焦がれし星と忘れじの月

ミヅハ

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【四十九ノ星】酔っ払い※

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 二週間後にはプランナーとの初回打ち合わせが控えていたある日の午後、夕飯の買い出しから帰宅し購入した物を片付けた後、何気なく見たスマホに龍惺からメッセージが入っている事に気付いた。
 時間は二十分ほど前だが、確認した文面からはありありと面倒臭さが滲み出ていて思わず苦笑する。

『瀬尾にたまには参加しろって言われて、各部署の上役と飲みに行く事になった。すげぇ嫌だけど、帰り何時になるか分かんねぇから先に寝てろ。こないだ体調崩したばっかなんだから、起きて待ってるなよ』

 数日前に風邪を引いた時の事を引き合いに出され釘を刺されてしまった。
 この場合起きていると確実に怒られるから、今日は大人しく寝る体勢だけでも取っておこう。
 ベッドには龍惺の香りがするイルカもいるし、抱き締めていれば眠れるかもしれない。
 ポチポチと文字を打ちつつそんな事を考えていると、返事を送る前にもう一通届いた。

『飯もちゃんと食う事』

 今日予定していた献立はチキンカツだったのだが、自分のために揚げるつもりはなく、いつも通り適当に済ませようと思っていただけにそのメッセージにはビクッとなる。
 少し考えて打ち込んでいた文字を消し、今度はそれに対する返事を送った。

『うどん食べる』
『まぁそれでもいいけど、野菜も入れろよ』

 かけうどんのつもりだった事は黙っておいて、「はーい」と手を挙げたイルカのスタンプで返信すると龍惺からも珍しくスタンプが返って来た。詩月が使っているイルカのスタンプとは少し違う絵柄のイルカがハートを抱えている。

「こういうの、使うんだ」

 キリッとした龍惺の見た目と違いチョイスが可愛らしい。小さく笑った詩月は二頭のイルカが口先と尾ひれをくっつけてハートマークを象っているスタンプを送り返した。





 就寝についてから数時間後、夢現に扉が開く音が聞こえ、足音が近付きベッドが軋んだ気配がして浅い場所を漂っていた意識が浮上する。
 頭を撫でられハッとして振り向くと、真上から龍惺に見下ろされていた。

「ただいま、詩月」
「おかえりなさい。今何時……」
「遅くなってごめんな」
「ううん、それは……んっ」

 あらかじめ聞いていたし、仕事上の付き合いだと分かっているから謝る必要はない。そう思って首を振ったら唐突に唇を塞がれた。
 途端に鼻から抜けた匂いにクラっとする。

「……龍惺、お酒臭い」
「そりゃ飲んでたからな。……寂しかったろ? 」
「……うん」
「お前はいつも素直で可愛いな」
「……もしかして、酔ってる?」
「さぁ? 明日休みだからってしこたま飲まされたような気もするけど」
「そ、それなら寝た方がいいんじゃないかな?」

 首筋に触れた唇が音を立てながら鎖骨へ降りて行く。
 少し前から酔った龍惺を見てみたいと思ってはいたが、端々から漂うこの色気は何だろう。
 布団の中に潜り込んで来た手が裾から入り込み臍の下を撫でてきた。

「…あ…」
「こうして触ってっと、何か感じる?」
「ぅ、え?」
「ここまで挿れて突かれんの、好きだよな」
「…っ……」
「それとも、もっと奥の方が好き?」

 耳元で低く囁かれる言葉に否が応にも最中の事を思い出し顔が熱くなる。
 さわさわと表面だけに触れる指にくすぐったさよりも疼きを感じて思わず顔を逸らすと、一度身体を起こした龍惺に布団が剥ぎ取られ大きな手で両手首を掴まれた。目を瞬いている間に反対の手でネクタイを解き、一纏めにしたそこへ何とも鮮やかに巻き付けていく。きゅっと結び終えると龍惺はにっこりと笑った。

「え……?」
「たまにはこういうのもアリだと思わねぇ?」
「……やっぱり酔ってるよね、龍惺」
「かもな。……すげぇそそる」

 どうやら、酔ってる龍惺はいつもよりSっ気が増すらしい。と言っても、素面でも言葉で攻められるくらいでこうして縛られたのは初めてだ。
 ネクタイだし緩いから痛くも何ともないけど。
 そんな龍惺に少しだけドキドキしていると、頭の上にバンザイさせられ服がたくし上げられた。

「……っん…!」

 爪が胸の尖りを引っ掻き身体が跳ねる。それから宥めるように人差し指で撫でられ下唇を噛むと、ふっと笑った龍惺が身を屈めて反対側の突起に吸い付いてきた。

「ひゃ…っ」

 弱い場所を舌先で転がされ突つかれ甘えた吐息を漏らしていると、指で弄られていた方が人差し指と親指で強めに摘まれて高い声が上がる。そのまま捏ねるように動かされ身を捩った。
 その後も執拗に舌と指で弄られ、いい加減ヒリヒリし始めて耐えられなくなった詩月は半泣きで首を振る。

「…や、も…そこばっかやだぁ…っ」
「……じゃあどこがいいんだよ」
「……っ、分かってるくせに…ッ」
「いや、分かんねぇな。教えてくんねぇ?」
(絶対分かってる……!)

 何ならさっきからずっと膝を擦り合わせているし、部屋着用の緩めのズボンが僅かに盛り上がっている。目敏い龍惺が気付かない訳がない。
 だけど目の前で楽しそうにニヤニヤしている酔っ払いは、ちゃんと口にするまで触ってくれないようだ。
 きゅっと唇を噛んだ詩月は閉じていた膝を少しだけ開き下肢へと視線を向ける。

「…こっち……触って…」
「よく出来ました」

 前髪を掻き上げならそう言って口端を上げた龍惺は、思わず見蕩れてしまうほどの壮絶な色気を放っていた。





「ひ、ぁ、あっ、またイっちゃ…っ……ゃ、ああ…っ!」

 もう何度達したか分からない。
 触ってとねだってから最初に出したものを潤滑剤代わりにして後ろを解されたのだが、それからずっと指でイかされ続けている。

「ドロドロだな」
「…んっ、やぁ……動かさないで……っ」
「でも腰揺れてるぞ?」

 骨張った指が抜き差しされるたび粘着質な音が鼓膜を刺激する。手首には未だネクタイが巻き付いているせいで耳も塞げないし、何かに縋りたくてもシーツを掴む事しか出来ない。
 いつもならもう龍惺の熱が中を余すところなく擦ってくれているのに、ジャケットを脱いでネクタイを外しただけの彼はスラックスの前すら寛げていなかった。

(物足りない……もっと奥、触って欲しい……)

 いくら龍惺の指が長くても最奥までは届かなくて、さっき撫でられた腹の下が疼いて仕方がない。

「りゅ、せ……も、これ、解いて……」
「痛いか?」
「…痛くは、ないけど……龍惺とくっつきたい……」

 自分の手が龍惺のどこにも触れられない事も切なくてそう答えると、龍惺は柔らかく笑ったあと中から指を抜いてスルリとネクタイを解いてくれる。そのまま背中を支えて起こしてくれたから彼の首に腕を回して抱き着いた。

「龍惺、龍惺…」
「よしよし」
「……龍惺……」
「ん?」
「奥がずっともどかしくて……足りないの……」

 片手を離し龍惺の手を取ると自分の下腹部に触れさせ泣きそうな顔で見上げる。自分でも分かるくらい欲していて、羞恥心なんて吹き飛んでしまった。

「ここまで龍惺のが欲しい……も、挿れて…」
「……っ…お前……」
「お願い、龍惺…」

 龍惺の手はそのままに再び首に腕を回して自分のよりも薄い唇に口付け、触れ合わせながら合間で名前を呼んでいると不意に引き剥がされ押し倒された。
 眉根を寄せたその顔にいつもの余裕などなく、獣じみた息が龍惺がいかに興奮しているかを教えてくれる。

「そんな煽り方して、どうなっても知らねぇからな」
「ん……いっぱいして……」
「…ッ、クソ……!」
「ひぁっ、あ、んん……!」

 舌打ちをし足の間に入ってきた龍惺は、膝を大きく開かせると腰を掴んで反り立った自身を奥まで一気に突き入れて来た。
 間髪入れずに抽挿が始まり、その激しさに目の奥でチカチカと火花が散り堪らず背をしならせる。
 待ち望んでいた奥の奥まで穿たれ詩月は大きく喘いだ。

「あっ、あっ、やぁっ、激し…っ…の、ダメっ、すぐイっちゃう…ッ」
「…っは、イけよ、好きなだけ…」
「ンッ、ぁ、あっ、ダメダメ…ッ…も……っ、ん、ゃ…┄┄ッ!」
「……く…っ…」

 もうほとんど量もない色の薄い体液を零して果てたあと、息を詰めて身体を強張らせた龍惺も中で熱を放出させる。ドクドクと脈打っているのが分かり、詩月は無意識に臍の下を撫でていた。
 ピクリと反応したのは中にいる龍惺自身で、再び質量を増したのが分かり思わず顔を見上げる。

「詩月……」
「……ん、いいよ…龍惺の好きにして……」

 掠れた声とどこか苦しそうな表情に微笑んだ詩月は、上体を屈ませてくる龍惺に腕を伸ばして頷き目を閉じて受け入れた。



 結局朝方まで離して貰えず、抱き潰された結果気絶するように眠りについた詩月が目覚めたのは昼も過ぎた頃だった。時計を確認し驚いた事は覚えている。
 腰の痛みと疲労感で動けずにいると、少し遅れて起きた龍惺が二日酔いに見舞われながらも世話をしてくれたのだが、途中途中でグロッキーになっていたから少し気の毒になった。と言っても動きたくても動けないため手助けも出来ないのだが。

 どうにか動けるようになったのは夕方だが、二人共、特に龍惺が普通に夕飯を食べる気にはなれず、代わりに野菜たっぷりの味噌汁を作って並んで飲んだ。

「美味い」
「美味しい」

 味噌汁がこんなにも美味しいと感じたのは初めてかもしれない、と一口飲んで同じ感想を口にした二人は顔を見合わせて笑った。
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