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お留守番
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最近の鷹臣さんは少しだけ様子がおかしい。
僕と一緒にいる時や話してる時とかはいつも通りなんだけど、ふと気付いたら難しい顔をして何かを考えてて心配になる。
大変な事が起こってるとかじゃなければいいんだけど。
「遥斗、ちょっといいかな」
お風呂から上がり頭を拭きながらリビングに戻ると、ドライヤーを手にソファに座ってる鷹臣さんにそう呼ばれた。頷いていつものように膝の間に座ったら脇の下に手が差し込まれて、抱き上げられて膝の上に横向きに座らされる。
目を瞬いて鷹臣さんを見上げると額にキスされてタオル越しに髪を撫でられた。
「来週から、一週間ほど地方に出張になってしまってね。本当は遥斗と離れたくないし一人にしたくはないんだけど⋯」
「大丈夫ですよ。鷹臣さんが留守の間は、僕がお家を守ります」
「頼もしいね。でも、遥斗は朝が苦手だから心配だな」
そ、それを言われると何も返せない。確かに鷹臣さんと一緒に暮らし始めてからは鷹臣さんに頼りっきりだったもんね。
鷹臣さんがそうしたいからって言ってくれるからつい甘えちゃって⋯やっぱりこういう時の為にももう少ししっかりしなきゃだ。
「あ、もしかして、最近難しい顔をしてたのって⋯」
「気付いてたんだ? そうだよ、ずっと出張をどうにか出来ないか考えてた」
「ど、どうにか⋯?」
「回避出来ないかなって」
そんなキラキラな笑顔で無邪気に言うような事じゃないと思います。
でも、それって僕が心配だから考えてくれてたって事だよね。朝が苦手っていうのはアレだけど一人でちゃんと生活出来るかの心配じゃなくて、何か危ない事とかが起きないかの心配。
「一週間も遥斗の顔が見られないなんて辛すぎる」
「あの、テレビ電話があります、よ?」
「顔を見たら会いたくなるから」
「そ、れは⋯確かに⋯」
僕も会いたくなるかもしれない。
頬を撫でられ擦り寄せるとふっと笑ってくれる。
「でも、電話は毎日したいかな」
「僕もしたいです」
「うん。あと、行くまでにたくさんイチャイチャしようね」
ぎゅっと抱き締められ目の目の間に鷹臣さんが口付ける。おずおずと手を上げて鷹臣さんの頬に触れたら目が細められてゆっくり唇が重なった。
すぐに離れたけど、僕の肩と腰を抱く手はそのままだから密着度は変わってない。
「さ、風邪を引くといけないから、髪を乾かそうか」
「はい」
しばらく鷹臣さんの香りと温もりに包まれてたけど、ポンと頭に手が乗って持ち上げられたドライヤーが軽く振られる。
頷いて膝から降りようとしたら「今日はこのまま」って言われて、背中は向けものの座ったまま乾かして貰った。
やりにくくなかったのかな。
それから数日後、鷹臣さんはすごく名残惜しそうに出張先へと出掛けて行った。
一人になるからって大事な話をたくさんされたんだけど、覚えきれなくてメモした紙を見た僕は思わず苦笑する。
〝知らない人にはついて行かない〟、〝声をかけられても無視〟、〝人通りの少ない場所には行かない、歩かない〟、〝何かあったら町田さんに連絡〟とか、本当にいろいろ、僕って小さな子供だったかなって思うくらい言われた。
さすがにいつでもはしないけど、寂しくなったら連絡してきていいって言って貰えたし、鷹臣さんがいなくてももう僕が寝る場所は鷹臣さんのベッドだから、今日からはペンギンと一緒に寝ようと思ってるんだ。
ちなみにご飯は一週間分用意してくれてて、レンジで温めたら食べられるようになってる。有り難いけど、申し訳なさの方が強くて僕はどうしたらいいのか⋯でも、鷹臣さんが見ていないところではもう包丁を使わないでって言われたから、今は練習も出来ないんだよね。
人一倍頑張らなきゃ、僕は何にも出来ないのに。
「あ、そろそろ出なきゃ」
大学やバイトに行くにあたって、鷹臣さんに最寄り駅を教えて貰った。徒歩何分とか、電車でここまで何分とか、出張に行く前にしたデートで一緒に乗ってくれて一から十まで教えてくれたんだけど⋯実は鷹臣さんと町田さんの仲を勘違いした時に調べたから知ってるんだよね。
でもにこにこと説明してくれる鷹臣さんに口は挟めなくて、僕は知らないフリをした。
だって鷹臣さんの優しさだから。僕の為にいろいろ説明してくれる事が純粋に嬉しかったんだ。
持って行くカバンの中を確認して玄関に向かい、誰いないけど「行ってきます」って言って家を出た。
今日から一週間、帰っても一人だけど頑張ろう。
って決めて早三日。僕はこの段階でダメダメになっていた。
思った以上に鷹臣さんの存在は大きくなっていて、優しい笑顔とかいつも触れてくれてた温もりとかが傍にないのがこんなにも寂しい。
「一人なんて平気だったのに⋯」
鷹臣さんと出会う前は家に帰れば一人だった。明かりもついてないし、空調も整ってない。匂いなんて何にも感じない部屋に帰ってたのに、いつの間にこんなに弱くなってたんだろう。
適当に食べて、お風呂に入って、寝て。あの何の変哲もない生活をどう過ごしてたかさえもう思い出せない。
「鷹臣さん⋯」
鷹臣さんの匂いがする部屋で、鷹臣さんの服に包まって寝るのが最近のルーティーンになってる。
毎日電話してるし、あと四日頑張れば会えるけど、正直もたない気がしてきた。
優しい鷹臣さんの事だから僕が一言でも寂しいって言えば帰って来てくれるのかもしれないけど、そんな我儘を言って困らせたくないから絶対言わない。
「頑張れ、僕。今までだって頑張ってこれたんだから大丈夫だよ」
自分に言い聞かせるように呟いてペンギンを見た僕は、それにくるりと背中を向けると鷹臣さんの服を抱き締め目を閉じた。
せめて夢の中でだけでも会えたらいいのに。
僕と一緒にいる時や話してる時とかはいつも通りなんだけど、ふと気付いたら難しい顔をして何かを考えてて心配になる。
大変な事が起こってるとかじゃなければいいんだけど。
「遥斗、ちょっといいかな」
お風呂から上がり頭を拭きながらリビングに戻ると、ドライヤーを手にソファに座ってる鷹臣さんにそう呼ばれた。頷いていつものように膝の間に座ったら脇の下に手が差し込まれて、抱き上げられて膝の上に横向きに座らされる。
目を瞬いて鷹臣さんを見上げると額にキスされてタオル越しに髪を撫でられた。
「来週から、一週間ほど地方に出張になってしまってね。本当は遥斗と離れたくないし一人にしたくはないんだけど⋯」
「大丈夫ですよ。鷹臣さんが留守の間は、僕がお家を守ります」
「頼もしいね。でも、遥斗は朝が苦手だから心配だな」
そ、それを言われると何も返せない。確かに鷹臣さんと一緒に暮らし始めてからは鷹臣さんに頼りっきりだったもんね。
鷹臣さんがそうしたいからって言ってくれるからつい甘えちゃって⋯やっぱりこういう時の為にももう少ししっかりしなきゃだ。
「あ、もしかして、最近難しい顔をしてたのって⋯」
「気付いてたんだ? そうだよ、ずっと出張をどうにか出来ないか考えてた」
「ど、どうにか⋯?」
「回避出来ないかなって」
そんなキラキラな笑顔で無邪気に言うような事じゃないと思います。
でも、それって僕が心配だから考えてくれてたって事だよね。朝が苦手っていうのはアレだけど一人でちゃんと生活出来るかの心配じゃなくて、何か危ない事とかが起きないかの心配。
「一週間も遥斗の顔が見られないなんて辛すぎる」
「あの、テレビ電話があります、よ?」
「顔を見たら会いたくなるから」
「そ、れは⋯確かに⋯」
僕も会いたくなるかもしれない。
頬を撫でられ擦り寄せるとふっと笑ってくれる。
「でも、電話は毎日したいかな」
「僕もしたいです」
「うん。あと、行くまでにたくさんイチャイチャしようね」
ぎゅっと抱き締められ目の目の間に鷹臣さんが口付ける。おずおずと手を上げて鷹臣さんの頬に触れたら目が細められてゆっくり唇が重なった。
すぐに離れたけど、僕の肩と腰を抱く手はそのままだから密着度は変わってない。
「さ、風邪を引くといけないから、髪を乾かそうか」
「はい」
しばらく鷹臣さんの香りと温もりに包まれてたけど、ポンと頭に手が乗って持ち上げられたドライヤーが軽く振られる。
頷いて膝から降りようとしたら「今日はこのまま」って言われて、背中は向けものの座ったまま乾かして貰った。
やりにくくなかったのかな。
それから数日後、鷹臣さんはすごく名残惜しそうに出張先へと出掛けて行った。
一人になるからって大事な話をたくさんされたんだけど、覚えきれなくてメモした紙を見た僕は思わず苦笑する。
〝知らない人にはついて行かない〟、〝声をかけられても無視〟、〝人通りの少ない場所には行かない、歩かない〟、〝何かあったら町田さんに連絡〟とか、本当にいろいろ、僕って小さな子供だったかなって思うくらい言われた。
さすがにいつでもはしないけど、寂しくなったら連絡してきていいって言って貰えたし、鷹臣さんがいなくてももう僕が寝る場所は鷹臣さんのベッドだから、今日からはペンギンと一緒に寝ようと思ってるんだ。
ちなみにご飯は一週間分用意してくれてて、レンジで温めたら食べられるようになってる。有り難いけど、申し訳なさの方が強くて僕はどうしたらいいのか⋯でも、鷹臣さんが見ていないところではもう包丁を使わないでって言われたから、今は練習も出来ないんだよね。
人一倍頑張らなきゃ、僕は何にも出来ないのに。
「あ、そろそろ出なきゃ」
大学やバイトに行くにあたって、鷹臣さんに最寄り駅を教えて貰った。徒歩何分とか、電車でここまで何分とか、出張に行く前にしたデートで一緒に乗ってくれて一から十まで教えてくれたんだけど⋯実は鷹臣さんと町田さんの仲を勘違いした時に調べたから知ってるんだよね。
でもにこにこと説明してくれる鷹臣さんに口は挟めなくて、僕は知らないフリをした。
だって鷹臣さんの優しさだから。僕の為にいろいろ説明してくれる事が純粋に嬉しかったんだ。
持って行くカバンの中を確認して玄関に向かい、誰いないけど「行ってきます」って言って家を出た。
今日から一週間、帰っても一人だけど頑張ろう。
って決めて早三日。僕はこの段階でダメダメになっていた。
思った以上に鷹臣さんの存在は大きくなっていて、優しい笑顔とかいつも触れてくれてた温もりとかが傍にないのがこんなにも寂しい。
「一人なんて平気だったのに⋯」
鷹臣さんと出会う前は家に帰れば一人だった。明かりもついてないし、空調も整ってない。匂いなんて何にも感じない部屋に帰ってたのに、いつの間にこんなに弱くなってたんだろう。
適当に食べて、お風呂に入って、寝て。あの何の変哲もない生活をどう過ごしてたかさえもう思い出せない。
「鷹臣さん⋯」
鷹臣さんの匂いがする部屋で、鷹臣さんの服に包まって寝るのが最近のルーティーンになってる。
毎日電話してるし、あと四日頑張れば会えるけど、正直もたない気がしてきた。
優しい鷹臣さんの事だから僕が一言でも寂しいって言えば帰って来てくれるのかもしれないけど、そんな我儘を言って困らせたくないから絶対言わない。
「頑張れ、僕。今までだって頑張ってこれたんだから大丈夫だよ」
自分に言い聞かせるように呟いてペンギンを見た僕は、それにくるりと背中を向けると鷹臣さんの服を抱き締め目を閉じた。
せめて夢の中でだけでも会えたらいいのに。
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