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小指の先に恋願う【完】
初めての✕✕✕✕【ハロウィンSS】
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今日は街全体が甘い匂いに包まれ、仮装やコスプレで身を包んだ人たちで賑わうハロウィン当日だ。
平日の為、本格的に人が溢れるのは夕方からだろうが、バイトも休みな七瀬は昼前から〝黒猫〟に訪れていた。
凌河が一緒でないとめったに足を運ばない場所だが、今日は友人の茉白に呼ばれた事もあり凌河に許可を得て来たのだ。物凄く渋っていたけど、最終的には「楓さんから見えるところで話して。仕事が終わったら迎えに行くからそこにいてね」という約束を取り付ける事で許して貰えたのだが、何がそんなに心配なのだろうか。
七瀬にとって茉白は唯一気の置ける友人なのに。
「七ちゃん、遅くなってごめんね」
カウンターに座り楓と話していると、約束の時間より少しだけ遅れて茉白がやってきた。その肩にはパンパンになったボストンバッグが下げられていて、茉白はよいしょと言ってソファ席に下ろす。
それから手招きするから、七瀬は楓へと一言かけてから立ち上がり友人の隣へと腰かけた。
「凄い荷物だね」
「七ちゃんに似合うの選んでたらこんなにたくさんになっちゃった」
「俺に似合う?」
何の事だろうと首を傾げたら、茉白はにこにこしながらボストンバッグを開け中から何かを取り出していく。一つずつテーブルに広げられていくそれを見ているうちに気付いた七瀬は目を丸くした。
俗にいうコスプレ衣装なのだが、茉白の言葉を借りるなら〝七瀬に似合うもの〟だそうだから、七瀬が着る前提で選ばれたものなのだろう。
だけどどうしてかは分からない。
「えっとね、定番のセーラー服とかナースもあるし、ちょっと際どいバニーとかレースクィーンとかあるよ」
「ま、茉白? 何の話をしてるの?」
「ん? ハロウィンのコスプレに決まってるじゃん。あ、僕のオススメはこのチャイナ服かなぁ。スリットが深めだから、着たまま出来るよ」
「何を?」
「えー? やだなぁ。そんな事、僕に言わせないでよ」
そんな返答に含まれた意味に気付き七瀬はぽかんとする。
凌河のおかげでそれなりに知識が増えた七瀬は、もちろん性的な事も今では雰囲気などで察せるようになっていて、このコスプレがいわゆるそういう用途で身に着けるものだと分かってしまった。
というか、ハロウィンのコスプレはそういった類の物ではなく、ゾンビや吸血鬼等の怪物系が定番ではないのだろうか。
だが茉白はあくまでソッチ系がいいらしく話を続ける。
「ちなみに、白衣とワイシャツとミニスカートはセットね」
「あのね、茉白。もしかしたら凌河さん、コスプレ好きじゃないかもしれないよ?」
「そんな事ないんじゃないかな。ってか、七ちゃんが着るならどんな服でも気に入ると思うよ?」
「そうかなぁ⋯」
「そうだよ。という訳で、着てみたいものある?」
あると聞かれてもこれまでコスプレなんてした事がないし、そもそも用意された物は全てが女性ものだ。女の子が着るならまだしも、細身とはいえ骨格は男の七瀬である。着たところでギャグにしかならないのではないだろうか。
でも茉白は楽しそうで、あーでもないこーでもないと言いながら選んでいく。
「やっぱチャイナだね。ちなみにこれ、下着NGだよ」
「下着NG!?」
「見えちゃうしね。それか、セクシーな下着ならありだと思う」
「⋯セクシーな⋯下着⋯」
「紐パンとか?」
「ひ、紐!?」
そんな衣装があっていいのか、コスプレなんて言葉しか知らなかった七瀬は困惑してしまう。そもそも男性用にそんなセクシーな下着なんてあるのか。
自分よりも遥かに知識のある茉白に感心しながらも、予め用意していたらしい紙袋へチャイナ服を詰める様子には肩を落とす。
(本当に大丈夫かな⋯)
確かに凌河は七瀬がどんな格好をしていても「可愛い」と言ってくれるが、女装もコスプレもした事がないから反応が分からない。
だけどわざわざ用意してくれた茉白の気持ちも無碍には出来ないから、もう当たって砕けろ精神で挑むしかなかった。
もし万が一にでも怒られたら、全力で謝るだけだ。
夕方、日も落ちてから迎えに来てくれた凌河と帰宅した七瀬は、夕飯を作りながら着替えるタイミングを測っていた。一番いいのはお風呂から上がったタイミングだが、そのあとどうやって凌河の前まで行くかが問題だ。
(えっと、トリックオアトリート⋯だっけ)
世の中にハロウィンというイベントがある事を知ってはいるものの、よく考えればこうしてちゃんとするのは初めてだ。イベント自体はいろいろしてきたけど、何でハロウィンはしなかったのかな。
「七瀬、焦げちゃうよ?」
「え? ⋯あ!」
コスプレの事を考える過ぎて危うく煮詰め過ぎてしまうところだった。
慌てて火から下ろし凌河を見上げるとすぐにこめかみに口付けられ、腹のところで緩く手が組まれる。
「七瀬が失敗しそうになるの、珍しいね」
「ちょっと考え事してて⋯⋯凌河さん、そろそろ自分で髪拭かない?」
「んー⋯でもほら、七瀬にして欲しいから」
「もう」
そうは言いつつも七瀬も凌河の髪を拭くのは好きで、腕の中で身体を反転させて向かい合うと頭に被せられていたタオルで水気を取っていく。その間、凌河が大人しくしていてくれる事なんて稀で、少しでも顔を近付ければキスされるから最近では気を付けるようになった。
決して嫌な訳ではないけど、そのまま雪崩込まれる事もある為、七瀬にとっては必要な距離だ。
「七瀬」
「なぁに?」
「いつもありがとう」
あと少しと手を動かしていたら名前を呼ばれ、首を傾げたら優しい笑顔でそう言われて目を瞬く。今日は何に対してのお礼なのかは分からないが、毎日感謝を示してくれる凌河に七瀬はふわりと微笑んだ。
「どういたしまして」
夕食を食べ終え後片付けも終えた七瀬は、風呂から出ると隠していた紙袋を引っ張り出して中を覗き込み「あれ?」と思った。
薄紫のチャイナ服の他にもう一着何かが入っていて、取り出して広げたらバニーセットだったのだがもしかして選択肢を増やしてけれたという事だろうか。
だがどのみちセクシー系だから、どちらを着るにしてもあまり差はない。
(一応あのあと楓さんにも聞いてみたけど、〝七ちゃんなら大丈夫だよ〝って言われたし⋯せっかくのハロウィンだから覚悟を決めてみようかな)
悩んだ末にチャイナにして袖を通してみたのだが、もはやスリットどころではなく脇の下から細めの紐が通されていて、ちゃんと締めなければただ布を被ってるだけになる。
苦しくない程度にキツめに締めて太腿のところでリボン結びにしたものの下着を着けていないから心許なくて、意味がないと分かっていてもついスリットを合わせようとしてしまう。しかも胸元も開いていて、つい最近付けられた痕が丸見えだ。
「⋯⋯やっぱりやめよう。俺には似合わないや」
ふと鏡を見て眉を顰める。
どう考えてもこんな格好をしている自分が滑稽で、こんな姿を見せたところで喜んでくれるはずがないと思いリボンに手をかけた瞬間、脱衣所の扉がノックされ肩が跳ねた。
「七瀬? ずいぶん時間が掛かってるけど大丈夫?」
「⋯!」
「開けるよ」
「ま、待って凌河さん⋯っ」
このままでは見られてしまうと止めようとしたが、その前に扉が開いてしまい凌河が入ってきた。タオルで隠す事も出来なくて、自分を見て目を見開いて固まる凌河に慌てて背中を向ける。
あまりの反応のなさに着なければ良かったと顔を真っ赤にしていたら、紐が通されたスリットの部分に無骨な指先が入ってきてビクッとした。
「凌河さ⋯」
「七瀬がコスプレ好きだなんて知らなかったな」
「ち、ちが⋯っ、これはハロウィンだからって茉白が⋯」
「茉白がね」
声に抑揚がなくて凌河がどんな気持ちなのか分からない。
不安になった七瀬は恐る恐る顔を上げて凌河を振り返る。
「⋯お、怒ってる⋯?」
「怒ってはいないよ。ただ、茉白が選んだ事が気に入らない。七瀬が身に着けるものは全部俺が選びたいのに」
「凌河さん⋯⋯あっ」
「下着、履いてないんだ?」
今度は紐を通す穴さえない場所から手が侵入し、太腿を撫でながら付け根まで上がってきた。恥ずかしくて居た堪れなくて、更に顔の熱が上がり身体が震える。
何も言えないでいたらおもむろに横抱きにされ目を瞬いた。
そのまま脱衣所を出てリビングに行き、ソファに腰を下ろした凌河の膝の上に座らせられる。
「この眺めヤバいね」
「え?」
「胸元、俺がつけたの良く見える」
長い指が痕を辿るように滑るからゾワゾワしてしまう。
スカート部分をぎゅっと握って耐えていたら、頭に頬擦りされ頬が撫でられた。
「七瀬、あれ言って」
「⋯あれ?」
「ハロウィンには定番の言葉があるでしょ?」
「⋯⋯あ、トリックオアトリート」
一瞬分からなかったが、理解して首を傾げながら言えば凌河はにこりと笑い、今の今まで触れてきていた両手を上げるとヒラヒラと振ってみせた。
目を瞬いたら、今度は残念そうな顔をされる。
「ごめんね。お菓子持ってないから、イタズラしてくれる?」
「へ⋯」
「七瀬の好きにしていいよ」
まさかそう来るとは思ってなくて、ぽかんとしてしまった七瀬の手を取り指に口付けた凌河は更に促すように「どうぞ?」と言ってくる。
(い、イタズラってどうすれば⋯)
子供の頃はイタズラをして親を驚かせたり困らせたりしていたけれど、恋人に対してするイタズラなんて分からなくて頭を悩ませる。
視線を彷徨わせながら考えた末に凌河の手を握った七瀬は、彼の人差し指へと噛み付いた。歯型も付かないくらい軽いものだが、ガジガジと何度か歯を立てていたらその指が口の中に入ってきて舌を撫でられる。
「ん⋯っ」
ピクリと目蓋を震わせる間にも指が内頬や舌の裏をなぞるから、否が応にも下肢が疼いて熱くなってきた。
「⋯っ⋯」
「可愛い顔になってきた」
「ん⋯ゃ⋯」
飲み切れなかった唾液が口端から垂れ、凌河の反対の手が腰を撫でるから無意識に揺れてしまう。さんざん口の中を弄っていた指が抜かれたが、息付く間もなく唇が塞がれ今度は舌が入ってきた。
「んん⋯っ」
肉厚な舌に上顎が擦られると頭の中がぼんやりしてくる。
もう自身も反応してスカートを押し上げている事は分かっていたが、早く触って欲しくて凌河の首に腕を回したらリボンが解かれた。
「⋯⋯ベッド行く?」
「⋯行く」
甘い囁きに頷くと再び抱き上げられ寝室へと連れて行かれる。
柔らかなベッドに下ろされても腕は離さず、ねだるように凌河の頬や唇に口付けてたらクスリと笑われた。それから性急に身体を開かれ貫かれる。
結局、幼児レベルのイタズラしか出来なかったが、凌河は満足してくれたようで心底ホッとした七瀬は、彼から与えられる甘い快感に背をしならせるのだった。
FIN.
平日の為、本格的に人が溢れるのは夕方からだろうが、バイトも休みな七瀬は昼前から〝黒猫〟に訪れていた。
凌河が一緒でないとめったに足を運ばない場所だが、今日は友人の茉白に呼ばれた事もあり凌河に許可を得て来たのだ。物凄く渋っていたけど、最終的には「楓さんから見えるところで話して。仕事が終わったら迎えに行くからそこにいてね」という約束を取り付ける事で許して貰えたのだが、何がそんなに心配なのだろうか。
七瀬にとって茉白は唯一気の置ける友人なのに。
「七ちゃん、遅くなってごめんね」
カウンターに座り楓と話していると、約束の時間より少しだけ遅れて茉白がやってきた。その肩にはパンパンになったボストンバッグが下げられていて、茉白はよいしょと言ってソファ席に下ろす。
それから手招きするから、七瀬は楓へと一言かけてから立ち上がり友人の隣へと腰かけた。
「凄い荷物だね」
「七ちゃんに似合うの選んでたらこんなにたくさんになっちゃった」
「俺に似合う?」
何の事だろうと首を傾げたら、茉白はにこにこしながらボストンバッグを開け中から何かを取り出していく。一つずつテーブルに広げられていくそれを見ているうちに気付いた七瀬は目を丸くした。
俗にいうコスプレ衣装なのだが、茉白の言葉を借りるなら〝七瀬に似合うもの〟だそうだから、七瀬が着る前提で選ばれたものなのだろう。
だけどどうしてかは分からない。
「えっとね、定番のセーラー服とかナースもあるし、ちょっと際どいバニーとかレースクィーンとかあるよ」
「ま、茉白? 何の話をしてるの?」
「ん? ハロウィンのコスプレに決まってるじゃん。あ、僕のオススメはこのチャイナ服かなぁ。スリットが深めだから、着たまま出来るよ」
「何を?」
「えー? やだなぁ。そんな事、僕に言わせないでよ」
そんな返答に含まれた意味に気付き七瀬はぽかんとする。
凌河のおかげでそれなりに知識が増えた七瀬は、もちろん性的な事も今では雰囲気などで察せるようになっていて、このコスプレがいわゆるそういう用途で身に着けるものだと分かってしまった。
というか、ハロウィンのコスプレはそういった類の物ではなく、ゾンビや吸血鬼等の怪物系が定番ではないのだろうか。
だが茉白はあくまでソッチ系がいいらしく話を続ける。
「ちなみに、白衣とワイシャツとミニスカートはセットね」
「あのね、茉白。もしかしたら凌河さん、コスプレ好きじゃないかもしれないよ?」
「そんな事ないんじゃないかな。ってか、七ちゃんが着るならどんな服でも気に入ると思うよ?」
「そうかなぁ⋯」
「そうだよ。という訳で、着てみたいものある?」
あると聞かれてもこれまでコスプレなんてした事がないし、そもそも用意された物は全てが女性ものだ。女の子が着るならまだしも、細身とはいえ骨格は男の七瀬である。着たところでギャグにしかならないのではないだろうか。
でも茉白は楽しそうで、あーでもないこーでもないと言いながら選んでいく。
「やっぱチャイナだね。ちなみにこれ、下着NGだよ」
「下着NG!?」
「見えちゃうしね。それか、セクシーな下着ならありだと思う」
「⋯セクシーな⋯下着⋯」
「紐パンとか?」
「ひ、紐!?」
そんな衣装があっていいのか、コスプレなんて言葉しか知らなかった七瀬は困惑してしまう。そもそも男性用にそんなセクシーな下着なんてあるのか。
自分よりも遥かに知識のある茉白に感心しながらも、予め用意していたらしい紙袋へチャイナ服を詰める様子には肩を落とす。
(本当に大丈夫かな⋯)
確かに凌河は七瀬がどんな格好をしていても「可愛い」と言ってくれるが、女装もコスプレもした事がないから反応が分からない。
だけどわざわざ用意してくれた茉白の気持ちも無碍には出来ないから、もう当たって砕けろ精神で挑むしかなかった。
もし万が一にでも怒られたら、全力で謝るだけだ。
夕方、日も落ちてから迎えに来てくれた凌河と帰宅した七瀬は、夕飯を作りながら着替えるタイミングを測っていた。一番いいのはお風呂から上がったタイミングだが、そのあとどうやって凌河の前まで行くかが問題だ。
(えっと、トリックオアトリート⋯だっけ)
世の中にハロウィンというイベントがある事を知ってはいるものの、よく考えればこうしてちゃんとするのは初めてだ。イベント自体はいろいろしてきたけど、何でハロウィンはしなかったのかな。
「七瀬、焦げちゃうよ?」
「え? ⋯あ!」
コスプレの事を考える過ぎて危うく煮詰め過ぎてしまうところだった。
慌てて火から下ろし凌河を見上げるとすぐにこめかみに口付けられ、腹のところで緩く手が組まれる。
「七瀬が失敗しそうになるの、珍しいね」
「ちょっと考え事してて⋯⋯凌河さん、そろそろ自分で髪拭かない?」
「んー⋯でもほら、七瀬にして欲しいから」
「もう」
そうは言いつつも七瀬も凌河の髪を拭くのは好きで、腕の中で身体を反転させて向かい合うと頭に被せられていたタオルで水気を取っていく。その間、凌河が大人しくしていてくれる事なんて稀で、少しでも顔を近付ければキスされるから最近では気を付けるようになった。
決して嫌な訳ではないけど、そのまま雪崩込まれる事もある為、七瀬にとっては必要な距離だ。
「七瀬」
「なぁに?」
「いつもありがとう」
あと少しと手を動かしていたら名前を呼ばれ、首を傾げたら優しい笑顔でそう言われて目を瞬く。今日は何に対してのお礼なのかは分からないが、毎日感謝を示してくれる凌河に七瀬はふわりと微笑んだ。
「どういたしまして」
夕食を食べ終え後片付けも終えた七瀬は、風呂から出ると隠していた紙袋を引っ張り出して中を覗き込み「あれ?」と思った。
薄紫のチャイナ服の他にもう一着何かが入っていて、取り出して広げたらバニーセットだったのだがもしかして選択肢を増やしてけれたという事だろうか。
だがどのみちセクシー系だから、どちらを着るにしてもあまり差はない。
(一応あのあと楓さんにも聞いてみたけど、〝七ちゃんなら大丈夫だよ〝って言われたし⋯せっかくのハロウィンだから覚悟を決めてみようかな)
悩んだ末にチャイナにして袖を通してみたのだが、もはやスリットどころではなく脇の下から細めの紐が通されていて、ちゃんと締めなければただ布を被ってるだけになる。
苦しくない程度にキツめに締めて太腿のところでリボン結びにしたものの下着を着けていないから心許なくて、意味がないと分かっていてもついスリットを合わせようとしてしまう。しかも胸元も開いていて、つい最近付けられた痕が丸見えだ。
「⋯⋯やっぱりやめよう。俺には似合わないや」
ふと鏡を見て眉を顰める。
どう考えてもこんな格好をしている自分が滑稽で、こんな姿を見せたところで喜んでくれるはずがないと思いリボンに手をかけた瞬間、脱衣所の扉がノックされ肩が跳ねた。
「七瀬? ずいぶん時間が掛かってるけど大丈夫?」
「⋯!」
「開けるよ」
「ま、待って凌河さん⋯っ」
このままでは見られてしまうと止めようとしたが、その前に扉が開いてしまい凌河が入ってきた。タオルで隠す事も出来なくて、自分を見て目を見開いて固まる凌河に慌てて背中を向ける。
あまりの反応のなさに着なければ良かったと顔を真っ赤にしていたら、紐が通されたスリットの部分に無骨な指先が入ってきてビクッとした。
「凌河さ⋯」
「七瀬がコスプレ好きだなんて知らなかったな」
「ち、ちが⋯っ、これはハロウィンだからって茉白が⋯」
「茉白がね」
声に抑揚がなくて凌河がどんな気持ちなのか分からない。
不安になった七瀬は恐る恐る顔を上げて凌河を振り返る。
「⋯お、怒ってる⋯?」
「怒ってはいないよ。ただ、茉白が選んだ事が気に入らない。七瀬が身に着けるものは全部俺が選びたいのに」
「凌河さん⋯⋯あっ」
「下着、履いてないんだ?」
今度は紐を通す穴さえない場所から手が侵入し、太腿を撫でながら付け根まで上がってきた。恥ずかしくて居た堪れなくて、更に顔の熱が上がり身体が震える。
何も言えないでいたらおもむろに横抱きにされ目を瞬いた。
そのまま脱衣所を出てリビングに行き、ソファに腰を下ろした凌河の膝の上に座らせられる。
「この眺めヤバいね」
「え?」
「胸元、俺がつけたの良く見える」
長い指が痕を辿るように滑るからゾワゾワしてしまう。
スカート部分をぎゅっと握って耐えていたら、頭に頬擦りされ頬が撫でられた。
「七瀬、あれ言って」
「⋯あれ?」
「ハロウィンには定番の言葉があるでしょ?」
「⋯⋯あ、トリックオアトリート」
一瞬分からなかったが、理解して首を傾げながら言えば凌河はにこりと笑い、今の今まで触れてきていた両手を上げるとヒラヒラと振ってみせた。
目を瞬いたら、今度は残念そうな顔をされる。
「ごめんね。お菓子持ってないから、イタズラしてくれる?」
「へ⋯」
「七瀬の好きにしていいよ」
まさかそう来るとは思ってなくて、ぽかんとしてしまった七瀬の手を取り指に口付けた凌河は更に促すように「どうぞ?」と言ってくる。
(い、イタズラってどうすれば⋯)
子供の頃はイタズラをして親を驚かせたり困らせたりしていたけれど、恋人に対してするイタズラなんて分からなくて頭を悩ませる。
視線を彷徨わせながら考えた末に凌河の手を握った七瀬は、彼の人差し指へと噛み付いた。歯型も付かないくらい軽いものだが、ガジガジと何度か歯を立てていたらその指が口の中に入ってきて舌を撫でられる。
「ん⋯っ」
ピクリと目蓋を震わせる間にも指が内頬や舌の裏をなぞるから、否が応にも下肢が疼いて熱くなってきた。
「⋯っ⋯」
「可愛い顔になってきた」
「ん⋯ゃ⋯」
飲み切れなかった唾液が口端から垂れ、凌河の反対の手が腰を撫でるから無意識に揺れてしまう。さんざん口の中を弄っていた指が抜かれたが、息付く間もなく唇が塞がれ今度は舌が入ってきた。
「んん⋯っ」
肉厚な舌に上顎が擦られると頭の中がぼんやりしてくる。
もう自身も反応してスカートを押し上げている事は分かっていたが、早く触って欲しくて凌河の首に腕を回したらリボンが解かれた。
「⋯⋯ベッド行く?」
「⋯行く」
甘い囁きに頷くと再び抱き上げられ寝室へと連れて行かれる。
柔らかなベッドに下ろされても腕は離さず、ねだるように凌河の頬や唇に口付けてたらクスリと笑われた。それから性急に身体を開かれ貫かれる。
結局、幼児レベルのイタズラしか出来なかったが、凌河は満足してくれたようで心底ホッとした七瀬は、彼から与えられる甘い快感に背をしならせるのだった。
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