噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

ミヅハ

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新聞部の白井くん

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 周防くんの自宅謹慎が明けるまでが凄く長く感じた一週間、今日から周防くんは登校を再開する。
 あの騒動は薫の耳にも入っていて、周防くんの家から帰るなり問い詰められたけど、絡まれてた俺を周防くんが助けてくれたんだって事が分かるなりにっこりと笑った薫は、「三年生の件は任せて」って言って部屋に戻って行った。
 その笑顔が妙に迫力あって怖かったんだけど、数日後にあの先輩たちと廊下で会った時に俺を見てビクッとしてたから何かあったんだろうなってのは察した。何したんだろ。

 周防くんは既に昇降口にいるらしく、さっきメッセージが来てた。
 軽い足取りで向かって、ルンルンで出入口を抜けた俺は固まる。

「神薙くんは、那岐原弟くんのどこが好きなんですか?」
「全部。っつか、その弟くんってのやめろ」
「ふむふむ。では特に好きなところは?」
「……俺にしか甘えねぇとこ」
「もしや神薙くんは甘やかしたいタイプで?」
「湊限定でな」
「わお。いいですねぇ、素敵ですねぇ。ではでは、弟くんの好きな仕草は何ですか?」
「だから弟くんはやめろっつってんだろ、アイツにも名前があんだぞ」
「では湊くんと……」
「気安く名前で呼んでんじゃねぇよ」
「何とも理不尽」

 あの人って、確か新聞部で一年生の……確か白井くんだっけ。周防くんが質問責めにされてる。
 周りにいる人も気になるのか遠巻きに見てて、周防くんの答えには耳をそばだててる感じだ。

「改めて、那岐原くんの好きな仕草は?」
「いろいろありすぎて答えらんねぇな……強いて挙げるなら上目遣い?」
「ほうほう。那岐原くん、可愛らしいですもんねぇ。目がくりっとしてて小動物みたいで」
「湊の事変な目で見たら殺す」
「わー、物騒ですねぇ。ですが安心して下さい、僕には心に決めた人がいますから」

 凄い、周防くんの睨みも怖い言葉も何のそので返してる。他の人も「あいつすげぇな」って感心してるし。
 それよりもいつになったらあのインタビュー? は終わるんだろう。

「お二人は一緒にいる時は何をされてるんですか?」
「あ? そりゃもちろん、イチャついてんに決まってんだろ」
「具体的には?」
「具体的? キスとかセッ…」
「あ、直接的な表現はNGです」
「お前が具体的にっつったんだろうが」

 それにしても、二人は何の話をしてるんだろう。俺の名前が出てるから俺にも関係あるんだろうけど、具体的と言われて周防くんが何かを言おうとしたら周りがすごくザワついてた。
 よく分かんないけど、このままここにいても仕方ないよね。
 俺は一人気合いを入れると、足早に白井くんと話してる周防くんに近付く。周防くんはすぐに気付いてくれて、傍に行くなり頭を撫でてくれた。

「湊、おはよう」
「おはよう、周防くん」
「おはようございます、那岐原くん!」
「お、おはようございます…白井くん」
「おお、僕の名前をご存知でしたか! それなら話は早い! 少しインタビューを受けて頂きたいのですが……」
「却下」

 横から現れた新聞部の男子生徒―白井くんに挨拶されたけど、その近さと勢いに押されながら返したらメモ帳とペンがさっと出される。でもすぐに周防くんの腕が間に差し込まれて背中に押しやられた。

「何故!?」
「お前、湊にも変な質問するつもりだろ。あと近過ぎ」
「変な質問とは失礼な。これは生徒から寄せられたものですよ」
「何で他の奴が俺と湊の事を知りたがるんだよ」
「今一番注目度の高いカップルだからでは?」
「それこそ意味分かんねぇ……とにかく、湊には近付くな」
「ふむふむ、独占欲強めと…」
「何メモってんだてめぇ」

 こ、個性的な人だなぁ。話すのは初めてだけど、周防くんにも物怖じしないし自分を持ってるし、薫と気が合いそう。
 でもまた先生に怒られるのも困るし、周防くんの腕を引いて見上げると上がってた眉がすっと下がった。

「とにかく、湊にインタビューしたら俺のも潰すからな」
「あはは」
「笑って誤魔化すんじゃねぇ!」

 ダメだ、この二人をいつまでも一緒にいさせる訳にはいかない。
 俺は周防くんの腕を引いて下駄箱に行き、上履きに履き替えるとイライラしてる周防くんに抱き着いて見上げる。
 目を瞬いてるから笑い掛けたら周防くんもふって笑ってくれた。
 いつもの周防くんの笑顔にホッとした俺は手を繋いで一緒に教室まで行ったんだけど、その後ろを昇降口にいた全員が見ていた事には気付かなかった。



 朝の一悶着以降は何もなく平和な一日だったのに、先週の事で先生に呼ばれた周防くんを教室で待ってたら何故か白井くんがにこにこ顔でやって来て、俺の前の席に座ってメモ帳とペンを出した。

「あ、あれ? 俺にはインタビューしないんじゃ…」
「僕は了承してないんですよねぇ」
「周防くんに怒られちゃうよ?」
「那岐原くんにインタビュー出来るなら拳さえも甘んじて受け入れます。新聞部としては盛り上がるネタには食い付かないと」

 そこまでインタビューに命かけてるんだ。だったら受けないと白井くんに失礼だよね。
 でも周防くんが言ってた変な事ってなんだろ。

「那岐原くんと神薙くんは全くの正反対ですが、ズバリ好きになったキッカケは何ですか?」
「えっと、俺の言いたい事とかしたい事に気付いてくれるから…かな」
「なるほどなるほど。では、神薙くんの好きなところはどこですか?」
「全部」
「わお、全く同じ答えを頂いてしまいました! お二人は相思相愛ですねぇ」
「う、うん…」

 自分でもラブラブだとは思うけど、人から言われると恥ずかしい。
 俺が頷いたのを見た白井くんは「そうですか」と呟くと、少し間を空けてから再び口を開いた。

「素朴な疑問なのですが、那岐原くんは神薙くんが怖くないのですか?」
「怖くないよ」
「暴力を振るっていても?」
「うん」

 誰かが殴られてるのを見ると痛そうとは思うけど、周防くんが俺の前でそうする時は俺を守る為だって分かってるから怖くはない。それに周防くん、自分から喧嘩を売る事はないみたいだし。
 白井くんはメモ帳を閉じてペンと一緒に机に置くと、掛けていた眼鏡を外してにこっと笑う。

「盲目的ですねぇ…」
「それはダメな事なの?」
「さぁ? それをダメと取るかは向けられる本人次第なので、僕には何とも…でも、僕としては狡いという気持ちはあります」
「え?」
「…もう一つ質問です。これまで何の接点もなかったくせに、どうやって彼を射止めたんですか?」
「…えっと…」
「実は僕、神薙くんの事狙ってたんですよねぇ。それこそキミと付き合う前から」

 さっきと雰囲気が違う。何か、背中がゾワゾワするっていうか…笑顔なのに白井くんが怖い。
 というか白井くん、周防くんの事好きだったんだ。
 何も言えずにいると、白井くんの手が伸びて俺の唇に触れた。

「今ここでキミにキスしたら、神薙くんとの間接キスになるんですかね」
「…何言って……」
「昼休み、屋上前の踊り場。気付かれないと思いました?」
「……!」

 あそこは周防くんが良く行く場所で基本的に近付く人はいないって言ってたから、まさか白井くんが俺たちがしてる事すらも知ってるとは思わなかった。
 驚いて目を見瞠ると白井くんは手を離して眼鏡を掛け、手帳とペンをしまって立ち上がる。

「僕、これから神薙くんと距離を詰めるつもりなので、ライバルとして宜しくお願いしますね」
「え……」
「今日話して、どうしても欲しくなりました。彼は僕の理想なので」
「す、周防くんは俺と付き合ってるんだよ?」
「はい。だから略奪愛です」

 りゃ、略奪愛!?
 お母さんが見てたお昼のドラマみたいなドロドロした展開が俺と白井くんの間で繰り広げられるって事?
 俺、そういうの苦手なのに。

「全力でいくので、せいぜい好きでいて貰えるように頑張って下さいね」
「あ…」

 そう言い放った白井くんに困惑しきりの俺は何も言い返せなくて、にっこりと笑った白井くんは俺に手を振って教室から出て行った。
 せいぜい好きでいて貰えるようにって、白井くんは少なからず周防くんに好きになって貰える自信があるって事だよね。周防くんの気持ちを疑う訳じゃないけど、あの余裕な感じが凄く怖い。
 でも、俺だって周防くんの事大好きだから。

「ま、負けない」

 白井くんがどんな風に周防くんにアプローチするのかは分からないけど、俺は俺なりに頑張って周防くんの心を繋ぎ止める。
 周防くんの隣は誰にも渡さない。
 別人みたいに変わった白井くんに気圧されながらも拳を握った俺は、周防くんが戻ってくるまで必死に頭の中で作戦を立てていた。
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