛け絵本を読んでいたルカは、二枚扉からではなく廊下側の扉をノックして入ってきたレイフォードに目を瞬いた。
「ルカ、少し聞きたい事があるんだが」
「何?」
いつもならもう寝る準備を始めているはずなのに、まだ公務時の服を着ている事に眉を顰めながらも絵本を閉じて座る。
「あの時、何か薬を使われたり魔法を使われたりはしなかったか?」
「うん、特になかったと思う」
「そうか、それならいい。⋯その本は?」
「セノールがプレゼントしてくれた。ほら、広げると色んな物が飛び出して凄く面白い」
「ルカはそういう物が好きなのか?」
気を失っていた間の事は不明だが、特に身体に違和感やおかしなところはないから大丈夫だろうと頷くと、安心したのかレイフォードは頭を撫で先ほどまでルカが見ていた本を指差してきた。
膝に乗せ適当にページを開いて見せれば、ベッド端に腰を下ろしたレイフォードに問い掛けられ曖昧に首を傾げる。
「好き⋯というか、楽しい? 俺にとって、この国で目にする物ってほとんどが初めましてだから好き嫌いは良く分かんないし。でも、この国は好きだよ。たくさん優しい人たちがいるし、綺麗な景色も美味しい物もたくさんある。何よりここにはレイがいるしな」
パラパラと捲りながら答えると、レイフォードの手がそれを止めるように重なって握り込まれる。不思議に思いながら顔を上げたら、意外にも近い場所にいてビクッとした。
「ルカ、昨日私に言ってくれた事を覚えているか?」
「昨日? 何か言ったっけ?」
「⋯私の事を独り占めしたい、と」
「⋯⋯あ」
キョトンとしていた顔がハッとしたように息を吸い、それからじわじわと赤くなっていく。
初めて見るルカのそんな姿に驚きつつも自分が思っていた意味で合っていたかと嬉しくなったレイフォードは、熱を持つ頬に触れ微笑んだ。
「私は、同じ意味でルカの特別になれたという事か?」
「う、うん⋯ってか近い」
「これくらいの距離は今ままでもあっただろう?」
「そ、そうだけど⋯」
特別だと気付いてからのレイフォードはキラキラして見えて心臓にも良くない。おまけに、こんなに胸がドキドキする事も初めてだからどうすればいいか分からなかった。
若干テンパっている様子のルカに目を細めたレイフォードは、宥めるように親指で頬を撫で額をコツンと当てる。
「ルカ」
「⋯⋯」
「私の愛しい竜妃」
殊更に優しい声が名前を呼び、レイフォード自身はルカに対して一度も口にしなかった言葉を紡いで握った手の甲に口付けてきた。
視線だけで見上げると気付いたレイフォードがふっと笑ったあと、ルカの手を自分の頬に押し当てる。自分とも祖母たちとも違う肌の感触が珍しくてペタペタと触っていたら、扉がノックされてバルドーの声がした。
「陛下、ご報告したい事が御座います」
「分かった。すぐに行くから会議室で待っていろ」
「はっ」
扉越しに会話を終わらせバルドーの足音が遠ざかる。それに聞き耳を立てていたレイフォードは、じっと見上げてくるルカの前髪を掻き上げるとその額に軽くキスをしてから手を離して立ち上がった。
「私は戻るから、ルカはもう休め」
「うん。おやすみ、レイ」
「おやすみ、ルカ」
頭が撫でられマントを翻してレイフォードが部屋を出て行く。口付けられた額を押さえながら見送りしばらくは閉まりきった扉を見ていたルカだったが、力が抜けたように横になると仕掛け絵本を引き寄せて抱き締めた。
(俺、寂しいって思ってる)
自覚した途端、今までにないくらい我儘な感情が溢れてきている。口に出すつもりはないけど、本当はまだまだ話していたかったし一緒にいたかった。
ソフィアの言う通り、本当にその人だけに思う気持ちなんだと驚きつつもそれがレイフォードに対してなのは素直に嬉しい。
ただ、一つだけ気掛かりな事はある。
(もしこの先、蓮の花のアザを持つ人が現れたらどうなるんだろ)
この国を安寧に導く、竜族の誰もが求めている存在。
レイフォードは王だから、もし見付かった場合はきっとその人を選ばなければいけないだろう。
アザ持ちは貴重だからこそ大事にしなければいけない。
(⋯⋯不思議な形をしたアザなら、俺もあるんだけどな⋯)
起き上がり柔らかなズボンの裾を付け根まで捲ったルカは、内腿の上の方にあるアザを見下ろして溜め息をついた。
拾われた時には既にあったアザは、見ようによっては花のような形にも見えるが仮に花だったとしてもルカには何の花かさえ分からない。レイフォードに貰った本にも載っていなかったからもしかしたら花ですらないのかもしれないが。
拾われ時は湯浴みも着替えも一人で出来る年齢だったから、このアザは祖母さえも知らないものだ。
(まぁ、アザなんて誰かしら持ってるか)
裾を戻して再び寝転んだルカは、もう寝てしまおうと仕掛け絵本を枕元に置き厚みのある寝具を鼻の下まで被ると目を閉じた。
いろいろ考えるのは明日でも大丈夫だろう。
レイフォードに抱かれたまま城へと戻ったルカを待っていたのは、ボロボロと涙を流すソフィアと今にも泣きそうなリックス、それから深々と頭を下げている近衛隊の面々だった。
呆気に取られているとソフィアが駆け寄って来て、降ろされた瞬間抱き締められる。
「お帰りなさいませ⋯!」
「ソフィア⋯」
その言葉に全ての気持ちが篭っていてルカも泣きそうになった。いつもどんな時でも優しくて暖かいソフィアは、実の親を知らないルカにとって姉とも母とも言える存在だ。
涙ぐむソフィアの背中に腕を回したルカは宥めるように撫でる。
「心配掛けてごめんな? それから髪も…」
「ルカ様がご無事だったならそれでいいんです⋯! ⋯それに、髪は伸びますもの⋯」
「ソフィアの為に頑張って伸ばす」
「⋯ありがとうございます。髪はあとで綺麗に整えましょうね」
「うん」
ナイフで無理やり切ったからガタガタになってて、腕を離したソフィアが長さの違う毛先に触れてそう言って微笑む。
それに頷いたルカはそのすぐあとに「あ」と声を上げてソフィアの耳元に口を近付けると、周りに聞こえないように内緒話を始めた。
「あのさ、ソフィアの言葉当たった」
「?」
「レイが俺の特別になるってやつ」
「では⋯⋯」
「でもまだ本人には言ってないから、内緒な」
「ふふ、分かりました」
人差し指を口に当てて真剣な顔で言うと、ソフィアはクスクスと笑いながらも了承してくれたから安堵する。それから今度は俯いているリックスへと視線を向け駆け寄れば声をかける前に傅かれ目を瞬いた。
おまけに近衛隊の面々まで同じように膝を折るものだから、ルカは困惑してしまう。
「え!? ちょ、あの⋯」
「申し訳御座いませんでした! 私がお傍を離れたばかりに、ルカ様を危険な目に遭わせてしまいました⋯っ」
「いえ。陛下より任されておきながらあのような事態になってしまったのは、全て私の責任で御座います」
「や、待って、あれは俺が⋯」
「護衛としてあるまじき失態です」
「あの時ルカ様の一番近くにいた私がもっと警戒するべきでした」
「いや、だから⋯」
あの時リックスもアルマもちゃんとルカとセノールを護衛してくれていた。リックスはルカの為に温かい飲み物を買いに行ってくれただけだし、勝手にアルマから離れたのはルカだ。
だが双方とも譲らない意見にどう言えばいいか分からずオロオロしていると、ポンっと頭に手が乗せられて頭上から声が降ってきた。
「お前たち落ち着け。この件に関しては後ほどきちんと場を設けるから、そこで詳しく聞かせてくれればいい。今はルカを休ませたいからな」
「⋯畏まりました」
「はっ」
「リックス、アルマ。心配掛けてごめんな。みんなも、助けに来てくれてありがとう」
「勿体ないお言葉に御座います」
「ルカ様がご無事で何よりです」
頭を下げ続ける二人に苦笑しつつもとりあえずは話も一段落ついて落ち着いたのだが、途端に身体から力が抜けてよろめいたらレイフォードがすぐに支えて抱き上げてくれた。
「疲れただろう。今はゆっくり休むといい」
「ありがとう」
「起きたら食事にしよう」
「ん」
優しい声と髪を撫でる手の心地良さに次第に目蓋が重くなる。やはりレイフォードの腕の中はどこよりも安心出来るから、このまま身を預けていれば幸せな夢が見られそうだ。
だが、どうしてもその前に言いたい事があるルカは凭れ掛かっているレイフォードの肩へと頬を寄せた。
「レイ⋯」
「ん?」
「俺もレイの事⋯独り占めしたい…」
「⋯!」
ほぼ寝落ち掛けている状態で口にした事だからきちんと伝わっているか不安なルカだったが、そのまま沈むように寝入ってしまいレイフォードの反応は見れないままだった。
だが、その場にいた全員は見ていた。これまでにないほど驚愕している王の姿を。
不意打ちを食らったレイフォードは苦笑して息を吐くと、眠るルカの髪に鼻先を埋め小さな身体を抱き締めた。
翌日。リックスを連れて図書館へとやって来たルカは、泣きそうな顔で出迎えてくれたセノールに肩を掴まれて揺さぶられていた。
「ルカ! お前はバカだ! 大バカ野郎だ!」
「ご、ごめ⋯⋯ぐぇ、待っ、酔う…っ、酔うから⋯!」
「どれだけ心配したと⋯!」
「わわ、分かってる⋯っ⋯俺が悪い、ごめん!」
あの場にいたセノールは見ているだけしか出来なくて、たった一人の友人すら救う力がないと戻って来てからも嘆いていた。
だからこそ、五体満足で帰って来てくれた事に心の底からホッとしてる。
「⋯クソ、俺に攻撃出来る魔法でもあれば、あの場でお前の足を潰してやったのに⋯っ」
「怖い事言うな」
セノールのとんでもない発言にルカは本当に持ってなくて良かったと胸を撫で下ろす。物理的に歩けなくされるのはたまったものじゃない。
一頻りブツブツ呟いてスッキリしたのか、いつもの顔に戻ったセノールはすっかり短くなった髪の襟足に触れ眉尻を下げた。
「にしても、ずいぶん思い切ったな」
「別に伸ばしたくて伸ばしてた訳じゃないし。首がスースーしてるけど、頭軽いし楽だからこれで良かったかも」
「もう伸ばさないのか?」
「ううん。ソフィアの為にも伸ばそうかなって」
「ふーん。ま、頑張れよ」
「おう」
にっと笑って頷いたルカに表情を緩めたセノールは、本屋でルカの為にと見繕っていたとある本を手に取ると、照れ臭さから部屋に戻ってから見るようにと告げてから渡す。
初めての友人から贈られた初めてのプレゼントに、ルカが大喜びしたのは言うまでもない。
その日の夜、ベッドの上でセノールから貰った仕掛け絵本を読んでいたルカは、二枚扉からではなく廊下側の扉をノックして入ってきたレイフォードに目を瞬いた。
「ルカ、少し聞きたい事があるんだが」
「何?」
いつもならもう寝る準備を始めているはずなのに、まだ公務時の服を着ている事に眉を顰めながらも絵本を閉じて座る。
「あの時、何か薬を使われたり魔法を使われたりはしなかったか?」
「うん、特になかったと思う」
「そうか、それならいい。⋯その本は?」
「セノールがプレゼントしてくれた。ほら、広げると色んな物が飛び出して凄く面白い」
「ルカはそういう物が好きなのか?」
気を失っていた間の事は不明だが、特に身体に違和感やおかしなところはないから大丈夫だろうと頷くと、安心したのかレイフォードは頭を撫で先ほどまでルカが見ていた本を指差してきた。
膝に乗せ適当にページを開いて見せれば、ベッド端に腰を下ろしたレイフォードに問い掛けられ曖昧に首を傾げる。
「好き⋯というか、楽しい? 俺にとって、この国で目にする物ってほとんどが初めましてだから好き嫌いは良く分かんないし。でも、この国は好きだよ。たくさん優しい人たちがいるし、綺麗な景色も美味しい物もたくさんある。何よりここにはレイがいるしな」
パラパラと捲りながら答えると、レイフォードの手がそれを止めるように重なって握り込まれる。不思議に思いながら顔を上げたら、意外にも近い場所にいてビクッとした。
「ルカ、昨日私に言ってくれた事を覚えているか?」
「昨日? 何か言ったっけ?」
「⋯私の事を独り占めしたい、と」
「⋯⋯あ」
キョトンとしていた顔がハッとしたように息を吸い、それからじわじわと赤くなっていく。
初めて見るルカのそんな姿に驚きつつも自分が思っていた意味で合っていたかと嬉しくなったレイフォードは、熱を持つ頬に触れ微笑んだ。
「私は、同じ意味でルカの特別になれたという事か?」
「う、うん⋯ってか近い」
「これくらいの距離は今ままでもあっただろう?」
「そ、そうだけど⋯」
特別だと気付いてからのレイフォードはキラキラして見えて心臓にも良くない。おまけに、こんなに胸がドキドキする事も初めてだからどうすればいいか分からなかった。
若干テンパっている様子のルカに目を細めたレイフォードは、宥めるように親指で頬を撫で額をコツンと当てる。
「ルカ」
「⋯⋯」
「私の愛しい竜妃」
殊更に優しい声が名前を呼び、レイフォード自身はルカに対して一度も口にしなかった言葉を紡いで握った手の甲に口付けてきた。
視線だけで見上げると気付いたレイフォードがふっと笑ったあと、ルカの手を自分の頬に押し当てる。自分とも祖母たちとも違う肌の感触が珍しくてペタペタと触っていたら、扉がノックされてバルドーの声がした。
「陛下、ご報告したい事が御座います」
「分かった。すぐに行くから会議室で待っていろ」
「はっ」
扉越しに会話を終わらせバルドーの足音が遠ざかる。それに聞き耳を立てていたレイフォードは、じっと見上げてくるルカの前髪を掻き上げるとその額に軽くキスをしてから手を離して立ち上がった。
「私は戻るから、ルカはもう休め」
「うん。おやすみ、レイ」
「おやすみ、ルカ」
頭が撫でられマントを翻してレイフォードが部屋を出て行く。口付けられた額を押さえながら見送りしばらくは閉まりきった扉を見ていたルカだったが、力が抜けたように横になると仕掛け絵本を引き寄せて抱き締めた。
(俺、寂しいって思ってる)
自覚した途端、今までにないくらい我儘な感情が溢れてきている。口に出すつもりはないけど、本当はまだまだ話していたかったし一緒にいたかった。
ソフィアの言う通り、本当にその人だけに思う気持ちなんだと驚きつつもそれがレイフォードに対してなのは素直に嬉しい。
ただ、一つだけ気掛かりな事はある。
(もしこの先、蓮の花のアザを持つ人が現れたらどうなるんだろ)
この国を安寧に導く、竜族の誰もが求めている存在。
レイフォードは王だから、もし見付かった場合はきっとその人を選ばなければいけないだろう。
アザ持ちは貴重だからこそ大事にしなければいけない。
(⋯⋯不思議な形をしたアザなら、俺もあるんだけどな⋯)
起き上がり柔らかなズボンの裾を付け根まで捲ったルカは、内腿の上の方にあるアザを見下ろして溜め息をついた。
拾われた時には既にあったアザは、見ようによっては花のような形にも見えるが仮に花だったとしてもルカには何の花かさえ分からない。レイフォードに貰った本にも載っていなかったからもしかしたら花ですらないのかもしれないが。
拾われ時は湯浴みも着替えも一人で出来る年齢だったから、このアザは祖母さえも知らないものだ。
(まぁ、アザなんて誰かしら持ってるか)
裾を戻して再び寝転んだルカは、もう寝てしまおうと仕掛け絵本を枕元に置き厚みのある寝具を鼻の下まで被ると目を閉じた。
いろいろ考えるのは明日でも大丈夫だろう。
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