噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

ミヅハ

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危険な人たち

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 俺と周防くんが本当の恋人になって一週間が経った。
 最初は心配してくれてた秀と慎也も、今では普通に周防くんと話したり昼休みも笑顔で送り出してくれるようになって、俺の友達の中から少しずつ悪い噂が薄れていってるようで嬉しい。
 もっとたくさんの人が周防くんのいいところを知ればいいのになって思う反面、自分だけが知っていたいとも思って……俺、結構ヤキモチ妬きみたいだ。

「神薙くん、ノートは?」
「あー……やってねぇ」
「進学に響くよ」
「ギリでも足りてりゃいいんだよ」
「それってどうなの」

 先生に頼まれた事を終えて教室に戻ってくると、周防くんと提出するノートを集めている女の子─確か丹羽さん─が仲良さそうに話していた。俺のクラスはもうほとんどの人が周防くんに対して普通に接してて、こういう光景もよく見るようにはなったけど…モヤモヤしちゃうのは仕方ない、よね?
 扉の外に立ったままだった俺に、気付いた周防くんがにこっと笑って手招きする。

「湊、おかえり」
「ただいま」

 近付いた俺の腰元に抱き着く周防くんの頭を撫でてると、丹羽さんがやれやれと溜め息をついた。

「ほんと、態度変わりすぎ。声のトーンまで違うし」
「ちょっとー、教室でイチャつくのやめてくれるー?」
「リア充め」
「どっかにいい男いないのかな」
「俺も彼女欲しい…」

 それからこれも日常になりつつあって、周防くんが遠慮なく俺にくっついてくるからこうやって揶揄われる事も増えてきた。揶揄うって言っても嫌な感じじゃないし、むしろ恥ずかしさの方が大きくて俺はいつも顔が赤くなるんだけど、どうしてか周防くんはそんな俺を見たいらしくてしょっちゅうこんな事をしてくる。
 触れ合えるのは嬉しいけど、やっぱり照れ臭い。

「す、周防くん。授業の準備しないと…」
「まだ予鈴鳴ってないから平気だよ」
「でも…みんな見てるから……」

 窓際の一番後ろが周防くんの席で、俺の前には周防くんと窓しかないから必然的にクラスメイトがいる方には背中を向けてるんだけど、みんなの視線がこっちを向いてるって分かるくらいムズムズしてる。

「湊は恥ずかしがり屋だな」
「周防くんが気にしなさ過ぎるんだよ」
「そりゃそうだろ。俺は湊しか見てないんだし」
「…!」

 ど、どうしてそんな事を恥ずかしげもなく言えるのか俺には理解出来ない。益々顔に熱が集まるのを感じて顔を背けると周防くんの手が頬に触れ無理やり向き合わされた。

「す、周防くん…」
「はは、かーわいー」

 見られたくないからよそを向いたのに五秒も経たずして元に戻され笑顔の周防くんに頭を撫でられる。
 最終手段として両手で周防くんの顔を覆うと更に笑われた。

「ってか、何か神薙くんのデレ度増してない?」
「そう? あんなもんじゃない? 最初からベタ惚れって感じだったじゃん」
「クソが、爆発しろ」
「俺もこの際彼氏でもいいから癒しが欲しい…」
「え…」

 俺もそれは感じてた。何なら、周防くんからちゃんと好きって言われてからスキンシップ増えたなって思ってたし。
 それからこれも最近気付いたんだけど、周防くん、他の人に話す口調と俺に話す口調がちょっと違う。特別扱い…なのかな。それなら嬉しい。
 頬を挟む手を引き剥がそうと手を握ったけど力で敵うはずもなく、結局周防くんは予鈴が鳴るまで離してくれる事はなかった。



 放課後、ごみ捨てを終えた俺は職員室に呼ばれた周防くんを迎えに行くため階段を降りてたんだけど、途中で薫の声が聞こえて思わず足を止める。別に気にする事ないのに、何となく動けないでいるとどうやら周防くんと話してるようだった。

「神薙くんさ、前に二年前がどうとかって言ってたよね」
「あ? …言ったけど」
「私、それがずーっと引っ掛かってたのね? それで最近やっと思い出した事があって……神薙くん、二年前って金髪じゃなかった?」
「…何で知ってんだ?」

 二年前って確か、周防くんが俺と会ったって言ってた時だよね。俺には全然覚えがないんだけど、薫は知ってるような口振りだ。

「やっぱりそうなんだ。…神薙くん、河川敷で喧嘩してなかった? 神薙くん一人なのに五人くらいに囲まれてて、わりとボコられてた」
「………」
「おまわりさんこっちー! って誰かが叫んだ事覚えてない?」
「……覚えてる」
「あれ、私。ちなみにそのあと傷の手当てもしたんだけど、それは?」
「…それもお前だったのか。今とずいぶん雰囲気違うな」
「そりゃ二年も立てば女は変わるわよ。あの頃は髪も湊と同じくらいの長さだったし、良く間違われたわ」

 心臓がドクドクと脈打ってる。
 俺にはない、周防くんと会ったっていう記憶が薫にはある。喧嘩で無勢になってる周防くんを助けて、傷の手当までした。

『湊は俺の恩人だから』

 二年前、俺と薫は今と同じように背も体格も髪型も似てて、初対面の人なら最初は絶対に間違われてた。似たような格好をして後ろを向いていたら親でさえ分からないのは今も変わらないけど、当時はそれが顕著だったんだよね。
 だから仮に周防くんが俺と薫を間違えてても仕方なくて。
 どうして俺だと思ったのかは分からないけど、周防くんの本当の恩人は薫だったって事だ。それなら俺に覚えがないのも納得出来る。

「あー、スッキリしたー。神薙くん、髪色も身長も体格も違うからなかなか思い出せなかったんだよね」
「いや、あの一回を思い出しただけでもすげぇだろ。記憶力どうなってんだ」
「人の顔を覚えるのは得意なの」
「あっそ」
「何その反応! それが恩人に対する態度?」

 周防くんが本当に好きになった人は薫で、きっと姉弟で似てたから勘違いしちゃったんだね。
 ……そうだよ。俺が誰かに恩人だなんて言われるような事、出来るはずがない。俺はいつだって薫の影に隠れてビクビクしているような情けない男なんだから。
 それに周防くんのあの反応、二年前の恩人は俺じゃなかったって気付いたはず。それなら俺は、ここで身を引くべきなんじゃないかな。

「……周防くんと…離れられる…?」

 悠介は薫が好きで、周防くんも薫だって分かってたら薫に告白してあんな風に甘やかしてて……う、やだな。周防くんと関わってもいない、何も知らない状態だったらおめでとうって言えたのかもしれないけど、今は二人が並ぶ姿さえ見れないと思う。
 だってもう、周防くんの優しさと温もりを知ってしまった。

「………」

 これ以上楽しそうな二人の話を聞いていられなくて、俺は一度階段を上がり反対側にあるもう一つの階段から降りると誰にも何も言わずに学校を飛び出した。
 この時ちゃんと話を聞いてれば、あんな事にはならなかったのに。



 とぼとぼと歩きながら俺は何度目かに震えたスマホを見て溜め息を零した。さっきからずっと周防くんから連絡来てて、どこにいるとか、電話出てとかひっきりなしに届いた通知が溜まっていく。
 周防くんは俺が話を聞いてたのを知らないし当たり前に心配してくれてるけど、正直今は話したくなかった。
 絶対みっともなく縋り付く。俺だけを見てって言いたくなる。
 でももし周防くんが薫を選ぶなら、俺はちゃんと受け入れるつもりだ。それが俺の我儘を聞いてくれた周防くんに返せるせめてものお礼だから。

「しばらく落ち込むだろうな……」

 とにかくこの通知をどうしようか考えていると、誰かが前に立ったのが分かり顔を上げる。そこには金髪と緑髪のガラの悪そうな男の人が二人いて、眉を顰めて俺を見てた。

「やっと一人になったな」
「アイツ、番犬かよってくらい張り付いててウゼェんだよ」
「まぁまぁ。…なー、お前だろ? 神薙の大事なもんって」
「…え……?」

 状況が理解出来なくて困惑してると金髪の方が俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。さっきの今でその問い掛けには答えられずにいると、緑髪の方が嫌そうな顔で舌打ちする。

「っつーかアイツ男が好きなんか? きめぇな」
「どうでもいいだろ。さっさと連れてこうぜ」
「痛い目遭いたくなきゃ大人しくしてろよ」

 ヒョロ男とツンツン男とは目付きが全然違う。全身が怯えて声が出なくて手からスマホが落ちた。それを拾った緑髪が画面を見てニヤリと笑う。

「確定したな。こんな心配されて、特別じゃねぇ訳ねぇよな」
「いい子だから、俺らに着いて来な」

 同じ言葉なのに響きが違ってまるで別の単語に聞こえるくらい背中がゾワッとした。おもむろに金髪の手が肩に回され、つんのめりながらも足を動かしたのはただただ怖かったから。
 どうしよう。きっとこの人たちは、あの二人が言っていた周防くんに仕返ししたい人たちだ。
 スマホも取られて抵抗も出来なくて、俺は二人の間に挟まれてどこかへ連れて行かれる。人通りの少ない場所を選んでるのか薄暗い道ばかりを行くせいで、もう俺もどこを歩いているのか分からない。

「はい、とーちゃーく」

 どれくらい歩いたのか、倉庫みたいなところに連れて来られた俺は中に入るなり腕を縛られボロボロのソファに座らされる。今気付いたけど、中には五人くらい人がいて俺を睨み付けてた。
 隣に腰を下ろした緑髪が俺のスマホを操作してニヤリと笑う。必要ないと思ってロック設定してなかったのがアダになった。

「んじゃ、騎士様召喚といきますかね」

 その言葉でやっと自分がどうして連れて来られたのかを理解した。
 俺は、周防くんをおびき出すための餌なんだ。
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