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人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されてます
自分だけが知る顔
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毎年この時期になるとテレビ曲主催で開催される〝タレント大集合! 納涼イベント祭り〟の司会に【soar】が選ばれた。
野外に設営されたスタジオに観客席ありの生放送番組で、その年の旬なアイドルやタレントが毎回務めてるんだけど、今や最前線で活躍し続ける【soar】は四年連続で抜擢されてて、俺も去年まではテレビでリアタイしてたんだよな。
そう、去年までは。
一昨年、真那がオレとの事を公表して以来、ちょこちょこオレの話を真那がするせいで世間的にもすっかり認知されてしまったオレは、何故か現在裏方としてあっちこっちを走り回ってた。
「陽向くーん、これAブース持って行けるー?」
「行ってきまーす!」
「ごめん陽向くん! このケーブルをあそこまで運んで貰えない?」
「はーい!」
いや、忙し過ぎる!
そもそもなんでこういう事になったのか、オレはタオルで汗を拭き水分補給しながら数日前の事を思い浮かべる。
あの日、唐突に社長室に呼ばれたオレは何か失敗したのかとビクビクしながら向かったんだけど、扉を開けた目の前に傑さんがいて驚いた。
固まるオレの手を取りソファまで案内してくれた傑さんは、向かいに腰を下ろすとにこやかに口を開く。
「陽向くんの手を借りたいんだけどいいかな」
問い掛けているようで断定的に聞こえるのは気のせいだろうか。
困惑しつつも手を上げて首を傾げる。
「手、ですか?」
「そう、手。ちょっと人手不足で…」
「事務所のスタッフが足りない感じですか?」
「というよりも、現場のスタッフが欲しい感じかな」
「現場?」
この事務所での仕事に慣れ始めてから、オレは事務の人の手が回らない部分の手伝いをするようになった。たまーに真那関連でお願いされることもあるけど、ほとんどは荷物を運んだり書類や資料庫の整理だったりであんまり難しい事はない。
だからそういう事かなと思って聞いたら緩く首を振られた。
「陽向くんは、毎年開催されてるテレビ局主催のイベント祭りって知ってる?」
「タレントさんとかが出るやつですか?」
「そうそう。それのね、裏方スタッフがちょっと足りてないみたいで。ほら、今年も【soar】が司会だから、陽向くんがいたら真那も張り切るなーって」
「でもオレ、そんな大きなところで手伝いした事ないですし、向こうにも迷惑を掛けるんじゃ…」
「陽向くんは真面目で頑張り屋だから大丈夫だよ」
それはオレを買い被り過ぎだと思うんだけど、真那はともかく最近は傑さんまでオレを甘やかすんだよな。
もし失敗して、真那や風音さんや志摩さん、傑さんやこの事務所の人たちに迷惑を掛けたら…そう考えるとどうしても引け腰になるんだけど、オレは出来るって信じてくれてる傑さんの期待にも応えたい気持ちはあって。
「頑張ってね。あ、真那には内緒だよ」
「……はい」
色んな気持ちが入り交じって結局引き受けた訳だけど…真那に内緒って時点でオレは嫌な予感しかしないんだが?
絶対何かある。何だろ、また女装でもさせられるんだろうか。
「陽向くん、ちょっと休憩しようか」
「あ、はい」
端から端まで駆け回ってたらスタッフさんがそう声をかけてくれる。
結構疲れてたからその言葉に甘えて示された場所へと腰を下ろした俺は、残り少ない水を飲んで大きく息を吐いた。
そうして気付けばオレは、足首までスカート丈のあるワンピースを着せられて、薄くメイクされた上に緩い巻き髪のウィッグを被せられて椅子に座ってるんだけど、目の前には腰のとこまで降ろされたカーテンがあり、シルクの手袋を着けた手を下から出して膝に乗せている。
予感的中も的中だわ。
ちなみにステージ上には八人の同じ格好をした人がいて同じように顔がカーテンで隠されてる。オレを含めて男が三人、あとの五人は女の人なんだけど…これは何の企画なんだろうか。
『何というか…凄い企画を考えるよね』
『えっと、この中に三人の男の子がいるから、手だけでその子たちを当てる事が出来たら視聴者プレゼントの人数が増えるんだと』
『手袋してるように見えるんだけど』
『してるな。あ、もちろんお触りもナシだからな』
『なかなかにハードモード…』
見えてないけど、苦笑混じりの志摩さんの声と呆れたような風音さんの声が企画を説明してるのに真那の声は聞こえない。それなりに喋るようにはなったくせに、また二人に進行を任せてるな?
『でも視聴者さんの為だから、頑張ろうか』
『ぶっちゃけ自信ない』
『俺もないな。誰から行く?』
『……俺』
やっと聞こえたと思ったら一言だけか。
ってか、さすがの真那でもオレには気付かないだろ。……いや、でも、オレに気付かないで他の人を選ぶのも嫌だな。
『オッケー。じゃあ真那、サクッと選んじゃって』
『………』
『おお、迷いがない』
『というか、最初から決まってたみたいな』
せめて三人のうち誰かは見抜いて欲しいなと思ってたら、足音が真っ直ぐこっちに近付いてきて寸分の狂いもなくオレの前でピタッと足を止めた。
あれ? これはオレ、ちょっとヤバい?
『真那はその子な。志摩さんは?』
『んー……じゃあ俺はこの子にします。違ってたらごめんね』
『俺は一番奥の子にする。マジ分かんねぇから、外れても怒んのナシで』
『じゃあカーテンを……』
「!」
志摩さんの言葉が途切れ、観客席からザワつきと悲鳴が上がる。
その理由は今まさにオレの身に起きてる事で、何とカーテンの向こうにあるオレの手が躊躇いなく持ち上げられ、手袋を取られたと思ったら指先に口付けられたのだ。
『何してるの、ヒナ』
そんな声と共にカーテンが引かれ、首を傾げた真那と目が合う。
一瞬の静寂のあと、さっきとは比べ物にならないくらいの絶叫ともいえる声があちこちから聞こえてきた。
でもオレは、オレの要素が見えない状態で気付いていた真那に驚きすぎて口をパクパクする事しか出来ない。
『あれ、陽向じゃん』
『また巻き込まれたんだね…』
『っつか、真那いつから気付いてたんだ?』
『座った時から』
そこから!?
ってか、その時には【soar】はステージ上にいなかったはずだけど!?
『顔も見えないし足も見えないし、唯一見える手は手袋してるのに気付いてたって事か?』
『うん』
『え、こわ』
『こら、そんな事言わない。愛の力ってやつだよ』
『志摩さん…それはオヤジ臭いって』
『え』
『俺がヒナを間違えるはずない。どんな部分でだって、どんな格好をしていたって気付ける。生まれた時からずーっと見てきたんだから』
めちゃくちゃ嬉しい事を言ってくれているが、企画の意味がないんだよな…と思いながら申し訳なくて袖の方を見ると、何故かスタッフさんたちはみんな生温かい目でうんうん頷いてた。
その様子に口端を引き攣らせていたら、腕が引かれて真那に抱き上げられる。
『またそんなに可愛い格好して…悪い子だね、ヒナ』
「いや、不可抗力…」
『やっぱり、誰にも見られないように閉じ込めておくべきかな』
「怖い事言うな」
オレはヘッドセットマイクついてないから、実質真那の発言だけがみんなに聞こえてる状態だ。
独占欲も嫉妬心も強い真那が言うとシャレにならんと首を振っていたら、志摩さんが真那の肩を叩き観客席を指差す。
『はいはい。そういうのはあとにして、いつまでもお客さんにお尻を向けてちゃ駄目だよ』
『真那はもう陽向チートって事にして、俺と志摩さんが選んだ子のカーテンも開けるな』
『全部真那に持っていかれた気がするけど…』
ホント真那がすみません。
しらーっとしている真那の頬を軽く摘むと、何が嬉しいのかふわりと笑ったあと額に口付けてきた。いくら公表してるからってやりたい放題過ぎるだろ。それもこれもみんなが甘やかすから……まぁ、オレが一番甘やかしてる自覚はあるけど。
結果としてこのコーナーは真那だけの成功(?)で幕を閉じた訳だけど、さっそく〝マナヒナ〟がトレンド入りしてて額を押さえた。
これも傑さんの狙い通りなら、あの人は相当な切れ者だ。
「はい、ヒナ」
スタッフTシャツに着替え、椅子に座って項垂れてるオレに真那からミルクティーが差し出された。礼を言って受け取りさっそく口を付ける。
昼から放送されているこの番組もいよいよ佳境を迎え、エンディングの花火が打ち上がる時間になった。花火といっても街で開催される花火大会ほどではなく、時間もせいぜい十分ほどだ。
上がっている間はタレントも捌けていて、みんなで花火を見るんだって。
ちなみに今はステージ上の大スクリーンに出演しているタレントのPR映像が流れてて、これが終わり次第花火が上がる予定だ。
「ヒナ、裏方頑張ってくれたんだね」
「頑張ったっていうか…物運んだり並べたりしたくらいだし」
「でも、みんな助かったって言ってたよ」
「そっか。それなら良かった」
少しでも役に立てたなら嬉しいし満足だ。
ホッとして肩の力を抜いたら、隣に腰を下ろした真那がふっと笑って腕を広げ膝を叩いた。その意味を知ってるオレは、場所が場所だしと首を振って腰を上げると真那の手を引いて立ち上がらせ人気のいなさそうな方へ向かう。
でもどこでもスタッフさんはいて、困ってたら今度は真那に手を引かれ車の方へと連れて行かれた。
何で自分の車で来たんだって聞いたら、移動バスだと一旦事務所に戻らないといけないからだって。オレは休みの予定だったから、真っ直ぐ帰って来てくれるつもりだったんだろう。
鍵を開け、まずは車内を涼しくしてから後部座席に押し込まれる。それからカーテンを引いて窓からも前からも見えなくするとぎゅっと抱き締められた。
このカーテン、本来は仮眠取ったり着替えたりする時用に取り付けたものなのに、今は違う用途に使われてる。
「ヒナ」
「ん…」
長い指が頬を滑って顎にかかり、上向かされて唇が重なる。
朝ぶりのキスに身体を震わせたら腰が撫でられ舌が入ってきた。
「んっ…ふ…」
「…ヒナ、触っていい?」
「…っ…そ、その気になるからダメだ…」
「勃ってもイかせてあげるよ?」
「…………真那の…欲しくなるから……」
このイベントのおかげで真那の帰りは午前様。つまりキスはあってもその先はなかなか出来てなくて…正直今だって結構ヤバい。
絶対最後までしたくなるから拒否したのに、真那はオレの肩を掴むと座席に押し倒してきた。
「ちょ…っ」
「本当にヒナは、俺を煽るのが上手だよね」
「煽ってるつもりは…」
「帰ったらたくさん抱いてあげる」
「…っ…」
色気たっぷりに微笑んだ顔が近付き戦慄くオレの唇を塞いでくる。
角度を変え、舌を絡ませ吸い、頭がクラクラするほど深く口付けられ身体から力が抜けて、キスが終わっても起き上がれなかった。
「俺だけの可愛いヒナ。愛してるよ」
「…ん…オレも…」
頭のてっぺんからつま先まで綺麗で世間では王子様と言われている真那が、こんな獰猛な獣みたいな顔をする事はオレしか知らない。
熱い息を吐く真那の首に腕を回して引き寄せたオレは、今にも食べられるんじゃないかとドキドキしながら恋人に口付ける。
外では花火が上がり始めたのか腹の底にまで響くような大きな音が鳴り、観客たちの歓声が聞こえてきたけど、お互いに夢中になってるオレたちは花火が終わるギリギリまでずっとキスしてた。
水島さんに叱られ、志摩さんや風音さんに呆れられたのは言うまでもない。
FIN.
野外に設営されたスタジオに観客席ありの生放送番組で、その年の旬なアイドルやタレントが毎回務めてるんだけど、今や最前線で活躍し続ける【soar】は四年連続で抜擢されてて、俺も去年まではテレビでリアタイしてたんだよな。
そう、去年までは。
一昨年、真那がオレとの事を公表して以来、ちょこちょこオレの話を真那がするせいで世間的にもすっかり認知されてしまったオレは、何故か現在裏方としてあっちこっちを走り回ってた。
「陽向くーん、これAブース持って行けるー?」
「行ってきまーす!」
「ごめん陽向くん! このケーブルをあそこまで運んで貰えない?」
「はーい!」
いや、忙し過ぎる!
そもそもなんでこういう事になったのか、オレはタオルで汗を拭き水分補給しながら数日前の事を思い浮かべる。
あの日、唐突に社長室に呼ばれたオレは何か失敗したのかとビクビクしながら向かったんだけど、扉を開けた目の前に傑さんがいて驚いた。
固まるオレの手を取りソファまで案内してくれた傑さんは、向かいに腰を下ろすとにこやかに口を開く。
「陽向くんの手を借りたいんだけどいいかな」
問い掛けているようで断定的に聞こえるのは気のせいだろうか。
困惑しつつも手を上げて首を傾げる。
「手、ですか?」
「そう、手。ちょっと人手不足で…」
「事務所のスタッフが足りない感じですか?」
「というよりも、現場のスタッフが欲しい感じかな」
「現場?」
この事務所での仕事に慣れ始めてから、オレは事務の人の手が回らない部分の手伝いをするようになった。たまーに真那関連でお願いされることもあるけど、ほとんどは荷物を運んだり書類や資料庫の整理だったりであんまり難しい事はない。
だからそういう事かなと思って聞いたら緩く首を振られた。
「陽向くんは、毎年開催されてるテレビ局主催のイベント祭りって知ってる?」
「タレントさんとかが出るやつですか?」
「そうそう。それのね、裏方スタッフがちょっと足りてないみたいで。ほら、今年も【soar】が司会だから、陽向くんがいたら真那も張り切るなーって」
「でもオレ、そんな大きなところで手伝いした事ないですし、向こうにも迷惑を掛けるんじゃ…」
「陽向くんは真面目で頑張り屋だから大丈夫だよ」
それはオレを買い被り過ぎだと思うんだけど、真那はともかく最近は傑さんまでオレを甘やかすんだよな。
もし失敗して、真那や風音さんや志摩さん、傑さんやこの事務所の人たちに迷惑を掛けたら…そう考えるとどうしても引け腰になるんだけど、オレは出来るって信じてくれてる傑さんの期待にも応えたい気持ちはあって。
「頑張ってね。あ、真那には内緒だよ」
「……はい」
色んな気持ちが入り交じって結局引き受けた訳だけど…真那に内緒って時点でオレは嫌な予感しかしないんだが?
絶対何かある。何だろ、また女装でもさせられるんだろうか。
「陽向くん、ちょっと休憩しようか」
「あ、はい」
端から端まで駆け回ってたらスタッフさんがそう声をかけてくれる。
結構疲れてたからその言葉に甘えて示された場所へと腰を下ろした俺は、残り少ない水を飲んで大きく息を吐いた。
そうして気付けばオレは、足首までスカート丈のあるワンピースを着せられて、薄くメイクされた上に緩い巻き髪のウィッグを被せられて椅子に座ってるんだけど、目の前には腰のとこまで降ろされたカーテンがあり、シルクの手袋を着けた手を下から出して膝に乗せている。
予感的中も的中だわ。
ちなみにステージ上には八人の同じ格好をした人がいて同じように顔がカーテンで隠されてる。オレを含めて男が三人、あとの五人は女の人なんだけど…これは何の企画なんだろうか。
『何というか…凄い企画を考えるよね』
『えっと、この中に三人の男の子がいるから、手だけでその子たちを当てる事が出来たら視聴者プレゼントの人数が増えるんだと』
『手袋してるように見えるんだけど』
『してるな。あ、もちろんお触りもナシだからな』
『なかなかにハードモード…』
見えてないけど、苦笑混じりの志摩さんの声と呆れたような風音さんの声が企画を説明してるのに真那の声は聞こえない。それなりに喋るようにはなったくせに、また二人に進行を任せてるな?
『でも視聴者さんの為だから、頑張ろうか』
『ぶっちゃけ自信ない』
『俺もないな。誰から行く?』
『……俺』
やっと聞こえたと思ったら一言だけか。
ってか、さすがの真那でもオレには気付かないだろ。……いや、でも、オレに気付かないで他の人を選ぶのも嫌だな。
『オッケー。じゃあ真那、サクッと選んじゃって』
『………』
『おお、迷いがない』
『というか、最初から決まってたみたいな』
せめて三人のうち誰かは見抜いて欲しいなと思ってたら、足音が真っ直ぐこっちに近付いてきて寸分の狂いもなくオレの前でピタッと足を止めた。
あれ? これはオレ、ちょっとヤバい?
『真那はその子な。志摩さんは?』
『んー……じゃあ俺はこの子にします。違ってたらごめんね』
『俺は一番奥の子にする。マジ分かんねぇから、外れても怒んのナシで』
『じゃあカーテンを……』
「!」
志摩さんの言葉が途切れ、観客席からザワつきと悲鳴が上がる。
その理由は今まさにオレの身に起きてる事で、何とカーテンの向こうにあるオレの手が躊躇いなく持ち上げられ、手袋を取られたと思ったら指先に口付けられたのだ。
『何してるの、ヒナ』
そんな声と共にカーテンが引かれ、首を傾げた真那と目が合う。
一瞬の静寂のあと、さっきとは比べ物にならないくらいの絶叫ともいえる声があちこちから聞こえてきた。
でもオレは、オレの要素が見えない状態で気付いていた真那に驚きすぎて口をパクパクする事しか出来ない。
『あれ、陽向じゃん』
『また巻き込まれたんだね…』
『っつか、真那いつから気付いてたんだ?』
『座った時から』
そこから!?
ってか、その時には【soar】はステージ上にいなかったはずだけど!?
『顔も見えないし足も見えないし、唯一見える手は手袋してるのに気付いてたって事か?』
『うん』
『え、こわ』
『こら、そんな事言わない。愛の力ってやつだよ』
『志摩さん…それはオヤジ臭いって』
『え』
『俺がヒナを間違えるはずない。どんな部分でだって、どんな格好をしていたって気付ける。生まれた時からずーっと見てきたんだから』
めちゃくちゃ嬉しい事を言ってくれているが、企画の意味がないんだよな…と思いながら申し訳なくて袖の方を見ると、何故かスタッフさんたちはみんな生温かい目でうんうん頷いてた。
その様子に口端を引き攣らせていたら、腕が引かれて真那に抱き上げられる。
『またそんなに可愛い格好して…悪い子だね、ヒナ』
「いや、不可抗力…」
『やっぱり、誰にも見られないように閉じ込めておくべきかな』
「怖い事言うな」
オレはヘッドセットマイクついてないから、実質真那の発言だけがみんなに聞こえてる状態だ。
独占欲も嫉妬心も強い真那が言うとシャレにならんと首を振っていたら、志摩さんが真那の肩を叩き観客席を指差す。
『はいはい。そういうのはあとにして、いつまでもお客さんにお尻を向けてちゃ駄目だよ』
『真那はもう陽向チートって事にして、俺と志摩さんが選んだ子のカーテンも開けるな』
『全部真那に持っていかれた気がするけど…』
ホント真那がすみません。
しらーっとしている真那の頬を軽く摘むと、何が嬉しいのかふわりと笑ったあと額に口付けてきた。いくら公表してるからってやりたい放題過ぎるだろ。それもこれもみんなが甘やかすから……まぁ、オレが一番甘やかしてる自覚はあるけど。
結果としてこのコーナーは真那だけの成功(?)で幕を閉じた訳だけど、さっそく〝マナヒナ〟がトレンド入りしてて額を押さえた。
これも傑さんの狙い通りなら、あの人は相当な切れ者だ。
「はい、ヒナ」
スタッフTシャツに着替え、椅子に座って項垂れてるオレに真那からミルクティーが差し出された。礼を言って受け取りさっそく口を付ける。
昼から放送されているこの番組もいよいよ佳境を迎え、エンディングの花火が打ち上がる時間になった。花火といっても街で開催される花火大会ほどではなく、時間もせいぜい十分ほどだ。
上がっている間はタレントも捌けていて、みんなで花火を見るんだって。
ちなみに今はステージ上の大スクリーンに出演しているタレントのPR映像が流れてて、これが終わり次第花火が上がる予定だ。
「ヒナ、裏方頑張ってくれたんだね」
「頑張ったっていうか…物運んだり並べたりしたくらいだし」
「でも、みんな助かったって言ってたよ」
「そっか。それなら良かった」
少しでも役に立てたなら嬉しいし満足だ。
ホッとして肩の力を抜いたら、隣に腰を下ろした真那がふっと笑って腕を広げ膝を叩いた。その意味を知ってるオレは、場所が場所だしと首を振って腰を上げると真那の手を引いて立ち上がらせ人気のいなさそうな方へ向かう。
でもどこでもスタッフさんはいて、困ってたら今度は真那に手を引かれ車の方へと連れて行かれた。
何で自分の車で来たんだって聞いたら、移動バスだと一旦事務所に戻らないといけないからだって。オレは休みの予定だったから、真っ直ぐ帰って来てくれるつもりだったんだろう。
鍵を開け、まずは車内を涼しくしてから後部座席に押し込まれる。それからカーテンを引いて窓からも前からも見えなくするとぎゅっと抱き締められた。
このカーテン、本来は仮眠取ったり着替えたりする時用に取り付けたものなのに、今は違う用途に使われてる。
「ヒナ」
「ん…」
長い指が頬を滑って顎にかかり、上向かされて唇が重なる。
朝ぶりのキスに身体を震わせたら腰が撫でられ舌が入ってきた。
「んっ…ふ…」
「…ヒナ、触っていい?」
「…っ…そ、その気になるからダメだ…」
「勃ってもイかせてあげるよ?」
「…………真那の…欲しくなるから……」
このイベントのおかげで真那の帰りは午前様。つまりキスはあってもその先はなかなか出来てなくて…正直今だって結構ヤバい。
絶対最後までしたくなるから拒否したのに、真那はオレの肩を掴むと座席に押し倒してきた。
「ちょ…っ」
「本当にヒナは、俺を煽るのが上手だよね」
「煽ってるつもりは…」
「帰ったらたくさん抱いてあげる」
「…っ…」
色気たっぷりに微笑んだ顔が近付き戦慄くオレの唇を塞いでくる。
角度を変え、舌を絡ませ吸い、頭がクラクラするほど深く口付けられ身体から力が抜けて、キスが終わっても起き上がれなかった。
「俺だけの可愛いヒナ。愛してるよ」
「…ん…オレも…」
頭のてっぺんからつま先まで綺麗で世間では王子様と言われている真那が、こんな獰猛な獣みたいな顔をする事はオレしか知らない。
熱い息を吐く真那の首に腕を回して引き寄せたオレは、今にも食べられるんじゃないかとドキドキしながら恋人に口付ける。
外では花火が上がり始めたのか腹の底にまで響くような大きな音が鳴り、観客たちの歓声が聞こえてきたけど、お互いに夢中になってるオレたちは花火が終わるギリギリまでずっとキスしてた。
水島さんに叱られ、志摩さんや風音さんに呆れられたのは言うまでもない。
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