人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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飲み込んでた本心

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『いつも一人にしてごめんね、陽向』
『今度の休みには、お隣さんも誘って遊園地に行こうか』
『ほんと? 約束だよ!』

『陽向、ごめん。遊園地に行く約束してたのに…』
『お母さんも出ないといけなくて…ごめんね』
『……ううん、大丈夫だよ。お仕事頑張って』

『あのね、お母さん。今度の金曜日、授業参観で自分の家族を紹介するんだ。オレも作文読むんだけど…』
『ごめんね陽向。その日はどうしても抜けられない会議があって』
『あ…そ、そうなんだ。うん、大丈夫だから。気にしないで』

『面談はオレだけ受けるよ。二人とも今凄く忙しいんだろ? 先生にも事情は話してるから』
『お母さん、一時間くらいなら行けると思うわ』
『ううん、大丈夫だから。仕事頑張って』
『……いつも我慢させてごめんね、陽向』

『陽向、本当に一人で大丈夫なの? いつ戻って来れるのか分からないのよ?』
『まだ中学生なのに…心配だよ』
『真那もいるし大丈夫だって』
『何かあったらいつでも連絡してね?』
『飛んで帰って来るから』
『うん、ありがとう』
『ごめんね、陽向』
『ごめんな』

 忙しい父さんと母さんはいつもオレに謝ってた。約束が反故になるのはしょっちゅうだったし、仕事だから仕方ないって幼いながらに理解はしてたから謝る必要なんてないのに、二人はいつも申し訳なさそうで。
 オレがいるからそんな気持ちを抱かせてるんだと思うと悲しかった。オレは二人の足を引っ張ってる。オレがいなければ、二人はもっと伸び伸びと仕事が出来たんじゃないかって。
 だから、奏音さんに「真那の足を引っ張ってる」って言われた時ショックだった。オレは真那にも迷惑をかけてるんだって。
 真那がそんな事を思ってないのは分かってるのに、あの写真が表に出たら真那が悲しむって、勝手に苦しくなって思い込んで逃げた。今思えば真那に対して随分ひどい事をしたよな。
 ちゃんと謝らないと。



「来てしまった……」

 学校から帰って来て着替えたあと、スマホの電源を入れたオレは怒涛のように入ってきた通知に驚いた。真那はもちろんの事、志摩さんや水島さん、円香、千里からも来てて胸が温かくなる。
 両親なんかは誕生日の連絡のあと、どうして電話に出ないのかを誤字だらけで送って来てて、物凄く心配かけたって申し訳なくなった。
 みんなも優しい言葉ばかりで、真那も、既読さえつかない事を気にしながらもずーっとオレを気遣うメッセージをくれてる。スクロールして、一番新しいものを見て胸がいっぱいになった。

『ヒナ、お願いだから一人で泣かないで』

 それを見た瞬間いても立ってもいられなくて、オレは今、真那が住んでるマンションの前にいた。
 本当は連絡した方がいいのかもしれない。日下部にも連絡するって言ったしそのつもりだったんだけど、あのメッセージを見たらどうしてもここに来たくなって…来てた。勢いって凄いな。
 キョロキョロするのも変だから、澄ました顔で合鍵を使ってオートロックを解除しエレベーターに乗り込む。前もそうだけど、部屋に着くまでが異様に長く感じてドキドキものだ。
 部屋の前に着き、これまた合鍵で解錠して入る。散らかってはないけど、カーテンが閉まってるせいか暗くて重苦しい空気だ。

「空気、入れ替えるか」

 ベランダ側の窓を開けるとふわっと風が入ってきてカーテンが揺れる。
 何となく違和感を覚えてキッチンに向かい冷蔵庫を開けたら、小さな四角い箱があってハッとした。それはどう見てもケーキの箱で、引っ張り出したオレはそれをワークトップの上に置いて開けてみる。
 ケーキが載ったトレーを引き出し楕円のチョコプレートに書かれた文字を見て唇を噛んだ。

『HAPPYBIRTHDAY ヒナ』

 あの日一緒に食べるはずだったケーキが何でまだ冷蔵庫に…と考えて気付いた。もしかしたら、真那は一度も帰ってきてないのかもしれない。

「え、じゃあ今日も帰って来ない可能性、ある?」

 それは困る。ここまで来て擦れ違いとか笑えない。
 スマホを取り出し、真那のマンションにいる事を伝えようとメッセージアプリを開いた瞬間、着信画面に変わり危うく落とすところだった。

「……真那?」

 なんと言うタイミングで掛けてくるんだと驚きつつも通話ボタンを押して耳に当てると、あからさまにホッとした声が聞こえてきた。

『ヒナ…! 良かった…電話繋がって…』
「ごめん…いろいろ考えてて」

 真那の声、震えてる。そうだよな、真那の時と違ってオレは意図的に連絡絶ってたんだし。オレには過保護過ぎるくらい心配性の真那がこうなるのも無理はない。

『あの後ちゃんと帰れた? 変な人に声かけられなかった?』
「えっと、風音さんが送ってくれて…」
『風音が? ……俺、聞いてない』
「いや、でも、ほら。風音さんのおかげで危ない目には遭わなかったんだし」
『……そうだね、それについては感謝するけど』
「ダメ、だったか?」

 志摩さんと風音さんの事、真那も信用してるしいいかなと思ったんだけど、やっぱり恋人としては嫌だったかと不安になって問いかけたら、少ししてふっと笑った真那が『ううん』と言ってくれた。

『風音なら安心だしいいよ。ところでヒナ、今どこにいるの?』
「え? えっと……真那の部屋」
『俺の部屋?』

 凄くナチュラルにいる場所を聞かれて答えたけど、そりゃ驚きますよね。明日も学校あるし。

『どうりで家にいないと…』
「へ? オレの家行ったのか?」
『うん。やっと水島さんから解放されたから』
「解放?」
『……あの日よっぽど俺の様子が変だったみたいで……下手したらあのおん…あの子の事務所に殴り込みに行くんじゃないかって心配した水島さんの家にお世話になってたんだ』

 今〝あの女〟って言おうとしたな。ってかそうか、だからケーキ残ってたんだ。
 日下部がブチ切れてたって言ってたし、水島さんがそうするくらいヤバい状態だったって事だよな。……ますます申し訳ない。

「あの、真那、オレ…」
『待って。今から帰るから、向き合って話しよう。ヒナの顔見たい』
「あ、うん」

 そういえば、オレも真那の顔が見たくてここに来たんだった。それに、謝るのもちゃんと顔を見合わせないと相手に失礼だ。
 二言三言会話して通話を終えたオレは、チョコプレートならイケるんじゃないかと抜いてクリームがついていない方を小さく齧る。食べたかったな、これ。めちゃくちゃ勿体ない。
 勿体ないし申し訳ないけど、三日目のケーキは怖いので破棄させて頂きます。パティシエさんごめんなさい。
 でもとりあえず、真那にちゃんとお礼を言ってからにしよう。



 四十分くらいして真那が帰って来たんだけど、何かめちゃくちゃ疲れた顔してる。

「お、おかえり」
「ただいま……ヒナ、会いたかった」

 玄関まで出迎えるとヨレっとした真那に抱き締められ、久し振りの香りに包まれて心がほわっとなる。
 それにしても、何でこんなにヘロヘロになってるんだ?

「真那、何かあったのか?」
「てっきりヒナいると思ってたから家の前で水島さんと別れたんだ。仕方ないからタクシー捕まえようと通りに出たら、ファンの子に見付かってちょっとした騒ぎになって……」
「ああ…」

 さぞかし人が集まったんだろうな。
 上り框のおかげで少しだけ近くなった真那の頭を労いの意味も込めて撫でると、真那の手がオレの頬を包み親指で目尻を撫でられた。

「あのあと、ずっと泣いてた?」
「そんなには…」
「……ヒナが泣いてるの見た時、心臓潰れるかと思った」
「え?」
「ヒナ、泣かないから」

 額同士がコツンとくっつき真那の切なげな顔が間近に見える。
 そういえば、いつから泣かなくなったんだっけ?
 目蓋に唇が触れ靴を脱いだ真那に抱き上げられリビングに連れて行かれる。ソファに座った膝に乗せられ優しく頬が抓られた。

「オレ、最後に泣いたのいつ?」
「俺が見た限りでは、ヒナが五年生になった時。俺が中学に上がって登下校の時間が合わなくなったのを嫌がって、学校に行きたくないって泣いてた」
「そ、その節はどうも…」
「可愛かったなぁ…俺と行けないなら行く意味ない、楽しくないっておばさんに怒ってて。俺は早く出ようと遅く出ようと、ヒナといられるなら構わなかったから登校だけは一緒にしたんだよね。学校終わったらヒナと遊ぶ約束して」

 と、とんだ我儘小僧じゃんか、オレ。そんでもってそれを可愛いって言える真那、凄いな。
 あれ、でもオレ、親にはそんな自分本位な事、言った事ないような…。
 不思議がるオレに気付いたのか真那がクスリと笑う。

「ヒナは気付いてなかったけど、あんな風に我儘言ってくれたのは俺にだけだったんだよ」
「へ?」
「中学生になったら滅多に言わなくなったけど、昔から俺にだけは可愛い我儘たくさん言ってくれてた」

 そうだ、真那はオレがどんな我儘言おうと叶えてくれてた。嫌な顔一つしないで、むしろ笑顔で「いいよ」って言って応えてくれたから真那には甘えてた気がする。
 ずっとずっと、親よりも一番近くにいて大切にしてくれてた。

「真那」
「ん?」
「ごめんな。真那の気持ち信じてるはずなのに、オレは傍にいない方がいいんじゃないかって勝手に思って飛び出して…写真が出たらって考えると怖かった。でも真那とは離れたくないって頭混乱してたから」
「俺を疑うならまだいいよ。でも、泣きながら離れて行くのはもう二度としないで。本当に心配で堪らなかった」
「ごめん……」

 今は真那が泣きそうな顔になりオレを強く抱き締める。オレ、結構自分勝手な思い込みしたのに、何でコイツは怒らないんだ。

「……真那はオレに甘過ぎる」
「俺がヒナに厳しく出来ると思う? こんなに可愛いのに」
「それとこれとは違…あ、どこ触って…っ」

 耳に真那の唇が触れ大きな手がお尻を撫でる。まだ話は終わってないのに甘い雰囲気になりそうで慌てて押さえた。
 隙あらばそういう事をしてこようとするんだから、ほんっとーに元気だよな。

「ヒナ。俺にも言いたくて我慢してる事、ない?」
「…っ…え…?」
「〝大丈夫〟で誤魔化してる事、ない?」
「……」

 痛くない程度に噛まれて反射的に真那の肩を押す。潜められた低めの声にそう問い掛けられ目を瞬くともう一度聞かれた。
 オレが真那に言いたくても我慢してて、〝大丈夫〟で誤魔化してること。
 頭に浮かんだ言葉たちを消すように頭を振るとまた真那の両手に頬を挟まれた。

「ヒナ、大丈夫だから」
「……困らせたく、ない…」
「困らないよ。ヒナの言葉ならどんな事でも聞きたい」

 小さい頃、毎日忙しくしてる父さんと母さんに一回だけ「もっと一緒にいてほしい」って言った事がある。でも返って来たのは「ごめんね」って言葉と二人の困った顔で、それ以来オレは二人にそんな顔をさせないようになるべく言葉を選んで話すようになった。
 真那にまでそんな顔されたらショックどころじゃないから言わないようにしてたのに。

「ヒナ」
「…………」
「教えて」
「…………オレ、真那ともっと会いたい…傍にいて欲しい」
「うん」
「声聞きたい、顔見たい……あの家に一人は寂しくて…本当は嫌なんだ。……真那、オレ…あの…」
「言って?」
「…ず、ずっと、一緒に…いて欲しい……真那と、おじいちゃんになってもこうしてたい」

 真那の声も、オレを見つめる目もずっと優しい。
 本当は家族団欒したかった。遊園地だって行きたかったし、授業参観だって見に来て欲しかった。三者面談で一緒に進路の話をして、高校に合格した時も一緒に喜んで欲しかった。
    愛されてるって分かってるけど、本当はもっと近くにいて欲しかったんだ。

「我儘で…ごめんな…」
「我儘なんかじゃないよ。ヒナの言葉が聞けて俺は嬉しい。ヒナ、やっぱり一緒に暮らそう? そうすれば毎日顔が見られるし、早く帰れたら話も出来るよ」
「でもオレ、まだ母さんたちに真那と付き合ってる事話せてない」
「無理に話さなくても、おばさんたちからすれば幼馴染み同士がルームシェアするだけだから問題ないと思うよ? それに、俺と一緒の方が安心するんじゃないかな」
「……それは一理ある。でも、オレは真那が好きだから二人に隠したくない」

 母さんも父さんも真那を気に入ってるから頭ごなしに反対される事はないと思うけど、男同士だからって首を振られるかもって不安はある。でも出来るならちゃんと認めて貰いたい。
 首に腕を回して抱き着くオレの背中をポンポンと軽く叩いた真那は、オレの顔を上げさせると何でか物凄くいい笑顔でこんな事を言ってきた。

「じゃあ、許可を貰いに行こうか」
「へ?」
「おじさんたちに会いに行こう」

 そんな一杯飲みに行こうみたいなテンションで行けるような距離じゃないと思います。
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