人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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幼馴染み

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『ヒナ、俺、アイドルになるんだって』
『え? アイドル?』
『母さんが勝手に応募したらしくて、こないだ一次審査受けたらその日に事務所連れて行かれた』
『え、そんな飛び級みたいなのアリ?』
『さぁ? 俺がそうなったんだからアリなんじゃない?』
『ふーん……まぁでも、真那まなならきっと人気アイドルになれるよ。オレずっと応援してるから、頑張れ!』

 その言葉通り、応援し続けて早一年半。真那は一気にスターへの道を駆け上がり、知らない人はいないんじゃないかってくらいの人気者になった。



「うわー、今回も真那は綺麗だなー」

 学校帰りに本屋で買ったファッション雑誌を開きオレは感嘆混じりに呟く。
 この雑誌の表紙と見開きの特集を飾っているのはオレ、楢篠 陽向ならしの  ひなたの幼馴染みである三枝 真那さえぐさ まなだ。
 幼稚園の頃から完璧な顔立ちをしていてそれはそれはモテていた真那は、今最も注目度が高い大人気アイドルグループ【soarソアー】に属していて、歌にダンスにモデル、もちろん音楽番組に出たりライブをやったりと今や引っ張りだこの大忙し。
 リリースするCDは初動からオリコンチャート一位を独占し、ライブのチケットは数十分で即日完売。この刊行号は真那だけだけど、メンバー全員が揃った雑誌は必ず売り切れるほどの人気っぷりだ。

【soar】のメンバーは歌唱力に秀でた真那と、何でもオールマイティにこなすリーダー露桐 志摩つゆきり しまさん、表現力の高いパフォーマンスが魅力の道下 風音みちした かざねさんの三人だ。
 デビュー当時から話題になり、あれよあれよという間に人気が出まくって、今やアイドルグループのトップにいると言っても過言ではないくらい街中でもテレビでも見ない日はない。

 対してオレはちょっと背の高い女子と同じくらいの身長、どこにでもある顔に筋肉もなきゃ脂肪も付きにくい貧相な身体。真那と並ぶと霞むどろか存在が掻き消えて引き立て役にすらならない至って平凡な男だ。
 真那と同じ高校に行きたくて頑張って勉強して、せっかく合格したのに忙しい真那は登校さえままならない。アイドルになる前は毎日のように遊んでいたのにそんな時間も減って正直寂しさもある。
 応援する気持ちはなくなってないし、何ならオレが一番の真那ファンだと豪語出来るくらいなんだけど……やっぱりオレにとって真那は幼馴染みだから、本当はもっと話したい欲求もあって……。

「なーんて思ってたんだけどなー……」

 雑誌を閉じてテーブルに頬杖をつきベッドへと視線をやる。
 シングルサイズのベッドから足がギリギリ出ないくらいの長身に、日本とイギリスのハーフであるお母さん譲りの綺麗な顔。俺とは全然違う、アイドルになるために生まれてきたかのようなキラキラした男。

「何でここにいるんだよ、真那」

 そう、なぜかオレのベッドの上に、家主であるオレ以上に寛いでいる真那が横になっていて、オレは思わず呆れた声を出してしまう。
 確かに半年くらい前までは昔みたいに会って遊べたらとか思ってたよ。だってその時は全く会えなかったし、顔も雑誌やテレビでしか見れなかったから何か遠い存在になったみたいで嫌だったんだ。
 耐えきれなくてそれを真那にボヤいたら、次の日から時間を見付けてはこうして会いに来てくれるようにはなったんだけど……鍵持ってるからっていつの間にか家にいるのはやめて欲しい。

「ヒナに会いに来たんだよ」
「うん、それはありがとなー。でも忙しいんじゃないのか?」
「ヒナに会う時間の方が大事」
「……無理だけはすんなよ」
「分かってる」

 こんな事になるなら「前みたいにもっと構え」なんて言わなきゃ良かった。真那はアイドルとして頑張ってるのに、結局オレが負担を増やしてどうすんだって話だよ。
 だけどこれを言ったところで、今みたいに「俺がしたくてしてるんだよ」って言われるのがオチだから……ホント、真那に甘えてるな、オレ。

 オレより二つ年上の真那は元々すごく優しくて、オレのお願いなら何でも聞いてくれるお兄ちゃん的存在だ。どこに行くにも真那のあとをついて回るオレを面倒がるでも邪険にするでもなく、むしろ笑顔で手を引いて連れて行ってくれる人で……だからオレは真那と一緒にいるのが大好きだった。
 アイドルになるって聞いて、真那ほど綺麗なら絶対人気が出る。そう思ってたら予想を軽く飛び越えるくらいの速さで時の人になったものだから、オレの感情が追い付かなくてモヤっとしちゃったんだよな。
 真那を一番知ってるのはオレだ! って。ファンと張り合ってどうするんだか。

「今日は?」
「あと少ししたら水島さんが迎えに来てくれて、レコーディングと打ち合わせ」

 水島さんとは、真那がデビューした時からお世話になっているマネージャー、水島 和人みずしま かずひとさんだ。表情には出にくい真那の気持ちを理解してくれるいい人で、幼馴染みであるオレにも凄く良くしてくれる。

「早めに終わりそう?」
「どうだろ。……終わったらこっち来てもいい?」
「いいけど…ってか、よく見たら隈あるし。寝れてないのか?」
「昨日までホテルに泊まってたから」

 真那、枕変わると寝れないもんな。
 普段から無気力無表情で無感情だから、傍から見たら真那は物凄く分かりにくい奴で何においても基本やる気がない。常に眠そうな気怠げな顔をしててそれ楽しいのかって言われてるの何度か見てるけど、真那は興味がある事ない事にはハッキリしてるからアイドルは楽しんでやってる。
 でもさすがに身体が資本のアイドルが睡眠不足はまずい。

「そっか。…あ、夜何食べたい?」
「唐揚げ」
「オッケー。いっぱい作っとくから、あと少し頑張れ」

 唐揚げは真那が一番好きなおかずで、何かあってもなくても定期的に食べたがるから食卓に出る頻度が高い。
 真那はむくりと起き上がるとベッドを軋ませながら立ち上がり、オレの後ろまで移動して座るなりおもむろに抱き締めて来た。女の子ならドキドキするような状況も、幼い頃からハグだの腕組みだのして来たオレたちには日常茶飯事だ。

「絶対来るから」
「ん、待ってるな」

 よっぽど疲れてるのか、いつも以上に元気のない声に気付かないフリをして蜂蜜色の柔かな髪を撫でると、ようやくいつもの穏やかな笑顔を見せてくれた。
 それからしばらく真那にくっつかれたままスマホを弄っていたら、真那のカバンからバイブ音がして耳元で溜め息が聞こえる。水島さんかな?
 オレから離れた真那はカバンからスマホを取り出して通話ボタンを押すと、耳に当てながらこっちに戻ってきた。

「はい……ん、分かった。すぐ行く」
「迎え来た?」
「うん。じゃあヒナ、またあとで」
「うん、あとでな」

 オレの頭を撫で僅かに目を細めたあとカバンを手にして部屋を出る真那を追い掛ける。一階まで降りて玄関を出たところで振り向いた真那にもう一度抱き締められて目を瞬いた。
 行って来ますのハグは珍しいな。

「ヒナを持ち歩きたい」
「おい」

 オレはマスコットか何かか。
 背中をバシッと叩くと小さく笑った真那は腕を離し、手を振って門を抜け水島さんが車を止めている場所まで悠然と歩いて行った。
 ホントにマイペースだなー。

「さて、頑張ってる幼馴染みのために唐揚げの材料買いに行きますか!」

 腰に手を当て気合いを入れたオレは、お腹を空かせて帰って来るだろう真那のためにさっそく買い出しに出掛けるのだった。


 ──その日の夜。

「ヒナの唐揚げ最高」
「たくさんあるからじゃんじゃん食べろー」
「唐揚げ美味しい」
「うん、ありがとう」
「唐揚げだけでいい」
「こら、他のも食べなさい!」

 この偏食大魔神め。
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