作品別SS集

ミヅハ

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小さな兎は銀の狼を手懐ける【完】

小さな兎と銀の狼【クリスマスSS】

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 暖房が効いた部屋の中、ハロウィンの時に朔夜から貰ったうさ耳付きのルームウェアを着ているオレは、現在朔夜の太腿に跨り肩から腰にかけてマッサージをしていた。

「痛くないか?」
「ん、ちょうどいい」
「そっか。ってか朔夜、肩めちゃくちゃ凝ってるぞ」
「最近デスクワークばっかなんだよ」

 たまにこうして解してやるけど、ここまで凝ってるならむしろ整体に行った方がいい気もするんだけど。
 体重をかけるように親指でぐっぐっと押していると、低めの声で名前を呼ばれた。

「? 何?」
「ちょっと降りて」
「うん」

 まだ中途半端だけどと思いつつ朔夜の太腿から退いて隣に正座したら、起き上がった朔夜が俺の両腕を掴んで引っ張った。油断してたからそのまま膝に乗り上げる形になったんだけど⋯⋯何か硬いのが当たってるんですけど。

「な、何で?」
「上総、動きがエロい」
「どこが!?」
「騎乗位ん時みてぇな動きしてた」
「⋯⋯!」

 た、確かに体重をかける為に指圧に合わせて腰を上げたり下ろしたりしてたけど、何でそれが〝それ〟になる? 本当に朔夜の頭の中どうなってんだ。
 意味が分からないし当たるの恥ずかしいしって軽く胸元を押し返したら、逆に腰が抱き寄せられてオレのと擦り合わされた。

「や、ちょ⋯っ」
「今日は上乗って」
「す、するとは言ってない⋯」
「上総のも反応してるのに?」
「朔夜が動かすからだろ⋯!」

 刺激されなければ大人しいままだったのに。
 朔夜がオレの首筋に軽く歯を立て甘噛みしてくるから余計に身体が熱くなって、いつも朔夜を受け入れてるところが疼いてきた。
 少し強めに噛まれてビクッと肩を跳ね上げたら、ふっと笑った朔夜の手が裾から入り背中を撫でる。

「上総」
「⋯ベッド⋯」
「分かった」

 こうなると朔夜が引いてくれないのは分かってるからそう言えば、オレを抱いたまま立ち上がり電気を消して寝室に向かう。
 ほぼ毎日こんなやり取りをしてる気がするな。
 まぁオレが本気でダメだって思ってないってのを朔夜も分かってるからだろうけど、何でこう、こんな他愛ない事でそういう気持ちになるんだか。
 ただそれを嬉しいと思う自分もいて、どっちにしたって拒否する選択肢はないし仕方ないなと笑ったオレは朔夜の首に腕を回した。
 オレのオオカミは、オレが大好きだからな。


 今年のクリスマスは、二人で休みを合わせて一泊二日の旅行に来ていた。といっても移動に時間が掛かるのは嫌だから、車で二、三時間の距離にして露天風呂付き客室予約し今は観光地をぶらついてる。
 朔夜がオレの知らない間に免許を取ってたのもびっくりだけど、いつの間にか立夏くんから車を借りる約束をしてたのも驚いた。
 しかも運転する横顔がカッコよすぎてずっと見てたら、「誘ってんの?」って言われて危うくラブホ連れて行かれそうになったし。でもアレはずるいだろ。普段は隠れてる目が見えてんだから。

「上総、あーん」
「? あー」

 この時期の観光地は寒いものの賑わっていて、親子連れやカップルが建ち並ぶ店を覗いたり買い物したりしてる。あっちには何があるんだろうと見てたら朔夜に呼ばれ、反射的に口を開けたら甘塩っぱい物が突っ込まれた。
 もちもち食感のこれは⋯みたらし団子だ。

「んー!」
「喉詰めんなよ」
「ふぇい」

 市販の物より一回り大きな団子で口の中がいっぱいになる。
 何も喋れなくなったオレの頭を撫でて微笑んだ朔夜も団子を食べるけど、何でそんなに早く食べられるんだ?
 やっと半分飲み込めた。

「いいもん見付けた」
「?」
「ほら、ウサギとオオカミの置物」

 オレが嚥下しきるまでに肩を抱かれて足を進めると、土産物屋の前で足を止めた朔夜が棚を指差す。そこには小さな動物たちの置物が並んでて、朔夜の言う通りウサギとオオカミもあった。
 これ、玄関に飾ったら可愛いかも。

「んーん」
「ん? いんの?」
「うん」
「じゃあ買ってくる」

 オレの口内にはまだ団子がいて、開けられないから指差しで示せば朔夜は上手く意味を理解してくれた。
 二つをレジへと持って行く朔夜を見て、会計している間にようやく飲み込めてふっと息を吐く。喉に詰めないよう気を付けるのは当たり前だけど、こういう場所の団子って何であんな大きめなのか。
 戻ってきた朔夜にお礼を言い、今度は手を繋いで歩き出す。

「何か、ここにいるとクリスマスって感じしないな」
「だな。⋯あ、あそこ」
「え? あ、クリスマスツリー!」

 景観を保つ為かお店とかには見て分かる装飾ないけど、朔夜が目を向けた方を見ると広場みたいなところに巨大なツリーがあってイルミネーションがピカピカしてた。
 朔夜の手を引いて近くまで行けば更に大きく見えて、普通サイズのオーナメントがおもちゃみたいに見える。

「朔夜、写真撮ろ」
「ん」

 スマホを取り出しインカメにして構えるけど、身長差もあってなかなか上手く調整出来ない。試行錯誤してたら朔夜がしゃがんでくれたから、背中側から抱き着きローアングルで撮影ボタンを押す。顔が近い分ツリーもちゃんと入っていい感じに撮れた。

「⋯っくしゅん!」
「冷えたか」
「や、ちょっと鼻がムズムズしただけ」
「飲みもん買ってくる」
「え、いいのに」
「ここにいろ」

 すぐ傍にカフェがあるからか、自分が巻いていたマフラーをオレのマフラーに重ねて巻き付けた朔夜が額に口付けて歩いてく。
 どこにいても、こうやった相変わらず甘やかしてくるんだもんなー。

「あ、可愛い子発見」
「こんなとこで一人でいると危ないよ?」

 朔夜の香りのするマフラーに鼻を埋めてツリーを見上げてたら、両サイドから見知らぬ男二人にそう話しかけられた。まさかの自分なのかと交互に見たオレは、さり気なく後ろに下がりながら首を振る。

「一人じゃないんで、大丈夫です」
「ホントに?」
「でもここナンパとか多いからさ、あっちの方行かない?」

 こいつらは何を言ってるのか。まさに自分たちがナンパしてるのにそれを棚上げで移動を提案するとか⋯親切なフリすればついてくると思ったら大間違いだ。
 ポケットに手を突っ込んで一歩も動かずにいるオレの腕を、あっちに行こうと誘ってきた男が掴んで引っ張ってきた。

「ちょ⋯」
「ね、行こ。面白い物あるよ」
「行かない。離せ」
「いいからいいから」
「良くないって⋯」
「なぁ」

 振り解けないようにか強めに掴んでくるから痛くて、顔を顰めながら足を踏ん張ってたらひっくーい声が男たちの後ろから聞こえてきた。
 両手にコーヒーカップを手にした朔夜がいて、男たちを睨み付けてる。

「人のもんに何してんの?」
「は?」
「⋯うわ⋯」
「何で気安く触ってんの?」
「あ⋯いや⋯」
「これは、その⋯」

 振り向いてその表情に尻込み、朔夜が近付いてくるのに合わせて二人が下がる。オレはやれやれと思いつつ解放された腕を撫で、騒ぎになっても困るしと朔夜の傍に行き自分から抱き着いた。
 たかがナンパ相手に朔夜がキレる必要もない。

「朔夜はあったかいなー」
「⋯⋯⋯消えろ」
「は、はい!」
「失礼しましたー!」

 ああ、結局注目を集めてしまった。
 躓きながら走り去ってく二人の背中を苦笑して見てたら、目の前にカップが差し出され受け取るなり空いた手で頭が抱き寄せられる。
 目を瞬いて見上げたら目元に頬擦りされた。

「上総は小さいから、簡単に攫われそうで怖い」
「いや、さすがにないだろ」
「俺なら片手で抱き上げられるけど?」
「そりゃ朔夜くらい背が高ければな」

 子供じゃないし、朔夜並に長身の人なんて早々いないからそう簡単に攫われるわけがないのに、朔夜はオレが見知らぬ人に声をかけられるたびこうなる。道を聞いて来た人に対してもそう思うんだから本当に心配性だ。
 飲み口から湯気の立つカフェオレに息を吹き掛けて冷ましつつゆっくりと傾ける。
 冷えた身体に内側からじんわりと熱が染み渡っていき、ホッと息を吐いたら朔夜の顔が近付いてキスされた。

「⋯俺の目の届くとこにいて」
「でも、埋もれてても朔夜なら見付けてくれるだろ?」
「当然」
「だったら大丈夫だよ」

 ウサギは小さいけどすばしっこいんだ。それに、朔夜なら何があっても助けてくれるって信じてるし。
 そう言ってにこっと笑うと朔夜は僅かに眉根を寄せたあと溜め息をつき、今度は正面からオレを抱き締めてきた。
 その背中に空いている手を回して軽く叩き、朔夜の気の済むまで大人しくしてたら近くを通ったカップルにガン見されたけど、これも思い出だと思えば問題ないだろう。

 旅館に戻り、夕飯まで時間があるなと思ったオレは、カバンからラッピングされた小さな真四角の箱を取り出し朔夜に差し出した。

「メリークリスマス」
「俺もある。後ろ向いて」
「ん」

 受け取り、膝に置いた朔夜からそう言われて素直に背中を向ける。紙擦れの音がして待ってたら、首元がヒンヤリして何かが掛けられた。

「これ何?」
「俺と揃いのネックレス。欲しいっつってたろ?」
「え、ホントに? うわぁ、嬉しい! ありがとう!」
「俺も開けていい?」
「もちろん」

 朔夜が着けているネックレスは最近買った物で、トップが黒と銀の細いプレートになっていてカッコいいなって思ってたけど、まさかそれを貰えるとは思わなかった。
 リボンを解く朔夜に笑みを浮かべ、鏡がある洗面所まで行きネックレスを見ると、オレのプレート部分は銀と黄色になってて目を瞬く。もしかして、オレが朔夜の目の色が好きだって言ってるからこれにしてくれたのかな。
 嬉しくてにこにこしてたら、オレからのプレゼントを腕に着けた朔夜が入ってきて後ろから抱き締められた。

「上総、これサンキューな」
「どういたしまして。うん、似合ってる」

 オレがあげたのは腕時計で、少し前に壊れたって言ってたからちょうどいいと思って選んだんだ。デザインなんかはちゃんと決めたけど、やっぱ光沢のあるブラックってカッコいいな。
 朔夜の腕時計で改めて時間を確認したオレは鏡越しに朔夜を見て首を傾げる。

「夕飯までの時間どうする?」
「風呂入ろ」
「一時間しかないけど⋯」
「? 一時間あれば入れるだろ」

 この旅館には庭があるからそこを散歩するのもありかなと考えてたらそう言われて、今からだと間に合わないんじゃと返したらキョトンとされる。
 あれ? と思ったけど、自分の思考に気付いて恥ずかしくなったオレは慌てて首を振り朔夜の腕から抜け出そうともがいた。でも離してくれなくて、察した朔夜が意地悪な笑みを浮かべてオレの顔を覗き込んでくる。

「何で一時間じゃ足んねぇって思った?」
「な、何でもない⋯」
「かーずーさ」
「⋯⋯⋯⋯⋯だって朔夜⋯⋯一緒に入ったら絶対⋯触るから⋯」
「ほんと可愛いな、あんた」

 朔夜相手に誤魔化せるはずもなく、鏡に映る自分が真っ赤なのを自覚しながらぼそぼそと答えたら、朔夜は目を細めてオレを抱き上げると背中を撫でてきた。

しない」
「い、今は⋯」
「夜はこれからだろ?」

 その言葉が何を意味するのか充分過ぎるくらい分かってるオレは、赤い顔を見られたくなくて朔夜の首に抱き着くと熱を冷まそうと頬を触れ合わせた。
 本当は今すぐでもいいと思ってた事は、オレだけの秘密だ。




FIN.
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