孤独な青年はひだまりの愛に包まれる

ミヅハ

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まさかの言葉

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 鷹臣さんが事故に遭ってから十日が過ぎた。
 いくつか青痣はあるものの小さな傷はすっかり治り、ずっと容態も安定しているから聞こえてくるのは寝息ばかりだ。同じ体勢なのは心配だから看護師さんが体勢を変えたりしてくれてるけど、鷹臣さんの身体は出来る限り僕が拭いてた。
 下にはカテーテルが入ってるから、引っ掛けないように恐る恐るではあるけど。

「鷹臣さん、あと二週間もすれば誕生日がきますね。僕、今プレゼント考えてるんですよ。楽しみにしてて下さいね」

 スマホで大人の男性にあげるならって調べたり、プレゼントにも意味があるって知ったから薔薇の時を思い出して色んなサイトを見たり、鷹臣さんの傍でずっと鷹臣さんの事を考えてる。
 いつものように手を握り話しかけていると扉がノックされ、応答したら町田さんが扉を開けて入ってきた。

「こんにちは、遥斗さん」
「町田さん、こんにちは」
「今日は秘書課オススメのチョコレートですよ」
「いつもありがとうございます」

 僕がここに泊まるようになってから何も言わなくてもいろいろと手配してくれる町田さんは、時々こうしてお茶をしましょうって甘い物まで持って来てくれてる。
 最初こそ目を覚まさない鷹臣さんを見て涙ぐむ事もあった僕だけど、町田さんのおかげで前を向く事が出来たから本当に感謝してた。誕生日プレゼント探してますって言ったら雑誌とかも持って来てくれたし。
 こういうのは女性の方が詳しかったりするもんね。

「そういえば、遥斗さんはお酒って飲めます?」
「飲んだ事ないので分からないです」
「そうなんですね。でしたら、この角にある四つは食べない方がいいかもしれません」
「お酒が入ってるんですか?」
「はい。しかも洋酒ですし、社長の知らないところで遥斗さんにお酒入りチョコを食べさせた事がバレたら⋯確実に叱られます」

 僕の傍にあるテーブルの上で包装を開き蓋を取った町田さんが隅にあるチョコを指差す。市販にもラム酒入りとか書いてるの見るけど、そういうのさえ食べた事ないから実際どうなるかは分からない。
 そもそもお酒入りチョコって本当に酔ったりするのかな。

「遥斗さん、欲しい物はありませんか?」
「ありませんよ。もう充分して頂いているので」
「そうですか⋯」

 充分というか、充分過ぎるくらい貰ってるのにどうしてそんな残念そうなんだろう。
 そういえば、鷹臣さんにも同じ事を聞かれた事があるけど、ないって答えたら町田さんと同じようにしょんぼりされたっけ。
 引越しの時に持ってきた物が霞むくらい、僕の部屋に服とか雑貨とか溢れてるのに。

「そうだ、鷹臣さんの誕生日プレゼント、腕時計にしようかなって思ってるんですけどどうですか?」
「とってもいいと思います!」
「さすがにブランド物は無理なんですけど、安っぽく見えないような物を選ぼうかなって思ってて⋯どこかいいお店ありませんか?」
「そうですね⋯お値段がリーズナブルでセンスがいいとなると、一つだけ思い当たるお店がありますよ」
「ホントですか? ぜひ教えて⋯⋯⋯え?」

 腕時計にした理由はいろいろあるけど、一番はプレゼントをする意味で選んだ。その意味は鷹臣さんに先に言いたいからまだ内緒だけど。
 町田さんならいいお店を知っていそうだし、聞くだけでもと尋ねるといい感じの答えが返ってきた。嬉しくなって教えて貰おうと前のめりになったら、握っている鷹臣さんの左手が僅かに動いた気がして目を瞬く。

「鷹臣さん⋯?」

 気のせいかと思いつつももしかしてって思いも拭えず強めに握ると、さっきよりはハッキリと指が動いて弱々しいながらも握り返してくれた。

「! た、鷹臣さん⋯!?」
「社長!!」

 町田さんと二人ベッドに手を着いて顔を覗き込む。
 期待と緊張でじっと閉じられている目を見ていると、目蓋が小刻みに震えてゆっくりと開かれた。何度が瞬きを繰り返し、視線を彷徨わせる様子に僕は息を飲む。

「⋯⋯はる、と⋯」

 掠れた声が久し振りに僕の名前を呼んでくれて、堪えきれなかった涙がぶわっと溢れて頬を濡らす。
 ずっとずっと、聞きたくてたまらなかった。

「⋯っ、ここにいます⋯僕、傍にいますよ⋯」
「⋯はると⋯」
「鷹臣さん⋯」

 握っていた手を持ち上げて頬に当てるとようやく目が合い、僕だって認識してくれたのか僅かに表情を緩めた。
 指先が涙を拭うように撫で少しだけ呼吸を繰り返したあと口を開く。

「遥斗⋯⋯俺と家族になろうか⋯」
「⋯⋯え?」
「結婚しよう」

 目が覚めたばかりだし、脈絡もないし、突拍子もなさすぎて困惑したけど、意味が理解出来ればますます涙が流れ鷹臣さんの手さえもポツポツと濡らしていく。
 男同士で結婚出来るのかとか、家族になるって具体的にはどういう意味なのかとか疑問なところはあるけど、鷹臣さんが僕とそうしたいって思って言ってくれただけでそんなの吹き飛んだ。

「⋯っ⋯はい⋯鷹臣さんと家族になりたいです」
「⋯良かった」

 グスグスと鼻を鳴らしながら何度も頷く僕に鷹臣さんはホッとしたように微笑んだけど、僕が断るなんてそんな事あるはずないのに不安だったのかな。
 止まらない涙を袖で拭ってたら横からタオルが渡されて、嬉しそうに微笑んだ町田さんに肩を撫でられた。

「ありがとうございます⋯」
「良かったですね、遥斗さん」
「はい⋯っ」
「私は先生を呼んで来ますので、少しの間お任せしますね」
「⋯っ、分かりました」

 タオルを受け取り顔に押し当てながら返事をするけど、優しい言葉をかけられるとなかなか涙が引っ込まなくてタオルがどんどん湿ってく。
 だからぎゅーって押さえてたら鷹臣さんに手が引かれて、踏ん張れなくて胸元に倒れ込んでしまった。慌てて起き上がろうとしたけど、空いている方の手で髪を撫でられ目を瞬く。

「鷹臣さ⋯」
「遥斗のご両親に会ったよ」
「⋯⋯⋯?」

 さっきから鷹臣さんの言ってる事が突飛過ぎだし、有り得ない内容に今度こそ理解出来なかった僕はポカンとして鷹臣さんを見た。
 両親に会ったって⋯一体何を言っているのだろう。
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