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青天の霹靂(鷹臣視点)
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遥斗と過ごすようになりなるべく出張を避けて仕事をしていたんだけど、ついに俺でないと対応出来ない案件が出来てしまい泣く泣く行く羽目になってしまった。
遥斗の事なら何でもしてあげたいと思っている俺は出来る限りの事はしたし、口煩いくらいに気を付けて欲しい事を言ったけど⋯正直心配でならない。
何といっても遥斗は素直で純粋でとんでもなく可愛いから、俺のいない間にまた変な奴が付き纏ったりしないかついつい気になってしまう。
幸いにも秘書は数人いるから、遥斗と面識のある町田くんには何かあった時の為に待機して貰えているけど。
連絡がないという事は何も起こっていないという事だろうが、遥斗は我慢してしまうところがあるから一人で抱えていたらと思うと居ても立ってもいられなくなる。
まだ甘え方もぎこちないけど、あの子は言葉に出せない代わりに表情に出るからきっと寂しがっているだろう。
毎晩電話で聞く声も、心なしか元気がなくなっていってるようだし。
「⋯遥斗に会いたい」
「お疲れ様です」
今回の出張案件ある取引先の社長との会食を済ませた俺は、この数時間でどっと疲れた身体を引き摺りながら駐車場に向かっていた。
まさか、会食の場に秘書やお気に入りの女性を纏めて連れて来るとは思わなくて、しかも彼女たちは社長が離席するたびに俺に擦り寄ってくるから、如何に穏便にあしらうかでいつも以上に気を遣っていたのだ。
肉食系の女性は逞しくていいと思うが、俺の好みではないしそもそも俺には遥斗がいるから靡くはずもない。
「宝条社長~」
「⋯⋯⋯」
後ろから、ヒールの音と甘えたような声が聞こえ背筋がゾワッとする。
とはいえここで無視する訳にもいかないから一つ息を吐いて振り向くと、取引先社長の秘書が豊満な胸を揺らしながら小走りに近付いて来ていた。
「どうかされましたか?」
「あのぉ、今日はお時間を頂きましてありがとうございました」
「いえ、こちらこそ有意義な時間を過ごさせて頂きました。ありがとうございます」
「⋯それでですね⋯宜しければこのあとお時間って御座いませんか?」
よりにもよって秘書である君が誘うのかと口をついて出そうになったが、伸ばされた手をやんわりと避けた俺は開かれた後部座席の扉に手をかける。
例え時間があったとしても、彼女との逢瀬は御免だ。
「すみませんが、これからホテルに戻って可愛い恋人と通話するので、時間は少しもありませんね」
「え⋯」
「それでは、失礼致します」
呆然とする彼女が何かを言う前に乗り込み、秘書が扉を閉めた事を確認して溜め息をつく。女性としては魅力的なのだろうが、生憎と俺は遥斗一筋だからな。
それにしても、まだ彼女たちの香水の匂いが鼻腔に残っている。甘ったるくて濃い匂いのせいで食事の味も分からなかったし、鼻がおかしくなりそうだった。
その点、遥斗は香水やコロンはつけていないのにいい匂いがするから、やはり気持ちに左右されるんだろうな。
「⋯⋯早く終わって欲しいものだ」
シートに凭れ、本当なら今頃は遥斗を膝に乗せて他愛ない話をしているのにと思いながら目を閉じた俺は、「鷹臣さん」と呼ぶ遥斗の柔らかい声とふわりと笑顔を脳裏に浮かべて肩から力を抜いた。
人の好みに口を出すつもりはないが、TPOを弁えて貰えないなら少し考える必要があるかもしれないな。
それから数日が経ち、一日早く終える事が出来て遅い時間にはなるものの帰宅した俺は、目の前に広がる光景に何とも言えない気持ちを抱いていた。
(⋯⋯これは⋯)
キングサイズのベッドの上、俺のシャツを着て俺の服を抱き締めて眠っている遥斗がいるのだが、そのあまりの可愛らしさに勝手に顔がにやけてしまう。
とりあえず寝ているし、先に風呂に入って寝る準備をしようと荷物を置いて寝室を出て浴室に向かうが、少し気になってキッチンに行き冷蔵庫を開けてみた。用意していった物はちゃんと食べてくれたようだ。
シャワーだけで済ませ、髪を乾かして遥斗が眠るベッドに腰掛け目にかかる髪を避ける。あどけない寝顔が見えて、やっと帰ってきた事を実感出来た。
「⋯⋯ん⋯」
柔らかな髪を撫でていると小さな声がし、軽く身動いだ遥斗がゆっくりと目を開ける。
だけど眠そうに瞬きをしていて、抱き締めていた俺の服に顔を埋めるものだから俺は我慢出来なくなり、もう一度髪を撫でて遥斗の名前を呼ぶと緩慢な動きでこっちを向いてきた。
「⋯⋯⋯鷹臣⋯さん⋯?」
「うん。ただいま、遥斗。一人にしてごめんね」
寝ぼけ眼で俺を見た遥斗は少しの間のあと僅かに目を見瞠り、身体を起こして俺の首へと抱き着いてきた。
思わぬ行動に驚く俺の耳に、更に胸を抉るような言葉が聞こえてくる。
「⋯寂しかった⋯っ」
気持ちを言語化する事が苦手で、上手な甘え方を知らない遥斗が初めて口にした本音にどうしようもない気持ちになる。
起き抜けだったからなのか、はたまたそれを言いたくなるほど寂しい思いをさせてしまったのかは分からないが、どちらにしろ遥斗がこうなるのは相当だという事だ。
苦しいほどに力を込める遥斗の背に腕を回して抱き締め返すと微かに名前が呼ばれる。
「⋯遥斗、顔を上げて」
そっと言われた通りにする遥斗の目が少し潤んでいて、捨てられた子犬のような心細さを思わせる表情に胸が痛んだ。
顔を寄せ、軽く口付けるとぱちりと瞬きをする。もう一度、もう一度と次第に深くしていけば遥斗が小さく喘いだ。起きたばかりだからと優しく舌を触れ合わせていたら、遥斗の方から絡めてくれる。
(可愛いな)
拙い動きで懸命に応えてくれる遥斗の背中を撫で下ろし、裾から手を入れ直肌に触れるとピクリと反応した。
俺のシャツを部屋着の上から被っているのかと思ったらそれだけを着ていたようで、いつも履いている短パンさえ身に着けていない。直接下着に触れられるけど、遥斗的にはいいのだろうか。
滑らかな肌を堪能しつつ、息苦しくなったのか唇を離した遥斗の真っ赤な顔を見ていると、気付いた遥斗が恥ずかしそうにもじもじし始めた。
どうしたのかと首を傾げると、何度か口をパクパクさせたあと驚きの言葉を口にする。
「もっと⋯触って下さい⋯⋯僕の身体、全部⋯⋯鷹臣さんのものだから⋯」
小さな小さな声だったけど、初めて遥斗からお誘いのような事を言われて思わず固まってしまった。
明日、俺に雷でも落ちてくるのだろうか。
遥斗の事なら何でもしてあげたいと思っている俺は出来る限りの事はしたし、口煩いくらいに気を付けて欲しい事を言ったけど⋯正直心配でならない。
何といっても遥斗は素直で純粋でとんでもなく可愛いから、俺のいない間にまた変な奴が付き纏ったりしないかついつい気になってしまう。
幸いにも秘書は数人いるから、遥斗と面識のある町田くんには何かあった時の為に待機して貰えているけど。
連絡がないという事は何も起こっていないという事だろうが、遥斗は我慢してしまうところがあるから一人で抱えていたらと思うと居ても立ってもいられなくなる。
まだ甘え方もぎこちないけど、あの子は言葉に出せない代わりに表情に出るからきっと寂しがっているだろう。
毎晩電話で聞く声も、心なしか元気がなくなっていってるようだし。
「⋯遥斗に会いたい」
「お疲れ様です」
今回の出張案件ある取引先の社長との会食を済ませた俺は、この数時間でどっと疲れた身体を引き摺りながら駐車場に向かっていた。
まさか、会食の場に秘書やお気に入りの女性を纏めて連れて来るとは思わなくて、しかも彼女たちは社長が離席するたびに俺に擦り寄ってくるから、如何に穏便にあしらうかでいつも以上に気を遣っていたのだ。
肉食系の女性は逞しくていいと思うが、俺の好みではないしそもそも俺には遥斗がいるから靡くはずもない。
「宝条社長~」
「⋯⋯⋯」
後ろから、ヒールの音と甘えたような声が聞こえ背筋がゾワッとする。
とはいえここで無視する訳にもいかないから一つ息を吐いて振り向くと、取引先社長の秘書が豊満な胸を揺らしながら小走りに近付いて来ていた。
「どうかされましたか?」
「あのぉ、今日はお時間を頂きましてありがとうございました」
「いえ、こちらこそ有意義な時間を過ごさせて頂きました。ありがとうございます」
「⋯それでですね⋯宜しければこのあとお時間って御座いませんか?」
よりにもよって秘書である君が誘うのかと口をついて出そうになったが、伸ばされた手をやんわりと避けた俺は開かれた後部座席の扉に手をかける。
例え時間があったとしても、彼女との逢瀬は御免だ。
「すみませんが、これからホテルに戻って可愛い恋人と通話するので、時間は少しもありませんね」
「え⋯」
「それでは、失礼致します」
呆然とする彼女が何かを言う前に乗り込み、秘書が扉を閉めた事を確認して溜め息をつく。女性としては魅力的なのだろうが、生憎と俺は遥斗一筋だからな。
それにしても、まだ彼女たちの香水の匂いが鼻腔に残っている。甘ったるくて濃い匂いのせいで食事の味も分からなかったし、鼻がおかしくなりそうだった。
その点、遥斗は香水やコロンはつけていないのにいい匂いがするから、やはり気持ちに左右されるんだろうな。
「⋯⋯早く終わって欲しいものだ」
シートに凭れ、本当なら今頃は遥斗を膝に乗せて他愛ない話をしているのにと思いながら目を閉じた俺は、「鷹臣さん」と呼ぶ遥斗の柔らかい声とふわりと笑顔を脳裏に浮かべて肩から力を抜いた。
人の好みに口を出すつもりはないが、TPOを弁えて貰えないなら少し考える必要があるかもしれないな。
それから数日が経ち、一日早く終える事が出来て遅い時間にはなるものの帰宅した俺は、目の前に広がる光景に何とも言えない気持ちを抱いていた。
(⋯⋯これは⋯)
キングサイズのベッドの上、俺のシャツを着て俺の服を抱き締めて眠っている遥斗がいるのだが、そのあまりの可愛らしさに勝手に顔がにやけてしまう。
とりあえず寝ているし、先に風呂に入って寝る準備をしようと荷物を置いて寝室を出て浴室に向かうが、少し気になってキッチンに行き冷蔵庫を開けてみた。用意していった物はちゃんと食べてくれたようだ。
シャワーだけで済ませ、髪を乾かして遥斗が眠るベッドに腰掛け目にかかる髪を避ける。あどけない寝顔が見えて、やっと帰ってきた事を実感出来た。
「⋯⋯ん⋯」
柔らかな髪を撫でていると小さな声がし、軽く身動いだ遥斗がゆっくりと目を開ける。
だけど眠そうに瞬きをしていて、抱き締めていた俺の服に顔を埋めるものだから俺は我慢出来なくなり、もう一度髪を撫でて遥斗の名前を呼ぶと緩慢な動きでこっちを向いてきた。
「⋯⋯⋯鷹臣⋯さん⋯?」
「うん。ただいま、遥斗。一人にしてごめんね」
寝ぼけ眼で俺を見た遥斗は少しの間のあと僅かに目を見瞠り、身体を起こして俺の首へと抱き着いてきた。
思わぬ行動に驚く俺の耳に、更に胸を抉るような言葉が聞こえてくる。
「⋯寂しかった⋯っ」
気持ちを言語化する事が苦手で、上手な甘え方を知らない遥斗が初めて口にした本音にどうしようもない気持ちになる。
起き抜けだったからなのか、はたまたそれを言いたくなるほど寂しい思いをさせてしまったのかは分からないが、どちらにしろ遥斗がこうなるのは相当だという事だ。
苦しいほどに力を込める遥斗の背に腕を回して抱き締め返すと微かに名前が呼ばれる。
「⋯遥斗、顔を上げて」
そっと言われた通りにする遥斗の目が少し潤んでいて、捨てられた子犬のような心細さを思わせる表情に胸が痛んだ。
顔を寄せ、軽く口付けるとぱちりと瞬きをする。もう一度、もう一度と次第に深くしていけば遥斗が小さく喘いだ。起きたばかりだからと優しく舌を触れ合わせていたら、遥斗の方から絡めてくれる。
(可愛いな)
拙い動きで懸命に応えてくれる遥斗の背中を撫で下ろし、裾から手を入れ直肌に触れるとピクリと反応した。
俺のシャツを部屋着の上から被っているのかと思ったらそれだけを着ていたようで、いつも履いている短パンさえ身に着けていない。直接下着に触れられるけど、遥斗的にはいいのだろうか。
滑らかな肌を堪能しつつ、息苦しくなったのか唇を離した遥斗の真っ赤な顔を見ていると、気付いた遥斗が恥ずかしそうにもじもじし始めた。
どうしたのかと首を傾げると、何度か口をパクパクさせたあと驚きの言葉を口にする。
「もっと⋯触って下さい⋯⋯僕の身体、全部⋯⋯鷹臣さんのものだから⋯」
小さな小さな声だったけど、初めて遥斗からお誘いのような事を言われて思わず固まってしまった。
明日、俺に雷でも落ちてくるのだろうか。
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