小さな兎は銀の狼を手懐ける

ミヅハ

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番外編

銀の狼と小さな兎は未来を望む【御礼SS②】※

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「上総、もうすぐ卒業式」

 ある日の午後、俺の休講と上総の休みが重なり、俺は上総の部屋に遊びに来ていた。
 社会人だから忙しいはずなのに、上総の部屋はいつ行っても綺麗でいい匂いがする。これは人工的なもんだけど、上総の雰囲気に合った淡い良い香りだ。
 早い時間から夕飯の仕込みをしている上総をソファの背凭れから眺めていた俺が、最近ずっと考えていた話のきっかけを口にするとキョトンと不思議そうな顔をされた。

「知ってるよ?」
「卒業祝い」
「欲しいものでもあるのか?」
「ある」

 間髪入れずに返した俺に、上総は真剣に聞いてくれるつもりなのか、手を洗い拭きながら近付いてきた。

「何?」
「これ」
「?」
  
 ポケットから折り畳まれた紙を出すと、それを広げて上総に渡した。
 それを見た上総が驚いた顔をする。
 上総に見せたのは、賃貸マンションの間取り図だ。2LDKで二人で住むには充分な広さがある。

「一緒に住まねぇ?」
「……」
「俺も就職するし、時間減んのは勘弁」

 これ以上会う時間が減るはどうしても避けたい。
 ずっと間取り図を見たまま何も言わない様子に不安になり視線を上げると、気付いた上総がふっと笑って紙をヒラヒラさせた。

「これは、卒業祝いにはならないだろ」
「……嫌って事か?」
「違うよ。朔夜が卒業したらオレも言おうと思ってたから。一緒に住もうって」
「え……」

 上総は紙をテーブルに置くと、ソファに座る俺の膝の上に跨って座る。肩に凭れかかる少し髪の伸びた頭を撫でると甘えるように頬を擦り寄せてきた。

「これでも卒業までは我慢してたんだぞ。朔夜の部屋から帰る時とか、朔夜がここから帰って行く時とか、すっごい寂しかったんだからな」
「ん」
「卒業したら絶対一緒に暮らすって、そう決めてた……でも、先越されちゃったな」
「……ごめん」
「何で謝るんだ。嬉しいよ、ありがとう」

 少し悔しそうだったから思わず謝ったら笑ってたけど、上総は意外に男らしいところがあるから、自分から言いたかった気持ちはあるんだろうな。
 俺は上総の顎に指をかけ上向かせると、小ぶりな唇に自分の唇を重ねる。数回啄んでから離すと、にこっと笑って髪を撫でられた。

「他に欲しいもんないのか?」
「……上総」
「それ、どういう意味で言ってるんだ?」
「上総がいるならいい」
「そっか」

 欲がないなと笑った上総が立ち上がろうとしたからその腰を抑えると、すぐに怪訝な顔をされる。
 服の裾から手を入れると慌てて止められた。

「こら」
「ん?」
「俺は夕飯の支度をするんだって。さっきの途中なんだからな」
「やだ」
「やだじゃない。お前が基本的に食べない派なのは知ってるけど、オレはキッチリ食べる派なんだ」
「上総が食べたい」
「お前のオオカミスイッチはどこにあるんだ」

 上総が美味いのが悪い。
 腕を突っ張ろうとする上総の首筋に噛み付くとピクッと震えた。何度か甘噛みを繰り返したら抵抗していた手から力が抜けるのが可愛い。

「……見えるとこに痕つけたら怒るからな」
「噛むのは?」
「一回だけ」

 いいんだ。
 上総はこうして五回に一回は許可してくれる。噛んでる俺が言うのもなんだけど、わりといてぇと思うんだ、アレ。
 とりあえず、食べてもいいって事らしいから遠慮なくいただきます。






 いつ見ても絶景だな。

 俺は今、上総のベッドに仰向けに寝転がって、俺の上で全身を赤く染めて、震えながら声を抑えてる上総を見てる。
 寮で声抑える癖がついたみてぇで、今でもこうやって口元隠すんだよな。
 ……ん? 我慢しなかったのかって? 上総がすぐ傍にいんのに、そんなもん出来るわけがない。

「上総、声」
「…っ、ゃ、だ……ぁっ、まだ、時間……ンッ」
「誰にも聞こえねぇから」
「あ、ぁ、ダメ、これ…深い…っ」
「まだ挿入るだろ?」

 地道に根元まで挿れられるようにしたんだ、もっと深くまでいけるはず。
 そう思った俺は腰を掴んで下から突き上げた。
 途端に背をしならせる上総に舌舐りする。

「あっ、まっ、て、朔夜っ、そんなに、無理…っ」
「無理じゃねぇって、ほら」
「ひぁっ……あ、ぅ、や、あ、ぁ、んんっ…!」

 上総は軽いから、本人が出来なくても俺が腰を掴んで上下させながら突けばもっと奥まで入る。それが感じ過ぎてキツいのか上総は泣きながら首を振った。
 ……やべぇ、すげぇそそる。

「そこ、や、だめ…っ…さく、や……ッ」
「ん、知ってる」
「あ、あ、だめって、んっ、も、イっちゃ…っ」

 俺にされるがままで声を上げる上総は、普段の口調と変わって少しだけ幼くなる。
 いつもの真っ直ぐな話し方も好きだけど、俺にしか見れない、見た目相応の口調と仕草に変わる上総が堪らなく好きだ。
 すげぇ可愛い。

「さくや、さくや、ぁ、やぁ、も……ッ、あっ、ん、ンンッ!」
「……っ…」

 ガツガツと奥ばかり攻めると、上総は俺の腹に手をついて身体を震わせながら果てる。締め付けられて俺も遅れて出せば、上総が倒れ込んできた。
 回数を重ねていくうちに上総は中だけでもイケるようになって、今じゃほぼ毎回中でイってる。
 指でもイケるようになったし。

「上総」
「…んっ……も、上は無理……」
「前?」
「……前」

 一度引き抜き入れ替わるようにして上総を寝かせると、先にゴムを替えて上総に覆い被さる。
 上から見下ろすと、上総が目元を潤ませて俺に腕を伸ばすから、俺は両肘を上総の顔の横について口付けた。

「……ん……」

 上総は相変わらず口ん中が弱い。っつーかむしろ、全身で感じられるようになったからか、感度が増してる気がする。
 口ん中舐めるたんびにビクビクしてるくせに、一所懸命応えようとして舌絡めてくるし、小さい口で必死に俺の唇食んだりして……マジで可愛い。
 この人、いくつになっても可愛いんだけど。会社で変な奴にちょっかい掛けられたりしてねぇだろうな。

「足、広げて」
「…………」

 唇を触れ合わせたままそう言えば、恥ずかしがりながらも広げてくれる。
 俺は片手で自身を支えて奥の窄みにあてがうと、ぐっと腰を進めた。

「…ンッ…」

 さっきまで挿入ってたし、一気に突っ込んでもいいんだけど、そうすると上総が怒るからな。一瞬息止まるからやめろって。

「……さ、くや……」
「何、上総」
「ずっと一緒に……いてくれるか……?」

 半分くらいまで収めたところで上総が不安そうに聞いてくるから、俺は溜め息をついて上総の耳の下に口付ける。そこから唇を這わせ鎖骨下までいくと強く吸って痕を残してから答えた。
 前にも言った事、あんだけどな。

「一生離さねぇっつったろ」
「っひあ、ぁ、ん、んん…! ……っ…や、ぁ………」

 言葉途中で一気に突き入れ思いっきり噛み付くと、上総の身体が大きく跳ねた。どうやら出さずに後ろだけでイったらしく、俺を締め付けながらビクビクしてる。

「…は…っ……ぁ、…ぅ…っ」
「……大丈夫か?」
「……っ……だいじょ、ぶ……」
「……上総」
「何……っあ、待って…っ」

 噛み跡を舐め、腰を揺らしながら耳元に唇を寄せる。軽く噛んで舐めるとすぐ顔を逸らしたけど、耳の後ろから首にかけてのラインがすげぇ色っぽくて目を細めた。

「上総、上総」
「や、め、そこで、呼ばな…ぃで…っ…」
「好きだ、上総」
「ンッ、……俺、も、好き……朔夜……っ」
「好きだよ、俺の小さなウサギ………愛してる」
「……っ、ぁ、あ、それダメ……!」

 俺の腕の中で甘く可愛く鳴く上総は俺だけのものだ。
 だから、これ以上は見せてやんねぇ。





 散々俺に好き勝手された上総は、今は俺の腕を枕にしてあどけない顔をして寝ている。
 一緒に住んだら、この寝顔も毎日見れんだな。

「……早く卒業してぇ」

 上総は俺には勿体ないくらいいい男だ。ちっせーしほせーし童顔だけど、しっかりしてるしダメな時はちゃんと叱ってくれる。
 一個しか違わねぇけど、そういうとこ大人だよな。

 泣いてたせいか、少しだけ腫れぼったくなった目尻を人差し指で撫でると、瞼がピクリと動いて上総が目を開けた。

「……今何時?」
「九時」
「結構寝てたな……」

 儚げな見た目に似合わない豪快な欠伸をした上総は、まだ眠いのか目を擦りながら俺に擦り寄ってくる。
 柔らかな髪が頬に当たって擽ったい。

「……なぁ、朔夜」
「何」
「引っ越したら、まず最初に何買おっか」
「………お揃いのもん」
「え?」
「指輪でも、ネックレスでも、ピアスでもいい。上総とお揃いのもんが欲しい」
「オレ、ピアスホールは開いてないんだけど」
「俺が開けてやる」

 後れ毛を避けて形のいい耳を露にして耳朶に軽く触れる。何色がいいかな。上総ならちっせーやつの方が合うだろうな。
 ウサギだから赤とか。

「じゃあそれ、卒業祝いにするか。オレが決めていいのか?」
「いいよ」
「楽しみにしててな」

 俺よりも嬉しそうな上総に微笑んだ俺は、腕の中にすっぽりと収まる小さな身体を抱き締め息を吐いた。
 この人が傍にいてくれる事が何よりも嬉しいのに、こうやっていつも俺を喜ばせてくれる上総に、俺は何が返せんだろうな。

「上総は?」
「え? オレはお祝い事なんかないぞ?」
「贈る」
「って言われてもなぁ……」

 上総は、俺が仕送り貰ってるからか基本的に自分の分は出すし何かを強請ることもない。バイトしてんのに、それは俺のために使えって言ってくる。それが俺にはどうしようもなくもどかしい。
 ガキなんだって思い知らされて、隣に立ちてぇのに上総はいつも一歩先に行ってて。
 でも就職したらやっと対等になれる。俺があげられるもの、出来る事何でもしてやれる。

「朔夜がいるから、特にないな」
「……欲なさ過ぎだろ」
「そんな事ないって。だってほら、オレが一番大切なのは朔夜だし、朔夜が幸せならいいかなって」
「結局自分は二の次か」
「違うよ。朔夜が幸せだとオレも幸せだから、どっちかというとウィン・ウィン?」
「何だそれ」

 言いてぇ事は分かるけど、やっぱり物欲ねぇじゃん。
 ニコニコと可愛く笑う上総にしょうがねぇ人だなと思いつつ、俺は上総が与えてくれる幸せを噛み締めた。





 ───卒業後、引越し当日夜。

「似合うじゃん」
「まだヒリヒリしてんだけど……」
「慣れるまではそんなもんだって」

 上総は何事も経験だっつって、結局お揃いのピアスを選んだ。俺にはシルバーのスタッドピアスで、上総は黄色の同じやつにしたみたいなんだけど……何で赤じゃねぇのか聞いたら、俺の右目と同じ色だったからだって。
 ホント、この人のこういうとこマジで心臓に悪い。
 素でやってるから余計に。

「一日一回消毒。あんま触らない。最低一ヶ月は外さねぇ事。少しでもおかしいと思ったら言えよ」
「う、うん」

 上手く穴が定着してくれりゃいいんだけどな。
 俺は鏡で自分の耳朶をつついている上総を後ろから抱き締めた。左手を掴み驚いた顔をする上総の目の前で、薬指に真ん中が捻れたような形のシルバーの指輪を嵌める。良かった、サイズ合ってた。

「……え?」
「バイト代三ヶ月分」
「それは婚約指輪であって……え?」
「絶対外すなよ」
「…………朔夜!」
「……っ…」

 じっと自分の指に嵌った指輪を見ていた上総がいきなり振り返って抱き着いてきた。結構な衝撃に面食らったけど、すげぇ力でしがみつく上総の背中をとりあえず撫でる。

「バイト代、自分のために使えって言ったのに」
「自分のためだろ?」
「ホントにお前は……」
「何」
「ありがとう」

 顔は見えねぇけど、上総の声は嬉しそうだ。
 もし上総が指輪選んでたらネックレスにするつもりだったけど、こんだけ喜んでくれんなら贈った甲斐がある。
 何か不安がってたしな。
 俺は自分の薬指にも光る指輪を見て目を細め、これ以上ないくらい身体を密着させてくる上総を強く抱き締めた。

 荷解きしなきゃいけねぇけど、まぁ明日でいいだろ。





HAPPY END.
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