作品別SS集

ミヅハ

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竜王陛下の愛し子

賑やかなお祭り【ハロウィンSS】

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 初めての出産を経て三年。ソフィアや他のメイドの助けも借りつつどうにか育児にも慣れてきた頃、レイフォードに執務室へと呼ばれたルカは現在彼の膝の上でお茶を飲んでいた。

「仮装フェスティバル?」
「ああ。西にある国で毎年開催されているらしく、以前からこの国でも開けないか問い合わせていたんだ。その国での伝統だそうで渋ってはいたが、簡易的なものならとようやく受けて貰えてな」

 レイフォードは実際に目にした事があるようでその時の様子を細かく説明してくれる。町中が装飾や人々の衣装でカラフルになると聞きルカの目が輝いたのは言うまでもないが、既に町の方でも準備は進んでいるあたり平民の間でも楽しみにされているようだ。

「でも、そういうのって王様が言えばすぐに出来るものじゃないのか?」
「王だからといって自分勝手に振る舞える訳ではないからな。元よりその国に古くから伝わるものだ、その国の元首がノーと言えば無理強いは出来ない」
「レイはちゃんと、みんなの気持ちを考えてるんだな」
「私はみなのおかげでこの椅子に座れているからな。驕りや傲慢は、ただ身を滅ぼすだけだ」

 世界で一番偉くても、レイフォードはいつだってその下にいる人たちの事を慮って行動している。守るべきものがたくさんあるのは大変だが、それが出来るからこそ竜王なのだろう。
 ただ、ルカはもう一人で背負わせるつもりはなくて、自分に出来る事でレイフォードを支えられたらと思っていた。

「俺には我儘言ってもいいからな」
「もうたくさん言っているよ。むしろ、ルカの方こそ言うべきだ」
「みんながいろいろしてくれるから特にないんだよなぁ」
「みなルカが好きだからな。何でもしてやりたいんだろう」
「俺もみんな好き」

 竜族を知らないが故に最初から彼らには他の人間が抱くような恐怖心はなかったから、ルカにとってはこの城にいる人たちはみんな優しくて温かい家族だ。
 嬉しくてはにかみながら言うと、レイフォードの手がカップを取り上げ顔を近付けてきた。

「もちろん、一番は私だろう?」
「当然。俺の〝特別〟はレイだけだよ」
「私の特別もルカだけだ」

 頬に暖かな手が触れ頬擦りすると端正な顔が近付いてきた。目を閉じて口付けを受け入れるように首に腕を回せば更に深くなり、差し込まれた舌に軽く歯を立てたら吐息で笑われる。
 太腿から足の付け根までを撫であげられ腰が震えた。

「⋯いけない子だ」
「ん⋯っ」
「ここが寝室なら、今すぐにでもルカを組み敷くのだがな」
「⋯夜まで我慢」
「分かってる。そういえば、仮装の話だが着たい衣装はあるか?」

 濡れた唇を親指で拭われながら問い掛けられたが、仮装が分からないルカは何それと首を傾げる。その様子に少し考えたレイフォードは、自身のマントを引いてルカの肩に被せるように抱き寄せた。

「例えば、ルカが私のように王の格好をしたり、ソフィアがルカの格好をしたりする事を仮装というんだが⋯まぁ要は、いつもとは違う姿になるという事だな」
「いつもとは違う姿⋯⋯って事は、俺も竜になれるかもって事か?」
「そういう衣装を作れば可能だな」

 竜族にはなっても、翼もなければ竜体にもなれない事をルカはずっと残念に思っていた。竜の衣装はちょっと分からないが、それっぽくはなれると知り俄然テンションも上がる。
 さっそくソフィアにお願いしようとレイフォードの膝から降りたルカは、彼の頬に口付けると腕からするりと抜け出した。

「教えてくれてありがとう。じゃあ俺、部屋に戻るな」
「あ、ああ」
「またあとで!」

 片手を上げ裾や髪を翻して執務室をあとにしたルカにレイフォードは物足りなさを感じる。とはいえ機嫌も良かったからよしとして、休憩の為に避けていた書類を束で手に取った。
 果たしてどんな衣装になるのやら、今から楽しみで仕方がない。



 フェスティバル当日。
 いつも以上に人で溢れ返る城下町の一角が、近衛兵により厳重に守られていた。
 そこにいるのはもちろん当代の王であり、その隣には彼の番である竜妃がいるのだが、どうしてかフード付きのローブを羽織ってぶすくれた顔をしている。
 化粧をしているのか、その見目があまりにも麗しく道行く人が頬を染めながら見惚るものの、近衛兵からの咳払いで我に返りそそくさと立ち去るという事態になっているのだが、当の本人は気付いておらず頬を膨らませてレイフォードを見上げた。

「せっかくの仮装なのに、何でこれ着なきゃいけないんだ」
「あれは人前に晒すものではない。その可愛らしい顔も、本当なら隠しておきたいほどなのに」
「意味が分からん」

 ソフィアが作ったままに着たし支度も大人しくしていたのに、どうして隠さなければいけないのかルカには理解が出来ない。
 だがローブの下を知っているレイフォードは、何がなんでも大衆に見せる訳にはいかなかった。

(元来、竜体は畏怖される対象でもあるのだが⋯⋯ルカの衣装は目の毒過ぎる)

 普段からルカが身に付けているものは柔らかな布で仕立てられた緩めの服で、大判のショール等で重ね着する事で肌の色が見えないようになっている。
 竜のような衣装とはいってもそこを変える訳にもいかない為、初夜の時に纏った妖精王からの贈り物である布を使って誂えたのだが、それが思いの外薄くだが透けて見えるのだ。
 一応出来るだけの対策はしているものの、少しでも布地が捲れるとスリットから柔肌が覗いてしまう為苦肉の策でローブを羽織らせていた。
 ソフィアの想像するルカの竜体の姿は神秘的だそうだからそれを表したかったのかもしれないが、もう少し厚めに繕って欲しいものだ。

「それより、何か欲しい物はあるか?」
「芋揚げたやつ」
「分かった。リックス、頼めるか」
「はい、お任せ下さい」

 ルカの後ろに控えていたリックスへと声をかければすぐに露店へと向かう。
 美味しい物や甘い物を食べればルカも機嫌を直してくれるだろうと、次から次へと尋ねればさすがに怒られてしまったが、食べ進めていくうちにいつものにこにこ顔になりレイフォードも周りもホッとする。
 誰しもがルカには笑っていて欲しいと思っているから、ルカの為なら何でもしてやりたくなるのだ。

「あ、レイ見て! 小さい子がドレス着てる!」
「ああ、そうだな」
「あれ、俺が持ってる物語の本に出てくるお姫様のドレスだ。可愛い」
「ルカも着たいなら仕立てるよ」

 ルカの持つ本は文字の勉強の為に与えた物で、どちかといえば子供向けが多い。それ故にお姫様のドレスはデザインが可愛らしものばかりだが、少しアレンジすれば美人なルカにも似合う形になるだろう。
 そう思い聞いてみたら、ルカは少し考えたあと首を振った。

「いっつもドレスだから、たまには王子様の服も着てみたいかも」
「ああ、それもいいな。ルカは綺麗だから何でも似合うだろう」
「レイはドレス着ないのか?」
「⋯それはさすがに勘弁してくれ」

 騎士ほどではないがレイフォードもそれなりに身体は出来ている。ルカのように華奢なら似合うだろうが、自分が着ては笑い者にしかならないと苦笑して拒否すると残念な顔をされた。
 ルカ自身がドレスを着るからだろうが、少しは想像力を働かせてみて欲しい。

「陛下、竜妃様、こちらいかがですか?」

 歩きにくい為、近衛兵には付かず離れずでついて来て貰いながら往来を歩いていると、反物屋から声がかけられルカが立ち止まる。すぐにリックスが脇に立ったが、店主から見せられた物が紫色だったからかルカは表情を輝かせた。

「レイの目の色と同じ!」
「こちらは北でしか咲かない珍しい花で染めた物なのですよ。陛下のお綺麗な瞳には敵いませんが、この光沢のある紫色はなかなかに貴重だと思います」
「これでルーウェンの服を作って貰ったら⋯うわぁ、絶対似合う」
「そうだな。これだけの長さがあればルカの服も繕えるだろう。そのまま頂こうか」
「ありがとうございます!」

 せっかくだから親子で揃えるのもありだろうと巻いてある状態のまま買取り近衛兵へと持たせる。
 ルカはレイフォードが持つ色が好きで、特にアメジストのように綺麗な紫色をした瞳が一番のお気に入りだ。あんまりにも薄いと首を傾げるが、基本的に紫色には反応し嬉しそうな顔をする。
 レイフォードはそんなルカが愛おしくて仕方がなかった。

「レイ、ありがとう」

 先ほどよりも一段とご機嫌になり、腕に抱き着きながら礼を言うルカに微笑んだレイフォードは腰を屈めると、果実のように熟れて赤く色付いた唇へと自身の唇を触れ合わせた。
 本当に自分の妻は可愛くて困る。


 それからも特にトラブルもなく、心ゆくまでフェスティバルを堪能し城へと戻った二人は食べ歩きをした事もあり夕食は控え、ルーウェンが眠るまで一緒に過ごしたあと部屋へと戻ったのだが、入った途端レイフォードに腕を掴まれたルカは声を上げる間もなく唇を塞がれくぐもった声を漏らした。

「んん⋯っ」

 しかも最初から激しくて、応えるだけでいっぱいいっぱいのルカは力が入らなくて足が震え始める。腰を抱いて支えてはくれているけど、少しでも気を抜けば崩れ落ちそうだ。
 自分よりも大きな舌に口内を舐め回され舌を吸われ、気持ちよさと息苦しさでクラクラしてきた頃ようやく糸を引きながら離れたが、ルカは立っていられなかった。

「⋯っと。大丈夫か?」
「⋯ぃじょ⋯ばない⋯⋯も、ふらふら⋯」
「すまない。二人きりだと思うと耐えられなかった」
「⋯なにを⋯?」

 ふにゃふにゃなルカを抱き上げたレイフォードがベッドへと腰を下ろし、まだ荒く呼吸するルカの背中を撫で額や目元にもキスしてくる。布が擦れる音がして腰の紐が解かれ、重ねて着ていたショールが落ちて現れたのは半分以上肌色の見える服だ。
 袖付きの一枚布のようなものを羽織って前を合わせ、幅広のリボンで留られているのだが、上半身と膝下のサイドにはスリットが入っていて非常に煽情的である。
 たた、仮装かと言われればいつもと変わらない気はするが。

「お風呂は⋯?」
「あとで。今はルカの中に入りたい」
「ん⋯」

 ベッドに倒され前合わせが緩められ鎖骨を強めに吸われて身体が戦慄く。
 足が開かれ間にレイフォードが入ってきたのだが、布越しでも分かるほど硬くなったものが押し当てられて奥が疼いた。
 すっかりレイフォードに染められた身体は、彼から与えられる僅かな刺激にさえ反応して臍の下が熱くなる。早く奥まで欲しくて、手を伸ばしてレイフォードの猛った中心に触れたらピクリと震えた。

「ルカ⋯」
「これ、早く欲しい」
「⋯っ⋯⋯先に慣らしてからな」

 相も変わらず素直に欲望を口にするルカにレイフォードはごくりと喉を鳴らす。竜族になってからは益々積極的になり、ルカから誘われる事も増えた。
 レイフォードは下着ごと脱がせてベッド脇の棚から潤滑剤を取り出すと、手の平に出して温め窄まりへと宛てがう。それにふるりと震え一つ息を吐いたルカは、レイフォードを見上げると袖を摘んで軽く引っ張った。

「なぁ、レイ」
「ん?」
「次はレイも仮装して」
「ルカが望むなら」

 可愛らしいおねだりに微笑んだレイフォードは頷いて口付け、誘うようにヒクつく場所へと指を押し入れる。途端に甘い声を上げるルカに舌舐りをしつつ、まだ細い肢体に絡まりつく布を取り除いて思った。
 次があるなら、もう少しルカの衣装には気を遣わなければと。





FIN.
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