孤独な青年はひだまりの愛に包まれる

ミヅハ

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家族

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 それから数日が過ぎて、数回行われた精密検査の結果もまったく問題なしだった鷹臣さんは無事に退院する事が出来た。
 ようやく帰って来れた事が嬉しかったのか鷹臣さんはずっとにこにこしてて、僕よりも大人で背の高い人なのに何だか可愛いなってほっこり。
 僕も一度も帰れてなかったんだけど、家の中は埃っぽさとか匂いとかこもってなくて不思議に思ってたら、町田さんがやってくれたんじゃないかって鷹臣さんが教えてくれて⋯そんな事までしてくれるんだってびっくりした。
 町田さん、仕事が出来るだけじゃなくこういう気配りまでしてくれるから本当にすごい。鷹臣さんとは違う意味で尊敬する。

「遥斗」

 鷹臣さんが入院している間に増えた服や小物を片付けていたら、同じように荷解きをしていたはずの鷹臣さんに呼ばれ、僕は手を止めて寝室へと向かう。
 扉が開いていたから顔を覗かせると、ベッドに腰を掛けた鷹臣さんがいて微笑んで手招きしてくれた。

「何ですか?」
「ここ座って」
「はい」

 傍まで行くと隣を示されたから頷いて腰を下ろすと、鷹臣さんは小さな箱を出して僕へと見せてきた。目を瞬いて見てたら蓋が開けられ、二つの指輪が現れる。
 それは鷹臣さんと選んだペアリングで、一つ手に取った鷹臣さんが僕の左手を掬いゆっくりと薬指に嵌めてくれた。

「ん、ぴったりだね」
「⋯⋯」
「遥斗も、俺に着けてくれる?」
「は、はい」

 ペアリングを選んだ時点で分かっていたはずなのに、呆然とその様子を見てた僕は鷹臣さんの言葉にハッとして指輪を取り、緊張しながら差し出された左手の薬指へと通す。
 震えるせいで途中で止まったりしてたけど、何とか根元まで押し入れ息を吐いた。
 まったく一緒のデザインの指輪が、それぞれの薬指に光っているのを見て何とも言えない気持ちになる。

「ありがとう。それからこれも」
「?」

 頬を撫でられ今度は数枚の紙が渡される。
 一枚目に記された文字が聞き覚えのあるもので、無意識のうちに「え」って声が漏れた。

「⋯養子、縁組⋯?」
「現状、日本ではパートナーシップ制度はあるけど法的効果は婚姻ほどはないからね。まぁ別姓夫婦もいるけど、俺は遥斗に苗字をあげたいと思っているんだ。戸籍上は俺の息子になるけど、この手続きをすれば法的にも世間にも〝家族〟として見て貰えるよ」
「⋯⋯⋯」
「家族として、夫夫として、この先も共に歩んで欲しい」

 一体いつからそんな事を考えてくれてたんだろう。
 プロポーズだって、僕は男だからされるなんて思いもしなかったのに。

「遥斗?」

 施設の家族は上辺だけだった。里親が見つかり、新しい家族に引き取られる子たちを見送る事もあった。俯きがちで上手に話せない僕を選ぶ人なんていなくて、誰も家族になってはくれなかったのに。
 両手で顔を覆った僕に心配した鷹臣さんの声がかけられる。

「⋯っ⋯鷹臣さんと出会ってから⋯僕⋯涙腺ゆるゆるです⋯」
「それが嬉し涙なら、俺は喜ばしいよ」
「⋯ぅ⋯鷹臣さん⋯っ」

 鷹臣さんと出会うまでは泣きそうになっても我慢出来てたのに、鷹臣さんの優しさや甘やかしに触れてずいぶんと弱くなってしまった。それこそこんなに泣いたのは鷹臣さんが入院してからだけど、ここまで涙脆くなるなんて自分でもびっくりだ。
 どこまでいっても優しい言葉をくれる鷹臣さんに僕は我慢出来なくて抱き着いた。
 どうしてこの人は、こんなに僕を幸せな気持ちにしてくれるんだろう。

「改めて聞かせて。茅ヶ崎遥斗くん、俺と結婚してくれますか?」
「⋯っ、僕で⋯いいなら⋯」
「遥斗がいいよ。遥斗じゃなきゃ意味がない」

 ずっと一人だと思ってた。こんな僕じゃ誰かを幸せになんて出来ないし、誰かに好きになって貰える事なんてないからって。
 でも鷹臣さんは、他の誰でもなく僕いいって言ってくれる。その言葉だけでもう充分だよ。
 強くしがみつく僕の背中を大きな手で撫でてた鷹臣さんが、僕を軽々と持ち上げ膝へと座らせる。顎へと添えられた手で顔を上向かされ、目尻に溜まる涙を拭うように唇が触れて目蓋が震えた。
 だけどそれじゃ物足りなくて、手を上げて指先で鷹臣さんの頬に触れたら数回瞬いたあとキスをしてくれる。
 それでもまだ足りない。

「⋯鷹臣さん⋯」
「ん?」
「目が覚めた日、僕が言った事⋯覚えてますか?」
「⋯〝退院したら、たくさん触って〟?」
「えっと⋯はい⋯」

 改めて聞くと、僕すごく恥ずかしい事言ってる。
 自分の発言なのに赤くなって頷く僕にクスリと笑い、鷹臣さんはベッドの上の書類を纏めると僕を抱えたまま立ち上がった。

「じゃあ、今日は一緒にお風呂に入ろうか」
「え⋯」
「本当に寝かせてあげるつもりないから、軽くお腹にも入れておかないとね」
「あ、あの⋯その⋯」

 ベッドの上で裸になる事は慣れた⋯とは言えないけど、お風呂は明る過ぎるしそもそも一緒に入った事ないから恥ずかしくて出来れば遠慮したいのに、ご機嫌な鷹臣さんは下ろしてくれない。
 結局そのまま浴室まで連れて行かれて服も脱がされれば諦めるしかなくて、僕はなるべく鷹臣さんに背中を向けるようにして先に中へと入った。
 でもそんなの意味がなかったって分かるのは、それから数分後だったりする。
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