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小指の先に恋願う【完】
七瀬の欲しい物【クリスマスSS】
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「七瀬、ただいまー」
夕方、いつものようにキッチンに立ち夕飯の支度をしていた七瀬はいつもよりも早く帰宅した凌河に目を瞬き慌てて傍による。玄関が開いた音が聞こえなかった。
「おかえりなさい。今日は早いんだね」
「出先からの直帰だったから。はい、お土産」
「…ありがとう」
やはり今日もあった。
これまで数日に一回だったお土産が、ここ一ヶ月の間毎日続いていて七瀬は内心困っていた。お土産が嫌な訳じゃなくて、むしろそれだけ七瀬の事を考えてくれているという事だから嬉しいのだが、如何せんお値段が少々問題だ。
(このお店のロゴ、見た事ある……)
中身はおそらくチョコレート。ブランドには疎い七瀬でも分かるくらい有名な高級店のロゴが箔押しされている。
これ一つでどれくらいの値段がするのやら。
凌河が働いて稼いでいるお金だから何も言わないけれど、このままでは七瀬は幸せ太りまっしぐらだ。
「ねぇ、凌河さん」
「うん?」
「お菓子のお土産はもう終わりにしない?」
「え、美味しくなかった?」
「ううん、すごく美味しいよ。美味しいんだけど……太っちゃうから」
元々七瀬は細身で筋肉も脂肪もつきにくい体質だが、さすがに毎日甘い物をプレゼントされるといい加減お腹がぽっこりしてしまいそうだ。
眉尻を下げながらそう言うと、少しだけ驚いた凌河におもむろに腰を掴まれて揉まれ首を傾げられた。
「え、全然変わってないけど……むしろ細い」
「でも、このままだといつか顔が丸くなりそうで……」
「丸顔の七瀬も可愛いだろうね」
「もう、俺は嫌なの。だからお菓子のお土産はナシ」
「そっか。でも気にしなくても大丈夫だよ」
「?」
何がどう大丈夫なのだろう。不思議そうな顔をする七瀬の腰を抱き寄せて耳に唇を寄せた凌河は、大きな手で背中を撫でながら甘い声で囁いた。
「七瀬、俺と毎晩のようにベッドで運動してるでしょ? だから大丈夫」
「……!?」
「何なら、七瀬が上に乗ってくれればもっと運動になるけど」
「そ、それ以上はいいです!」
囁かれた耳から熱が伝わり顔が染まっていくのが分かった。七瀬は慌てて凌河の口を押さえ小刻みに首を振って言わないでと訴える。
青い目が眇められ、そのまま顔を近付けられて戸惑っていると手が外されて口付けられた。
啄むように触れては離れてを繰り返しつつ深くなるキスに息が上がるのを感じて七瀬は凌河のコートを掴む。
肉厚な舌が七瀬の舌を絡め取り強く吸い上げたところで離された。
「……ん……」
「可愛い。顔が蕩けてるね」
「…凌河さんったら……」
「ねぇ、七瀬」
「?」
「もうすぐクリスマスだね。欲しい物ある?」
少しだけ乱れた呼吸を整えていたら唐突にそんな話を振られて七瀬は目を瞬く。確かにもうすぐクリスマスだとは思っていたけど、去年までは毎年凌河チョイスのプレゼントをくれていたのにどうして今年は聞いてくるのだろう。
不思議そうな七瀬の表情から分かったのか、凌河が理由を説明してくれた。
「今年で五年目のクリスマスでしょ? 節目だし、せっかくだから七瀬の欲しい物をあげようと思って」
「……と言われても……」
「何でもいいよ? 家具でも家電でも、ぬいぐるみでも食べ物でも」
「うーん……」
これまで生きていく上で必要な物以外は不要な物として端から捨てて来た七瀬である。欲しい物、と言われてもすぐに浮かばないのは当然で、凌河は深刻な顔で悩む七瀬の頭を撫でると優しく微笑んだ。
「俺がお風呂に入ってる間、ゆっくり考えてみて。それでももし思い浮かばなかったら、今年も俺が選ぶね」
「う、うん。ごめんね、凌河さん。俺……」
「七瀬が謝る必要ないよ。焦らなくていいから、ね?」
「うん、ありがとう」
どこまでも優しい凌河に七瀬は胸が暖かくなるのを感じた。
浴室に向かう背中を見送りキッチンに戻ると、プレゼントの事を考えながら夕飯作りを再開する。
確か最近読んだ雑誌の中にいいなと思った物があった気がするのだが、どの雑誌だったか、どういった物だったかがハッキリと思い出せない。確か丸い物がついていたはずなんだけど。
(丸いだけじゃ凌河さんも分からないよね……)
手はしっかりと動かしつつも頭の中では思い出そうと必死になる。
そうだ、確か丸い物はガラス製で、その中に小さな家があったはず。光に反射してキラキラしててすごく綺麗だった。
「出来た」
ちょこちょこ意識しつつも思い出す事に必死になっていた七瀬だったが、気付いたら夕飯が完成していた。
凌河もタイミング良く上がって来たようで、頭にタオルを被せた状態で七瀬の傍へと寄って来る。何年経っても変わらない凌河に小さく笑った七瀬は当たり前のように髪を拭くのだが、ある程度拭いたところで問い掛けられた。
「どう? 思い浮かんだ?」
「あのね、名前がちょっと分からなくて……ガラスで出来た球体の中に小さな家があって、光に反射してキラキラしてる物なんだけど……」
「ガラスで出来た球体の中に小さな家、光に反射してキラキラ……」
「分からないよね……」
頭にぼんやり浮かんでいる自分でさえ商品名が分かっていないのだ、一から形を作らないといけない凌河には少し難しいだろう。
だが凌河はしばらく考えたあと、「あ」と言って何度か頷き首を傾げる七瀬に微笑んだ。
「うん、分かった。たぶん七瀬が言ってるのはこれかな」
「え、分かったの?」
「手の平サイズとライトにもなるタイプと、どっちがいい?」
「え、ライトになる物があるの?」
「あるよ。ライトの方にしようか?」
「うん」
「じゃあ楽しみにしててね」
七瀬のあのあやふやな説明で分かるなんて、さすが凌河だ。しかも七瀬の知らない事まで教えてくれる。
素直に頷いてこれ以上の情報収集はしないでおこうと決めた七瀬は、出来上がった料理をダイニングへと運ぶのだった。
クリスマス当日。
買い物から帰って来た七瀬はキッチンに立ち購入品をワークトップに出して満足気に頷いた。
一番手間の掛かるオードブルはお店で注文し、凌河が帰りにケーキと一緒に持って受け取って来てくれるらしいから、その他で必要な物は七瀬が作る事にしている。といっても凝ったものは作らないのだが。
凌河へのクリスマスプレゼントも既に用意してある。いろいろ悩んだけど、ブランド物のネクタイとハンカチのセットにした。
スーツを着て仕事に行くから、関連のあるものの方が使いやすいだろう。
ビーフシチューとシチューのどっちにしようか天秤に掛けた結果、自分が食べたいという理由でシチューにした。
バケットも斜めにカットして半分だけ焼いておく。
サラダも盛り付けテーブルに並べていると、玄関の鍵が開く音がしたため出迎えと荷物を受け取るべく向かった。
「おかえりなさい、凌河さん」
「ただいま、七瀬」
「オードブルとケーキ、受け取りに行ってくれてありがとう」
「これくらい全然大丈夫。あ、こっちだけお願い」
「うん」
不安定な状態だったケーキを受け取り並んでリビングに戻る。凌河はオードブルをテーブルに置いてから着替えに行ったが、七瀬はワークトップにケーキを置いてチラリと覗いてみた。
毎回誕生日ケーキとクリスマスケーキにはワクワクしてしまう。
部屋着に着替えた凌河が包装された箱を手に寝室から出て来た。
「七瀬、先にプレゼント渡してもいい?」
「あ、うん」
それならと自分もプレゼントが入った紙袋を持ち凌河の傍に行くと、「はい」と言ってその箱を渡された。
予想していた物よりも大きな箱に少し驚くが、自分も紙袋ごと凌河に渡して微笑む。
「ありがとう、凌河さん」
「俺の方こそありがとう、七瀬」
立ったままでは開けられないため、一度ソファに座って包装紙を剥がすと、まさしく七瀬が思っていたものと同じものがパッケージに載っていて思わず歓声を上げた。
そうか、これはスノードームというのか。しかもライトになるなんて、最近の物はハイテクである。
「合ってた?」
「うん! スノードームって言うんだね」
「本来のは手の平サイズでライトもついてないんだけど、こっちの方が使えるし。ベッドサイドにでも置く?」
「あ、えっとね、置きたいところがあるんだ」
「どこ?」
七瀬はソファから立ち上がり、両親の写真が飾られた棚に向かうと、写真立ての後ろを示して「ここ」と答える。
目を瞬いていた凌河も七瀬の気持ちを知ると笑顔で頷いてくれた。
「うん、いいと思う」
「ありがとう。これもう点くかな」
「電池は入れて貰ってるから点くよ」
スイッチを入れるとドームの中の雪が舞い暖かな色味の光が辺りをほんのり照らしてくれている。
それを両親の後ろに置くと七瀬は嬉しそうに目を細めた。
隣に凌河が来て七瀬の肩を抱く。
「きっと、ご両親も喜んでるよ」
「うん。二人で眺めてくれてるといいな」
スノードームの淡い光は目にも優しいからいくらでも見ていられる。囲む父と母を想像して少しだけ寂しさを感じた七瀬は凌河へと抱き着いた。
すぐに抱き締めてくれる大きな身体に頬を寄せていると、優しく顎に触れた指に上向かさせる。
いつも柔らかく微笑んで七瀬を甘やかしてくれる凌河に微笑み返した七瀬は、ゆっくりと降りてくる唇に目を閉じたのだった。
FIN.
夕方、いつものようにキッチンに立ち夕飯の支度をしていた七瀬はいつもよりも早く帰宅した凌河に目を瞬き慌てて傍による。玄関が開いた音が聞こえなかった。
「おかえりなさい。今日は早いんだね」
「出先からの直帰だったから。はい、お土産」
「…ありがとう」
やはり今日もあった。
これまで数日に一回だったお土産が、ここ一ヶ月の間毎日続いていて七瀬は内心困っていた。お土産が嫌な訳じゃなくて、むしろそれだけ七瀬の事を考えてくれているという事だから嬉しいのだが、如何せんお値段が少々問題だ。
(このお店のロゴ、見た事ある……)
中身はおそらくチョコレート。ブランドには疎い七瀬でも分かるくらい有名な高級店のロゴが箔押しされている。
これ一つでどれくらいの値段がするのやら。
凌河が働いて稼いでいるお金だから何も言わないけれど、このままでは七瀬は幸せ太りまっしぐらだ。
「ねぇ、凌河さん」
「うん?」
「お菓子のお土産はもう終わりにしない?」
「え、美味しくなかった?」
「ううん、すごく美味しいよ。美味しいんだけど……太っちゃうから」
元々七瀬は細身で筋肉も脂肪もつきにくい体質だが、さすがに毎日甘い物をプレゼントされるといい加減お腹がぽっこりしてしまいそうだ。
眉尻を下げながらそう言うと、少しだけ驚いた凌河におもむろに腰を掴まれて揉まれ首を傾げられた。
「え、全然変わってないけど……むしろ細い」
「でも、このままだといつか顔が丸くなりそうで……」
「丸顔の七瀬も可愛いだろうね」
「もう、俺は嫌なの。だからお菓子のお土産はナシ」
「そっか。でも気にしなくても大丈夫だよ」
「?」
何がどう大丈夫なのだろう。不思議そうな顔をする七瀬の腰を抱き寄せて耳に唇を寄せた凌河は、大きな手で背中を撫でながら甘い声で囁いた。
「七瀬、俺と毎晩のようにベッドで運動してるでしょ? だから大丈夫」
「……!?」
「何なら、七瀬が上に乗ってくれればもっと運動になるけど」
「そ、それ以上はいいです!」
囁かれた耳から熱が伝わり顔が染まっていくのが分かった。七瀬は慌てて凌河の口を押さえ小刻みに首を振って言わないでと訴える。
青い目が眇められ、そのまま顔を近付けられて戸惑っていると手が外されて口付けられた。
啄むように触れては離れてを繰り返しつつ深くなるキスに息が上がるのを感じて七瀬は凌河のコートを掴む。
肉厚な舌が七瀬の舌を絡め取り強く吸い上げたところで離された。
「……ん……」
「可愛い。顔が蕩けてるね」
「…凌河さんったら……」
「ねぇ、七瀬」
「?」
「もうすぐクリスマスだね。欲しい物ある?」
少しだけ乱れた呼吸を整えていたら唐突にそんな話を振られて七瀬は目を瞬く。確かにもうすぐクリスマスだとは思っていたけど、去年までは毎年凌河チョイスのプレゼントをくれていたのにどうして今年は聞いてくるのだろう。
不思議そうな七瀬の表情から分かったのか、凌河が理由を説明してくれた。
「今年で五年目のクリスマスでしょ? 節目だし、せっかくだから七瀬の欲しい物をあげようと思って」
「……と言われても……」
「何でもいいよ? 家具でも家電でも、ぬいぐるみでも食べ物でも」
「うーん……」
これまで生きていく上で必要な物以外は不要な物として端から捨てて来た七瀬である。欲しい物、と言われてもすぐに浮かばないのは当然で、凌河は深刻な顔で悩む七瀬の頭を撫でると優しく微笑んだ。
「俺がお風呂に入ってる間、ゆっくり考えてみて。それでももし思い浮かばなかったら、今年も俺が選ぶね」
「う、うん。ごめんね、凌河さん。俺……」
「七瀬が謝る必要ないよ。焦らなくていいから、ね?」
「うん、ありがとう」
どこまでも優しい凌河に七瀬は胸が暖かくなるのを感じた。
浴室に向かう背中を見送りキッチンに戻ると、プレゼントの事を考えながら夕飯作りを再開する。
確か最近読んだ雑誌の中にいいなと思った物があった気がするのだが、どの雑誌だったか、どういった物だったかがハッキリと思い出せない。確か丸い物がついていたはずなんだけど。
(丸いだけじゃ凌河さんも分からないよね……)
手はしっかりと動かしつつも頭の中では思い出そうと必死になる。
そうだ、確か丸い物はガラス製で、その中に小さな家があったはず。光に反射してキラキラしててすごく綺麗だった。
「出来た」
ちょこちょこ意識しつつも思い出す事に必死になっていた七瀬だったが、気付いたら夕飯が完成していた。
凌河もタイミング良く上がって来たようで、頭にタオルを被せた状態で七瀬の傍へと寄って来る。何年経っても変わらない凌河に小さく笑った七瀬は当たり前のように髪を拭くのだが、ある程度拭いたところで問い掛けられた。
「どう? 思い浮かんだ?」
「あのね、名前がちょっと分からなくて……ガラスで出来た球体の中に小さな家があって、光に反射してキラキラしてる物なんだけど……」
「ガラスで出来た球体の中に小さな家、光に反射してキラキラ……」
「分からないよね……」
頭にぼんやり浮かんでいる自分でさえ商品名が分かっていないのだ、一から形を作らないといけない凌河には少し難しいだろう。
だが凌河はしばらく考えたあと、「あ」と言って何度か頷き首を傾げる七瀬に微笑んだ。
「うん、分かった。たぶん七瀬が言ってるのはこれかな」
「え、分かったの?」
「手の平サイズとライトにもなるタイプと、どっちがいい?」
「え、ライトになる物があるの?」
「あるよ。ライトの方にしようか?」
「うん」
「じゃあ楽しみにしててね」
七瀬のあのあやふやな説明で分かるなんて、さすが凌河だ。しかも七瀬の知らない事まで教えてくれる。
素直に頷いてこれ以上の情報収集はしないでおこうと決めた七瀬は、出来上がった料理をダイニングへと運ぶのだった。
クリスマス当日。
買い物から帰って来た七瀬はキッチンに立ち購入品をワークトップに出して満足気に頷いた。
一番手間の掛かるオードブルはお店で注文し、凌河が帰りにケーキと一緒に持って受け取って来てくれるらしいから、その他で必要な物は七瀬が作る事にしている。といっても凝ったものは作らないのだが。
凌河へのクリスマスプレゼントも既に用意してある。いろいろ悩んだけど、ブランド物のネクタイとハンカチのセットにした。
スーツを着て仕事に行くから、関連のあるものの方が使いやすいだろう。
ビーフシチューとシチューのどっちにしようか天秤に掛けた結果、自分が食べたいという理由でシチューにした。
バケットも斜めにカットして半分だけ焼いておく。
サラダも盛り付けテーブルに並べていると、玄関の鍵が開く音がしたため出迎えと荷物を受け取るべく向かった。
「おかえりなさい、凌河さん」
「ただいま、七瀬」
「オードブルとケーキ、受け取りに行ってくれてありがとう」
「これくらい全然大丈夫。あ、こっちだけお願い」
「うん」
不安定な状態だったケーキを受け取り並んでリビングに戻る。凌河はオードブルをテーブルに置いてから着替えに行ったが、七瀬はワークトップにケーキを置いてチラリと覗いてみた。
毎回誕生日ケーキとクリスマスケーキにはワクワクしてしまう。
部屋着に着替えた凌河が包装された箱を手に寝室から出て来た。
「七瀬、先にプレゼント渡してもいい?」
「あ、うん」
それならと自分もプレゼントが入った紙袋を持ち凌河の傍に行くと、「はい」と言ってその箱を渡された。
予想していた物よりも大きな箱に少し驚くが、自分も紙袋ごと凌河に渡して微笑む。
「ありがとう、凌河さん」
「俺の方こそありがとう、七瀬」
立ったままでは開けられないため、一度ソファに座って包装紙を剥がすと、まさしく七瀬が思っていたものと同じものがパッケージに載っていて思わず歓声を上げた。
そうか、これはスノードームというのか。しかもライトになるなんて、最近の物はハイテクである。
「合ってた?」
「うん! スノードームって言うんだね」
「本来のは手の平サイズでライトもついてないんだけど、こっちの方が使えるし。ベッドサイドにでも置く?」
「あ、えっとね、置きたいところがあるんだ」
「どこ?」
七瀬はソファから立ち上がり、両親の写真が飾られた棚に向かうと、写真立ての後ろを示して「ここ」と答える。
目を瞬いていた凌河も七瀬の気持ちを知ると笑顔で頷いてくれた。
「うん、いいと思う」
「ありがとう。これもう点くかな」
「電池は入れて貰ってるから点くよ」
スイッチを入れるとドームの中の雪が舞い暖かな色味の光が辺りをほんのり照らしてくれている。
それを両親の後ろに置くと七瀬は嬉しそうに目を細めた。
隣に凌河が来て七瀬の肩を抱く。
「きっと、ご両親も喜んでるよ」
「うん。二人で眺めてくれてるといいな」
スノードームの淡い光は目にも優しいからいくらでも見ていられる。囲む父と母を想像して少しだけ寂しさを感じた七瀬は凌河へと抱き着いた。
すぐに抱き締めてくれる大きな身体に頬を寄せていると、優しく顎に触れた指に上向かさせる。
いつも柔らかく微笑んで七瀬を甘やかしてくれる凌河に微笑み返した七瀬は、ゆっくりと降りてくる唇に目を閉じたのだった。
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