作品別SS集

ミヅハ

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怖がりな少年は時計塔の怪物に溺愛される

聖夜に願いを【クリスマスSS】

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 今年は寒さが一気に増して、もしかしたらホワイトクリスマスになるかもしれないってみんなが言ってた。去年は少しだけ降って積もりもしなかったから楽しみなんだけど、雪の中デートするのは寒がりな理人くんには辛いかもしれない。
 駅前のクリスマスツリーに願い事を書くの、毎年楽しみにしてるんだけどな。

「深月」

 雲が厚くて今にも降り出しそうな空を窓から見てたら、お風呂上がりの理人くんに後ろから抱き締められた。
 部屋の中は暖房効いてるから寒くはないんだけど、理人くんがポカポカしてるから振り向いて抱き着いたら更にぎゅーって腕の力が強くなる。

「何見てたの?」
「降るかなーって」
「雪? そうだね、もしかしたら今夜にでも降るかもしれないね」
「でも、降ったら理人くんは大変だよな。俺のマフラーも使う?」
「深月が風邪引くからいいよ。お互い暖かくして出ないとね」

 暖かい手に頬が挟まれてムニムニされる。
 俺はわりと健康体だと思うから、どっちかというと理人くんの方が心配なんだけどな。特に冬場は乾燥してるから血を飲む回数も多いし。

「深月もお風呂に入っておいで」
「うん」
「上がったらイチャイチャしようね」
「じゃあすぐ上がってくる!」
「ちゃんとゆっくり浸かって」

 イチャイチャと聞いたらのんびりなんてしていられないのに、理人くんは優しく微笑んで俺の頭を撫でてくる。
 理人くんにそう言われたらそうしない訳にはいかないから、俺は頷いて洗面所に向かうと服を脱いで浴室に入った。頭からシャワーを被り、全身洗ってちょうどいい温度の湯船に浸かって百数えてから上がる。
 何か逆上せた気がしないでもないけど、適当に拭いてパジャマを着てタオルを頭に乗せてリビングに戻るとドライヤーを手にした理人くんがいた。

「おいで、深月」
「はーい」

 ソファに手招きされて、理人くんの足の間に座って乾かして貰う。これもイチャイチャの一環で、理人くんからしてあげるって言われてずっとお世話になってた。
 理人くんに髪撫でられるの好きだから、あんまりにも眠いとウトウトする事もある。
 特に、えっちしたあとなんかは半分寝てたりするし。

「クリスマス、何食べたい?」
「七面鳥!」
「それはさすがに食べきれないんじゃないかな。チキンはあそこで買おうか」
「ケーキは?」
「ケーキも買うよ。ショートケーキでいい?」
「うん」

 クリスマスと言えばブッシュドノエルかもだけど、真っ赤なイチゴとサンタやトナカイのマジパンが乗った粉砂糖が掛かってるケーキだっていいと思うんだ。俺は生クリームの方が好きだし。
 温かい風と優しく撫でる手のおかげで髪が乾いて、理人くんが「はい、おしまい」ってドライヤーを置いた瞬間鼻先が寄せられ匂いを嗅がれた。

「いい匂い」
「どっちが?」
「どっちも。でも、血の匂いの方が甘いね」
「飲む?」
「ううん、まだ大丈夫」

 確かに二日前に飲んだけど、ホントに少しだけだったからちょっと心配なんだよな。でも理人くんの顔色悪くないし、大丈夫ならまぁいっか。
 髪に頬擦りしてくる理人くんの手が俺のお腹を撫でて軽く下腹を押す。それだけでビクッとして軽く首を振れば、理人くんは横抱きにして立ち上がり目を瞬く俺ににこっと笑った。
 あれ、イチャイチャってこっち⋯?

「可愛い深月を前にして、くっついてるだけなんて無理だよ」

 疑問が顔に出てたのか、そう言われてそれもそっかって納得した俺は理人くんの首に腕を回して頷いた。
 俺だって理人くんに触って貰うのは好きだから何も問題ないし。
 寝室に行くまでも顔にたくさんキスされて、ベッドに下ろされて服を脱がされてからも全身に理人くんの唇が触れて、俺はずっと身体を震わせて声を上げてた。
 やっぱりしてる時の理人くん、綺麗だしえっちだ。


 街中ではクリスマスソングが流れてて、道行くカップルが手を繋いで楽しそうに歩いてる。
 街灯や街路樹は電飾でキラキラしてるし、お店のガラスにサンタがいたりクリスマスのシールが貼られていたりと、本当に行く場所全部が賑わってた。こういう時の街の一体感って本当に凄いと思う。
 そんな中、俺と理人くんは毎年恒例である駅前のツリーへと向かってた。

「理人くん、寒くないか?」
「深月と手を繋いでるから暖かいよ」
「もしもう無理ってなったら、いつでも言ってな」
「ありがとう」

 寒がりの理人くんを雪の中連れ出してるんだ。なるべく凍えないように俺が気を付けないと。

「今年のお願いは何にするの?」
「去年と同じ。理人くんとずっと一緒にいられますようにって」
「たまには深月だけのお願いを書いてもいいんだよ?」
「でも俺、理人くんがいてくれればそれだけでいいから」
「深月は本当に欲がないよね」
「そうかな」

 理人くんを独り占めしたいって、凄く我儘な事を言ってると思うんだけど。
 首を傾げつつ、願い事を書く紙を配っている場所へ行くとお兄さんが座ってた。人が多いから紙がぐちゃぐちゃにならないように、受付みたいな感じで手渡ししてるんだよな。
 俺も貰う為に列に並び、順番が来て二枚受け取ろうとしたらお兄さんが「あれ?」と声を上げた。

「君、去年も来てなかった?」
「? 毎年来てる」
「じゃあやっぱりそうだ。ね、俺あと三十分で交代なんだけどさ、良かったらお茶でもどう?」
「え?」
「去年見掛けて、可愛いなって思ってたんだよね」

 こ、これはもしや、理人くんが良くされるというナンパ?
 でも何で俺? しかももしかして一人だと思われてる?

「行かない」
「え、何で? 奢るよ?」
「知らない人にはついて行っちゃダメって言われてるし」
「知ってる知ってる。去年もここで会ったよ」
「俺は覚えてない」

 この人が本当に去年もここにいたとしても、俺は紙を貰っただけだから顔なんて見てないしそもそも俺には理人くんがいる。
 後ろに列が出来始めたから移動しようとしたら腕が掴まれて驚いた。

「ちょ⋯」
「退屈はさせないからさ。ね」
「やだって⋯」

 後ろのカップルが変な目で見てるってば。
 振り解こうにも意外に力が強くてどうしようか考えてたら、お兄さんの腕が他の人に掴まれて引き剥がされた。
 見ると理人くんがいて、怒った顔でお兄さんを見てる。

「汚い手でこの子に触らないでくれる?」
「え⋯き、汚⋯」
「後ろつっかえてるから行こうか」
「うん」

 呆然とするお兄さんから視線を外した理人くんが、俺にはにこっと笑って肩に手を乗せ列から外れる。
 あの人、固まってたけど大丈夫かな。

「深月は可愛いから仕方ないとはいえ、仕事中にナンパするのは良くないよね」
「だな。しかも俺、行かないって言ったのに」
「深月は偉いね」
「知らない人にはついて行かないって決めてるから」
「知ってる人でも、ちゃんと信用出来る人じゃないと二人きりになっちゃ駄目だよ?」

 ちゃんと信用出来る人か⋯⋯さすがにコウちゃんとか琥珀は人じゃないから違うだろうし⋯あれか、平井とかか。
 ツリーを見上げながら考えてたら、理人くんが額にキスしてきてハッとする。

「はい、深月の分」
「あ、ありがとう。そういえば、理人くんは何をお願いするんだ?」
「深月がずっと笑って過ごせますように、だよ」
「理人くんだって俺の事ばっかじゃんか」
「それだけ俺にとって深月が大切って事だよ」

 人の事を言えない理人くんに呆れて返すと、今度は髪にキスされて肩が抱き寄せられた。
 それを言うなら俺だって理人くんの事が大切だから、理人くんの事ばっかりでもいいと思うんだけど。
 とりあえず紙とペンを貰ったから、さっき理人くんに答えた願い事を書き、隣で同じように書き終えた理人くんとツリーにぶら下げに行く。子供にも人気で、クリスマス前からたくさんの紙が七夕の時みたいに紐で括り付けられてた。
 子供たちはほとんどがサンタへのお願い事を書いてて微笑ましい。
 スマホを構えて天辺にある大きな星の写真を撮ってたら隣でもシャッター音がして、見ると理人くんが俺にカメラのレンズを向けてた。

「深月、横顔が大人っぽくなったね」
「え、ほんと?」
「うん。思わずドキッとする」
「へへ、やった」

 いつもは俺がドキドキしてるから、理人くんにそう言われて嬉しくなる。
 友達からは全然変わんないなって揶揄われるけど、やっぱり俺だって成長してるんだ。今度自慢しよ。
 嬉しくて思わず照れ笑いを浮かべたら、まだスマホを構えてた理人くんに写真が撮られる。

「今の顔、可愛かった」
「ズルい、俺も理人くん撮る」
「その前に、一緒の写真を誰かに撮って貰おうか」

 辺りを見回した理人くんが親子連れの旦那さんの方へ声をかける。奥さん、理人くんの顔見て赤くなってた。
 綺麗だもんな、分かるよ。

「深月?」
「あ、うん」
「いきますよー。はい、チーズ」

 うんうん頷いてたら理人くんに呼ばれて、慌ててツリーの前に並んで立つ。旦那さんの掛け声に合わせてピースを作り写真を撮って貰うのを三回繰り返して、旦那さんと奥さんにお礼を言って別れた。
 ちっちゃい子のバイバイ、癒される。

「そろそろ帰ろうか」
「うん。雪強くなってきたし、早く帰らないと理人くんが凍っちゃうな」
「カチコチになったら深月がぎゅってして暖めてね」
「任せとけ」

 いつも理人くんが家でしてくれてるし、それくらい俺だってお茶の子サイコロだ⋯⋯あれ? コロコロだっけ?
 分からなくなって一人首を傾げつつも、手を繋ぎ直した俺たちは家に帰る為に人の波から外れる。今日は足りなかったけど、明日には雪だるまが作れるほど積もってるといいな。

 なんて思いながら帰宅したんだけど⋯⋯おかしいな。寒かったからお風呂に入って温まろうねって話してたのに、どうしてこうなったんだっけ。

「深月⋯」
「り、理人くん。もうすぐお風呂溜まるから⋯」
「それより深月の方が暖かい⋯⋯ね、飲んでいい?」
「う。うん。それはいいんだけど⋯ひぇ⋯っ」

 金色の目に見つめられるとドキドキして動けなくなる。
 そんな俺の服の下に冷たい手が入ってきて、俺は情けない声を上げて首を竦めた。

「大好きだよ、深月」
「俺も大好き」

 いつもは大人な理人くんが、甘えるように俺の頬に擦り寄る姿にきゅんとなる。
 お風呂はあとでもいいやと肩の力を抜いた俺は、首筋に触れる尖りに目を閉じて理人くんの首に腕を回した。
 結局そのまま雪崩込んじゃったけど、あったかくはなったから良しとしよう。





FIN.
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