作品別SS集

ミヅハ

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怖がりな少年は時計塔の怪物に溺愛される

酔いどれチョコレート【バレンタインSS】

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 今日は二月十四日。好きな人や恋人にチョコレートをあげる日で、元々は女の子のイベントだったみたいだけど、今では友チョコとか男同士でとかも主流になってるらしい。
 そんな俺は、恋人である理人先輩に好きの気持ちと日頃の感謝を込めて手作りであげたいと思ってたんだけど……壊滅的に料理が下手な俺にはハードルが山よりも高過ぎて早々に諦めた。
 でもプレゼントしたい気持ちはあって、俺は日曜日に外出許可を取って一人で買いに行って無事に大人っぽいチョコをゲット出来て大満足……だったはずが、これは一体どういう事だろう。

「深月は可愛いね」

 目の前にいる先輩はいつもと変わらない笑顔を浮かべてるんだけど、その頬はちょっとピンク色になってるし、いつもより色気がマシマシで俺はすっごくドキドキしてる。
 俺があげたチョコを食べるまでは普通だったのに、何でいきなりこうなったんだ?

「先輩?」
「ん? どうしたの? 甘えたくなった?」
「え?」
「いいよ、おいで。深月ならたくさん甘やかしてあげる」

 いつもいつもそれはもうめちゃくちゃ甘やかして貰ってますが?
 この様子、俺知ってるかも。確か父さんがお酒を飲んだ時、こんな風に顔を赤くしてご機嫌になってたような気がする。
 ん? って事は先輩、酔ってるって事か? え、何で?
 俺は急いでチョコのパッケージを裏返して成分表を確認し目を見瞠った。これ、アルコールが含まれてますって書いてある!
 うわー、大人っぽいパッケージだって事しか見てなくて何も見ずに買っちゃった! これっていわゆるウイスキーボンボンってやつだよな…どうしよう、先輩食べちゃったけど、先生に怒られないかな。

「先輩、ごめんな? お酒入ってるって知らなくて」
「深月はなーんにも悪くないよ。ほら、こっちにおいで」
「や、先輩、今酔ってるから……」
「深月の可愛さには酔ってるかもね」

 いつも以上に先輩が甘いし恥ずかしい事言ってくる!
 これ、俺はどうしたらいいんだ? ……そうだ、お水。お水を飲んで貰おう。

「先輩、お水飲も。な?」
「深月が飲ませてくれる?」
「へ?」
「口移しなら飲んであげる」
「え、あ、う……く、口移し…」

 それは俺にはなかなかに勇気がいる事なんだけど……先輩、そうしないと飲んでくれなさそうだ。
 仕方なくペットボトルの蓋を開けて水を口に含むと、先輩の肩に手を置いてにこにこと弧を描く唇に口付けて流し込む。こくりと喉が鳴って飲んだ事を確認したから離れようと思ったのに、先輩に後頭部をぐっと押さえられて舌が入って来た。

「ん…!?」

 いつもより熱い舌に絡め取られ、強く吸われるとそれだけでお腹の下が疼くのは先輩が俺にそう教えたから。歯列がなぞられ、上顎を舌先で擦られ身体が震える。足に力が入らなくて先輩の膝に座ってしまった。
 このままじゃマズイ。ひじょーにマズイ。

「…っ…ん、せんぱ、ダメだって…っ」
「……何が駄目? こんなに可愛くて美味しそうな深月が目の前にいて、俺が我慢出来ると思う?」
「だってここ、学校だし…んぅ…っ」

 いつの間にかネクタイが外されて襟元が緩められてて、剥き出しになった首筋に歯が立てられた。痛くはないけど、チクッとはしたから牙が伸びてるんだと思う。

「せ、せんぱ……」
「深月……飲んでいい?」
「え? う、うん」

 少しだけ低めの声に囁くように問い掛けられ、ドキドキしながら頷くとここを吸うよって言ってるみたいに何度も先輩の唇が触れる。ベロっと舐められたあとグッと牙が食い込んだ。

「んん…ッ」

 尖ったものが皮膚を貫く痛みと流れ出た血を吸われる感覚はなかなか慣れなくて、背中がゾワゾワして先輩の腕を掴むとその手を取られて握られた。先輩、口の中も熱いから触れてるとこから広がっていきそう。

「…美味しい…」

 どこかうっとりしたように言われて顔が赤くなる。先輩がそう思うのって俺の血だけなんだもんな。嬉しいんだけど…そんなしみじみ言われると恥ずかしい。
 噛まれたところを舐められて声が出そうで堪えていると、ズボンからシャツが引っ張り出されて先輩の手が直接肌に触れてきた。俺の身体が冷えてるのか先輩の手が熱いのか分かんないけど、じんわりと火照って頭がぼーっとして来た。
 撫でながら脇腹を這い上がり胸までくると、すでにぷくっとしていた乳首に指先が触れて肩が跳ねる。

「ひゃ…っ」
「膨らんでるね。深月のここも小さくて可愛い」
「せ、先輩…俺、次の授業体育が……」
「だーめ。今日はもう、深月はずっと俺と一緒」
「俺だって一緒にいたいけど…ンッ、ここにいられないし、寮も…っ」
「じゃあ時計塔に行こうか」

 先輩の指が周りをなぞるように動いて、時々悪戯するみたいに触ってくるから堪らない。もっとちゃんとして欲しいって思ってしまう。
 何回かここでエッチな事してるけど、さすがに授業始まったらここは出ないと行けないし、万が一にも誰か来たらマズイ。でも先輩は本気で俺といるつもりらしく、まさかの提案をしてきた。
 先輩、あそこでするのは俺に負担がかかるからって好きじゃないのに……酔ってると忘れるのかな。
 でも俺、このままだと流されそう……。

「せんぱ……」
『ごめんよ、主様!』
「!?」

 鈴の音がしたと思った瞬間上からコハクが降って来て先輩の頭に直撃した。ぐらりと傾いた先輩はどうやら気を失ったらしく、寄りかかって来る重さで四苦八苦しながらもどうにか机に突っ伏させた俺はネクタイだけはそのままに慌てて身嗜みを整える。
 どこから見ていたのかは知らないけど、止めに入ったって事はコハクもマズイって思ったんだろうな。

『ふー、危なかったね、番殿。危うくここで食べられてしまうところだった』
「えっと…ありがとう?」
『主様…というか、ご当主含め吸血鬼は酒に弱いんだよ。おまけに番殿の香りは主殿にとっては媚薬みたいなものだからねぇ。どうも合わさった事で酩酊状態になったみたいだ』
「あれ、じゃあそれって結局俺のせい…」

 ウイスキーボンボンを先輩にプレゼントしたのも俺だし、それで酔っちゃったのも俺のせいだし、血もあげたから…ごめん、先輩。
 だけどコハクは緩く首を振り呆れたように眠ってる先輩を見るとチョコの箱を足でツンツンした。
 
『番殿は悪くないよ。番殿からの贈り物が嬉し過ぎて、ちゃんと確認しなかった主様が悪い』
「俺も確認するべきだったんだよ」
『番殿は主様のために用意してくれたんだろう? だったら気に病む必要はないさ。吸血鬼というものは総じて番に甘いからね、番殿が気にすれば気にするほど、主様は落ち込むよ』
「そ、そうか……」

 確かに先輩なら「深月のせいじゃないよ」って言ってくれそうだけど、やっぱり今回の件は俺が一番悪いから心の中でそう思っておく。じゃないと延々と否定されそうだし。

『どのみち主様は戻れないし、番殿はそろそろ予鈴が鳴るから教室へお戻り。主殿には我がついているよ』
「でも…」
『目が覚めた時、酒が抜けていなかったら今度こそ食われるよ』
「……それは、ちょっと困るな」

 先輩とするのが嫌な訳じゃないけど、ここで最後までしたくないし、出来れば体育の授業は受けたい。
 眠ってる顔まで綺麗な先輩を見て何度か頷いた俺は、おにぎりだけを置いて保冷バッグにお菓子を詰めて立ち上がる。

「じゃあ頼むな。先輩に、今日の就寝時間のあと時計塔行くって伝えといて」
『番殿も主様に甘いね。いいよ、伝えておいてあげる』
「ありがとう。じゃあ先輩、俺行くな。また夜にな」

 先輩の頬に軽くちゅってしてコハクに手を振った俺は、チラリと時間を確めると足早に空き教室を出て自分のクラスへと向かった。

『夜、寝かせて貰えるといいんだけどねぇ』

 その後ろで、コハクがそんな事を呟いていたとも知らずに。



 点呼が終わり、一時間の自習時間を経ての就寝時間。三十分くらい部屋でじっとしてからこっそり寮を出て時計塔に行くと、先輩が俺の顔を見るなり頭を下げてきた。

「ごめんね、深月。酔ってたとはいえ、あんな場所であんな事……恥ずかしかったよね」
「は、恥ずかしかったけど、別に嫌じゃないから。言っただろ? 先輩にされて嫌な事なんてないって。それに…珍しいもの見れたし」
「あのままだと、深月の事抱き潰してたんだよ?」
「抱き潰す?」

 俺の頭の中に、先輩に強い力で抱き締められて潰されてぺっちゃんこになった自分の姿が浮かぶ。先輩、そこまで力持ちだったのか。

「そんな物理的な事じゃなくて、本当に指一本動けなくなるまで深月を抱き続けてたって事だよ」
「指一本動けなくなるまで……」

 それは恐ろしい。ってか、それって先輩の体力が心配になるレベルなんだけど…あ、でも先輩、俺がクタクタでもいつも元気だった。
 正直そう言われてもぼんやりとしか分からないけど、俺は先輩とするのは嫌いじゃない。だって気持ちいいし。

「しかも俺、血を吸ったあとにちゃんと最後までケアしてないでしょ? 痛くなかった?」
「服が擦れて痛かったけど、でもそんなには…」
「見せて」
「あ、はい」

 有無を言わさない先輩の表情に背筋を正した俺は、ボア生地のパジャマのボタンを二つ外して今日吸われた場所を見せる。舐められてはいたけどちゃんと塞がるまではいかなくて、ぷっくりと膨らんだ浅めの穴が二つそこにあった。お風呂の時ちょっと大変だったけど、タオルを肩にかけて何とか隠せた。

「あー……こんなくっきり残ってる……ごめんね、すぐに治すから」
「う、うん」

 俺としてはこのまま残しておいて欲しい気持ちはあるんだけど、先輩はすごく気にしてて噛み痕に唇を寄せると唾液をたっぷりと纏わせた舌で舐めてきた。ピリッとした痛みがだんだんなくなって、代わりに背中をゾクゾクしたものが這い上がる。

「せ、せんぱ、い…も、いい…から……っ」
「まだ駄目。ちゃんと綺麗に治さなきゃ」
「ん…で、でも……っ」

 それ以上されるとあらぬところが反応してしまう。先輩の肩を押して引き剥がそうとするけど、力が入らなくてされるがままだ。
 声が出そうになるのを唇を噛んで耐えていると、先輩の手が俺の中心に触れてきた。

「あ…っ」
「反応してるね。……俺も、今日は我慢出来ないかも」
「ぅ、え…?」
「ここでするのはあんまり良くないんだけど…いい?」
「……それ、聞かれるのは恥ずかしい…」

 嫌じゃないって言ってるのに、先輩はいっつもこうやって聞いてくれる。でも俺はそれに返事するのが恥ずかしくて、いつも「うん」としか言えない。
 先輩はクスリと笑うと顔を上げて俺の口を塞ぎズボンと下着から俺自身を取り出して握り込んだ。

「先に一回出しとこうか」

 そんな綺麗な笑顔で、そんなエッチな事を言わないで欲しい。



 結局、気絶するまで一回も抜かずに突かれ続けた俺はいつの間にか寮の部屋にいて、次の日には動けなくて欠席する羽目になった。
 遊びに来たコハクに、『思った通りになったね』と言われて赤面したのは言うまでもない。





FIN.
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