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初めて見る表情
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あの後どうにか顔の熱も収まり、無事に誕生日プレゼントを買い、ゲーセンに行ったり甘いもの巡りをしたりして夕方帰宅したオレは夕飯の仕込みをしていた。
今日は煮込む時間も余力もないし、ぶち込んで火を通せば出来上がる野菜炒めにしたんだけど、贅沢とは思いながらも面倒臭さが勝ってカット野菜で作る事にして、現在味付け中だ。
あとは味噌汁と…豆腐あったから冷奴でいいか。
ホント、今日は自分の感情に振り回された一日だった気がする。自覚出来たのはまだいいとして、問題はいつ真那に言うかだよな。
今は忙しい時期だし、なるべくならアイドル活動の方に専念して欲しいから言うならツアー終了後か? 去年もツアー終わったあと、一日オフがあって仕事再開たったもんな。
直接真那の顔見て伝えたいし、ポロッと言わないように気を付けないと。
「あ、ご飯炊けた」
軽快な音楽が炊飯完了を知らせ、蒸気口から炊き立てご飯のいい匂いが漂って来る。それに食欲をそそられたオレはささっと味噌汁を作り、豆腐を切って皿に盛り付けると、湯気の立つ真っ白なご飯をよそい食事の準備を完了させるのだった。
夕飯も食べ、風呂にも入り、ソファに座ってスマホを弄りながら寛いでいたオレだけど、時計を確認してそろそろ寝ようと伸びをしたその時、突然リビングのドアが開いて腕を上げたまま固まった。
視線をやるとどこか怒った様子の真那がいて目を瞬く。
「あ、れ? 真那? 今日来るって言ってたっけ?」
いや、来てないはず。
そう思い持っていたスマホに視線を戻してメッセージアプリを開くけど、やっぱり新着はなくて首を傾げる。いつもなら絶対「今日行くね」って来るのにどうしたんだ?
「そういえば、今忙しいんじゃないのか? いつも時間ギリギリって……」
さっきから何も言わない真那を不思議に思いつつもスマホを閉じて顔を上げると思ったよりも近くにいて驚く。初めて見るその表情に戸惑っていたら、隣に腰を下ろした真那に肩を掴まれた。
「ま、真那?」
「ねぇ、ヒナ。今日駅で一緒にいたの誰?」
「駅で? …ああ、友達だよ。ほら、前に真那との関係を素敵だねって言って貰えて嬉しかったって言っただろ? その子たち」
「小さい子は彼女なの?」
「まさか。ただの友達だって」
第一、真那から告白されてるのに違う人と付き合うなんて不誠実な事する訳ないだろ。でも真那は苦しそうに眉根を寄せると、肩から手を離し今度はオレの両手を握って口元に押し当てる。
「なら、何であんなにくっついてたの? あんなの、友達の距離じゃないよね」
「それも見てたのか? あれはいきなり抱き着かれただけで…」
「移動中にたまたま見かけた。……どうしたらヒナは、俺だけのヒナでいてくれる?」
「真那…?」
「他の人見るなよ…」
痛いくらいに握られた手が離されて肩と腰に長い腕が回ってくる。抱き締められ近付いてくる真那の顔に「あ」と思っている間に唇が塞がれた。一瞬離れてまた塞がれて、このまま食べられるんじゃないかってキスに身体が震える。
「ん…!?」
キスなんて真那が初めてなオレに上手く応えられるはずもなく、頭の中で受け入れるべきか押し返すべきかを悩んでいるとヌルリと舌が入ってきた。
好きだって自覚はしたけどこれは聞いてないし予想もしてない。
「…っ、ん、ちょ…真那…っ」
口の中を這い回る舌から逃げてたのにすぐに捕らえられて舌先で撫でられる。ゾワッとした何かが背中を這い上がり、顔を引こうとするけど真那がそれを追って来るから引き離せなくて、息苦しさと良く分からない感覚に身体の力が抜けたオレはそのまま真那に押し倒された。
これ、非常にマズいのではないだろうか。
「は…っ…、ま、な…くるし…」
「ヒナ…」
「……!」
頭の中テンパってるせいか上手く呼吸出来なくて目尻に涙が浮かぶ。音を立てて離れた真那の唇が今度はオレの首筋に触れ、大きな手が服の裾から入ってきた。
オレが真那に想いを伝えれば、オレと真那は恋人になる。恋人同士にはキスの先があるってオレはちゃんと知ってるけど、それは今じゃない。第一オレはまだ答えてないし、その覚悟も出来てないんだ。
それに、様子のおかしい真那にこんな事させる訳にはいかない。
「……っ真那!!」
「…っ!」
真那が口付けてる場所がチクっとし、慌てて服の襟首を掴み大きな声で呼べば驚いたのかビクッとして真那の動きが止まった。少ししてソファに手を付き勢い良く起き上がった真那は見るからにショックを受けていて、自分がした事が信じられないみたいだ。
「あ…ヒナ、ごめん……俺…」
「落ち着いたか?」
「……ん」
「じゃあとりあえずどいてくれ」
「うん…」
うわぁ、凄く落ち込んでる。真那、オレにはびっくりするくらい過保護だし、怒る事どころか怖い顔すらした事ないもんな。美人が怒ると怖いって聞くけど、リビングに入って来た時の顔はちょっと怖かった。
ソファに座り直し俯いた真那は、慣れ親しんでるはずのオレの家なのにどこか所在なさげで何か可哀想になる。
「…ごめん、ヒナ。怖かったよね」
「や、うん、まぁ……」
「ヒナと女の子が抱き合ってるの見て頭が真っ白になって…」
「抱き合ってた訳じゃないけど……でも不安にさせたよな、ごめんな?」
告白してから真那はオレに触らせないでって言ってたし。友達同士なら多少なりとも接触はあるものだけど、オレから抱き着いた訳じゃないとはいえそれを願った本人に見られるなら話は別だ。
しかも女の子とだし、俺が男を恋愛対象として見てない事を分かってる真那としては不安で堪らなかったんだろう。
「……ヒナは優しすぎる」
「え?」
「俺は怒られて当然の事をしたんだよ。それなのに何でヒナが謝るの」
「何でって…真那に嫌な思いさせたから?」
「……そういうとこ、ホントずるい」
何でか少しだけ悔しそうな真那はオレの肩に頭を乗せると息を吐いて呟くけど、オレには何がズルいのか分からない。
それより、もうすぐツアー始まるのにここに来て大丈夫だったんだろうか。
「ところで真那、今日は早く終わったのか?」
「……志摩さんとの居残り練習、サボって来た」
「今すぐ志摩さんにごめんなさいの連絡をしなさい」
「はい」
まさかサボってまで来るとは思わなかった。まぁそれだけ駅前で見た事が衝撃だったって事なんだろうけど…う、胸が痛い。
しょんぼりしてポケットからスマホを取り出した真那を見て今日一番の目的だったものを思い出し、立ち上がって棚の方に行く。引き出しから取り出して真那の隣に座ると、微かに志摩さんの声が聞こえて苦笑した。
怒ってるようには聞こえないけど、それでも叱られてるのは確からしい。
「ん…分かった。…九時に事務所、了解」
明日の事を言われてるのか、淡々と復唱して通話を終えた真那はスマホをテーブルに置きソファの背凭れに寄りかかった。疲れ切った顔を見て少し悩んだけど、肩をトントンと叩くと不思議そうにこっちを見る。
「ちょっと…や、かなり早いんだけど、これ」
「?」
「誕生日プレゼント。真那、当日には移動するんだろ? そのあとも間が空くし、もう渡しとく」
「……ありがとう、ヒナ」
青い包装紙と白い造花の付いたリボンでラッピングされたプレゼントを差し出すと、真那は少しだけ驚いた顔をして受け取る。すぐにほわんとした雰囲気になりいそいそと開け始めたけど…こうして見てると感情が分かりにくいとか本当に? って思うな。
「……スマホリング?」
「うん。ちなみに……お揃い」
取り出す時一緒に持ってきてた自分の分のスマホリングの箱を見せにっと笑うと、いつもは瞼が半分近く閉じられている目が大きく開かれた。
お揃いと言ってもメーカーと色と柄くらいだけど、一緒なのは変わらないだろう。
「え…」
「オレとお揃いのもの、欲しかったんだろ?」
「何で知ってるの?」
「真那の事なら何でも知ってる…って言いたいけど、志摩さんにさりげなくリサーチして貰った」
「だから志摩さん聞いてきたのか…。それよりヒナ、楽屋の時は聞けなかったけど、いつの間に志摩さんと連絡先交換したの」
箱を開け取り出したスマホリングを自分のスマホの背面に貼り付けた真那は、オレの分まで開けて手に取り代わりに付けてくれる。初めてのスマホリングに指を入れて遊んでいると、拗ねた声音の真那にジト目で見られた。
「真那の誕生日プレゼントを探しに出た時偶然会って……流れで?」
「もう交換したあとだし仕方ないけど、毎日連絡するのは俺だけにしてね」
「忙しいんだから、おはようとかおやすみとか送って来なくていいんだぞ?」
「やだ。俺は毎日ヒナの名前だけでも見たい」
名前だけでもって…確かにアカウント名は〝陽向〟だけども。
ひょいっとスマホが取り上げられ、お揃いのスマホリングを嬉しそうに見る横顔にどうしたものかと考える。
今が一番のチャンスではあるけど、ツアー前だからなぁ……んー、うん、やっぱそうしよう。
「なぁ、真那」
「ん?」
「ツアー終わったら話がある」
「……今じゃ駄目なの」
「ダメ。まぁ悪い話じゃないから」
「分かった」
気にはなるだろうに素直に頷いてくれた真那の頭を撫でていると、その手を取られて眉尻を下げた真那が少しだけ言いにくそうに口を開いた。
「ヒナ、ぎゅーしていい?」
「どーぞ」
ぎゅーくらいならいくらでもさせてやると腕を広げて首を傾げると、ホッとしたように微笑んだ真那がさっきよりも優しく抱き締めてくる。うーん、めちゃくちゃ気にしてるな。
「ツアー、頑張れ」
「うん」
「終わったら、真那が好きなもんたくさん作ってやるからな」
「ありがとう。……ヒナ、好きだよ」
耳元で囁かれる言葉に「オレも」って返したいけど、ツアーの後って決めたから今は応えられない。代わりに背中に回した腕に力を込めて真那の首筋に頬を寄せた。
こっちの会場で開催するライブに当選したという事は、何となく気恥しいから真那には内緒にしておく。
今日は煮込む時間も余力もないし、ぶち込んで火を通せば出来上がる野菜炒めにしたんだけど、贅沢とは思いながらも面倒臭さが勝ってカット野菜で作る事にして、現在味付け中だ。
あとは味噌汁と…豆腐あったから冷奴でいいか。
ホント、今日は自分の感情に振り回された一日だった気がする。自覚出来たのはまだいいとして、問題はいつ真那に言うかだよな。
今は忙しい時期だし、なるべくならアイドル活動の方に専念して欲しいから言うならツアー終了後か? 去年もツアー終わったあと、一日オフがあって仕事再開たったもんな。
直接真那の顔見て伝えたいし、ポロッと言わないように気を付けないと。
「あ、ご飯炊けた」
軽快な音楽が炊飯完了を知らせ、蒸気口から炊き立てご飯のいい匂いが漂って来る。それに食欲をそそられたオレはささっと味噌汁を作り、豆腐を切って皿に盛り付けると、湯気の立つ真っ白なご飯をよそい食事の準備を完了させるのだった。
夕飯も食べ、風呂にも入り、ソファに座ってスマホを弄りながら寛いでいたオレだけど、時計を確認してそろそろ寝ようと伸びをしたその時、突然リビングのドアが開いて腕を上げたまま固まった。
視線をやるとどこか怒った様子の真那がいて目を瞬く。
「あ、れ? 真那? 今日来るって言ってたっけ?」
いや、来てないはず。
そう思い持っていたスマホに視線を戻してメッセージアプリを開くけど、やっぱり新着はなくて首を傾げる。いつもなら絶対「今日行くね」って来るのにどうしたんだ?
「そういえば、今忙しいんじゃないのか? いつも時間ギリギリって……」
さっきから何も言わない真那を不思議に思いつつもスマホを閉じて顔を上げると思ったよりも近くにいて驚く。初めて見るその表情に戸惑っていたら、隣に腰を下ろした真那に肩を掴まれた。
「ま、真那?」
「ねぇ、ヒナ。今日駅で一緒にいたの誰?」
「駅で? …ああ、友達だよ。ほら、前に真那との関係を素敵だねって言って貰えて嬉しかったって言っただろ? その子たち」
「小さい子は彼女なの?」
「まさか。ただの友達だって」
第一、真那から告白されてるのに違う人と付き合うなんて不誠実な事する訳ないだろ。でも真那は苦しそうに眉根を寄せると、肩から手を離し今度はオレの両手を握って口元に押し当てる。
「なら、何であんなにくっついてたの? あんなの、友達の距離じゃないよね」
「それも見てたのか? あれはいきなり抱き着かれただけで…」
「移動中にたまたま見かけた。……どうしたらヒナは、俺だけのヒナでいてくれる?」
「真那…?」
「他の人見るなよ…」
痛いくらいに握られた手が離されて肩と腰に長い腕が回ってくる。抱き締められ近付いてくる真那の顔に「あ」と思っている間に唇が塞がれた。一瞬離れてまた塞がれて、このまま食べられるんじゃないかってキスに身体が震える。
「ん…!?」
キスなんて真那が初めてなオレに上手く応えられるはずもなく、頭の中で受け入れるべきか押し返すべきかを悩んでいるとヌルリと舌が入ってきた。
好きだって自覚はしたけどこれは聞いてないし予想もしてない。
「…っ、ん、ちょ…真那…っ」
口の中を這い回る舌から逃げてたのにすぐに捕らえられて舌先で撫でられる。ゾワッとした何かが背中を這い上がり、顔を引こうとするけど真那がそれを追って来るから引き離せなくて、息苦しさと良く分からない感覚に身体の力が抜けたオレはそのまま真那に押し倒された。
これ、非常にマズいのではないだろうか。
「は…っ…、ま、な…くるし…」
「ヒナ…」
「……!」
頭の中テンパってるせいか上手く呼吸出来なくて目尻に涙が浮かぶ。音を立てて離れた真那の唇が今度はオレの首筋に触れ、大きな手が服の裾から入ってきた。
オレが真那に想いを伝えれば、オレと真那は恋人になる。恋人同士にはキスの先があるってオレはちゃんと知ってるけど、それは今じゃない。第一オレはまだ答えてないし、その覚悟も出来てないんだ。
それに、様子のおかしい真那にこんな事させる訳にはいかない。
「……っ真那!!」
「…っ!」
真那が口付けてる場所がチクっとし、慌てて服の襟首を掴み大きな声で呼べば驚いたのかビクッとして真那の動きが止まった。少ししてソファに手を付き勢い良く起き上がった真那は見るからにショックを受けていて、自分がした事が信じられないみたいだ。
「あ…ヒナ、ごめん……俺…」
「落ち着いたか?」
「……ん」
「じゃあとりあえずどいてくれ」
「うん…」
うわぁ、凄く落ち込んでる。真那、オレにはびっくりするくらい過保護だし、怒る事どころか怖い顔すらした事ないもんな。美人が怒ると怖いって聞くけど、リビングに入って来た時の顔はちょっと怖かった。
ソファに座り直し俯いた真那は、慣れ親しんでるはずのオレの家なのにどこか所在なさげで何か可哀想になる。
「…ごめん、ヒナ。怖かったよね」
「や、うん、まぁ……」
「ヒナと女の子が抱き合ってるの見て頭が真っ白になって…」
「抱き合ってた訳じゃないけど……でも不安にさせたよな、ごめんな?」
告白してから真那はオレに触らせないでって言ってたし。友達同士なら多少なりとも接触はあるものだけど、オレから抱き着いた訳じゃないとはいえそれを願った本人に見られるなら話は別だ。
しかも女の子とだし、俺が男を恋愛対象として見てない事を分かってる真那としては不安で堪らなかったんだろう。
「……ヒナは優しすぎる」
「え?」
「俺は怒られて当然の事をしたんだよ。それなのに何でヒナが謝るの」
「何でって…真那に嫌な思いさせたから?」
「……そういうとこ、ホントずるい」
何でか少しだけ悔しそうな真那はオレの肩に頭を乗せると息を吐いて呟くけど、オレには何がズルいのか分からない。
それより、もうすぐツアー始まるのにここに来て大丈夫だったんだろうか。
「ところで真那、今日は早く終わったのか?」
「……志摩さんとの居残り練習、サボって来た」
「今すぐ志摩さんにごめんなさいの連絡をしなさい」
「はい」
まさかサボってまで来るとは思わなかった。まぁそれだけ駅前で見た事が衝撃だったって事なんだろうけど…う、胸が痛い。
しょんぼりしてポケットからスマホを取り出した真那を見て今日一番の目的だったものを思い出し、立ち上がって棚の方に行く。引き出しから取り出して真那の隣に座ると、微かに志摩さんの声が聞こえて苦笑した。
怒ってるようには聞こえないけど、それでも叱られてるのは確からしい。
「ん…分かった。…九時に事務所、了解」
明日の事を言われてるのか、淡々と復唱して通話を終えた真那はスマホをテーブルに置きソファの背凭れに寄りかかった。疲れ切った顔を見て少し悩んだけど、肩をトントンと叩くと不思議そうにこっちを見る。
「ちょっと…や、かなり早いんだけど、これ」
「?」
「誕生日プレゼント。真那、当日には移動するんだろ? そのあとも間が空くし、もう渡しとく」
「……ありがとう、ヒナ」
青い包装紙と白い造花の付いたリボンでラッピングされたプレゼントを差し出すと、真那は少しだけ驚いた顔をして受け取る。すぐにほわんとした雰囲気になりいそいそと開け始めたけど…こうして見てると感情が分かりにくいとか本当に? って思うな。
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お揃いと言ってもメーカーと色と柄くらいだけど、一緒なのは変わらないだろう。
「え…」
「オレとお揃いのもの、欲しかったんだろ?」
「何で知ってるの?」
「真那の事なら何でも知ってる…って言いたいけど、志摩さんにさりげなくリサーチして貰った」
「だから志摩さん聞いてきたのか…。それよりヒナ、楽屋の時は聞けなかったけど、いつの間に志摩さんと連絡先交換したの」
箱を開け取り出したスマホリングを自分のスマホの背面に貼り付けた真那は、オレの分まで開けて手に取り代わりに付けてくれる。初めてのスマホリングに指を入れて遊んでいると、拗ねた声音の真那にジト目で見られた。
「真那の誕生日プレゼントを探しに出た時偶然会って……流れで?」
「もう交換したあとだし仕方ないけど、毎日連絡するのは俺だけにしてね」
「忙しいんだから、おはようとかおやすみとか送って来なくていいんだぞ?」
「やだ。俺は毎日ヒナの名前だけでも見たい」
名前だけでもって…確かにアカウント名は〝陽向〟だけども。
ひょいっとスマホが取り上げられ、お揃いのスマホリングを嬉しそうに見る横顔にどうしたものかと考える。
今が一番のチャンスではあるけど、ツアー前だからなぁ……んー、うん、やっぱそうしよう。
「なぁ、真那」
「ん?」
「ツアー終わったら話がある」
「……今じゃ駄目なの」
「ダメ。まぁ悪い話じゃないから」
「分かった」
気にはなるだろうに素直に頷いてくれた真那の頭を撫でていると、その手を取られて眉尻を下げた真那が少しだけ言いにくそうに口を開いた。
「ヒナ、ぎゅーしていい?」
「どーぞ」
ぎゅーくらいならいくらでもさせてやると腕を広げて首を傾げると、ホッとしたように微笑んだ真那がさっきよりも優しく抱き締めてくる。うーん、めちゃくちゃ気にしてるな。
「ツアー、頑張れ」
「うん」
「終わったら、真那が好きなもんたくさん作ってやるからな」
「ありがとう。……ヒナ、好きだよ」
耳元で囁かれる言葉に「オレも」って返したいけど、ツアーの後って決めたから今は応えられない。代わりに背中に回した腕に力を込めて真那の首筋に頬を寄せた。
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