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したがり
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遠くで鳥の声が聞こえる。
うっすらと目を開け窓の方へと視線を向けた僕は、遮光カーテンの隙間から漏れる光を見て朝だと知り起き上がろうとした。だけど、腰の怠さと股関節の痛み、お尻の違和感に負けて浮かせていた頭を戻したら不意に腰を撫でられて驚く。
顔だけで振り向いたら立てた肘を枕にして頭を乗せ微笑んでる鷹臣さんがいて、昨夜の事を思い出した僕は真っ赤になって頭まで布団を被った。
「おはよう、遥斗」
「お、おはよう⋯ございます⋯」
「身体は大丈夫?」
相も変わらず優しい声に聞かれ、目の下まで布団を引き下げた僕はそれでも恥ずかしくて頷く事しか出来ない。
よ、世の中の恋人さんたちはこの恥ずかしさをどう乗り越えてるんだろう。
「喉乾いてるよね。水持って来るからちょっと待ってて」
「あ⋯」
顔が見れなくて視線を彷徨わせる僕の頭を撫でた鷹臣さんがそう言って起き上がりベッドから降りようとしたんだけど、まだ離れたくないって思った僕は反射的に腕を伸ばして鷹臣さんの服を掴んでた。
目を瞬く姿にハッとして離したけど、ベッド脇に立った鷹臣さんが両手を差し出してきたから今度は僕が目を丸くする。
「おいで。一緒にリビングに行こう」
好きな人に甘い声でそう誘われて応えない訳がなく、腰の重怠さを押して起き上がりその手を取った僕を鷹臣さんは苦もなく抱き上げた。いつも思うけど、本当に軽々と抱っこしてくれるんだよね。
躊躇ったけど、昨日みたいに首に腕を回したら背中を撫でられる。
「上手に甘えられて偉いね」
「そ、れは⋯何か⋯や、です⋯」
まるで子供にするような褒め方に少し拗ねたように首を振ると、コツンと頭が当てられて鷹臣さんが小さく笑った。
「遥斗はまだ甘えん坊レベルがゼロに等しいからね。これが甘えるって事だよって教えてあげないと、甘えて貰えないから」
「鷹臣さんは、僕を甘やかし過ぎだと思います」
「そんな事ないと思うけど⋯まぁ、遥斗はどうしてか甘やかしたくなるんだよね。マスターや岡野くん、宮代くんや広瀬くんもそうなんじゃないかな」
「みんなにはいろいろ助けて貰ってますけど⋯甘やかしとは違うような⋯」
同じお店で働く者として、友達として返しきれないほどの優しさは貰ってるけど、鷹臣さんのような甘さは全然ないと思う。当たり前だけどこんな風に抱っこしたりしないし。
リビングに行き、ソファに僕を下ろした鷹臣さんがキッチンへと向かい冷蔵庫から水のペットボトルを取って戻ってくる。一度テーブルに置いて座り、僕を膝の上で横抱きにしてまた手にしたペットボトルの蓋を開けて口元に寄せてきた。
この人はどうしてこう、何でもしたがるのかな。
「あの、鷹臣さん⋯水、自分で飲めますよ⋯?」
「ん? 口移しがいい?」
「へ? そ、そうじゃなくて⋯」
どうしてそう思ったのか、鷹臣さんの思考が分からなくて慌てて頭を振ったけど、鷹臣さんはにこっと笑うと僕にペットボトルを持たせ僕を囲うようにして緩く手を組んだ。
「ごめんね、どうしてもやってあげたくなる。遥斗には良くない事だって分かってはいるんだけど」
「あ、あの、嫌とかじゃないんですよ。むしろ嬉しいし、幸せだし⋯⋯ただ、その、僕がダメ人間になりそうで⋯」
「ダメ人間?」
「⋯⋯鷹臣さんがいないと、何も出来なくなりそうだなって⋯」
そんな風に自分の行く末を心配してしまうくらいには至れり尽くせりだから、情けないのと申し訳ないのとで俯きながら答えたら、吐息で笑った鷹臣さんが耳元に唇を寄せて来た。
「そうなったら、遥斗は俺以外見れなくなるね」
「⋯っ⋯た、鷹臣さんしか見てないです⋯!」
どこか嬉しさを含んだ声に囁くように言われて肌がゾクリと粟立つ。
そもそも特別な気持ちになったのは鷹臣さんだけだし、こんなに素敵な人がいるのに余所見なんてするはずがない。
思わず強めにペットボトルを握ってしまい、べこって音と共に溢れ出た水が胸元から太腿まで掛かって服がずぶ濡れになった。おまけに鷹臣さんまで濡れちゃって僕はサッと青褪める。
「あ⋯っ⋯ご、ごめんなさい⋯!」
「俺は大丈夫。でも遥斗は着替えた方がいいね。持って来るから待ってて」
「⋯ごめんなさい⋯」
「わざとじゃないんだから謝らない」
落ち込む僕の頭を撫で、膝から下ろして立ち上がった鷹臣さんがリビングから出て行く。
まるで自分の気持ちのように凹んだペットボトルの蓋をしてテーブルに置いた僕は、せめて拭いた方がいいと思って着ていた服を脱ぐと、濡れていない背中の面で床やソファを数回軽く叩いた。
(水で良かった⋯)
これがカフェオレとかだったら土下座じゃ済まされない。
ある程度水気がなくなってホッとした時、剥き出しの背中に何かが触れて肩が跳ねる。慌てて振り向いたら鷹臣さんがいて、僕の背中を見ながら指を滑らせてた。
「た、鷹臣さん⋯?」
「遥斗は無防備だね」
「え?」
「俺が君を性的に見てるって分かっているのに肌を見せて⋯襲われても文句言えないよ?」
肩にキスされて、指先が背骨をなぞりながら下がり腰を撫でる。
その動きに昨日の事を思い出してしまい、ぎゅっと身体を縮こめたら後ろから抱き締められた。
「怖い?」
「こ、怖くない、です⋯⋯ただ、恥ずかしくて⋯」
「そっか。⋯遥斗」
「はい⋯」
「ベッドに誘ってもいい?」
その言葉が何を意味するのか、ちゃんと分かってる僕は一気に全身が熱くなった。
まだ午前中だし、ご飯も食べてないし、お家の事何もしていないのに、きっとこれを受け入れると僕はホントに動けなくなる。
だけど、鷹臣さんにあんな風に触れられてお腹の奥が疼いてるのも確かで、少しだけ悩んだ僕は意を決して振り向き鷹臣さんに抱き着いて頷いた。
もっともっと、鷹臣さんの手に触って欲しい。
うっすらと目を開け窓の方へと視線を向けた僕は、遮光カーテンの隙間から漏れる光を見て朝だと知り起き上がろうとした。だけど、腰の怠さと股関節の痛み、お尻の違和感に負けて浮かせていた頭を戻したら不意に腰を撫でられて驚く。
顔だけで振り向いたら立てた肘を枕にして頭を乗せ微笑んでる鷹臣さんがいて、昨夜の事を思い出した僕は真っ赤になって頭まで布団を被った。
「おはよう、遥斗」
「お、おはよう⋯ございます⋯」
「身体は大丈夫?」
相も変わらず優しい声に聞かれ、目の下まで布団を引き下げた僕はそれでも恥ずかしくて頷く事しか出来ない。
よ、世の中の恋人さんたちはこの恥ずかしさをどう乗り越えてるんだろう。
「喉乾いてるよね。水持って来るからちょっと待ってて」
「あ⋯」
顔が見れなくて視線を彷徨わせる僕の頭を撫でた鷹臣さんがそう言って起き上がりベッドから降りようとしたんだけど、まだ離れたくないって思った僕は反射的に腕を伸ばして鷹臣さんの服を掴んでた。
目を瞬く姿にハッとして離したけど、ベッド脇に立った鷹臣さんが両手を差し出してきたから今度は僕が目を丸くする。
「おいで。一緒にリビングに行こう」
好きな人に甘い声でそう誘われて応えない訳がなく、腰の重怠さを押して起き上がりその手を取った僕を鷹臣さんは苦もなく抱き上げた。いつも思うけど、本当に軽々と抱っこしてくれるんだよね。
躊躇ったけど、昨日みたいに首に腕を回したら背中を撫でられる。
「上手に甘えられて偉いね」
「そ、れは⋯何か⋯や、です⋯」
まるで子供にするような褒め方に少し拗ねたように首を振ると、コツンと頭が当てられて鷹臣さんが小さく笑った。
「遥斗はまだ甘えん坊レベルがゼロに等しいからね。これが甘えるって事だよって教えてあげないと、甘えて貰えないから」
「鷹臣さんは、僕を甘やかし過ぎだと思います」
「そんな事ないと思うけど⋯まぁ、遥斗はどうしてか甘やかしたくなるんだよね。マスターや岡野くん、宮代くんや広瀬くんもそうなんじゃないかな」
「みんなにはいろいろ助けて貰ってますけど⋯甘やかしとは違うような⋯」
同じお店で働く者として、友達として返しきれないほどの優しさは貰ってるけど、鷹臣さんのような甘さは全然ないと思う。当たり前だけどこんな風に抱っこしたりしないし。
リビングに行き、ソファに僕を下ろした鷹臣さんがキッチンへと向かい冷蔵庫から水のペットボトルを取って戻ってくる。一度テーブルに置いて座り、僕を膝の上で横抱きにしてまた手にしたペットボトルの蓋を開けて口元に寄せてきた。
この人はどうしてこう、何でもしたがるのかな。
「あの、鷹臣さん⋯水、自分で飲めますよ⋯?」
「ん? 口移しがいい?」
「へ? そ、そうじゃなくて⋯」
どうしてそう思ったのか、鷹臣さんの思考が分からなくて慌てて頭を振ったけど、鷹臣さんはにこっと笑うと僕にペットボトルを持たせ僕を囲うようにして緩く手を組んだ。
「ごめんね、どうしてもやってあげたくなる。遥斗には良くない事だって分かってはいるんだけど」
「あ、あの、嫌とかじゃないんですよ。むしろ嬉しいし、幸せだし⋯⋯ただ、その、僕がダメ人間になりそうで⋯」
「ダメ人間?」
「⋯⋯鷹臣さんがいないと、何も出来なくなりそうだなって⋯」
そんな風に自分の行く末を心配してしまうくらいには至れり尽くせりだから、情けないのと申し訳ないのとで俯きながら答えたら、吐息で笑った鷹臣さんが耳元に唇を寄せて来た。
「そうなったら、遥斗は俺以外見れなくなるね」
「⋯っ⋯た、鷹臣さんしか見てないです⋯!」
どこか嬉しさを含んだ声に囁くように言われて肌がゾクリと粟立つ。
そもそも特別な気持ちになったのは鷹臣さんだけだし、こんなに素敵な人がいるのに余所見なんてするはずがない。
思わず強めにペットボトルを握ってしまい、べこって音と共に溢れ出た水が胸元から太腿まで掛かって服がずぶ濡れになった。おまけに鷹臣さんまで濡れちゃって僕はサッと青褪める。
「あ⋯っ⋯ご、ごめんなさい⋯!」
「俺は大丈夫。でも遥斗は着替えた方がいいね。持って来るから待ってて」
「⋯ごめんなさい⋯」
「わざとじゃないんだから謝らない」
落ち込む僕の頭を撫で、膝から下ろして立ち上がった鷹臣さんがリビングから出て行く。
まるで自分の気持ちのように凹んだペットボトルの蓋をしてテーブルに置いた僕は、せめて拭いた方がいいと思って着ていた服を脱ぐと、濡れていない背中の面で床やソファを数回軽く叩いた。
(水で良かった⋯)
これがカフェオレとかだったら土下座じゃ済まされない。
ある程度水気がなくなってホッとした時、剥き出しの背中に何かが触れて肩が跳ねる。慌てて振り向いたら鷹臣さんがいて、僕の背中を見ながら指を滑らせてた。
「た、鷹臣さん⋯?」
「遥斗は無防備だね」
「え?」
「俺が君を性的に見てるって分かっているのに肌を見せて⋯襲われても文句言えないよ?」
肩にキスされて、指先が背骨をなぞりながら下がり腰を撫でる。
その動きに昨日の事を思い出してしまい、ぎゅっと身体を縮こめたら後ろから抱き締められた。
「怖い?」
「こ、怖くない、です⋯⋯ただ、恥ずかしくて⋯」
「そっか。⋯遥斗」
「はい⋯」
「ベッドに誘ってもいい?」
その言葉が何を意味するのか、ちゃんと分かってる僕は一気に全身が熱くなった。
まだ午前中だし、ご飯も食べてないし、お家の事何もしていないのに、きっとこれを受け入れると僕はホントに動けなくなる。
だけど、鷹臣さんにあんな風に触れられてお腹の奥が疼いてるのも確かで、少しだけ悩んだ僕は意を決して振り向き鷹臣さんに抱き着いて頷いた。
もっともっと、鷹臣さんの手に触って欲しい。
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