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プレゼント

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 周防くんとの合同誕生日を翌週に控えた土曜日。俺は周防くんと一緒に最寄り駅から一駅乗った先にあるショッピングモールに来ていた。
 家族では何回か来た事あるけど、一人では絶対に行かない賑やかなモール内は休日という事もあり人で溢れてる。
 家族連れやカップル、友達同士。
 男の人ばかりの学生グループは、周防くんに気付くと何故かビクッとしてた。そんなに周防くん怖いかな。

「ホントにいいのか?」
「もちろん。周防くんの誕生日プレゼントなんだから、遠慮しないで」

 そう、今日の目的は周防くんの誕生日プレゼントを買う事で、その為にいろんなお店があるここを選んだ。
 実は候補はいくつかあったんだけど、どれだけ悩んでも全部周防くんに似合う気がして厳選も出来なくて。だからもういっその事本人に決めて貰おうと思って、俺からデートに誘ったんだ。

「湊、こっち」
「あ、うん」

 周防くんが見ているお店の向かいにある雑貨屋を覗きに行くとすぐに呼ばれて手を繋がれる。
 白井くんの一件以来、周防くんは俺といる時は傍から離れなくなった。
 授業中はちゃんと席についてるけど、合間の休み時間とかトイレに行く時とか、先生に呼ばれた時でさえついてくるようになって、何も知らないクラスのみんなが驚いてる。
 佐々木さんと大宮さんは知ってるから、ニコニコしながら「愛されてるね」って言ってくれるけど、さすがにトイレは恥ずかしいよ。

「湊」
「何?」
「はい」

 離れさえしなければいいから周防くんとは違う方を見てたらまた呼ばれて何かが渡される。目を瞬いて見下ろすとモチモチとした素材の丸い犬のぬいぐるみがこっちを見てて首を傾げた。
 何でぬいぐるみ?

「ん、やっぱいいな。可愛い」
「俺、男だよ?」
「可愛いからいいんだよ。あ、そうだ。服見に行こ」
「うん」

 ぬいぐるみをもとの場所に戻し、何かを思いついたのか周防くんが笑顔で俺の手を引く。服が欲しいのかな。
 そう思って服屋さんに行ったんだけど、どうしてか周防くんは俺の服を選び始めて、試着室に押し込まれた。渡されたパーカーを着てカーテンを開けると満足そうに頷く。

「やっぱオーバーサイズがいいな。ダボダボ感が堪んねぇ」
「周防くん、こういうのが好きなの?」
「好きってか、湊が着てんの見て初めて良いなって思ったんだよ」
「そうなの?」
「うん。めっちゃくちゃ可愛い」

 三サイズも上だから襟刳も広いし裾も長くて俺の膝上くらいまである。試しに腕下げてみたら手もスッポリ隠れて、手だけが長い人みたいになったから面白くて振ってたら周防くんがしゃがみ込んだ。

「? 周防くん? 具合悪くなっちゃった?」
「可愛すぎんだろ…」
「え?」
「…何でもない。それ買う」
「え!? 今日は周防くんのプレゼントを買いに来たんだよ?」
「それはそれ、これはこれ」

 どういう意味だろう。
 っというか、俺のを買う予定はなかったから余分なお金は持って来てないんだけど。
 目を丸くしてると、とりあえず着替えるようにと言われ元々着ていた服に戻して出たら試着したパーカーが取り上げられた。

「レジ行って来る」
「え、待って。周防くんに買って貰う訳には…っ」
「あ、あそこにいてな」

 言葉途中で指を差されそっちに顔を向けると軽く背中が押されてつんのめる。振り向いたらもうレジに向かってて、仕方なく示された場所に立って周防くんを待ってたら、その後ろに並んだ二人の女の人が周防くんを見てヒソヒソしてる事に気付いた。
 周防くんは、背が高くてカッコいいからどこにいても目立つ。綺麗な人とかカッコいい人って自然と目がいっちゃうの分かるし仕方ない部分はあるけど、はっきり言うと嫌だ。
 イケメンで優しくて強いなんて、モテる要素しかないから。

「お待たせ。これ着るのは、俺の前でだけにしてな」
「うん、分かった。ありがとう」

 普段着にはしない方がいいみたいだ。服が入った袋を受け取ろうとしたけど、渡されなくて肩が抱き寄せられる。

「湊、俺にピアス選んで」
「え?」
「ネックレスもいいけど、ピアスのが目立つし」
「うん、いいよ」

 ピアスは俺の候補にもあったものだから、周防くんがそれがいいって言うなら全然選ぶし選びたい。
 頷いてモール内の地図を確認し、アクセサリーショップを目指す。

「湊はアクセ着けないの?」
「似合わないから」
「そうか? シンプルなやつなら似合うと思うけど」
「そうかなぁ」

 うーんと首を傾げ、たくさんのピアスとネックレスと指輪を着けた周防くんを見上げる。これだけ着いててもごちゃっとして見えないし、似合っててカッコいいんだから凄いよね。

「どれか欲しい?」
「……欲しい」
「じゃあ湊がピアス選んでくれたら、外したやつやるな」
「ほんと? 嬉しい、ありがとう」

 前から周防くんの身に着けてるもの一つだけでも欲しいなって思ってたから素直に嬉しい。
 宝物にしよう。あ、そうだ。

「周防くん」
「ん?」
「周防くんのピアス着けたいから、卒業したら開けてくれる?」
「俺でいいの? 病院の方が安全だと思うけど」
「周防くんがいい」

 病院の先生だとしても、知らない人よりは周防くんの方が安心出来る。
 首を振ってキッパリと言い切った俺に嬉しそうに笑った周防くんは、肩に置いていた手で頭を引き寄せると額にキスしてきた。

「分かった。約束な」
「うん」

 さりげなく卒業したらって言っちゃったけど、周防くん聞こえなかったかな。それとも聞こえてて約束してくれた?
 そうだとしたら嬉しい。
 卒業してからもずっと周防くんと一緒にいられるといいな。


 アクセサリーショップでいくつか周防くんの耳に当てて二択まで絞り、最終的に本人に選んで貰ったピアスは今彼の耳元で揺れている。
 フープタイプの、小さな黒い石が嵌った十字架と短いチェーンがぶら下がった銀色のピアスは周防くんによく似合ってた。

「ありがとな、湊」
「俺の方こそ、ありがとう。大事にするね」

 周防くんの誕生日プレゼントを買いに来ただけのはずが、服を買って貰った上に周防くんが着けてたピアスまで貰って、オマケにお昼ご飯まで奢られてしまい……今日の俺貰ってばっかりだ。
 約束通り貰ったピアスをにこにこしながら眺めていたら、周防くんが片手で俺を抱いて耳元に唇を寄せて来た。

「?」
「可愛すぎて我慢出来ないし、その顔他の奴らに見せたくないから、もう俺の家行こ」
「へ?」
「早く二人になりたい」

 こんなに人がいるところで、小さな声とはいえそんな事を言う周防くんに驚くと同時に顔が赤くなる。誰も俺の事なんて見ないし、なんなら見られてるのは周防くんの方なのに。
 でも、俺も早く二人になりたかった。
 買い物デートも楽しいけど、色んな人が周防くんを見て頬を染めるのが嫌だったから。
 窺うように俺の顔を覗いてくる周防くんの手を握って頷くと、周防くんはふっと笑って俺の目蓋に口付けた。





 微睡みの中、誰かに呼ばれて揺すられる。身動ぐと大好きな匂いがふわりと舞って頭を撫でられる感覚に薄く目が開いた。

「……?」
「起きたか? まだ寝かせといてやりたいけど、そろそろ出ないと門限に間に合わないから…」
「…やだ…帰りたくない…」
「駄目だって。先週も泊まったろ? あんま続くと俺への信頼度が下がって、もう泊まれなくなるかもしれないぞ」
「それはもっとやだー…」
「じゃあ起きて帰る準備しような。怠いなら支えてやるから」

 仕方なく起き上がるとまた周防くんの服着てて、寝落ちてしまったんだと申し訳なく思う。でも、周防くんが寝かせようとするせいでもあるから俺だけが悪い訳じゃないよね?
 ベッドから降りる時少しフラついたけど、周防くんの手を借りて洗面所に向かい顔を洗うと少し頭がスッキリした。
 リビングに戻って自分の服に着替え、カバンと買って貰った服を持って周防くんを見上げるとよく出来ましたって言うみたいに頭を撫でられる。

「こういう時、大人なら車で送ってやれんのにな」
「もう道覚えたから一人でも帰れるよ?」
「帰れるかもしんないけど、俺が心配で落ち着かないから送らせて」

 玄関で靴を履いてたら周防くんがそう零すから、安心させるつもりで言ったんだけど逆にダメだったみたいで、困ったように笑った周防くんはスマホをポケットに入れて鍵を手に取ると俺と一緒に外に出る。
 すっかり冬らしくなった外気の冷たさに首を竦めたら、鍵を掛けた周防くんがコートの前を広げて中に入れてくれた。

「あったかい」
「誕生日会の前なんだし、また風邪引いたら大変だからな」
「もう寝込みたくない」
「帰ったらちゃんと風呂で温もって暖かくして寝ろよ」
「…周防くんって、たまにお母さんみたいな事言うよね」

 何々しろよとか、何々しなねとか。ちなみに俺のお母さんは、薫にはそういうの言ってるけど俺にはあんまり言わなかったりする。その代わりなのか薫が言ってくるけど。
 周防くんはキョトンとしたあと口を押さえ、少しだけ恥ずかしそうに眉を顰めた。

「悪い。湊は何かこう…ほっとけないっつーか、俺の目が届いてないと不安っつーか……」
「何も出来ないと思ってる?」
「違う、そうじゃなくて……俺がただ単に心配性なだけで、湊が出来ないとかやらないとか思ってる訳じゃない」

 周防くん、凄く言葉を選んでくれてる。
 でも実際、俺はほっとくといつの間にか溝にハマってそうって言われるくらいぼんやりしてるみたいで、薫と悠介は万が一にもないように俺を挟んで歩いてくれるんだよね。
 そこまでしなくてもとは思うけど、あの二人も周防くんに負けず劣らず心配性だから。
 視線を彷徨わせる周防くんの姿が何だか可愛くて、俺は笑いながらぎゅっと抱き着いた。

「分かってるよ。嫌な訳じゃないから、これからも言って欲しい」
「湊…」
「周防くんに言われると、どんな事でも頑張ろうって思えるから」

 薫にだって強くなったって言われたんだし、これからもっともっと頑張れば何もない場所で躓いたりしないし、道で無差別に配られてるチラシだって断れる。
 溝にハマってそうって心配される事もないしね。
 自分なりに気合いを入れた顔で見上げると、目を伏せて笑った周防くんにギュって抱き締められた。

「あんま頑張らなくていいよ」
「え?」
「俺が支えるから、そのまんまの湊でいて」

 それはつまり、溝にハマってそうな俺でいいって事なのかな。

「じゃあ、溝にハマったら助けてね」
「ん? ……ああ、助けるよ」

 一瞬キョトンとしてたけど、ぷっと吹き出した周防くんは頷いて俺の頬に冷えた唇を押し当てる。
 視界の端で、街灯に照らされた十字架が光を反射してキラキラしてた。
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