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笑っていてほしい

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 驚く僕にすぐに二人は「大きい声出してごめんね」って謝ってくれたけど、伝えてなかった僕が悪いからって言ったらそんな事ないよって慰めてくれた。二人とも、本当に優しい。
 それから茉莉ちゃんの行きたいお店に行ったり、いつの間にか鷹臣さんの荷物が増えてたりしつつモール内を歩き回った僕たちは、今凄く賑やかな場所にいる。

「ここ、広いね」
「このフィギュア、結構前のだな」
「⋯⋯」

 色んな音や声があっちこっちから聞こえて萎縮してると、鷹臣さんが僕の顔を覗き込んできた。

「ゲームセンターも初めて?」
「⋯は、はい⋯耳がキーンってしてます⋯」
「すぐに慣れるよ。おいで、遊んでみよう」

 そう言って僕の手を引く鷹臣さんはどこか楽しそうで、犬のぬいぐるみが入った機械に近付くと僕を前に立たせ、お金を入れて後ろに回り込む。操作方法も分からないのにと戸惑ってたら鷹臣さんが僕の手を持ち上げ、レバーとボタンのところに置かれた。

「このレバーでアームを操作して、ボタンで下ろしてぬいぐるみを掴むんだ」
「え、えっと⋯」
「動かしてごらん」

 動かしてごらんと言われても⋯と思いつつ右に左に前後ろとレバーを操作するけど、どこが正解か分からなくてガチャガチャしてたら鷹臣さんの手が僕の手を包むようにして動かし始めた。

「中心を捉えるようにするんだよ」
「⋯っ⋯」
「こうして⋯この辺りかな」

 耳元で鷹臣さんが囁くように話すからドキドキしてきた。
 集中出来なくて手から力が抜ける僕の代わりにボタンが押されぬいぐるみは持ち上がったけど、残念ながら落とし口近くまで来て落ちてしまう。
 何か、わざと離したように見えたけど⋯。

「さすがに一回目でっていうのは難しいね。今度は遥斗が最後まで操作してみようか」
「は、はい」

 もう一度お金を入れた鷹臣さんが今度は隣に立つ。
 レバーを動かしてぬいぐるみが真ん中にくる場所で止めてボタンを押してはみたけど、鷹臣さんの時には持ち上がったぬいぐるみは転がっただけで何の変化もなかった。

「あれ?」
「もう少しこっち寄りだったね」
「難しいです⋯」
「慣れると取れない事も楽しめるようになるよ」

 宥めるように頭を撫でられて小さく頷くと少し離れた場所から茉莉ちゃんの声がして、鷹臣さんと一緒にそっちへ向かったら二人が向かい合って戦ってた。
 手に持った持ち手付きの判子みたいな物で円盤を弾いたり弾かれたりしてる。オマケにお互いの前には隙間があって、そこに入れると点数が加算されるみたいだ。

「叶くん、少しは手加減してもいいんだよ?」
「手加減したら文句言うだろ!」
「あ、ズルい!」
「勝負にズルいも何もない!」

 凄い、白熱してる。
 それにしても、ゲームセンターっていろいろな遊びがあるんだなぁ。
 バスケットとか太鼓とか、カードを使って遊ぶ物もあったり子供が遊べる乗り物まである。
 きょろきょろと視線を動かした僕は、壁際にガシャポンが並んでいるのを見付け興味津々で駆け寄った。ガシャポンは小さい頃させて貰った事もあるから知ってて、懐かしさを感じて端から順番に見てたんだけど本当にいろいろな種類があって感動する。
 食べ物や家具のミニチュアとか、漫画のキャラクターのフィギュアやキーホルダー、リアル寄りの虫とかもあるんだ。え、この虫五百円もする。
 こんなにあったら、大人も子供も迷っちゃうだろうな。
 端まで見終わり、満足してみんなのところに戻ろうとした僕の腕を誰かに掴まれ階段の方に連れて行かれる。
 慌てて見ると鷹臣さんだったけど、人差し指を口に当てた彼に奥へと押しやられた僕は何を言う前に唇が塞がれた。

「ん⋯っ」

 舌が入ってきたけど、まだ不慣れな僕は下手に応えるので精一杯だ。
 というか、こんないつ誰が来るかも分からないような場所でこんな事するなんて⋯見られたら恥ずかし過ぎる。

「⋯っ、ン、んん⋯」
「⋯⋯ごめんね、我慢出来なかった」
「⋯?」

 強めに舌が吸われて離れ、息の上がった僕に鷹臣さんがそう言って今度は軽く口付けてくる。
 何を我慢してたんだろう。

「遥斗、ずっと目がキラキラしてる。それが可愛すぎて、早く触れたくて堪らなかったんだ」
「そ、そんなにですか?」
「水族館でもそれ以降のデートでもそうだったけど、遥斗は表情に出るから分かりやすいよ」
「それは⋯ちょっと恥ずかしいです」

 確かに初めての場所は楽しいしワクワクしてテンションも上がる。
 でもそんな風に言われると二十歳にもなってって思いが頭を過ぎって恥ずかしくなり、俯いたらそっと抱き締められた。

「いいんだよ、それで。楽しい事も嬉しい事も、素直に感じてくれる事が一番だ。俺はそうして喜ぶ遥斗を見たいからね」
「鷹臣さん⋯」

 本当に僕、大切にされてる。
 僕ももっと鷹臣さんの事大切にしたい。鷹臣さんがしてくれるように、僕に出来る精一杯で幸せにしてあげたい。
 肩に頬を寄せ躊躇いがちに伸ばした手を背中に回すと抱く力が強くなった。

「遥斗が笑っていてくれるなら、俺はなんだって出来るんだよ」

 僕にそんな事を言ってくれるのはきっと鷹臣さんしかいない。
 顔も声も覚えていない両親が僕を愛してくれていたのかも分からないけど、鷹臣さんの言葉は素直に信じられる。

「鷹臣さんにも、笑っていて欲しいです」
「遥斗がいれば笑えるよ」

 それなら、これからもたくさん笑わせてあげられるといいな。
 ずっとずっと、傍で鷹臣さんの笑顔を見ていたい。
 そう思いながら口元を緩めた僕は、鷹臣さんの隣にいる為にいろいろ頑張ろうって決めた。
 まずは出来る事からコツコツと、だよね。

 そのあと、捜しに来た叶くんと茉莉ちゃんに見付かってしまった僕は慌てて鷹臣さんから離れたけど、当分顔からは熱が引いてくれなくて顔が上げられなかった。
 叶くんはともかく、きっと茉莉ちゃんは気付いてるんだろうなぁ。
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