作品別SS集

ミヅハ

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小さな兎は銀の狼を手懐ける

銀の狼は小さな兎に飼われたい【ホワイトデーSS】

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 鳥の囀りが微かに聞こえて俺は目を覚ました。時間を確認しようとして腕の中にまだ温もりがある事に気付く。
 でも伸ばした腕に頭は乗ってなくて、少しだけ視線を下げると布団の中に潜り込む小さな頭が見えた。寝顔を見たくて起こさないように捲ってみたのに、上総は俺の胸に額をくっつけるようにして眠っていて頬しか見えない。その頬を指先でつつけば僅かに身動ぎした。

「…ん…朔夜……」
「まだいい」
「じゃあ…ぎゅってして…」

 仕事がある日は基本的に俺より早く起きて朝食を作ってくれる上総だが、たまに休みが重なると俺が起こすまでは目を開ける事もしない。しかもこうして甘えてくれてくれるから朝から俺はムラムラする訳で…。
 言われた通り抱き込み首筋へと口を寄せ軽く歯を立てる。昨日の噛み跡が残ってるから強くは噛まねぇけど、何でこうも上総の肌は噛み付きたくなるんだろうな。

「…ん…ゃ…っ、…何…」

 噛んで舐めて、部屋着の裾から手を入れて肌を撫でていると、ピクピクと震えていた上総の弱々しい声が聞こえてきた。服をたくし上げ露わになったピンク色の乳首がぷっくりと膨らんでいて、人差し指で軽く押せば小さな身体が跳ねる。
 ここも随分と敏感になった。もう少ししたらここだけでもイけるようになるかもしれない。

「さ、朔夜…何して…あ…っ」
「上総が悪い」
「何で!」

 何でと言われても、上総が可愛いからとしか答えようがない。それに、何だかんだ抵抗しないし。

「ん、朔夜…っ…」
「上総」
「ぁ、待っ……今日、デートするって…っ」
「うん」
「いや、〝うん〟じゃなくて…ホワイトデーだぞ。お返し…ひゃ…っ」

 あ、今の声可愛い。
 胸元をまさぐっていた手を下着の中に滑り込ませ、奥まったところにある窄まりに中指の先を押し込むとビクリと首を竦めた。
 昨日も日付け変わるまでヤってたからまだ柔らかい。

「さく、や…、ダメだって…ンッ」
「上総のは駄目って言ってねぇよ」
「んん…っ」
「俺の指、もっと奥までって誘い込んでくる」

 濡らしてもねぇからさすがに奥までは挿れねーけど。
 ヒクつきながらも吸い付いてくる様子に口端を上げ耳元でそう囁くと、第一関節まで収めた指が締め付けられた。
 案外こういう意地の悪いこと言われんの、好きなんだよな、上総。

「……上総の中、入りたい」
「昨日、散々入ってただろ…」
「足りねぇよ」
「どんだけ元気なんだお前は…!」

 上総なら何時間でも抱ける、という言葉は飲み込み上に覆い被さると途端にオロオロし出すのは上総も嫌じゃないからだろう。
 流されやすい上総だけど、今はちゃんと期待してる。
 だから俺は、敢えて選択が出来るように問い掛けた。

「駄目? 上総が嫌ならしない」
「……っ…狼のくせに子犬みたいな顔して……一回だけだからな! 昼からはデート!」
「分かった」

 男らしく優しい上総は甘えられる事に弱い。普段は俺が上総を甘やかすけど、こういう時には使えるものは使わないと勿体ないし  。上総は俺がマイペースで物事をあまり考えていないように見えるのかもしれないけど、俺は悪知恵が働くからな。
 上総が駄目って言わない事も分かってて聞いた。

「イケメンのくせに可愛いとかムカつく!」

 怒っている、というよりは拗ねた様子で俺の首に腕を回しながらそう零す上総の方が可愛いのに、本人はいつまで経っても理解しない。
 柔らかな頬を撫でれば表情を緩めてその手に擦り寄ってくる上総に微笑んだ俺は、いくつになっても変わらず愛らしい顔をしている恋人に口付けた。



 昼過ぎ。三駅先の繁華街まで足を運んだ俺たちは、昼食を摂ったあとウィンドウショッピングをしながらブラブラと歩いていた。
 上総は俺にバレンタインのお返しをしたいらしいけど、ぶっちゃけこれと言って欲しいものがない。でも何かしら見つけねぇと、上総も納得しないだろうな。

 しばらく歩いて、ふと一軒の店の前を通りがかった時、店先に並べられた商品に目がいった。デザインも色もたくさんあるけど、比較的シンプルなものが多い。
 指輪よりも目立って案外いいかもしれないな。

「上総、これ」
「ん? …チョーカー?」
「これがいい」
「え? まぁ、朔夜なら似合うだろうけど…」

 何で急にこれを選んだのかと不思議そうに首を傾げながらも一つ手に取り俺に当ててみる。繋いでいない方の手だから少しだけヒンヤリした指が首筋に触れてすぐに離れた。
 手袋あった方が良かったか。

「でも何でチョーカー?」
「上総に飼われてるみたいだろ?」
「飼われたいのか?」
「どっちかというと俺が上総を飼いたい」

 首輪みたいだし、もし俺が本物の狼で誰かに飼われなきゃいけないなら絶対上総がいい。
 本心は俺が上総を甘やかしまくりたいけど。
 そう言うと上総は苦笑して気になったチョーカーを俺と合わせては戻すを繰り返す。

「でも、上総のものって感じするから」
「指輪もピアスもあるのに?」
「もっと欲しい」

 俺は上総のものなのに、今だって不躾に向けられる視線が煩わしくてしょうがない。俺の首中に歯型やキスマーク付けてくれればと思うけど、上総は人に見られるのが恥ずかしいらしいから付けてくれないだろう。
 ま、そこが可愛くてたまんねぇんだけど。

「飼われてる云々はアレだけど、オレのものって言うのはいいよな」

 そう言ってにこっと笑った上総は、黒い革製の編み紐でヘッドに銀色のアクセントがついたチョーカーを選ぶと、「ちょっと待ってろ」と言ってレジへと向かった。

「……?」

 少し離れた場所でじっと見てると上総が何やら慌て始める。眉を顰めて足を踏み出した時、長髪でいかにもチャラチャラしてそうな店員が上総の首に触れようと手を伸ばした。
 頭と両手を振って後退る上総に近付く店員が何かをするより早く、上総を後ろから抱き込み腕の中に収める。

「朔夜」
「……何してんの」
「…あ…、あー、もしかしてこっちのお兄さんにプレゼント? やー、悪いね、勘違いしちゃったよ」

 俺が睨み付けるとあからさまに挙動不審になった店員はそそくさとレジへと戻って行った。ったく、油断も隙もねぇ。

「何、あれ」
「〝あれ〟って…。何か、あのチョーカーが欲しいって言ったら、オレにはもっと細いのが似合うよとか言われて。オレのじゃないですって言ったのにオススメ紹介するよって」
「何で首?」
「サイズ感がどうとか言ってたけど…オレにも良く分からん。普通に考えて、知らない人が首触ろうとして来たら怖いよな」

 思い出したのか、小さく身震いした上総は自分の首に触れて溜め息をついた。
 ただでさえ背の低い上総に、それなりに上背のある男が首に手を伸ばしながら近付いて来たらそりゃ怖いだろう。っつか、誰でも怖いか。

「……」
「朔夜、顔が怖い」
「上総に触ろうとした報いをどう受けさせようか考えてる」
「いや、いいから」

 また上総の甘い部分が出た。
 結果として大きな騒ぎにもならず収まったなら、上総は大抵許してしまう。
 ちなみに俺は、今だにあの三年の事は許してねぇけどな。

「お人好し」
「いや、これは違うだろ」
「お待たせしました」

 さっきの店員が商品の準備が出来たらしく声をかけてくる。レジに向かおうとする上総にピッタリとくっついたままついて行き、支払っている間ずっと店員に睨みを効かせてた。
 俺の上総に手を出そうなんざ百億年早ぇんだよ。



「店員さんに威嚇しない」

 店を出て上総の手を取って歩き出した時、少し離れてから呆れた声でそう言われた。威嚇っつーかあれは牽制だけど、上総には分かんねーだろうな。
 ついでに言えば、自分が飢えた獣共からいかに美味そうに見えてるかも。

「朔夜はもうちょっと心の余裕を持った方がいいぞ」
「無理」
「即答か」

 愛して止まない恋人にちょっかいかけられて穏やかでいられる奴はどうかしてる。それに、俺は自分でも嫉妬深くて独占欲が強いのを分かっているから、余計にそういうのを気にするんだ。
 別に上総を疑ってる訳じゃなくて、俺以外が上総に触れるのが嫌なだけだけど。

「でも、朔夜がオレの事好きって気持ちが伝わるから、嫌じゃないぞ」
「……重くねぇ?」
「この重さが心地良い」

 上総の事が好きで、好きで好きで仕方なくて、重すぎる気持ちを向けているのは自覚していた。ちゃんと自制しねーと上総にも迷惑かかるって。
 でも上総はそう言って柔らかく微笑んでくれるから俺はどうしたって調子に乗ってしまう。
 何でも受け入れてくれる上総だからこそ、俺は言いたいことが言えるんだ。

「上総、帰るかホテル行くか選んで」
「は? いや、何で…」
「上総が可愛いから、我慢出来ねぇ」
「あ、朝もしただろ…?」
「足りねぇ」

 いくら口付けても、抱いても、もっともっと上総が欲しくなる。俺で満たして、俺しか見えなくして、たくさん痕を残して俺だけを刻み付けたい。

「……夕飯、朔夜が作ってくれるなら帰る」
「作る。何がいい?」
「オムライス」
「分かった」

 手を引き少しだけ急ぎ足で駅へと向かう。本当は抱きた上げたいけど、そんな事をしたら帰るのナシって言われそうだから速さは上総に合わせつつチラリと様子を見れば、ほんのり目元を染めていて下肢で熱が渦を巻き始めた。
 あと三十分は耐えねぇと。

「朔夜」
「?」
「……やっぱり近くのホテル行こ」
「!」

 まさか上総からそんな事を言われるとは思ってなくて、少し呆けてしまった俺は我に返るなり急いでスマホで近場のホテルを検索する。
 腕に寄り添って来る上総の温もりを感じながらも逸る気持ちを抑え、出てきた中で一番近くにあるホテルへと向かうのだった。


 結局、ホワイトデーとはいえいつもと変わらないのはある意味俺たちらしいのかもしれない。





FIN.
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