焦がれし星と忘れじの月

ミヅハ

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【四十一ノ月】嫁※

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「誠一さん、少し宜しいですか?」

 夕方になり、誠一たっての希望でこの家で詩月が作った夕食を食べたあと、ソファへと移動しようとする彼にそう問い掛けた。
 不思議そうな顔をして座り直す誠一に頭を下げ、神妙な顔で隣に座っている詩月を見てから口を開く。

「事後報告になってしまって申し訳ないのですが、私は現在詩月さんと一緒に暮らしています」
「…あー、うん…そんな気はしてた…」
「詩月さんの誕生日にプロポーズもして、了承も頂けました」
「……プロポーズ!?」

 恐らくは先ほどの夕食時の遣り取りで察したのだろうが、少しだけ落胆して頷いた誠一はしかし次いだ言葉には目を見瞠って龍惺を見た。それから眉尻を下げて詩月に視線をやると少しだけ固い声で聞く。

「本当に了承したの? 詩月はそれでいいのか?」
「うん。龍惺と再会して、また恋人になれて、僕気付いたんだ。こんなに好きになれる人にはもう出会えない、僕には龍惺しかいないって。もう離れたくないの」
「…………」
「それにね、龍惺は頑張り屋さんで、頑張りすぎて疲れちゃう時があるから、傍にいて少しでも支えてあげたいって思ってるの。これは、僕にしか出来ない事なんだよ」

 どこか誇らしげにはにかむ詩月に龍惺の心が暖かくなる。彼の言う通り、龍惺に安らげる場所をくれて、抱えている物を何もかも癒す事が出来るのは詩月だけだ。
 そんな詩月を見て、何を言っても無駄だと感じたのか誠一が嘆息し頬杖をついた。

「詩月は本当に龍惺くんが好きなんだなぁ」
「うん、大好き」
「そんなにハッキリと……。俺も葉月も、いつかは詩月にも可愛いお嫁さんが来て幸せになってくれるんだろうなとは思ってたんだけど……まさか詩月がお嫁に行く日が来るなんて……普通は誰も想像つかないよね」
「僕、男だけどお嫁さんなの?」
「まぁ、俺が嫁になったら総ブーイングだろうな」

 見た目的にも、持ち前の家事スキルと甲斐甲斐しさを比べても圧倒的に詩月に軍杯が上がるだろう。龍惺も〝良く出来た彼氏〟と言うよりは〝愛情深い嫁〟のようだと思っていたから、誠一の言うこともあながち間違いではない。
 比喩表現ではあるが、詩月は言葉のままに至って真面目に受け取ったらしく真剣な顔で見上げてきた。

「龍惺がそうして欲しいならお嫁さんでもいいけど」
「いや、別に嫁が欲しい訳じゃねぇよ。俺はお前がいいんだって」
「……僕も龍惺がいい」
「詩月……」
「お父さんがいるって事、忘れないでくれるかな」
「!」
「ご、ごめんなさい……」

 ふわりと微笑まれ思わず頬に触れそうになったが、不機嫌な誠一の声が聞こえ慌てて姿勢を正す。つい最近、記者会見でも航星に注意されたと言うのに、どうにも詩月の目を見ると彼しか見えなくなるらしい。
 気まずさを誤魔化すように頭を掻き、一つ咳払いをして話を戻す。

「結婚式は挙げる予定です。日取りはまだ決めていませんが、出来るなら年内にでもと思ってはいます。招待客は親族のみなので、誠一さんにもぜひご列席頂ければと……」
「……色々考えてくれてるんだね」
「詩月さんが大切なので、彼が幸せを感じてくれるなら何でもしたいと思ってるだけです」
「キザだね、君。まぁ詩月の晴れ舞台でもあるからね、ぜひ参列させて頂くよ」
「ありがとうございます」
「ありがとう、お父さん!」

 一番説得が大変だと思っていたのに、意外にあっさりと話が済んで詩月と龍惺は顔を見合わせて喜んだ。まだ細々した不安は尽きないが、大きな心配事はこれでなくなり龍惺は内心で安堵の息を吐く。
 嬉しそうににこにこしている詩月が誠一と話す姿を眺めながら頬杖をついた龍惺は、これから忙しくなるだろうなと思いながら一人微笑んだ。





 詩月の実家を後にし遅い時間にホテルへと着いたのだが、何故かしまったと口を押さえる詩月に眉を顰めつつもフロントで名前を告げてチェックインを済ませてエレベーターに乗り込む。
 カードキーを挿して点灯した最上階のボタンを押して、展望エレベーターから望める夜の街並を見るとはなしに見ていると、黙り込んでいた詩月がくいっと袖を引いた。

「ん?」
「もしかしてだけど、予約した部屋って……」
「最上階のスイートルーム」
「……やっぱり。一泊だけなんだから、ツインかダブルで良かったのに」
「その一泊くらい贅沢したっていいだろ? これも必要経費だって」
「そうなのかなぁ……」

 一般家庭で育ってきた詩月と、生まれた時から家が裕福で使用人がいる環境で育った龍惺とでは根本的には違うのだろうが、龍惺の金銭感覚は基本的には詩月寄りではある。ただここぞと言う時に使う額が桁違いなだけで、普段はもっと慎ましいのだ。

 目的の階で停止したエレベーターから降りると、そこはもう部屋の中で詩月は驚いて固まっていた。
 目の前には龍惺の部屋に負けず劣らずの広いリビングに、豪華絢爛な調度品や家具が置かれている。呆ける詩月の背中を押して中から出したのだが、途端に弾かれるように大きな窓へと走り出し額を擦り付ける勢いでへばりついた。

「わぁ……すごい……」

 住んでいるマンションよりも高く高所恐怖症でなくとも身が竦みそうになるが、詩月はどこか楽しそうに視線をウロウロさせているのが反射で分かる。
 暫くその後ろ姿を眺めていた龍惺は、すっと目を細めて大股で近付くと左手で腰を抱き、右手で詩月の顎を捕らえて上向かせその唇を塞いだ。すぐに舌を差し込み絡ませ合えば詩月が甘い吐息を漏らす。
 それを半目で見ながら腰を抱いていた手を上げ、シャツの上から胸の突起を爪で軽く引っ掻くと詩月の身体が震えた。

「…っ…ん、龍惺、お風呂は?」
「どうせ後で入んだからいいだろ」
「でも汗掻いて……ひゃっ」

 顎を掴んだままだった手で首筋を撫でて反らさせそこを舐め上げると確かに少し塩気を含んだ味がした。

「しょっぺぇな」
「だから言って……っあ、や、待って……耳ダメ……っ」

 こっちを向こうとする詩月の耳を軽く食み、耳孔に舌先を押し込むと肩が上がり身体が強張る。同時に主張を始めた尖りをキュッと摘めば窓についた手に額を押し当て喘いだ。

「ぁ、ん…っ…」

 首筋に沿わせていた手を詩月の下肢へと滑らせるとすっかり膨らんでおり、ニヤリと笑った龍惺は片手で器用にベルトを外し、前を寛げて詩月自身を取り出し握り込んだ。

「あっ、龍惺、やだ、見えちゃう……っ」
「誰も見ねぇって」
「や、動かさな…っ……ん…!」
「もうドロドロじゃねぇか」
「やぁ……っ…」
「……詩月、身体ごとこっち向け」

 一度手を離し先走りのついた指を舐めながらそう言えば、おずおずと振り返り上目遣いに見てくる詩月に軽くキスをしてしゃがみ込む。詩月が小さく声を上げた気がしたが、無視して咥えると腰を引こうとするため軽く押して背中を窓につけさせた。

「ぁ、あ…っ…りゅうせ……」

 わざと見せ付けるように舐めて吸い、頭を前後させると詩月の足が震え肩に置かれた手がジャケットを握り締める。

「や、あ、ダメ……も、出ちゃう、から……っ」

 相変わらず早い。何を言われても離すつもりはない龍惺は促すように口淫を激しくした。

「りゅう…っ、吸っちゃや…、あ、ダメダメ…っ、…ゃ…ッんん…!」

 口内で弾けた熱を躊躇いもなく飲み干し、残滓さえも残すものかと吸い上げてから離すと、詩月が首に抱き着いてきた。
 小さな声で名前を呼ばれふっと笑って背中を撫でる。

「ベッド?」
「……ん」
「そのまま捕まってろよ」

 背中を支え「よっ」と声を上げて立ち上がり、ずり落ちそうになる詩月を横抱きに抱え直してからベッドルームに向かう。広い室内の中心にはクイーンサイズのベッドが置かれており、そこに詩月を寝かせて靴を脱がせるとムクっと起き上がってベッドの感触を確かめ始めた。

「柔らかい……龍惺の部屋のより大きい?」
「うちのはキングで、こっちはクイーンだからな」
「女王様のほうが大きいんだ」
「詩月、バンザイ」
「……子供扱い」

 むくれつつも素直に腕を上げる詩月のシャツを脱がせ、自分もスーツを脱ぐべくネクタイに手を掛け軽く緩めたところで詩月に止められる。目を瞬いていると僅かに頬を染めた詩月がもじもじしながらスーツを指差してきた。

「スーツ着たまま、して欲しい」
「え?」
「スーツ姿の龍惺好きだから、このまま」

 龍惺が制服プレイの話をした時は驚いていたくせに、こういうところで大胆になるのは何故なのか。
 期待した目でじっと見てくる詩月に苦笑した龍惺は、緩めたネクタイを締め直してから詩月に覆い被さるようにして押し倒すと、彼の頬を撫でながらニヤリと笑った。

「お前もそういうの好きなんじゃねぇか」






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 いつもお読み下さりありがとうございます!
 近況にも書きましたが、明日から三日間、更新をお休みさせて頂きます。
 四日目に続きを更新しますので、お待ち頂ければ幸いです。
 皆様、よい年末年始をお過ごし下さいませ。
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