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あのあと、俺が身振り手振りで必死に説明したからか先生は頭を押さえながらも理解してはくれたんだけど、殴った事についてお咎めなしには出来ないからって、周防くんは一週間の自宅謹慎を言い渡された。
周防くんは俺を助けてくれただけなのに……そもそも俺がちゃんと三年生に言えてれば、周防くんが手を上げる事もなかったんだよね。三年生の言う通り、俺は情けなさすぎる。
今日はもうこのまま帰らないといけないらしく、誰もいない昇降口まで見送りに来た俺はいつかの時みたいになかなか手を離せないでいた。
「湊、予鈴鳴るぞ」
「うん…」
「メッセージ送るし、電話もするから。学校帰り遊びに来てもいいし」
「うん……」
「みーなーと」
「……学校で周防くんに会えないの、寂しい」
今の俺が嬉々として学校に行くのは周防くんがいるからだ。もちろん勉強だって大事だし、疎かにはしないようにしてるけど、それでも周防くんと会えるっていうのが一番大きい。
俯く俺にクスリと笑った周防くんは宥めるみたいに頭を撫でると額に口付けてきた。
「可愛いな。湊がそうやって素直に言ってくれんの嬉しいよ」
「……またそうやって甘やかす…」
本当は自分でも我儘言ってるって分かってる。どう足掻いたってこれは決定事項で覆せないから俺が駄々を捏ねても仕方ないって分かってるのに、周防くんは言葉通り嬉しそうだから更に言い募ってしまいそうだ。
「湊を甘やかすのが俺の生き甲斐だからな」
「たまには怒ってくれないと、俺もっと我儘になる」
「いいよ、なっても。全部聞くから」
「もー……ズルい」
優しい声と笑顔が俺の言葉を全部肯定する。同い年なのに大人な周防くんには勝てるはずもなくて、子供みたいな事を言いながら抱き着くと周防くんも腕を回して応えてくれた。
「今日は来る?」
「うん、行く」
「んじゃ、待ってっから」
「うん」
頷き、顔を上げて今の体勢なら背伸びすれば届く周防くんの顎に軽くちゅってするとすぐに唇が塞がれて、俺たちは誰もいないのをいい事に予鈴が鳴るまでキスしてた。
「湊くん、元気出して?」
「一週間なんてすぐだよ、すぐ」
お昼休み、周防くんがいないからおいでって佐々木さんのグループに誘われた俺はしょんぼりしながらお弁当を食べてた。今日作って来たお弁当、周防くんの分は本人に渡したから今頃食べてくれてるだろうな。
もそもそと食べてる俺を、佐々木さんや野間さんがそう言って慰めてくれる。
「ありがとう」
「それにしても、三年生もひどいよね」
「れっきとしたセクハラよ、セクハラ」
「しかも触られたんでしょう?」
「痴漢も追加だわ」
落ち込む俺の代わりに怒ってくれてるこの子たちは恋人として何をすればいいかって相談した女子たちで、漫画を貸してくれた佐々木奈央さん、お菓子をくれた野間かすみさん、そのままの俺でいいって言ってくれた七原舞さん、椅子を勧めてくれた大宮二葉さんの四人だ。
あの日以降話し掛けてくれて、デートスポットとか今恋人の間で流行ってるものとかを良く教えてくれる。
みんな優しくて可愛いんだよ。
「男同士って知ってて試させろって言うやつ何なんだろうね」
「興味あるって事はそういう事なんじゃない?」
「実はってやつ? でも人の恋人に手を出そうとする時点でアウトだね」
「レッドカードもんよ。まぁこれだけ可愛かったら、気になるのも仕方ないけど」
「!」
大宮さんの細い指が俺の頬を撫でふわりと微笑まれた。大宮さんってクールであんまり表情が変わる事はないんだけど、美人さんだからこういう事されるとドキッとしてしまう。
「赤くなってる、可愛いー」
「二葉、無闇矢鱈に色気を振り撒くのやめなさい」
「別に振り撒いてないけど」
「ウブな湊くんには刺激が強いんだって」
女の子って凄いなぁ。俺に少しでも色気があれば、周防くんの大人っぽさに少しはついていけて、メロメロに出来るかもしれないのに。
「色気ってどうしたら出るんだろ……」
ポツリと零したらみんなが驚いた顔をして俺を見てきた。
なんか変な事言ったかな。
「湊くん。湊くんはそのままでいいんだよ」
「そうそう。ありのままでね」
「むしろそれが大正解だから」
「変わらずにいて」
つまりは満場一致で俺には色気がないって事ですね。
納得出来ないながらも頷いた俺ににこっと笑った四人は、おかずを交換しながらお弁当を食べたあと、鞄からお菓子を出して今度はそれを囲ってた。
お腹いっぱいにならなかったのかな。
学校が終わって真っ直ぐ周防くんの家に来た俺は、リビングに行くなりベッドに連れて行かれて口の中が食べられそうなほどの激しいキスをされてた。
「んっ、んぅ…」
「……湊」
「…ふ…すお、く……んんっ」
耳が塞がれてるから音が響いてお腹の下がムズムズする。周防くんの膝が反応してきた俺の中心をぐっと押してきて身体が跳ねた。
「…っ…周防くん…ダメ…」
「何で…?」
「な、何でって……あの……か、帰りたくなくなるから…」
「……あー……むしろ帰したくねぇー……」
「…?」
何て言ったか分からなくて首を傾げると、周防くんは小さく笑って首を振り俺の上から退いて腕を掴んで起こしてくれる。周防くんの手により乱された襟元を直されベッドの上で向かい合った。
周防くんが立てた膝の間に俺がいて、腰に緩く手が回されて額が触れ合う。
「今は無理でも、いつか絶対一緒に暮らそうな」
「うん。俺、料理以外も頑張って覚える」
「湊が何でも出来るようになったら、それはそれで残念だな」
「え、何で?」
「俺がしてやれる事がなくなる」
もう充分なくらいいろいろして貰ってるのに、これ以上甘やかされたら一人で立つ事も出来なくなりそう。
何と言っても周防くんは、俺が何かして欲しいなって思ったらすぐに気付いてくれる人だから。
「周防くんと一緒にいると俺、絶対ダメ人間になる」
「なればいいよ。そうしたら俺がずっと湊の傍にいて、ぜーんぶしてやるから」
「嬉しいけど、俺も周防くんにいろいろしたい」
「してくれてるよ。だから俺、笑ってられんだし」
初めて話した時から周防くんは笑ってた気がするけど、言われてみれば確かに笑い方とか変わった気がする。自然になったし、笑顔以外の表情も柔らかくなったような。
じっと見てたら両手で軽く頬を抓まれて、軽く首を振ってそれを離した俺は、昨日から周防くんに聞こうと思っていた事を聞くべく口を開いた。
「ねぇ、周防くん」
「ん?」
「俺と薫の誕生日、毎年家でお祝いしてるんだけど…周防くんの誕生日も、その日に一緒にお祝いするのって迷惑、かな」
「え?」
「半年過ぎちゃってるから今頃って思うかもしれないけど、俺もお母さんのお手伝いしてご馳走様作るし……だ、ダメかな?」
聞いてから思ったけど、これって普通は嫌だよね。小さい子なら友達の家で誕生日パーティとかあるけど、これはそうじゃなくて合同だし。
目を伏せる周防くんに良くない反応だと思った俺は慌てて首を振った。
「え、えっと…ごめんね。ダメなら…」
「駄目な訳ないだろ? …ただ、俺の誕生日を祝ってくれたのはばあちゃんだけだったから、ちょっと想像出来なくて」
「え?」
「小さい頃から両親は仕事仕事だったし、物心ついた時にはどんな日だろうと一人だったから誕生日とかぶっちゃけどうでも良かったんだよ。……でもばあちゃんと暮らすようになって、毎年当たり前のように祝われてそれがどうしても不思議で仕方なかった。何でいちいち生まれた日を祝うんだよって」
「周防くん……」
「おめでとうって言われるたびにむず痒くて、年金と内職で稼いだ金でプレゼントまで用意して、最初はばあちゃんの事馬鹿だなって思ってた。だけどいつの間にか楽しみにしてる自分がいて、今年は何くれんのかなとか柄にもなくワクワクしたりして……孝行も出来ない不良孫だったのに全身で愛情を注いでくれた。感謝しかないよ」
話を聞けば聞くほど、凄く優しくて温かいおばあちゃんだったんだなって分かる。周防くんが優しいのも、きっとおばあちゃん譲りなんだ。
「ばあちゃんが亡くなってこの二年間は誕生日とか意識した事もなかったから、湊に祝いたいって言われて嬉しかった。ずっと好きだった子が俺におめでとうって言ってくれるとか、どんな夢だって」
「夢じゃないよ」
「分かってる。湊がこうして、恋人として俺の前にいる事も夢じゃないしこの温もりも夢じゃない。……でも本当にいいのか? 湊ん家の方が迷惑なんじゃ…」
「お母さん、今度いつ神薙くん来るの? ってしょっちゅう聞いてくるんだよ。だから、迷惑とか全然思わない。あ、でも、プレゼントだけが決まってなくて……欲しいものないですか?」
毎日スマホで検索してはいるものの、今だにコレといったものが見付かっていない。薫や悠介は小さい頃から一緒にいるから好みも分かるんだけど、やっぱり好きな人にあげるものは特別だからなかなかに難しいんだよね。妥協するのだけは絶対嫌だし。
「誕生日の話した時、俺の欲しいもんは湊しか持ってないって言ったの覚えてる?」
「うん、覚えてる」
「俺が欲しいもんは湊の全部で、それはもう既に叶ってる。だから、プレゼントはいらない」
「? 俺、全部あげられた?」
「貰ったよ、ここで」
「ここ……」
「一昨日くれたろ? 湊の〝ハジメテ〟」
「……!」
こことはつまりベッドって事で、一昨日に俺が周防くんにあげた初めてのもの……そう言われて思い出したのは、俺の人生の中で一番恥ずかしかった時の事だった。
ぜ、全部って、あれの事?
気付いて真っ赤になった俺に周防くんはクスクスと笑う。
「その反応はちゃんと正解引けたな。……湊を好きになってから、ずっと湊だけが欲しかった。視線も、笑顔も、温もりも、湊自身も、全部俺のものにしたかった。湊は俺に、俺が一番欲しかったもんをくれたからもう充分なんだよ」
「でも、それなら俺だって同じだよ。周防くんの全部独り占めしたいって思ってたし、周防くんはそれを叶えてくれた。だから俺ももうプレゼントいらない」
「残念、もう用意しました」
「え!」
まさかそう返ってくるとは思わなくて俺は驚いて固まる。恥ずかしい、全然カッコつかなかった。
「俺の独断と偏見。勝手に湊に似合うって思ったのと、純粋に俺が見たいって思ったものにした」
「じゃあやっぱり俺も用意する」
「はは、張り合わなくてもいいのに」
「張り合うとかじゃなくて、同じがいいの。周防くんが用意してくれてるなら、俺もしたいだけ」
「そっか。じゃあ湊が思う、俺に似合いそうなもんにして」
「が、頑張ります」
俺はあんまりセンスいい方じゃないしなかなかにハードルが高いけど、周防くんの為に精一杯選びたい。
頷いて意気込んだ俺の腰を抱き上げ膝に乗せた周防くんは、そのまま後ろに倒れて目を瞬く俺を見上げると微笑んで自分の唇を人差し指で差す。
一瞬の間のあと意味に気付いた俺は、再び頬が熱くなるのを感じながら示された場所へ口付けた。
周防くんは俺を助けてくれただけなのに……そもそも俺がちゃんと三年生に言えてれば、周防くんが手を上げる事もなかったんだよね。三年生の言う通り、俺は情けなさすぎる。
今日はもうこのまま帰らないといけないらしく、誰もいない昇降口まで見送りに来た俺はいつかの時みたいになかなか手を離せないでいた。
「湊、予鈴鳴るぞ」
「うん…」
「メッセージ送るし、電話もするから。学校帰り遊びに来てもいいし」
「うん……」
「みーなーと」
「……学校で周防くんに会えないの、寂しい」
今の俺が嬉々として学校に行くのは周防くんがいるからだ。もちろん勉強だって大事だし、疎かにはしないようにしてるけど、それでも周防くんと会えるっていうのが一番大きい。
俯く俺にクスリと笑った周防くんは宥めるみたいに頭を撫でると額に口付けてきた。
「可愛いな。湊がそうやって素直に言ってくれんの嬉しいよ」
「……またそうやって甘やかす…」
本当は自分でも我儘言ってるって分かってる。どう足掻いたってこれは決定事項で覆せないから俺が駄々を捏ねても仕方ないって分かってるのに、周防くんは言葉通り嬉しそうだから更に言い募ってしまいそうだ。
「湊を甘やかすのが俺の生き甲斐だからな」
「たまには怒ってくれないと、俺もっと我儘になる」
「いいよ、なっても。全部聞くから」
「もー……ズルい」
優しい声と笑顔が俺の言葉を全部肯定する。同い年なのに大人な周防くんには勝てるはずもなくて、子供みたいな事を言いながら抱き着くと周防くんも腕を回して応えてくれた。
「今日は来る?」
「うん、行く」
「んじゃ、待ってっから」
「うん」
頷き、顔を上げて今の体勢なら背伸びすれば届く周防くんの顎に軽くちゅってするとすぐに唇が塞がれて、俺たちは誰もいないのをいい事に予鈴が鳴るまでキスしてた。
「湊くん、元気出して?」
「一週間なんてすぐだよ、すぐ」
お昼休み、周防くんがいないからおいでって佐々木さんのグループに誘われた俺はしょんぼりしながらお弁当を食べてた。今日作って来たお弁当、周防くんの分は本人に渡したから今頃食べてくれてるだろうな。
もそもそと食べてる俺を、佐々木さんや野間さんがそう言って慰めてくれる。
「ありがとう」
「それにしても、三年生もひどいよね」
「れっきとしたセクハラよ、セクハラ」
「しかも触られたんでしょう?」
「痴漢も追加だわ」
落ち込む俺の代わりに怒ってくれてるこの子たちは恋人として何をすればいいかって相談した女子たちで、漫画を貸してくれた佐々木奈央さん、お菓子をくれた野間かすみさん、そのままの俺でいいって言ってくれた七原舞さん、椅子を勧めてくれた大宮二葉さんの四人だ。
あの日以降話し掛けてくれて、デートスポットとか今恋人の間で流行ってるものとかを良く教えてくれる。
みんな優しくて可愛いんだよ。
「男同士って知ってて試させろって言うやつ何なんだろうね」
「興味あるって事はそういう事なんじゃない?」
「実はってやつ? でも人の恋人に手を出そうとする時点でアウトだね」
「レッドカードもんよ。まぁこれだけ可愛かったら、気になるのも仕方ないけど」
「!」
大宮さんの細い指が俺の頬を撫でふわりと微笑まれた。大宮さんってクールであんまり表情が変わる事はないんだけど、美人さんだからこういう事されるとドキッとしてしまう。
「赤くなってる、可愛いー」
「二葉、無闇矢鱈に色気を振り撒くのやめなさい」
「別に振り撒いてないけど」
「ウブな湊くんには刺激が強いんだって」
女の子って凄いなぁ。俺に少しでも色気があれば、周防くんの大人っぽさに少しはついていけて、メロメロに出来るかもしれないのに。
「色気ってどうしたら出るんだろ……」
ポツリと零したらみんなが驚いた顔をして俺を見てきた。
なんか変な事言ったかな。
「湊くん。湊くんはそのままでいいんだよ」
「そうそう。ありのままでね」
「むしろそれが大正解だから」
「変わらずにいて」
つまりは満場一致で俺には色気がないって事ですね。
納得出来ないながらも頷いた俺ににこっと笑った四人は、おかずを交換しながらお弁当を食べたあと、鞄からお菓子を出して今度はそれを囲ってた。
お腹いっぱいにならなかったのかな。
学校が終わって真っ直ぐ周防くんの家に来た俺は、リビングに行くなりベッドに連れて行かれて口の中が食べられそうなほどの激しいキスをされてた。
「んっ、んぅ…」
「……湊」
「…ふ…すお、く……んんっ」
耳が塞がれてるから音が響いてお腹の下がムズムズする。周防くんの膝が反応してきた俺の中心をぐっと押してきて身体が跳ねた。
「…っ…周防くん…ダメ…」
「何で…?」
「な、何でって……あの……か、帰りたくなくなるから…」
「……あー……むしろ帰したくねぇー……」
「…?」
何て言ったか分からなくて首を傾げると、周防くんは小さく笑って首を振り俺の上から退いて腕を掴んで起こしてくれる。周防くんの手により乱された襟元を直されベッドの上で向かい合った。
周防くんが立てた膝の間に俺がいて、腰に緩く手が回されて額が触れ合う。
「今は無理でも、いつか絶対一緒に暮らそうな」
「うん。俺、料理以外も頑張って覚える」
「湊が何でも出来るようになったら、それはそれで残念だな」
「え、何で?」
「俺がしてやれる事がなくなる」
もう充分なくらいいろいろして貰ってるのに、これ以上甘やかされたら一人で立つ事も出来なくなりそう。
何と言っても周防くんは、俺が何かして欲しいなって思ったらすぐに気付いてくれる人だから。
「周防くんと一緒にいると俺、絶対ダメ人間になる」
「なればいいよ。そうしたら俺がずっと湊の傍にいて、ぜーんぶしてやるから」
「嬉しいけど、俺も周防くんにいろいろしたい」
「してくれてるよ。だから俺、笑ってられんだし」
初めて話した時から周防くんは笑ってた気がするけど、言われてみれば確かに笑い方とか変わった気がする。自然になったし、笑顔以外の表情も柔らかくなったような。
じっと見てたら両手で軽く頬を抓まれて、軽く首を振ってそれを離した俺は、昨日から周防くんに聞こうと思っていた事を聞くべく口を開いた。
「ねぇ、周防くん」
「ん?」
「俺と薫の誕生日、毎年家でお祝いしてるんだけど…周防くんの誕生日も、その日に一緒にお祝いするのって迷惑、かな」
「え?」
「半年過ぎちゃってるから今頃って思うかもしれないけど、俺もお母さんのお手伝いしてご馳走様作るし……だ、ダメかな?」
聞いてから思ったけど、これって普通は嫌だよね。小さい子なら友達の家で誕生日パーティとかあるけど、これはそうじゃなくて合同だし。
目を伏せる周防くんに良くない反応だと思った俺は慌てて首を振った。
「え、えっと…ごめんね。ダメなら…」
「駄目な訳ないだろ? …ただ、俺の誕生日を祝ってくれたのはばあちゃんだけだったから、ちょっと想像出来なくて」
「え?」
「小さい頃から両親は仕事仕事だったし、物心ついた時にはどんな日だろうと一人だったから誕生日とかぶっちゃけどうでも良かったんだよ。……でもばあちゃんと暮らすようになって、毎年当たり前のように祝われてそれがどうしても不思議で仕方なかった。何でいちいち生まれた日を祝うんだよって」
「周防くん……」
「おめでとうって言われるたびにむず痒くて、年金と内職で稼いだ金でプレゼントまで用意して、最初はばあちゃんの事馬鹿だなって思ってた。だけどいつの間にか楽しみにしてる自分がいて、今年は何くれんのかなとか柄にもなくワクワクしたりして……孝行も出来ない不良孫だったのに全身で愛情を注いでくれた。感謝しかないよ」
話を聞けば聞くほど、凄く優しくて温かいおばあちゃんだったんだなって分かる。周防くんが優しいのも、きっとおばあちゃん譲りなんだ。
「ばあちゃんが亡くなってこの二年間は誕生日とか意識した事もなかったから、湊に祝いたいって言われて嬉しかった。ずっと好きだった子が俺におめでとうって言ってくれるとか、どんな夢だって」
「夢じゃないよ」
「分かってる。湊がこうして、恋人として俺の前にいる事も夢じゃないしこの温もりも夢じゃない。……でも本当にいいのか? 湊ん家の方が迷惑なんじゃ…」
「お母さん、今度いつ神薙くん来るの? ってしょっちゅう聞いてくるんだよ。だから、迷惑とか全然思わない。あ、でも、プレゼントだけが決まってなくて……欲しいものないですか?」
毎日スマホで検索してはいるものの、今だにコレといったものが見付かっていない。薫や悠介は小さい頃から一緒にいるから好みも分かるんだけど、やっぱり好きな人にあげるものは特別だからなかなかに難しいんだよね。妥協するのだけは絶対嫌だし。
「誕生日の話した時、俺の欲しいもんは湊しか持ってないって言ったの覚えてる?」
「うん、覚えてる」
「俺が欲しいもんは湊の全部で、それはもう既に叶ってる。だから、プレゼントはいらない」
「? 俺、全部あげられた?」
「貰ったよ、ここで」
「ここ……」
「一昨日くれたろ? 湊の〝ハジメテ〟」
「……!」
こことはつまりベッドって事で、一昨日に俺が周防くんにあげた初めてのもの……そう言われて思い出したのは、俺の人生の中で一番恥ずかしかった時の事だった。
ぜ、全部って、あれの事?
気付いて真っ赤になった俺に周防くんはクスクスと笑う。
「その反応はちゃんと正解引けたな。……湊を好きになってから、ずっと湊だけが欲しかった。視線も、笑顔も、温もりも、湊自身も、全部俺のものにしたかった。湊は俺に、俺が一番欲しかったもんをくれたからもう充分なんだよ」
「でも、それなら俺だって同じだよ。周防くんの全部独り占めしたいって思ってたし、周防くんはそれを叶えてくれた。だから俺ももうプレゼントいらない」
「残念、もう用意しました」
「え!」
まさかそう返ってくるとは思わなくて俺は驚いて固まる。恥ずかしい、全然カッコつかなかった。
「俺の独断と偏見。勝手に湊に似合うって思ったのと、純粋に俺が見たいって思ったものにした」
「じゃあやっぱり俺も用意する」
「はは、張り合わなくてもいいのに」
「張り合うとかじゃなくて、同じがいいの。周防くんが用意してくれてるなら、俺もしたいだけ」
「そっか。じゃあ湊が思う、俺に似合いそうなもんにして」
「が、頑張ります」
俺はあんまりセンスいい方じゃないしなかなかにハードルが高いけど、周防くんの為に精一杯選びたい。
頷いて意気込んだ俺の腰を抱き上げ膝に乗せた周防くんは、そのまま後ろに倒れて目を瞬く俺を見上げると微笑んで自分の唇を人差し指で差す。
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