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優しさに触れて
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「あら、あなた…」
年末、お母さんと薫とで年越しの買い出しをしに商店街に来ていたら後ろから声をかけられて、何気なく振り向いた俺はその人の顔を見てハッとする。
二ヶ月くらい前に偶然出会った周防くんのお母さんが、買い物カゴを片手に下げて立っていた。
「…えっと…お久し振りです…」
「あの時はありがとう。お名前、聞いてなかったわね」
「な、那岐原湊です」
「そう。ねぇ湊くん、あなたはもしかして…」
「湊ー? ……どちらさま?」
少し離れた場所にいた薫が戻って来て俺に抱き着き不思議そうに周防くんのお母さんを見上げる。お母さんは言葉を遮られたのに嫌な顔一つせずににこっと笑うと、軽く頭を下げて自己紹介した。
「神薙周防の母の、神薙優花里です」
「え! 神薙くんのお母さん!? 綺麗! そっくり!」
「ふふ、ありがとう。……あなた達は双子なのかしら」
「そうですよ。ちなみに私がお姉ちゃんです」
「そうなの。よく似てるわ」
何だか、周防くんと話してる時と全然違う。
ピリピリもしてないし、表情も雰囲気も柔らかくて、俺が声をかけた時みたいに話し声とかも優しい。
「二人とも何してるの?」
「お母さん…」
「ねぇお母さん! 神薙くんのお母さんだって!」
「あら。まあまあ、そうなんですか? 神薙くんには、いつもうちの息子がお世話になってるんですよ」
うちのお母さんまでやって来て、薫が俺から手を離してお母さんの腕に抱き着く。すごく雑な紹介だと思ったけど、それを知ったお母さんは驚いて周防くんのお母さん─優花里さんに近付いて頭を下げた。
優花里さんも軽く会釈する。
「こちらこそ、湊くんには良くして頂いているようで……あの子、ご迷惑掛けてませんか?」
「全然。むしろこの子の笑顔を増やしてくれて、感謝してるんです。私たちにも親切なんですよ」
「……あの子が、そうですか」
お母さんの言葉にどこか嬉しそうな顔をする優花里さんは、どこから見ても子供を褒められて喜ぶ優しいお母さんだ。
周防くんをおばあちゃんに預けっぱなしにしたり、誕生日をお祝いしないようなお母さんには見えないけど……どうしてあんなに険悪になっちゃうんだろう。
「これからもあの子を宜しくお願い致します」
「こちらこそ、ずっと仲良くして頂けたら嬉しいです」
「湊くん、周防の事、頼むわね」
「は、はい…」
柔らかく微笑んで周防くんの名前を口にする優花里さんに俺は頷く事しか出来なくて、「それじゃあ」と去って行く後ろ姿を見送ってたらまた薫が抱き着いてきた。
「湊? どうしたの?」
「…ううん」
鈍い俺でも分かった。優花里さんは周防くんの事を大切に思ってるしちゃんと愛情を持ってる。
俺の憶測だけど、もしかして優花里さんは、何か理由があって嫌われるような事をしてるのかな。それこそ周防くんにも言えないような理由。でも何でわざわざそんな事を?
「さ、買い物の続きしましょうか」
「お母さん、ケーキ買ってー」
「クリスマスに食べたばかりでしょう? 駄目です」
「えー」
「湊?」
「あ、うん」
優花里さんが歩いて行った方をぼんやりと見ていたらお母さんに呼ばれて慌てて駆け寄る。
二人はもう、何があっても仲直りは出来ないのかな。
俺は部外者だし、自分から何かを言うのは違うからこの事を周防くんに話すつもりはないけど、叶うなら二人が笑い合ってる姿が見たいよ。
俺の身勝手な気持ちだけど、そうなったらどんなに素敵なのかって考えずにはいられない。
大晦日は周防くんも呼んでうちで年越しする事になった。最初は遠慮していた周防くんも、お父さんとお母さんに「おいでよ」って言われて最終的には頷いてくれたから、初めてのお泊まりでもある。
「ねぇ、周防くん。俺のベッドって二人で寝れるかな?」
「……一緒の部屋だとして、床に布団を敷いてくれるんじゃないか?」
「え? 一緒に寝ないの?」
「寝る寝ないは俺と湊の自由だろうけど、桜さんは一緒に寝るとは思ってないだろうな。そもそも俺がデカいし」
「……」
そんなやり取りを家に着くまでしてたんだけど、もしお母さんがお布団を敷くなら俺がそっちに入ればいいんだよね。周防くんとくっついてる方がぐっすり寝れるし。
早めの夕飯を食べて、順番にお風呂に入ってリビングに戻ると何だか大盛り上がりでみんな話してた。
「薫は赤ん坊の頃から気が強くてよく泣く子でね、それはもう大変だったのよ」
「その点、湊は本当に大人しくて、一人遊びが上手だったなぁ」
「お前、そんな頃からやんちゃだったのかよ」
「うるさいわね。赤ん坊なんて泣いてナンボよ」
「自分で言うのか」
ソファに座った周防くんと薫、その向かいの床に座るお父さんとお母さんがテーブルに何かを広げて話してるんだけど、周防くんと薫の距離が近くてムッとした俺は近付いて二人の間に割り込む。
どうやらアルバムを見ていたらしいけど、薫の方は見ないで周防くんの腕に抱き着いたら頭を撫でられた。
「あらあら、薫にヤキモチ妬いたのかしら」
「薫は基本的に人との距離が近いからな」
「え? あれ、これ私が悪い感じ?」
「せめて端ならいいんじゃね?」
「うわー、みんなひどい。家族なら当たり前の距離感なのに。もういい、お風呂入って来る」
一斉に言われて拗ねた薫はソファから立ち上がると足を鳴らしながらリビングを出て浴室に向かって行った。
凄くさりげなかったから聞き逃しそうになったけど、家族って言ったよね。
目を瞬いて周防くんを見上げると、本人もちゃんと聞こえてたのか驚いた顔で薫が出て行った方を見てる。
「家族だって」
「うん…びっくりした」
最初はあんなに反対してた薫が、いつの間にか周防くんの事を家族として見てるなんて意外だった。最近は見守ってくれてるんだなとは思ってたけど、当たり前のようにそう思ってくれてるとか。
「神薙くんはもううちの子みたいなものよね」
「湊がずっと話してたからか、初めて会った気がしなかったしな。薫の言う通り、もう家族も同然だろう」
「それなら神薙くんは余所余所しいわね。私たちも周防くんって呼ぼうかしら」
「え、それはやだ。周防くんって呼んでいいのは俺だけ」
「ずいぶんヤキモチ妬き屋さんになっちゃって」
お父さんもお母さんもクスクス笑ってるけど、俺は至って真剣に言ってる。いくら両親でも、俺と同じ呼び方をされるのは嫌だ。
抱き着いたままの腕に頬を押し当てると、周防くんの手が毛先を摘んで持ち上げて首を傾げた。
「湊、まだ髪濡れてる」
「周防くんがいるから早く終わらせた」
「風邪引くだろ?」
「そのうち乾くかなって…」
「薫が上がったら乾かしてきな」
「…はい」
周防くん、俺の体調や健康に関わるものにはどんなに小さな事でも厳しくて、いつも優しくて何にでも「いいよ」って言ってくれる周防くんに叱られる。でも全然怖くないし、言われるのも俺が原因な事がほとんどだから今回も素直に頷いた。
「神薙くんが入れば安心ね、お父さん」
「そうだな、母さん」
周防くんの事で仲良く笑い合うお父さんとお母さんを見て、不意に優花里さんの優しい笑顔が脳裏を過ぎった。何でいきなりって思ったけど、一度考えちゃうとダメでどんどん悲しい気持ちになる。
優花里さんは今何をしてるんだろう。もしかして一人で過ごしてるのかな。誰かが傍にいるならそれでいいんだけど…年越しに一人は寂しいよ。
「湊?」
俯いていたら周防くんが顔を覗き込んで来てハッとする。
早くいつも通りにしないと周防くんが心配するのに、静かな部屋に一人でいる優花里さんの姿が頭にこびりついて何をどう言えばいいのか分からない。
俺が口を出すのもダメだし、気にしたってどうしようもない事は分かってる。二人にとって余計なお世話でしかないのに、大好きな周防くんの事だから何か出来ないかって考えちゃって……ダメだ、頭がぐるぐるして来た。
「一度部屋に行きますね」
「ええ、また年明け前に呼ぶわね」
「はい」
何かを察した周防くんが俺の手を引いて立ち上がり、お父さんとお母さんに頭を下げてリビングを出た瞬間、俺を抱き上げ階段を登って部屋へと行きそのままベッドへと腰掛ける。
ぎゅって抱き締められて額に周防くんの唇が触れた。
「今度は何を抱え込んでんの?」
「あ、えっと、こ、こんな時間に食べたら太りそうだなって思って。最近お腹周りにお肉が付いてきた気がして……」
「湊」
大した事じゃないよって自分のお腹を触りつつヘラリと笑いながら答えたけど、そんな誤魔化しが聡い周防くんに通じる訳なくて、優しいけど有無を言わさない声で名前を呼ばれてきゅってなる。
良く考えたら、この態度って周防くんに聞いてって言ってるようなものだよね。……俺のバカ。
「俺はもう湊を一人で悩ませないって決めたから、本当の事を言うまで執拗く聞くよ」
「……でも、俺が勝手に気にしてるだけだから…」
「何を?」
「…………言ったら周防くんが困る事」
「湊が言う事で困る事なんかない」
「……怒るかもしれない」
「怒らない」
そうは言っても、俺の口からお母さんの話が出るなんて周防くんは考えもしていないはずだから、これを言ってしまったら絶対困るし最悪怒る。
視線だけでチラリと見上げたら、ふっと笑った周防くんが重ねて「言ってみ?」と促してくれた。この笑顔が曇るのは嫌だけど、ここまで気にしてくれる周防くんにこれ以上隠し事出来ないししたくない。
唇を噛んで周防くんの服を握った俺は、数回息を吐いて口を開いた。
「周防くんの…お母さんと会ったよ」
優花里さんのあの優しさは、絶対偽物なんかじゃない。
年末、お母さんと薫とで年越しの買い出しをしに商店街に来ていたら後ろから声をかけられて、何気なく振り向いた俺はその人の顔を見てハッとする。
二ヶ月くらい前に偶然出会った周防くんのお母さんが、買い物カゴを片手に下げて立っていた。
「…えっと…お久し振りです…」
「あの時はありがとう。お名前、聞いてなかったわね」
「な、那岐原湊です」
「そう。ねぇ湊くん、あなたはもしかして…」
「湊ー? ……どちらさま?」
少し離れた場所にいた薫が戻って来て俺に抱き着き不思議そうに周防くんのお母さんを見上げる。お母さんは言葉を遮られたのに嫌な顔一つせずににこっと笑うと、軽く頭を下げて自己紹介した。
「神薙周防の母の、神薙優花里です」
「え! 神薙くんのお母さん!? 綺麗! そっくり!」
「ふふ、ありがとう。……あなた達は双子なのかしら」
「そうですよ。ちなみに私がお姉ちゃんです」
「そうなの。よく似てるわ」
何だか、周防くんと話してる時と全然違う。
ピリピリもしてないし、表情も雰囲気も柔らかくて、俺が声をかけた時みたいに話し声とかも優しい。
「二人とも何してるの?」
「お母さん…」
「ねぇお母さん! 神薙くんのお母さんだって!」
「あら。まあまあ、そうなんですか? 神薙くんには、いつもうちの息子がお世話になってるんですよ」
うちのお母さんまでやって来て、薫が俺から手を離してお母さんの腕に抱き着く。すごく雑な紹介だと思ったけど、それを知ったお母さんは驚いて周防くんのお母さん─優花里さんに近付いて頭を下げた。
優花里さんも軽く会釈する。
「こちらこそ、湊くんには良くして頂いているようで……あの子、ご迷惑掛けてませんか?」
「全然。むしろこの子の笑顔を増やしてくれて、感謝してるんです。私たちにも親切なんですよ」
「……あの子が、そうですか」
お母さんの言葉にどこか嬉しそうな顔をする優花里さんは、どこから見ても子供を褒められて喜ぶ優しいお母さんだ。
周防くんをおばあちゃんに預けっぱなしにしたり、誕生日をお祝いしないようなお母さんには見えないけど……どうしてあんなに険悪になっちゃうんだろう。
「これからもあの子を宜しくお願い致します」
「こちらこそ、ずっと仲良くして頂けたら嬉しいです」
「湊くん、周防の事、頼むわね」
「は、はい…」
柔らかく微笑んで周防くんの名前を口にする優花里さんに俺は頷く事しか出来なくて、「それじゃあ」と去って行く後ろ姿を見送ってたらまた薫が抱き着いてきた。
「湊? どうしたの?」
「…ううん」
鈍い俺でも分かった。優花里さんは周防くんの事を大切に思ってるしちゃんと愛情を持ってる。
俺の憶測だけど、もしかして優花里さんは、何か理由があって嫌われるような事をしてるのかな。それこそ周防くんにも言えないような理由。でも何でわざわざそんな事を?
「さ、買い物の続きしましょうか」
「お母さん、ケーキ買ってー」
「クリスマスに食べたばかりでしょう? 駄目です」
「えー」
「湊?」
「あ、うん」
優花里さんが歩いて行った方をぼんやりと見ていたらお母さんに呼ばれて慌てて駆け寄る。
二人はもう、何があっても仲直りは出来ないのかな。
俺は部外者だし、自分から何かを言うのは違うからこの事を周防くんに話すつもりはないけど、叶うなら二人が笑い合ってる姿が見たいよ。
俺の身勝手な気持ちだけど、そうなったらどんなに素敵なのかって考えずにはいられない。
大晦日は周防くんも呼んでうちで年越しする事になった。最初は遠慮していた周防くんも、お父さんとお母さんに「おいでよ」って言われて最終的には頷いてくれたから、初めてのお泊まりでもある。
「ねぇ、周防くん。俺のベッドって二人で寝れるかな?」
「……一緒の部屋だとして、床に布団を敷いてくれるんじゃないか?」
「え? 一緒に寝ないの?」
「寝る寝ないは俺と湊の自由だろうけど、桜さんは一緒に寝るとは思ってないだろうな。そもそも俺がデカいし」
「……」
そんなやり取りを家に着くまでしてたんだけど、もしお母さんがお布団を敷くなら俺がそっちに入ればいいんだよね。周防くんとくっついてる方がぐっすり寝れるし。
早めの夕飯を食べて、順番にお風呂に入ってリビングに戻ると何だか大盛り上がりでみんな話してた。
「薫は赤ん坊の頃から気が強くてよく泣く子でね、それはもう大変だったのよ」
「その点、湊は本当に大人しくて、一人遊びが上手だったなぁ」
「お前、そんな頃からやんちゃだったのかよ」
「うるさいわね。赤ん坊なんて泣いてナンボよ」
「自分で言うのか」
ソファに座った周防くんと薫、その向かいの床に座るお父さんとお母さんがテーブルに何かを広げて話してるんだけど、周防くんと薫の距離が近くてムッとした俺は近付いて二人の間に割り込む。
どうやらアルバムを見ていたらしいけど、薫の方は見ないで周防くんの腕に抱き着いたら頭を撫でられた。
「あらあら、薫にヤキモチ妬いたのかしら」
「薫は基本的に人との距離が近いからな」
「え? あれ、これ私が悪い感じ?」
「せめて端ならいいんじゃね?」
「うわー、みんなひどい。家族なら当たり前の距離感なのに。もういい、お風呂入って来る」
一斉に言われて拗ねた薫はソファから立ち上がると足を鳴らしながらリビングを出て浴室に向かって行った。
凄くさりげなかったから聞き逃しそうになったけど、家族って言ったよね。
目を瞬いて周防くんを見上げると、本人もちゃんと聞こえてたのか驚いた顔で薫が出て行った方を見てる。
「家族だって」
「うん…びっくりした」
最初はあんなに反対してた薫が、いつの間にか周防くんの事を家族として見てるなんて意外だった。最近は見守ってくれてるんだなとは思ってたけど、当たり前のようにそう思ってくれてるとか。
「神薙くんはもううちの子みたいなものよね」
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「…はい」
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「そうだな、母さん」
周防くんの事で仲良く笑い合うお父さんとお母さんを見て、不意に優花里さんの優しい笑顔が脳裏を過ぎった。何でいきなりって思ったけど、一度考えちゃうとダメでどんどん悲しい気持ちになる。
優花里さんは今何をしてるんだろう。もしかして一人で過ごしてるのかな。誰かが傍にいるならそれでいいんだけど…年越しに一人は寂しいよ。
「湊?」
俯いていたら周防くんが顔を覗き込んで来てハッとする。
早くいつも通りにしないと周防くんが心配するのに、静かな部屋に一人でいる優花里さんの姿が頭にこびりついて何をどう言えばいいのか分からない。
俺が口を出すのもダメだし、気にしたってどうしようもない事は分かってる。二人にとって余計なお世話でしかないのに、大好きな周防くんの事だから何か出来ないかって考えちゃって……ダメだ、頭がぐるぐるして来た。
「一度部屋に行きますね」
「ええ、また年明け前に呼ぶわね」
「はい」
何かを察した周防くんが俺の手を引いて立ち上がり、お父さんとお母さんに頭を下げてリビングを出た瞬間、俺を抱き上げ階段を登って部屋へと行きそのままベッドへと腰掛ける。
ぎゅって抱き締められて額に周防くんの唇が触れた。
「今度は何を抱え込んでんの?」
「あ、えっと、こ、こんな時間に食べたら太りそうだなって思って。最近お腹周りにお肉が付いてきた気がして……」
「湊」
大した事じゃないよって自分のお腹を触りつつヘラリと笑いながら答えたけど、そんな誤魔化しが聡い周防くんに通じる訳なくて、優しいけど有無を言わさない声で名前を呼ばれてきゅってなる。
良く考えたら、この態度って周防くんに聞いてって言ってるようなものだよね。……俺のバカ。
「俺はもう湊を一人で悩ませないって決めたから、本当の事を言うまで執拗く聞くよ」
「……でも、俺が勝手に気にしてるだけだから…」
「何を?」
「…………言ったら周防くんが困る事」
「湊が言う事で困る事なんかない」
「……怒るかもしれない」
「怒らない」
そうは言っても、俺の口からお母さんの話が出るなんて周防くんは考えもしていないはずだから、これを言ってしまったら絶対困るし最悪怒る。
視線だけでチラリと見上げたら、ふっと笑った周防くんが重ねて「言ってみ?」と促してくれた。この笑顔が曇るのは嫌だけど、ここまで気にしてくれる周防くんにこれ以上隠し事出来ないししたくない。
唇を噛んで周防くんの服を握った俺は、数回息を吐いて口を開いた。
「周防くんの…お母さんと会ったよ」
優花里さんのあの優しさは、絶対偽物なんかじゃない。
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