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兎は狼と特訓する※
しおりを挟むあの日以来、朔夜からの特訓という名のスキンシップが増えた。
オレはどうやら本当に口の中が弱いらしくて、指だろうが舌だろうが撫でられると自分の意思に反して身体が震える。
朔夜にはゆっくり慣れて行こうって言われたけど、あれって本当に慣れるものなのか?
世の中の恋人はみんなあんな事してんの? すごいな。
オレはレベル1どころか0からスタートなんだから、手加減して欲しいって思うのは今更だろうか。
……うん、今更だろうな。朔夜はきっと聞いてくれないだろう。
『可愛いうさぎは、獰猛なオオカミからは逃げらんねぇから』
『絶対離してやんねぇ』
あの時の朔夜、マジで肉食獣みたいでちょっと怖かった。
普段は気怠そうな眠そうな目してるのに、ちょっとでもそういう雰囲気になるとギラつくのやめて欲しい。
朔夜のレベル、高すぎる。
特訓四日目。
「…っ、ふ、ぁ…んっ」
今日も今日とて、オレは朔夜のベッドの上で持ち主の膝の上に横向きで座り、点呼も済ませた寝る前の少しの時間を使って慣れる練習をしてるんだけど…この声、どうにかなりませんか?
堪えようと思っても勝手に出てきて死ぬほど恥ずかしい。
それに体格差がありすぎるせいか、朔夜の舌デカい気がする。
だからほぼ口の中が埋まるというか…触れられる範囲が広い。
舌先がオレの舌に触れ、無意識に擦り寄せると朔夜が吐息で笑ったような気がした。
朔夜の舌が上顎を撫でる。瞬間、全身に電流が走ったみたいな感覚に襲われてオレの身体が戦慄いた。
「っンン…! …んぅ、ッ…!」
「……先輩」
「…は、ぁ……っん、ゃ、も、無理…!」
唇が離れた途端大きく息を吸うオレに対して、まだキスをしようとしてくる朔夜に首を振り口元を手で隠す。呼吸が荒いから指で塞ぐ程度だけど、効果はあったらしく朔夜の顔が離れていった。
身体が熱くて下腹が変な感じする。
「さく、や……」
「……先輩」
「…?」
「勃ってる」
「……へ…?」
縋るように朔夜の胸元に顔を埋めて必死で息を整えていると、耳元に聞き慣れない言葉が聞こえて目を瞬く。
たってる? 誰が? 何が?
「…っ…ちょ、朔夜…!」
「キス、気持ち良かった?」
「ま、待って、ダメだって……あ…!」
困惑するオレをよそに朔夜はあろう事かオレの中心を撫で上げる。たってる…って、これの事!?
意識すれば確かに反応してるのが分かるけど、だからってなんで触る?
甘さを含んだ朔夜の声がそんなエロい事を言いながら、遠慮も躊躇いもなく膨らんだそれを下着の中から出して握った。
「…っ、や、うそ…なんで…」
「このままじゃ苦しいから」
「いい、いらな…ぁ、う、動かすなぁ…っ」
「先輩はここもちっさいんだな」
「ぁ、ん…うるさぃ…っ…や…」
し、信じられない…! 何でそんなに平然と人のモノを触れるんだ!
そりゃ朔夜は身体もデカいからアッチもデカいのかもしんないけど、だからっていちいち口にしなくてもいいじゃんか…!
そんな文句を心の中で言っている間にも、オレは朔夜の手によって追い立てられていく。
「ん、ん、っ…音、やだぁ…っ」
「うん」
「うんじゃな…ッあ、あ…ぅ…」
何でこういう時だけ返事のみなんだコイツは。
誰かの手で燻ってる疼きを肥大させられる感覚が少しだけ怖くて、オレは腕を伸ばして朔夜の首に抱きつく。
「ぁ、あ、さ、くや、朔夜…っ」
「…先輩…」
「やぁ、あ、も、出ちゃ…っ…!」
「……上総」
「…っ…ゃ、あ、あ…っ……ん、ンン…ッ!」
耳元で低く囁かれた自分の名前が他の誰が呼ぶよりも特別な音に聞こえて、腹の奥でジワジワと膨らんでいた熱が一気に弾けオレは朔夜の手の中に吐き出した。
ぎゅうっと朔夜にしがみつき余韻に耐えていると、大きな手が背中を撫でてくれる。
「……朔夜…」
「ん?」
「もっかい、名前呼んで」
「上総」
「…オレ、朔夜に名前呼ばれんの…好きかも…」
〝上総先輩〟もいいけど、呼び捨ては父さん以外しないし新鮮だ。しかも朔夜の声、低くて耳に心地良いからこの声で呼ばれると胸がキュンってなる。
オレの背中側で汚れた手を拭いていた朔夜が小さく笑った気配がした。
「でも先輩は、小さくて可愛いうさぎだから」
「小さいだけじゃん……」
「俺だけのうさぎ」
「………オレのオオカミは独占欲が強すぎる……うわっ」
恥ずかしげもなく〝俺の〟とか言える朔夜も凄いけど、その独占欲も相当なものだった。恋人になってからそんなに日も経ってないのにオレが理解出来るくらい強くて……そういやオオカミって、愛情深い生き物らしいなぁ…。
そう思って溜め息混じりに呟くと、背中を支えていた腕がオレの肩を掴みベッドに押し倒される。
フカフカのマットレスに身体が沈むのを感じながら目を瞬いていると、朔夜の整った顔がアップになりオレは慌てて目を逸らした。
「さ、朔夜、あの、近い…」
「キスしてる時の方が近い」
「その時は目、瞑ってるから…」
「こっち見て」
「カッコ良過ぎて…無理…」
「……………」
イケメンがこんなに心臓に悪いものだと思わなかった。しかも自分が好意を寄せてる相手だから余計にイケメン度が増してて……ヤバすぎる。
朔夜はオレの髪を撫でて横に転がると、頭の下に腕を差し込んでオレを抱き寄せた。
「今日はこのまま寝よ」
「え」
「おやすみ、うさぎ先輩」
え、本気でこのまま寝るのか?
眉を顰めて朔夜を見つめていると、暫くして本当に寝入ったらしく静かな寝息が聞こえて来た。
電気も煌々とついてるし、布団も被ってないのに良く寝れるな。
オレは一度起き上がると、自分のスマホを手に取り部屋の電気を消して、朔夜に布団をきちんと被せてその腕の中に戻った。
このベッド、気持ち良すぎるんだけど。
「おやすみ、朔夜」
よしよしと髪を撫で、心地良い疲労感に包まれたオレはあっという間に意識を手放した。
現在のオレのレベルってどんくらいなんだろう。
朔夜曰く、確実にステップアップはしてるらしい。
だけど何でか最終的な着地点を教えてくれないんだよな。
「うさちゃんせーんぱい!」
「わっ」
移動教室から戻っていると、後ろから立夏くんの声と共に飛びつかれ危うく転びそうになる。抱きついてきた本人に支えられたから事なきを得たけど、びっくりして動悸が。
ってか、考え事してたせいかいつの間にか一人になってたのか。
「あはは、ごめんねぇ。大丈夫?」
「だ、大丈夫。…あれ? 今日は一人か?」
「朔夜はどっかでサボってて、太一は今お説教中~」
「え」
見た目は派手だけど礼儀正しい太一くんがお説教されてる?
オレの顔を見て言いたい事が分かったのか、立夏くんはクスクスと笑いながら教えてくれた。
「廊下で野球してた子がいて、その子が投げたボール擬きが太一に当たりそうになっちゃって、それを手で払って返したら窓ガラスに当たっちゃってね。割れちゃったんだ~」
太一ってどこか抜けてるよね~と言いながらオレの頭に頬擦りしてるけど、それって太一くん、完全なとばっちりでは?
そもそも廊下で野球なんかしちゃダメだろ。
「うさちゃん先輩だって」
「バカ、聞こえるだろ」
明らかな揶揄い声に立夏くんの笑顔がピクリと固まり、スっと真顔になる。え、この子こんな顔もすんの?
いや、それよりも喧嘩になるのだけは避けないと、色々大変な事になりそうだ。
「り、立夏くん。昼飯ってどうしてんの?」
「え? ……あー、購買とか学校抜け出してコンビニとか」
「抜け出す……?」
「先生には内緒にしてね」
良かった、いつもの笑顔に戻った。
ええ、はい、この笑顔の為なら学校抜け出してコンビニ行ってた事も黙ってますよ。
あの一年も、余計な事言うな。
「うさちゃん先輩、二年棟まで一緒に行こ」
「え?」
「心配だから」
「あはは……」
この子にまで心配されるとは……太一くんにも鈍臭いとか言われてたけど、オレはどんだけ年下に迷惑かけてんだ。
行こ行こー、なんて言いながらオレの背中を押し始めた立夏くんに苦笑しつつも、この子の親切心を無碍には出来ないためオレは大人しく足を動かした。
この子も割と強引でマイペースなタイプなのかもしれない。
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