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焦がれし星と忘れじの月【完】
甘えて、甘やかして【ハロウィンSS】
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夕飯と入浴を終え、寝るまで詩月とイチャイチャしようと思っていた龍惺は、目の前でせかせかと動く背中を見て溜め息を零した。
(毎年毎年飽きねぇなぁ⋯)
誕生日然りクリスマス然り、世間のイベントが近付くたびにリビングを飾る姿を見るようになってもう四年が経つ。
一緒に暮らすようになってから知ったが詩月は行事を殊更に大切にするようで、装飾然り料理然り何に対してもぬかりがなく二人なのにご馳走を用意してくれるのだ。
特に龍惺の誕生日は凄くて、食卓が好物で埋まる。しかもここ一年ほどはケーキも自作するようになったから、本当に全てが詩月の手料理だった。
もうすぐ訪れるハロウィンにもまた、例年のように凝ったものが出てくるのだろう。
(楽しそうなのは可愛くていいんだけどな)
何においても詩月が笑ってくれている事が一番の龍惺は、あーでもないこーでもないと独り言を呟きながらも笑顔で白い壁を飾っていく様子には文句はない。ただそれにより放っておかれる事の方が問題で、いい加減、詩月不足でどうにかなりそうだった。
ちなみに壁にはカボチャや蜘蛛、お化けなど定番のイラストがデフォルメされて貼り付けられているのだが、これも詩月が手ずから書いたものだ。
既製品がほとんどないあたりが彼らしい。
「あ、こらステラ。ダメだよ」
愛犬であるステラが棚の上に置いていた飾りを落としてしまったらしく、詩月が優しい声で窘めている。
何気なく視線をやった龍惺は、拾う為に屈んだ詩月の緩めの襟元から胸元が覗き見えた事でついに耐えられなくなった。
立ち上がり、拾っている途中の詩月を抱き上げると目を瞬く。
「龍惺?」
「もう限界。俺にも構え」
そう言えば詩月はきょとんとしたあとにクスクスと笑い出し、手にしていた紙を下に落とすと首に腕を回してきた。
「ごめんね。今からいっぱいイチャイチャしよ」
「寝かさねぇけどいいよな?」
「うん、いいよ」
甘えた声で頷いた詩月の両手が龍惺の頬を挟み口付けてくる。
敢えて動かずしたいようにさせていたら、数回触れ合わせたあと何とも不満そうな顔をしたから思わず笑ってしまった。
何年経っても素直に感情を表す詩月が可愛くて仕方がない。
「意地悪」
「どっちがだ。ステラ、ハウス」
「わん!」
さんざん放置していたのは詩月の方だろうと肩を竦め、じっとこちらを見上げているステラに寝床へ戻るよう指示を出す。大人しくゲージに入り、毛布の上で丸まった愛犬に二人は笑みを零した。
「おやすみ、ステラ」
「おやすみ」
「わふ」
幼犬の時は多少なりともやんちゃだったステラは、大きくなるにつれ本当に言葉を理解しているかのように返事をしたり行動をしたりするようになり、ご近所からも賢いと評判でとても可愛がられている。
そんなステラに挨拶しリビングの電気を消した龍惺は、首筋に頬擦りしてくる詩月に微笑み寝室へと向かった。
本当に詩月だけは、どれだけ抱いても抱き足りない。
ハロウィン当日、詩月は朝から買い物に行ったり掃除をしたりと休む暇なく動いていた。
龍惺はいつものように仕事に向かったし、詩月も依頼されたものは描き終わっていて、夕飯の仕込みをしつつステラとも遊んでいるうちに気付けば昼を過ぎていたから菓子パンを齧ったのだが、その途中で龍惺から届いたメッセージに詩月は肩を落とす。
『悪い、帰るのちょい遅くなりそう』
社長として相変わらず忙しくしている龍惺が残業になる事はよくあるし、会食があったり接待を受ける時はもっと遅くなる。
再会して、もう一度恋人としてやり直してからはとことん龍惺に甘やかされてるせいで、いつもの時間に帰れないと知ると寂しくなるのだ。
特に今日みたいな日は唯一お酒を飲むのも許されてて、普段は飲まない龍惺と一緒に飲める日なのに。
(今年は龍惺にも仮装して貰おうと思ってたんだけどな)
なんといってもビジュアルの良さはピカイチな龍惺には、いつか何かしらの衣装は着て欲しいと常々思っていた。さんざん悩んで、ようやくこれという物を見付けたのに残念だ。
「仕方ない。今日は頑張って龍惺癒し隊になろう」
龍惺の事だから、お願いすればハロウィン関係なく着てくれるだろうし今度の休みでも充分だ。その時の事を想像して口元を緩め、疲れて帰ってくる龍惺の為にと夕飯の仕上げに取り掛かるのだった。
それから数時間後、お風呂から上がったあと龍惺から『今から帰る』という連絡を貰った詩月は、寝室に行き隠していた袋から真っ黒なフード付きのマントを取り出すと服の上から羽織って首元のボタンで留める。ついでにフードも被ったが、これには猫耳が付いているからちょっとしたアクセントになっていた。
テーマは闇の魔法使いで、木で出来た杖も用意済みだ。
「チチンプイプイ~⋯なんちゃって。ステラ、もうすぐ龍惺帰ってくるよ」
「わんっ」
会社からここまではおよそ三十分。そろそろ駐車場に車が停まる頃だろうとステラと共に玄関の前に立つ。
杖を振りながら待っていると、鍵の開く音がしてドアが引かれスーツ姿の龍惺が息を吐きながら入ってきた。伏せていた目を上げて詩月を見るなり足を踏み出した体勢で停まる。
「おかえり、龍惺」
「わんわん!」
「⋯⋯ただいま。それは何だ」
「魔法使い。ちなみに闇属性です」
「今年は小道具付きか」
苦笑しつつもやっと中に入ってきた龍惺に抱き着くと、フード越しに頭を撫でられ頬に唇が触れる。バッグを受け取ろうと手を伸ばしたら、龍惺の手がフードに付いてる耳を摘んでいる事に気付いた。
「可愛いな。けどこれだと闇属性じゃなくて猫属性じゃねぇの?」
「猫種族の闇魔法使いなんだよ」
「細かいな」
「あ、ダメだよ。それ以上引っ張らないで」
猫耳を弄られるとくっついているフードも動くから脱げそうになり、首を振って押さえたらクスリと笑われて抱き締められた。
結局バッグを持ったまま、靴からスリッパに履き替えてリビングに向かう龍惺のあとをステラと共に追い腕に飛び付く。
「先にお風呂入る?」
「そうだな、そうする。詩月は?」
「もう入っちゃった」
「待っててくれなかったのか」
「明日は一緒に入ろうね」
毎日一緒に入っている訳でもないのにどこか拗ねた顔をする龍惺をそう言って宥め、今度こそバッグを受け取り背中を押して促したら不意に肩を抱かれて口付けられた。目を瞬いている間に離れ浴室に消えたけど、その鮮やかさにはいつも感心してしまう。
人差し指で唇に触れてふっと息を吐き、バッグから弁当箱を取り出した詩月はそれを洗い温め直した夕飯をテーブルに運んでいく。今日のメニューはハロウィンにちなんでカボチャがメインだ。
毎年だから少し被ったりはしてるけど、龍惺なら綺麗に平らげてくれるだろう。
待ってる間にステラと遊んでいたのだが、勢い良く飛びかかられ後ろに倒れてしまい乗り上げられて顔中を舐められまくる。
「あはは、ステラ、擽ったいよ!」
「わう!」
「はいはい、いい子いい子」
身体が大きくなっても甘えん坊な愛犬に遠慮なく鼻先を擦り付けられ、笑いながら耳の下を撫でていたらふと重さがなくなりフワフワな身体が宙に浮く。見るとまだ髪が濡れている龍惺が抱き上げていてジト目でステラを見ていた。
「こら、何俺の許可なく詩月を押し倒してんだ」
「龍惺」
「詩月を舐めたり押し倒したりしていいのは俺だけなんだよ」
「ステラ相手に何を言ってるの」
愛犬にさえ対抗意識を燃やす龍惺に苦笑しながら身体を起こすと、すぐにステラを下ろした龍惺に抱き締められ首筋を噛まれた。
「ん⋯っ」
「猫なんだから、爪くらい立てねぇと」
「出来るわけないでしょ、もう」
「お前はステラに甘いな」
「龍惺もね」
我が子同然のステラが可愛いのはもちろん当たり前で、お互いが甘くなってしまうのは仕方のない事だ。
足元に擦り寄ってくるステラの頭を撫でた詩月は、龍惺の手を引いてダイニングテーブルの椅子に座らせると、後ろから首元に腕を回してにこっと笑う。
「ご飯食べよ」
「ん」
こんな風に詩月が甘えると龍惺は嬉しそうな顔をする。強引だし口は悪いし少し俺様気質なところもあるけれど、龍惺はいつだって詩月に優しいしとことんまで甘い。
親指の付け根や手首に口付けてくる龍惺に胸がきゅんとした詩月は、今日は甘える事にして彼の膝に横向きで座ると「食べさせて」とお願いしてみる。
めったにない詩月からのおねだりに優しく微笑んだ龍惺は、自分の事はそっちのけにする勢いでせっせと詩月の口に食事を運んでくれてその顔は終始満足そうだった。
航星も早苗も会社の人たちも、きっと龍惺がここまで甘い表情をする事は知らないだろう。これは詩月だけの特権だ。
それに優越感を覚えた詩月は愛しい恋人の背中に腕を回すと、頬を擦り寄せて幸せいっぱいにはにかんだ。
ハロウィンから数日後。
目の前に長髪のウィッグを被り、黒の漢服を身に纏った龍惺が訝しげな顔でベッドに腰掛けている。
予想していた以上の格好良さに声もなく感動する詩月は、「俺が漢服ならお前はチャイナな」という龍惺の言葉通りセミロングのウィッグをしてチャイナ服を着ているのだが、そんな事も忘れるくらい素敵過ぎた。
「龍惺、長い髪も似合うねぇ」
「お前もな。っつか、スリットってエロいな」
「あ、まだ触らないで⋯」
「何で?」
「まだ堪能してない」
龍惺にとっては初めてのコスプレなのだから、心ゆくまで見て網膜に焼き付けたいのに、龍惺はスリット部分に手を入れて太腿を撫でてくる。
反応しそうだからやめて欲しいのに、腰まで抱き寄せて胸元に頬を寄せてくるから更に鼓動が早くなった。
「龍惺⋯」
「このままするか」
「汚れちゃうよ」
「その方が燃える」
何を言っているのか、詩月は苦笑して龍惺の頬を両手で挟むと顔を傾けて唇を触れ合わせた。軽く啄んでいる間に襟から徐々にボタンが外され大きな手が胸を撫でる。
「ぁ⋯」
「詩月」
「⋯んっ」
肉厚な舌が身体を這い膨らんだ突起を吸われて腰が震える。
堪らずぎゅうっと頭を抱き締めたら、太腿に触れていた手が奥に入り下着越しに窄まりを押されて臍の下が疼いた。
「龍惺⋯」
「ん?」
「も、ベッド行こ⋯?」
「お前も大概堪堪え性がねぇよな」
「⋯誰のせい⋯」
言外にこんな身体にしたのは龍惺だと唇を尖らせて言えば、ふっと笑った龍惺が立ち上がり既に半分服のはだけた詩月を抱き上げた。そのまま寝室に足を向けて歩き出し、ベッドに下ろすと早々に口付けられ身体を開かれる。
いつもよりも興奮気味な龍惺にいつも以上に激しく抱かれた詩月は、余裕のない彼が見られるならこういうコスプレもありなのかもしれないと思う。
果たして次はどんな衣装にしようか、龍惺の為に考える時間さえ楽しいと思った夜だった。
FIN.
(毎年毎年飽きねぇなぁ⋯)
誕生日然りクリスマス然り、世間のイベントが近付くたびにリビングを飾る姿を見るようになってもう四年が経つ。
一緒に暮らすようになってから知ったが詩月は行事を殊更に大切にするようで、装飾然り料理然り何に対してもぬかりがなく二人なのにご馳走を用意してくれるのだ。
特に龍惺の誕生日は凄くて、食卓が好物で埋まる。しかもここ一年ほどはケーキも自作するようになったから、本当に全てが詩月の手料理だった。
もうすぐ訪れるハロウィンにもまた、例年のように凝ったものが出てくるのだろう。
(楽しそうなのは可愛くていいんだけどな)
何においても詩月が笑ってくれている事が一番の龍惺は、あーでもないこーでもないと独り言を呟きながらも笑顔で白い壁を飾っていく様子には文句はない。ただそれにより放っておかれる事の方が問題で、いい加減、詩月不足でどうにかなりそうだった。
ちなみに壁にはカボチャや蜘蛛、お化けなど定番のイラストがデフォルメされて貼り付けられているのだが、これも詩月が手ずから書いたものだ。
既製品がほとんどないあたりが彼らしい。
「あ、こらステラ。ダメだよ」
愛犬であるステラが棚の上に置いていた飾りを落としてしまったらしく、詩月が優しい声で窘めている。
何気なく視線をやった龍惺は、拾う為に屈んだ詩月の緩めの襟元から胸元が覗き見えた事でついに耐えられなくなった。
立ち上がり、拾っている途中の詩月を抱き上げると目を瞬く。
「龍惺?」
「もう限界。俺にも構え」
そう言えば詩月はきょとんとしたあとにクスクスと笑い出し、手にしていた紙を下に落とすと首に腕を回してきた。
「ごめんね。今からいっぱいイチャイチャしよ」
「寝かさねぇけどいいよな?」
「うん、いいよ」
甘えた声で頷いた詩月の両手が龍惺の頬を挟み口付けてくる。
敢えて動かずしたいようにさせていたら、数回触れ合わせたあと何とも不満そうな顔をしたから思わず笑ってしまった。
何年経っても素直に感情を表す詩月が可愛くて仕方がない。
「意地悪」
「どっちがだ。ステラ、ハウス」
「わん!」
さんざん放置していたのは詩月の方だろうと肩を竦め、じっとこちらを見上げているステラに寝床へ戻るよう指示を出す。大人しくゲージに入り、毛布の上で丸まった愛犬に二人は笑みを零した。
「おやすみ、ステラ」
「おやすみ」
「わふ」
幼犬の時は多少なりともやんちゃだったステラは、大きくなるにつれ本当に言葉を理解しているかのように返事をしたり行動をしたりするようになり、ご近所からも賢いと評判でとても可愛がられている。
そんなステラに挨拶しリビングの電気を消した龍惺は、首筋に頬擦りしてくる詩月に微笑み寝室へと向かった。
本当に詩月だけは、どれだけ抱いても抱き足りない。
ハロウィン当日、詩月は朝から買い物に行ったり掃除をしたりと休む暇なく動いていた。
龍惺はいつものように仕事に向かったし、詩月も依頼されたものは描き終わっていて、夕飯の仕込みをしつつステラとも遊んでいるうちに気付けば昼を過ぎていたから菓子パンを齧ったのだが、その途中で龍惺から届いたメッセージに詩月は肩を落とす。
『悪い、帰るのちょい遅くなりそう』
社長として相変わらず忙しくしている龍惺が残業になる事はよくあるし、会食があったり接待を受ける時はもっと遅くなる。
再会して、もう一度恋人としてやり直してからはとことん龍惺に甘やかされてるせいで、いつもの時間に帰れないと知ると寂しくなるのだ。
特に今日みたいな日は唯一お酒を飲むのも許されてて、普段は飲まない龍惺と一緒に飲める日なのに。
(今年は龍惺にも仮装して貰おうと思ってたんだけどな)
なんといってもビジュアルの良さはピカイチな龍惺には、いつか何かしらの衣装は着て欲しいと常々思っていた。さんざん悩んで、ようやくこれという物を見付けたのに残念だ。
「仕方ない。今日は頑張って龍惺癒し隊になろう」
龍惺の事だから、お願いすればハロウィン関係なく着てくれるだろうし今度の休みでも充分だ。その時の事を想像して口元を緩め、疲れて帰ってくる龍惺の為にと夕飯の仕上げに取り掛かるのだった。
それから数時間後、お風呂から上がったあと龍惺から『今から帰る』という連絡を貰った詩月は、寝室に行き隠していた袋から真っ黒なフード付きのマントを取り出すと服の上から羽織って首元のボタンで留める。ついでにフードも被ったが、これには猫耳が付いているからちょっとしたアクセントになっていた。
テーマは闇の魔法使いで、木で出来た杖も用意済みだ。
「チチンプイプイ~⋯なんちゃって。ステラ、もうすぐ龍惺帰ってくるよ」
「わんっ」
会社からここまではおよそ三十分。そろそろ駐車場に車が停まる頃だろうとステラと共に玄関の前に立つ。
杖を振りながら待っていると、鍵の開く音がしてドアが引かれスーツ姿の龍惺が息を吐きながら入ってきた。伏せていた目を上げて詩月を見るなり足を踏み出した体勢で停まる。
「おかえり、龍惺」
「わんわん!」
「⋯⋯ただいま。それは何だ」
「魔法使い。ちなみに闇属性です」
「今年は小道具付きか」
苦笑しつつもやっと中に入ってきた龍惺に抱き着くと、フード越しに頭を撫でられ頬に唇が触れる。バッグを受け取ろうと手を伸ばしたら、龍惺の手がフードに付いてる耳を摘んでいる事に気付いた。
「可愛いな。けどこれだと闇属性じゃなくて猫属性じゃねぇの?」
「猫種族の闇魔法使いなんだよ」
「細かいな」
「あ、ダメだよ。それ以上引っ張らないで」
猫耳を弄られるとくっついているフードも動くから脱げそうになり、首を振って押さえたらクスリと笑われて抱き締められた。
結局バッグを持ったまま、靴からスリッパに履き替えてリビングに向かう龍惺のあとをステラと共に追い腕に飛び付く。
「先にお風呂入る?」
「そうだな、そうする。詩月は?」
「もう入っちゃった」
「待っててくれなかったのか」
「明日は一緒に入ろうね」
毎日一緒に入っている訳でもないのにどこか拗ねた顔をする龍惺をそう言って宥め、今度こそバッグを受け取り背中を押して促したら不意に肩を抱かれて口付けられた。目を瞬いている間に離れ浴室に消えたけど、その鮮やかさにはいつも感心してしまう。
人差し指で唇に触れてふっと息を吐き、バッグから弁当箱を取り出した詩月はそれを洗い温め直した夕飯をテーブルに運んでいく。今日のメニューはハロウィンにちなんでカボチャがメインだ。
毎年だから少し被ったりはしてるけど、龍惺なら綺麗に平らげてくれるだろう。
待ってる間にステラと遊んでいたのだが、勢い良く飛びかかられ後ろに倒れてしまい乗り上げられて顔中を舐められまくる。
「あはは、ステラ、擽ったいよ!」
「わう!」
「はいはい、いい子いい子」
身体が大きくなっても甘えん坊な愛犬に遠慮なく鼻先を擦り付けられ、笑いながら耳の下を撫でていたらふと重さがなくなりフワフワな身体が宙に浮く。見るとまだ髪が濡れている龍惺が抱き上げていてジト目でステラを見ていた。
「こら、何俺の許可なく詩月を押し倒してんだ」
「龍惺」
「詩月を舐めたり押し倒したりしていいのは俺だけなんだよ」
「ステラ相手に何を言ってるの」
愛犬にさえ対抗意識を燃やす龍惺に苦笑しながら身体を起こすと、すぐにステラを下ろした龍惺に抱き締められ首筋を噛まれた。
「ん⋯っ」
「猫なんだから、爪くらい立てねぇと」
「出来るわけないでしょ、もう」
「お前はステラに甘いな」
「龍惺もね」
我が子同然のステラが可愛いのはもちろん当たり前で、お互いが甘くなってしまうのは仕方のない事だ。
足元に擦り寄ってくるステラの頭を撫でた詩月は、龍惺の手を引いてダイニングテーブルの椅子に座らせると、後ろから首元に腕を回してにこっと笑う。
「ご飯食べよ」
「ん」
こんな風に詩月が甘えると龍惺は嬉しそうな顔をする。強引だし口は悪いし少し俺様気質なところもあるけれど、龍惺はいつだって詩月に優しいしとことんまで甘い。
親指の付け根や手首に口付けてくる龍惺に胸がきゅんとした詩月は、今日は甘える事にして彼の膝に横向きで座ると「食べさせて」とお願いしてみる。
めったにない詩月からのおねだりに優しく微笑んだ龍惺は、自分の事はそっちのけにする勢いでせっせと詩月の口に食事を運んでくれてその顔は終始満足そうだった。
航星も早苗も会社の人たちも、きっと龍惺がここまで甘い表情をする事は知らないだろう。これは詩月だけの特権だ。
それに優越感を覚えた詩月は愛しい恋人の背中に腕を回すと、頬を擦り寄せて幸せいっぱいにはにかんだ。
ハロウィンから数日後。
目の前に長髪のウィッグを被り、黒の漢服を身に纏った龍惺が訝しげな顔でベッドに腰掛けている。
予想していた以上の格好良さに声もなく感動する詩月は、「俺が漢服ならお前はチャイナな」という龍惺の言葉通りセミロングのウィッグをしてチャイナ服を着ているのだが、そんな事も忘れるくらい素敵過ぎた。
「龍惺、長い髪も似合うねぇ」
「お前もな。っつか、スリットってエロいな」
「あ、まだ触らないで⋯」
「何で?」
「まだ堪能してない」
龍惺にとっては初めてのコスプレなのだから、心ゆくまで見て網膜に焼き付けたいのに、龍惺はスリット部分に手を入れて太腿を撫でてくる。
反応しそうだからやめて欲しいのに、腰まで抱き寄せて胸元に頬を寄せてくるから更に鼓動が早くなった。
「龍惺⋯」
「このままするか」
「汚れちゃうよ」
「その方が燃える」
何を言っているのか、詩月は苦笑して龍惺の頬を両手で挟むと顔を傾けて唇を触れ合わせた。軽く啄んでいる間に襟から徐々にボタンが外され大きな手が胸を撫でる。
「ぁ⋯」
「詩月」
「⋯んっ」
肉厚な舌が身体を這い膨らんだ突起を吸われて腰が震える。
堪らずぎゅうっと頭を抱き締めたら、太腿に触れていた手が奥に入り下着越しに窄まりを押されて臍の下が疼いた。
「龍惺⋯」
「ん?」
「も、ベッド行こ⋯?」
「お前も大概堪堪え性がねぇよな」
「⋯誰のせい⋯」
言外にこんな身体にしたのは龍惺だと唇を尖らせて言えば、ふっと笑った龍惺が立ち上がり既に半分服のはだけた詩月を抱き上げた。そのまま寝室に足を向けて歩き出し、ベッドに下ろすと早々に口付けられ身体を開かれる。
いつもよりも興奮気味な龍惺にいつも以上に激しく抱かれた詩月は、余裕のない彼が見られるならこういうコスプレもありなのかもしれないと思う。
果たして次はどんな衣装にしようか、龍惺の為に考える時間さえ楽しいと思った夜だった。
FIN.
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