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祭り(周防視点)
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隣町の正月祭りに来るのは実は二度目だったりする。一度目はダチに来たくもないのに連れて来られて、女に声かけられるわダチは勝手にいなくなるわでイライラしかしなかった。
でも今は恋人が隣にいるから全然イライラもしないし、むしろ出店に目を輝かせる湊を見てると楽しいまである。
「湊、欲しいのあったら言って」
「あの…俺、周防くんにして欲しいのがあるんだけど…」
「何?」
「あれ」
湊が指差す方を見ると、子供がはしゃぎながら鉄砲を構えている姿が見えて、小さなお菓子の景品から大きめの箱のお菓子、ちょっとしたおもちゃもそれなりの景品もあって繁盛していた。
でもなんであれ?
「射的?」
「銃構える周防くん、絶対カッコいいから写真撮りたいなって。ダメ?」
愛しの恋人に上目遣いで可愛くおねだりされてNOと言える男がいるだろうか。そんな奴がいたら見てぇし、まず俺には無理だ。
湊の頭を撫で射的屋に向かい料金を支払い弾代わりのコルクを五発分貰う。側面のレバーを引いてコルクを詰め、とりあえず軽そうなものに照準を合わせて構えトリガーを引いたけど、的が小さ過ぎたせいか横を掠めるだけで終わった。
チラリと湊に視線をやると、俺にスマホを向けつつほんのり染まった頬とキラキラした目で見ててめちゃくちゃ可愛い。
レバーを引いて二つ目のコルクを詰め、さっきよりも少し大きめの箱に狙いを定めて撃てば今度は綺麗に当たって景品が倒れた。
「お兄さんナイスー!」
「どうも」
射的屋の店主が倒れた景品を俺の前に置き親指を立てる。あと三発か。でもこれといって欲しいもんもねぇしな。
「湊、どれがいい?」
「え? えっと……じゃああれ」
湊が示したのは上の方にある某キャラクター達のミニ人形セットで、割と大きめな箱に入ってるけどそれなりに重いかもな。
でも湊が欲しいって言うならぜってぇ取ってやる。
またレバーを引いて弾を込め慎重に狙ってトリガーを引く。当たりはし
たけど真ん中よりだったから軽く揺れただけだった。
あと二発。上の方狙えば倒れるじゃないか? ここが全景品獲得出来るようになってたらだけど。
俺はさっきよりも気合いを入れてレバーに手を掛け勢い良く引いた。
結果として取る事は出来なかったんだけど、湊は満足そうでにこにことスマホを見てる。
「取れなくてごめんな」
「ううん。カッコいい周防くんが見れたし、こうして撮れたから凄く嬉しいよ」
スマホを持って可愛く笑う湊に言いようのない気持ちになる。
あのあともう一回挑戦してみたけど倒れなくて、腹が立って三回目のお金を払おうとしたら湊に止められた。意地でも取る気だったからそれこそ取れるまでって思ってたのに…湊の方が大人だったな。
「湊、唐揚げ食お」
「うん」
「すみません、中サイズ一つ」
「はーい、六百円でーす」
湊が財布を出すのを横目で見て、支払いされる前にと自分の財布から千円札を取り出し渡す。あって顔をしてたけど、気付いていないフリをして釣りと唐揚げを貰って店から離れ端へ寄った。
唐揚げに竹串を刺し湊の口元へと寄せる。
「次は俺が出すからね」
「はいはい。ほら、あーんは?」
「あーん」
了承の返事はするけど出させるつもりは毛頭ない。湊の気を逸らさせようとそう促せば素直に口を開けてくれて、俺でも一口は無理な大きさの唐揚げの端を齧らせる。
熱かったのか途端にビクッとして両手で口を押さえてたけど、どうにか咀嚼出来たようでふーっと息を吐いた。
「火傷するかと思った…」
「揚げたてだったんだな」
出店にしては珍しい。ちょうど売り切れたかなんかで新しく揚げた物がタイミング良く買えたんだろうな。唐揚げは冷ましつつ食べさせてやるか。
「あー、周防さんだー」
唐揚げを分け合いながら他の店を覗きつつ歩いていると、後ろから名前を呼ばれて振り向いた俺は思いっきり眉を顰めた。湊と話せるようになるまでツルんでた野郎共の一人で、何度か告られて迫られた事があったから距離置いてたんだよな。
湊より若干背が高いくらいで、まだ小柄な方だし細身だしたぶん顔は可愛い部類に入るんだろうから俺を諦めりゃすぐ彼氏出来んのに。
「こんなとこで会えるなんて嬉しい! やっぱり僕たち、運命の赤い糸で結ばれてるんだよ!」
「んな訳ねぇだろ。引っ付こうとすんな、鬱陶しい」
「えー、冷たーい。…でもそんなところも好きー……え?」
俺は唐揚げの容器を湊に持たせ、肩に回した腕で竹串を持ち食べたり食べさせたりしてたんだけど、そいつはようやく気付いたらしく湊を見て目が点になってた。
最後の一つを半分齧り、残りをポカンとしている湊にも食わせて空になった容器を簡易的に作られたゴミ箱に捨てる。
「あ、え…え? 誰?」
「俺の恋人」
「え? でも周防さん、好きな子がいるからって………まさか」
「そ、こいつの事」
見せ付けるように抱き寄せ頭頂部に口付ければ顔を上げた湊が小さくはにかむ。湊はどんな表情してても可愛いからいつまでも見ていられるな。
「ショックー…」
「俺は最初からお前も眼中にねぇっつってたはずだけど?」
「いやでも、迫り続ければワンチャンあるかなって…」
「ねぇっつの」
どこをどう切り取ったらそんな事思えるんだよ。拗らせてなきゃ悪い奴じゃねぇんだけど、ネジがズレてるっつーか外れてるっつーか…言葉選ばずに言えば頭おかしいんだろう。
「あ、じゃあ一回でいいからエッチしようよ。そうすればスパッと諦めるから」
「はぁ? 何言って…」
「だ、ダメ!」
「え?」
マジで思考回路どうなってんだ。
こんなとこで言う事じゃねぇし、お前には勃たねぇよって言おうとしたら湊がいきなり声を上げて俺にしがみついて来た。
それからそいつを見て何度も首を振る。
「ダメ、ダメです! 周防くんは俺の恋人だから、絶対ダメ!」
「湊」
「……」
必死の体で俺に抱き着く湊に呆気に取られていたそいつは、眉を顰めると俺を見上げて事もなげに言ってきた。
「周防さん、駄目じゃない。恋人を不安にさせちゃ」
「お前が不安にさせたんだよ。…ったく。湊、アイツの言う事は気にしなくていいから」
「でも…」
「湊以外に誘われて行くわけないだろ? な?」
「…うん…」
不安げに眉尻を下げる湊の頭を撫でて抱き締めると安心したのか身体から力が抜ける。
湊はまだ〝自分なんて〟って気持ちが完全になくなった訳じゃなくて、こうして不安になった時はどうしてもマイナス思考に陥ってしまう。白井の時もそうだったけど、ようやく持てた自信も萎れてくんだよな。
長い事そうだったんだから一年や二年で克服出来るもんじゃないし、そこは俺がフォローすればいいんだけど…外野が茶々入れんのだけは許せねぇ。
ただ、こうして声を上げてくれるようになったのはすげぇ嬉しい。自分の恋人だから絶対駄目って……クソ可愛すぎだろ。
「周防さんのそんな優しい顔、初めて見た…ふーん、そっかそっか」
「何だよ」
「勝ち目がない勝負はしたくないから僕は帰るねー。あ、でも気が変わったらいつでも連絡して来ていーよ」
「一生ねぇから」
「あははー、じゃーねー」
何だありゃ。久し振りに会ったけど、マジで意味分かんねぇわ、アイツ。
スキップしながら人の間を抜けて去っていく背中を見送りつつ首を傾げた俺は、同じように不思議そうな顔で見てる湊の髪を撫で先へ促す。
「アイツの事は忘れて食いたいもん食お」
「う、うん」
湊的にはもう少し拗れると思っていたのだろう。アイツがあっさり引いた事で戸惑っていたけど、何店か回ればいつも通りになって楽しそうに笑ってたからホッとした。
恋人繋ぎだったのが腕組みには変わったけど。
そのあとも俺が払い続けるから痺れを切らした湊が俺に何も言わずに買い物するって事もありつつ、二人で写真を撮ったりしながら祭りを満喫し帰宅したのはすっかり日も落ちた頃だった。
夕飯は出店で買ったもので済ませ、風呂も順番に入り、少しだけリビングでまったりしたあとそろそろ寝る事にして湊の部屋へと向かう。
「周防くんはどっちがいい?」
「湊が壁の方行きな」
「うん」
湊は寝相悪くないけど、万が一を考えたら落ちるよりぶつかる方がまだいい。
枕を並べて、いつもは抱いて寝ていると言っていたテディベアをテーブルに置いた湊は壁側に寝転ぶ。電気を消して隣に入ったら湊がふふっと笑った。
「?」
「俺のベッドに周防くんがいるなーって思ったら、嬉しくなっちゃった」
「そっか」
泊まり自体は初めてだし、昨日は布団だったしな。
湊の頭の下に腕を差し込み抱き寄せる。俺の家のベッドはセミダブルで、湊のはシングルだから多少は狭いけど、こうして身を寄せ合っていればそんなもんは気にならない。
もぞもぞ動いてやっと落ち着く場所を見付けたのか、湊は腕の付け根くらいのところに頭を乗せ片手を俺の背中に回してぎゅうっと密着してきた。
誕生日会の時に我慢出来ずにやっちまったからもう絶対しないって決めはしたけど、好きな子にこんなに引っ付かれたら俺も健全な男子高校生だからムラムラはしてくる訳で。
いや、でも出さない。親の居ぬ間にとか信用してくれてる桜さんと文人さんに申し訳ないからな。…いやもうアウトかもしんねぇけど。
「周防くん?」
悶々と考えてたら湊に呼ばれて、視線を向けると不思議そうな顔をしてて苦笑する。
湊に性的な意図はないし、そもそもまだそういう下心的なもんは芽生えてはいないだろうからこれも甘えの一種なのは間違いない。それなりにヤってはいるけどただくっついてる分には意識はしないんだよな。
そのうち湊から誘ってくれるようになったら……俺、絶対我慢出来ねぇ。
「何でもない。寝るぞ」
「うん。おやすみなさい、周防くん」
「おやすみ」
「………おやすみのキスは?」
「……」
その気にならない為に敢えてしなかったのに、湊があれ? っという顔をして聞いてくる。そりゃ寝る前も寝起きでもしてたけど、まさか湊からねだられるとは思わなかった。
俺は湊に気付かれないよう息を吐き、軽く唇同士を触れ合わせて頭を撫でる。嬉しそうに笑う湊に下半身が若干反応しかけたけど、理性で押し止め寝る体勢に入った。
ホント、無垢で可愛いけど、無邪気で恐ろしい。
でも今は恋人が隣にいるから全然イライラもしないし、むしろ出店に目を輝かせる湊を見てると楽しいまである。
「湊、欲しいのあったら言って」
「あの…俺、周防くんにして欲しいのがあるんだけど…」
「何?」
「あれ」
湊が指差す方を見ると、子供がはしゃぎながら鉄砲を構えている姿が見えて、小さなお菓子の景品から大きめの箱のお菓子、ちょっとしたおもちゃもそれなりの景品もあって繁盛していた。
でもなんであれ?
「射的?」
「銃構える周防くん、絶対カッコいいから写真撮りたいなって。ダメ?」
愛しの恋人に上目遣いで可愛くおねだりされてNOと言える男がいるだろうか。そんな奴がいたら見てぇし、まず俺には無理だ。
湊の頭を撫で射的屋に向かい料金を支払い弾代わりのコルクを五発分貰う。側面のレバーを引いてコルクを詰め、とりあえず軽そうなものに照準を合わせて構えトリガーを引いたけど、的が小さ過ぎたせいか横を掠めるだけで終わった。
チラリと湊に視線をやると、俺にスマホを向けつつほんのり染まった頬とキラキラした目で見ててめちゃくちゃ可愛い。
レバーを引いて二つ目のコルクを詰め、さっきよりも少し大きめの箱に狙いを定めて撃てば今度は綺麗に当たって景品が倒れた。
「お兄さんナイスー!」
「どうも」
射的屋の店主が倒れた景品を俺の前に置き親指を立てる。あと三発か。でもこれといって欲しいもんもねぇしな。
「湊、どれがいい?」
「え? えっと……じゃああれ」
湊が示したのは上の方にある某キャラクター達のミニ人形セットで、割と大きめな箱に入ってるけどそれなりに重いかもな。
でも湊が欲しいって言うならぜってぇ取ってやる。
またレバーを引いて弾を込め慎重に狙ってトリガーを引く。当たりはし
たけど真ん中よりだったから軽く揺れただけだった。
あと二発。上の方狙えば倒れるじゃないか? ここが全景品獲得出来るようになってたらだけど。
俺はさっきよりも気合いを入れてレバーに手を掛け勢い良く引いた。
結果として取る事は出来なかったんだけど、湊は満足そうでにこにことスマホを見てる。
「取れなくてごめんな」
「ううん。カッコいい周防くんが見れたし、こうして撮れたから凄く嬉しいよ」
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あのあともう一回挑戦してみたけど倒れなくて、腹が立って三回目のお金を払おうとしたら湊に止められた。意地でも取る気だったからそれこそ取れるまでって思ってたのに…湊の方が大人だったな。
「湊、唐揚げ食お」
「うん」
「すみません、中サイズ一つ」
「はーい、六百円でーす」
湊が財布を出すのを横目で見て、支払いされる前にと自分の財布から千円札を取り出し渡す。あって顔をしてたけど、気付いていないフリをして釣りと唐揚げを貰って店から離れ端へ寄った。
唐揚げに竹串を刺し湊の口元へと寄せる。
「次は俺が出すからね」
「はいはい。ほら、あーんは?」
「あーん」
了承の返事はするけど出させるつもりは毛頭ない。湊の気を逸らさせようとそう促せば素直に口を開けてくれて、俺でも一口は無理な大きさの唐揚げの端を齧らせる。
熱かったのか途端にビクッとして両手で口を押さえてたけど、どうにか咀嚼出来たようでふーっと息を吐いた。
「火傷するかと思った…」
「揚げたてだったんだな」
出店にしては珍しい。ちょうど売り切れたかなんかで新しく揚げた物がタイミング良く買えたんだろうな。唐揚げは冷ましつつ食べさせてやるか。
「あー、周防さんだー」
唐揚げを分け合いながら他の店を覗きつつ歩いていると、後ろから名前を呼ばれて振り向いた俺は思いっきり眉を顰めた。湊と話せるようになるまでツルんでた野郎共の一人で、何度か告られて迫られた事があったから距離置いてたんだよな。
湊より若干背が高いくらいで、まだ小柄な方だし細身だしたぶん顔は可愛い部類に入るんだろうから俺を諦めりゃすぐ彼氏出来んのに。
「こんなとこで会えるなんて嬉しい! やっぱり僕たち、運命の赤い糸で結ばれてるんだよ!」
「んな訳ねぇだろ。引っ付こうとすんな、鬱陶しい」
「えー、冷たーい。…でもそんなところも好きー……え?」
俺は唐揚げの容器を湊に持たせ、肩に回した腕で竹串を持ち食べたり食べさせたりしてたんだけど、そいつはようやく気付いたらしく湊を見て目が点になってた。
最後の一つを半分齧り、残りをポカンとしている湊にも食わせて空になった容器を簡易的に作られたゴミ箱に捨てる。
「あ、え…え? 誰?」
「俺の恋人」
「え? でも周防さん、好きな子がいるからって………まさか」
「そ、こいつの事」
見せ付けるように抱き寄せ頭頂部に口付ければ顔を上げた湊が小さくはにかむ。湊はどんな表情してても可愛いからいつまでも見ていられるな。
「ショックー…」
「俺は最初からお前も眼中にねぇっつってたはずだけど?」
「いやでも、迫り続ければワンチャンあるかなって…」
「ねぇっつの」
どこをどう切り取ったらそんな事思えるんだよ。拗らせてなきゃ悪い奴じゃねぇんだけど、ネジがズレてるっつーか外れてるっつーか…言葉選ばずに言えば頭おかしいんだろう。
「あ、じゃあ一回でいいからエッチしようよ。そうすればスパッと諦めるから」
「はぁ? 何言って…」
「だ、ダメ!」
「え?」
マジで思考回路どうなってんだ。
こんなとこで言う事じゃねぇし、お前には勃たねぇよって言おうとしたら湊がいきなり声を上げて俺にしがみついて来た。
それからそいつを見て何度も首を振る。
「ダメ、ダメです! 周防くんは俺の恋人だから、絶対ダメ!」
「湊」
「……」
必死の体で俺に抱き着く湊に呆気に取られていたそいつは、眉を顰めると俺を見上げて事もなげに言ってきた。
「周防さん、駄目じゃない。恋人を不安にさせちゃ」
「お前が不安にさせたんだよ。…ったく。湊、アイツの言う事は気にしなくていいから」
「でも…」
「湊以外に誘われて行くわけないだろ? な?」
「…うん…」
不安げに眉尻を下げる湊の頭を撫でて抱き締めると安心したのか身体から力が抜ける。
湊はまだ〝自分なんて〟って気持ちが完全になくなった訳じゃなくて、こうして不安になった時はどうしてもマイナス思考に陥ってしまう。白井の時もそうだったけど、ようやく持てた自信も萎れてくんだよな。
長い事そうだったんだから一年や二年で克服出来るもんじゃないし、そこは俺がフォローすればいいんだけど…外野が茶々入れんのだけは許せねぇ。
ただ、こうして声を上げてくれるようになったのはすげぇ嬉しい。自分の恋人だから絶対駄目って……クソ可愛すぎだろ。
「周防さんのそんな優しい顔、初めて見た…ふーん、そっかそっか」
「何だよ」
「勝ち目がない勝負はしたくないから僕は帰るねー。あ、でも気が変わったらいつでも連絡して来ていーよ」
「一生ねぇから」
「あははー、じゃーねー」
何だありゃ。久し振りに会ったけど、マジで意味分かんねぇわ、アイツ。
スキップしながら人の間を抜けて去っていく背中を見送りつつ首を傾げた俺は、同じように不思議そうな顔で見てる湊の髪を撫で先へ促す。
「アイツの事は忘れて食いたいもん食お」
「う、うん」
湊的にはもう少し拗れると思っていたのだろう。アイツがあっさり引いた事で戸惑っていたけど、何店か回ればいつも通りになって楽しそうに笑ってたからホッとした。
恋人繋ぎだったのが腕組みには変わったけど。
そのあとも俺が払い続けるから痺れを切らした湊が俺に何も言わずに買い物するって事もありつつ、二人で写真を撮ったりしながら祭りを満喫し帰宅したのはすっかり日も落ちた頃だった。
夕飯は出店で買ったもので済ませ、風呂も順番に入り、少しだけリビングでまったりしたあとそろそろ寝る事にして湊の部屋へと向かう。
「周防くんはどっちがいい?」
「湊が壁の方行きな」
「うん」
湊は寝相悪くないけど、万が一を考えたら落ちるよりぶつかる方がまだいい。
枕を並べて、いつもは抱いて寝ていると言っていたテディベアをテーブルに置いた湊は壁側に寝転ぶ。電気を消して隣に入ったら湊がふふっと笑った。
「?」
「俺のベッドに周防くんがいるなーって思ったら、嬉しくなっちゃった」
「そっか」
泊まり自体は初めてだし、昨日は布団だったしな。
湊の頭の下に腕を差し込み抱き寄せる。俺の家のベッドはセミダブルで、湊のはシングルだから多少は狭いけど、こうして身を寄せ合っていればそんなもんは気にならない。
もぞもぞ動いてやっと落ち着く場所を見付けたのか、湊は腕の付け根くらいのところに頭を乗せ片手を俺の背中に回してぎゅうっと密着してきた。
誕生日会の時に我慢出来ずにやっちまったからもう絶対しないって決めはしたけど、好きな子にこんなに引っ付かれたら俺も健全な男子高校生だからムラムラはしてくる訳で。
いや、でも出さない。親の居ぬ間にとか信用してくれてる桜さんと文人さんに申し訳ないからな。…いやもうアウトかもしんねぇけど。
「周防くん?」
悶々と考えてたら湊に呼ばれて、視線を向けると不思議そうな顔をしてて苦笑する。
湊に性的な意図はないし、そもそもまだそういう下心的なもんは芽生えてはいないだろうからこれも甘えの一種なのは間違いない。それなりにヤってはいるけどただくっついてる分には意識はしないんだよな。
そのうち湊から誘ってくれるようになったら……俺、絶対我慢出来ねぇ。
「何でもない。寝るぞ」
「うん。おやすみなさい、周防くん」
「おやすみ」
「………おやすみのキスは?」
「……」
その気にならない為に敢えてしなかったのに、湊があれ? っという顔をして聞いてくる。そりゃ寝る前も寝起きでもしてたけど、まさか湊からねだられるとは思わなかった。
俺は湊に気付かれないよう息を吐き、軽く唇同士を触れ合わせて頭を撫でる。嬉しそうに笑う湊に下半身が若干反応しかけたけど、理性で押し止め寝る体勢に入った。
ホント、無垢で可愛いけど、無邪気で恐ろしい。
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