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【二十五ノ星】フワフワ
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龍惺の父親である玖珂航星は、詩月の想像よりも遥かに気さくでお茶目な人だった。
パパと呼んでと言われた時は面食らってしまったが、もしかしたら詩月の緊張を解すためだったのかもしれない。そう考えれば優しい人なんだなと感動した。
龍惺は早苗似だと思っていたが、航星とも似ている部分があり、あとで早苗がこっそり教えてくれたが似た者同士なのだという。
テーブルにつく前の応酬も日常的なものらしく、そんな軽口を言い合える仲になっていたのかと詩月は嬉しくなった。
航星が声をかけると扉が開いて、使用人たちが次々と料理を運んで来るのだが、最初は目を輝かせていた詩月もその多さには驚いて後半は呆気にとられてしまっていた。
どれもこれも彩りも盛り付けも綺麗で目にも楽しいのだが、到底全部食べられる気がしない。
残すのも勿体ないし申し訳ないと思っていると、最後にドンッと置かれた物を見て詩月は目を瞬いた。圧倒的存在感を醸し出すそれは、普通に暮らしていたらお目にかかれないそれはもう立派な。
「ふ、舟盛りだ…」
木船に盛り付けられた刺身は、普段スーパーで売られている刺身とは一目で違うと分かる。何より一番驚いたのは鯛がお頭付きで捌かれてる事と、伊勢海老らしき大きな海老がデンっと鎮座していた事。
豪華すぎる舟盛りに思わず興奮してしまった。
「龍惺、龍惺。舟盛りだよ、僕初めて実物見た」
「良かったな。好きなだけ食えよ」
「勿体なくて食べられないかも…」
「何でだよ。食わねぇ方が勿体ねぇだろ」
「鯛が可哀想な事になるんだよ?」
「いや、鯛の事を思うなら食ってやんねぇ方が可哀想だって」
「頭だけになっても?」
「自分の身体が美味しく食われんなら本望だろうよ」
「……それもそっか」
「お前、たまに変な思考回路になるよな」
いきなり変態スイッチが入る龍惺には言われたくないが、確かに自分でも何言ってるんだと思う事はある。
意味分かんないと友達から眉を顰められた経験が多々あるだけに、最後まで付き合ってくれる龍惺の存在が非常に有り難い。
「えっと、ごめんね?」
「何が」
「変な事言って」
「いいよ、別に。そこも好きなんだから」
「……!」
優しく微笑んだ龍惺にそんな甘い事を言われ、詩月は目元を染めて俯いた。あの頃よりも格段に糖度の上がった龍惺は、大人になった今はただただ心臓に悪い。
上がった熱を手団扇で冷ましていると、不意に感じた視線に顔を上げ思い出した。
(そ、そうだった……ここ、龍惺のご実家だった……)
ニマニマとこちらを見ている航星と早苗に、静まり掛けていた火照りが再燃しますます恥ずかしくなる。
「若いっていいな、母さん」
「そうね、羨ましいわ。詩月くんったら、真っ赤になっちゃって」
「やめろ、揶揄うな」
「揶揄ってないわよ。可愛いなって思ってるだけ」
「それを揶揄ってるっつーんだ」
食卓が賑やかなのはいい事だが、話のネタが自分の情けない部分なのはあまり宜しくない。
「詩月くん」
如何にして顔の熱を冷まそうかと考えていると、航星の穏やかな声に呼ばれて顔を上げる。龍惺に似た優しい笑顔が真っ直ぐこちらを見ていて目を瞬いた。
「遠慮しないで、たくさん食べなさい」
「……はい、ありがとうございます」
その言葉に僅かに目を見瞠った詩月は、しかしすぐに満面の笑顔に浮かべて大きく頷いた。
その笑顔の眩しさに航星が召されそうになった事は、龍惺と早苗しか知らない。
料理はどれも美味しくて、特に大好きな刺身は別格だった。
二度とスーパーでは買えなくなりそうなくらい美味しくて箸が止まらなかったほどだ。
話も弾んで楽しかったし、多いかもと思っていた料理も意外に食べられて詩月は上機嫌だった。
そのせいか、今は頭がフワフワしている。
「詩月?」
「んー?」
「お前、何飲んだ?」
「このグラスに入ってた葡萄ジュース」
ワイングラスは二つあり、片方には水、もう片方には濃い紫色の液体が入っていて、匂いを嗅いだ詩月は葡萄ジュースだと思って口にしていた。
少しだけ慣れない味がしたものの美味しくてお代わりまでしてしまったのだが、それを聞いた龍惺は難しい顔をしている。
「これ、ワインだぞ」
「ワイン?」
「ワイン」
「……葡萄ジュースじゃないの?」
「葡萄で出来てっけど、ジュースじゃねぇな」
「そっかぁ……でも美味しいね」
ジュースじゃなくても美味しいならいい。それに未成年ではないのだし、お酒を飲んでも問題はないだろう。
もう一杯貰おうかとワイングラスを持った手が押さえられ、大きな手に頬を撫でられた。
「もうやめとけ」
「…………龍惺の手、冷たくて気持ちいい」
「……酔っ払いの証拠だ」
「酔ってないですー」
「酔ってる奴はみんなそう言うんだよ。そろそろ帰るか」
「あ……」
触れていた手が離れる寂しさに思わず声が漏れてしまった。気付いた龍惺がふっと笑って頭を撫でてくれるがそれでは物足りない。
立ち上がる彼の手に触れた瞬間、パンッと何かを叩く音がしてビクッと肩が跳ねた。
音がした方を見ると、手を合わせ早苗がにこにこしている。
「せっかくだし、二人とも泊まっていったらいいわ。龍惺だってお酒飲んでるでしょう?」
「別に代行頼めば……」
「頼むより泊まる方が早いわ。龍惺の部屋はそのままだし、着替えもあるから問題なしね」
「詩月のはねぇだろ」
「あるわよ。今日のお礼にプレゼントしようと思っていろいろ買っておいたの」
「……いつの間に」
全身がフワフワしているせいか二人が何を話してるのか理解が出来ない。龍惺の手を握ったまま空のワイングラスをぼんやり眺めていたら、唐突にその手を引かれて抱き上げられ驚きで目を瞬いた。
「部屋行くぞ」
「?」
部屋とは何の話だろう。
働かない頭ではまともに考える事も出来なくて、詩月は諦めて手を振る早苗にへらりと振り返し、龍惺の肩に頭を預けた。
連れて来られた場所は三階にある一室で、元々は龍惺の部屋として設えられたらしいが、本人は滅多に使う事がなく家具や照明器具などはほぼ新品と変わらないくらい綺麗だった。
広いベッドに降ろされその柔らかさに身を預けていると、ベッド端に座った龍惺が詩月の目に掛かる前髪を避けながら口を開く。
「風呂どうすんだ? 一応準備してくれてるみてぇだけど」
「……入りたい、けど……ベッドがフカフカで動けない……」
「酔っ払いを一人で入らせる訳にもいかねぇし、一緒に入るか」
「ん~……起こして」
「はいはい」
このままでは寝てしまう。緊張で汗を掻いていたし、恥ずかしいよりも今はお風呂に入りたい気持ちの方が強い。万が一浴室で寝落ちても龍惺がいるなら安心だと大人しく一緒に入って貰う事にし詩月は腕を伸ばした。
さすがお金持ちの家。龍惺の部屋にはお風呂が備え付けてあり、いつでも入れるようになっていた。
緩慢な動きで服を脱いでいたが、龍惺が見ている気配がしてズボンに手を掛けたところで止まる。
「……龍惺」
「今更だろ?」
「それとこれとは別。先に入ってて」
「どこで見たって同じなのに」
いくら人には見せないようなところまで見られているとはいえ、明るい場所でジロジロ見られるのはさすがに恥ずかしい。
肩を竦めて浴室に入る龍惺の背中を見送った詩月は、下着諸共ズボンを脱ぐとタオルを腰に巻いて中に入る。
熱気が纏わりつき少し酔いがぶり返したのか頭がぼやっとした。
「ほら、洗ってやるからここ座れ」
「うん」
「……こっち向きかよ」
示された場所は龍惺の足の間で、詩月は何も考えずに向かい合ってペタリと腰を下ろした。仕方ないなとでも言うように息を吐いた龍惺は、シャワーで濡らした詩月の髪を洗い始める。
龍惺の手が優しくてまた頭がフワフワして来た。
(触りたいな……触ってもいいかな……)
筋肉がつきにくい体質の自分とは違う逞しい身体。いつも優しく包み込んでくれる腕。中心をタオルで隠しもしないところが男らしい。
詩月はこくりと喉を鳴らした。
これも酔っているせいかもしれない、だから普段より大胆でもはしたなくはない。そう結論付けた詩月はどうしても龍惺に触れたくなり、剥き出しの彼の下肢へと腕を伸ばした。
パパと呼んでと言われた時は面食らってしまったが、もしかしたら詩月の緊張を解すためだったのかもしれない。そう考えれば優しい人なんだなと感動した。
龍惺は早苗似だと思っていたが、航星とも似ている部分があり、あとで早苗がこっそり教えてくれたが似た者同士なのだという。
テーブルにつく前の応酬も日常的なものらしく、そんな軽口を言い合える仲になっていたのかと詩月は嬉しくなった。
航星が声をかけると扉が開いて、使用人たちが次々と料理を運んで来るのだが、最初は目を輝かせていた詩月もその多さには驚いて後半は呆気にとられてしまっていた。
どれもこれも彩りも盛り付けも綺麗で目にも楽しいのだが、到底全部食べられる気がしない。
残すのも勿体ないし申し訳ないと思っていると、最後にドンッと置かれた物を見て詩月は目を瞬いた。圧倒的存在感を醸し出すそれは、普通に暮らしていたらお目にかかれないそれはもう立派な。
「ふ、舟盛りだ…」
木船に盛り付けられた刺身は、普段スーパーで売られている刺身とは一目で違うと分かる。何より一番驚いたのは鯛がお頭付きで捌かれてる事と、伊勢海老らしき大きな海老がデンっと鎮座していた事。
豪華すぎる舟盛りに思わず興奮してしまった。
「龍惺、龍惺。舟盛りだよ、僕初めて実物見た」
「良かったな。好きなだけ食えよ」
「勿体なくて食べられないかも…」
「何でだよ。食わねぇ方が勿体ねぇだろ」
「鯛が可哀想な事になるんだよ?」
「いや、鯛の事を思うなら食ってやんねぇ方が可哀想だって」
「頭だけになっても?」
「自分の身体が美味しく食われんなら本望だろうよ」
「……それもそっか」
「お前、たまに変な思考回路になるよな」
いきなり変態スイッチが入る龍惺には言われたくないが、確かに自分でも何言ってるんだと思う事はある。
意味分かんないと友達から眉を顰められた経験が多々あるだけに、最後まで付き合ってくれる龍惺の存在が非常に有り難い。
「えっと、ごめんね?」
「何が」
「変な事言って」
「いいよ、別に。そこも好きなんだから」
「……!」
優しく微笑んだ龍惺にそんな甘い事を言われ、詩月は目元を染めて俯いた。あの頃よりも格段に糖度の上がった龍惺は、大人になった今はただただ心臓に悪い。
上がった熱を手団扇で冷ましていると、不意に感じた視線に顔を上げ思い出した。
(そ、そうだった……ここ、龍惺のご実家だった……)
ニマニマとこちらを見ている航星と早苗に、静まり掛けていた火照りが再燃しますます恥ずかしくなる。
「若いっていいな、母さん」
「そうね、羨ましいわ。詩月くんったら、真っ赤になっちゃって」
「やめろ、揶揄うな」
「揶揄ってないわよ。可愛いなって思ってるだけ」
「それを揶揄ってるっつーんだ」
食卓が賑やかなのはいい事だが、話のネタが自分の情けない部分なのはあまり宜しくない。
「詩月くん」
如何にして顔の熱を冷まそうかと考えていると、航星の穏やかな声に呼ばれて顔を上げる。龍惺に似た優しい笑顔が真っ直ぐこちらを見ていて目を瞬いた。
「遠慮しないで、たくさん食べなさい」
「……はい、ありがとうございます」
その言葉に僅かに目を見瞠った詩月は、しかしすぐに満面の笑顔に浮かべて大きく頷いた。
その笑顔の眩しさに航星が召されそうになった事は、龍惺と早苗しか知らない。
料理はどれも美味しくて、特に大好きな刺身は別格だった。
二度とスーパーでは買えなくなりそうなくらい美味しくて箸が止まらなかったほどだ。
話も弾んで楽しかったし、多いかもと思っていた料理も意外に食べられて詩月は上機嫌だった。
そのせいか、今は頭がフワフワしている。
「詩月?」
「んー?」
「お前、何飲んだ?」
「このグラスに入ってた葡萄ジュース」
ワイングラスは二つあり、片方には水、もう片方には濃い紫色の液体が入っていて、匂いを嗅いだ詩月は葡萄ジュースだと思って口にしていた。
少しだけ慣れない味がしたものの美味しくてお代わりまでしてしまったのだが、それを聞いた龍惺は難しい顔をしている。
「これ、ワインだぞ」
「ワイン?」
「ワイン」
「……葡萄ジュースじゃないの?」
「葡萄で出来てっけど、ジュースじゃねぇな」
「そっかぁ……でも美味しいね」
ジュースじゃなくても美味しいならいい。それに未成年ではないのだし、お酒を飲んでも問題はないだろう。
もう一杯貰おうかとワイングラスを持った手が押さえられ、大きな手に頬を撫でられた。
「もうやめとけ」
「…………龍惺の手、冷たくて気持ちいい」
「……酔っ払いの証拠だ」
「酔ってないですー」
「酔ってる奴はみんなそう言うんだよ。そろそろ帰るか」
「あ……」
触れていた手が離れる寂しさに思わず声が漏れてしまった。気付いた龍惺がふっと笑って頭を撫でてくれるがそれでは物足りない。
立ち上がる彼の手に触れた瞬間、パンッと何かを叩く音がしてビクッと肩が跳ねた。
音がした方を見ると、手を合わせ早苗がにこにこしている。
「せっかくだし、二人とも泊まっていったらいいわ。龍惺だってお酒飲んでるでしょう?」
「別に代行頼めば……」
「頼むより泊まる方が早いわ。龍惺の部屋はそのままだし、着替えもあるから問題なしね」
「詩月のはねぇだろ」
「あるわよ。今日のお礼にプレゼントしようと思っていろいろ買っておいたの」
「……いつの間に」
全身がフワフワしているせいか二人が何を話してるのか理解が出来ない。龍惺の手を握ったまま空のワイングラスをぼんやり眺めていたら、唐突にその手を引かれて抱き上げられ驚きで目を瞬いた。
「部屋行くぞ」
「?」
部屋とは何の話だろう。
働かない頭ではまともに考える事も出来なくて、詩月は諦めて手を振る早苗にへらりと振り返し、龍惺の肩に頭を預けた。
連れて来られた場所は三階にある一室で、元々は龍惺の部屋として設えられたらしいが、本人は滅多に使う事がなく家具や照明器具などはほぼ新品と変わらないくらい綺麗だった。
広いベッドに降ろされその柔らかさに身を預けていると、ベッド端に座った龍惺が詩月の目に掛かる前髪を避けながら口を開く。
「風呂どうすんだ? 一応準備してくれてるみてぇだけど」
「……入りたい、けど……ベッドがフカフカで動けない……」
「酔っ払いを一人で入らせる訳にもいかねぇし、一緒に入るか」
「ん~……起こして」
「はいはい」
このままでは寝てしまう。緊張で汗を掻いていたし、恥ずかしいよりも今はお風呂に入りたい気持ちの方が強い。万が一浴室で寝落ちても龍惺がいるなら安心だと大人しく一緒に入って貰う事にし詩月は腕を伸ばした。
さすがお金持ちの家。龍惺の部屋にはお風呂が備え付けてあり、いつでも入れるようになっていた。
緩慢な動きで服を脱いでいたが、龍惺が見ている気配がしてズボンに手を掛けたところで止まる。
「……龍惺」
「今更だろ?」
「それとこれとは別。先に入ってて」
「どこで見たって同じなのに」
いくら人には見せないようなところまで見られているとはいえ、明るい場所でジロジロ見られるのはさすがに恥ずかしい。
肩を竦めて浴室に入る龍惺の背中を見送った詩月は、下着諸共ズボンを脱ぐとタオルを腰に巻いて中に入る。
熱気が纏わりつき少し酔いがぶり返したのか頭がぼやっとした。
「ほら、洗ってやるからここ座れ」
「うん」
「……こっち向きかよ」
示された場所は龍惺の足の間で、詩月は何も考えずに向かい合ってペタリと腰を下ろした。仕方ないなとでも言うように息を吐いた龍惺は、シャワーで濡らした詩月の髪を洗い始める。
龍惺の手が優しくてまた頭がフワフワして来た。
(触りたいな……触ってもいいかな……)
筋肉がつきにくい体質の自分とは違う逞しい身体。いつも優しく包み込んでくれる腕。中心をタオルで隠しもしないところが男らしい。
詩月はこくりと喉を鳴らした。
これも酔っているせいかもしれない、だから普段より大胆でもはしたなくはない。そう結論付けた詩月はどうしても龍惺に触れたくなり、剥き出しの彼の下肢へと腕を伸ばした。
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