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迷子の女の子
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あのあとも茉莉ちゃんは鷹臣さんにいろいろ質問してて、鷹臣さんも言える範囲で答えてたんだけど、僕が聞いた時には教えてくれた事を濁してたりしてて本当に僕にだけだったんだって改めて思った。
そういうちょっとした特別感が嬉しい。
出発してから三十分ほど車に揺られて到着した場所は、僕でも知ってるくらい有名な巨大商業施設だった。
知ってるって言っても、実際見るのは初めてだけど。
「叶くん、ここ来たかったところだ」
「あー、そういや言ってたな。電車移動だとあんま買い物出来ないから悔しいって」
「いっぱい買い物してもいいですか?」
「いいよ」
「やったー!」
「すみません⋯」
「元気があっていいね。ああそうだ、良ければ遥斗の好きな物を教えてくれないかな」
「あ、遥斗は⋯」
車から降りたあとあまりの広さに呆然としていた僕は三人の会話は耳に入って来なくて、何店舗入ってるのかも予想さえ出来ないくらい巨大な建物を見上げてた。
水族館も大きかったけど、あそこより大きくて口が開いてしまう。
「そうなんだ、ありがとう。こっそり買わないと遠慮されるから、君たちにも協力して貰おうかな」
「あはは、任せて下さい」
「気を引くのは得意なんで」
「心強いよ」
どこを見ても人がたくさんでぼんやりしてたら、不意に服の裾が引かれて「パパ」と声がした。見ると小さな女の子が大きな目を丸くしていて、僕がパパじゃないと分かるなり泣き出す。
慌ててしゃがみ込み可愛く結われた髪を撫でるけど泣き止みそうにない。
「ど、どうしたの? 迷子になっちゃった?」
「うぇ~⋯」
「大丈夫だよ、泣かないで。パパじゃなくてごめんね」
「遥斗」
きっとどこかでご両親とはぐれてここまで捜しに来たのだろう。僕が似た服を着ていたのか、せっかく見付けたのに違う人で堪えてた気持ちが溢れちゃったみたいだ。
申し訳なくてハンカチで女の子の涙を拭いていたら、気付いた鷹臣さんたちが駆け寄ってきてくれた。
「鷹臣さん」
「迷子かな?」
「だと思います」
「わ、髪可愛いね。誰がしてくれたの?」
「⋯ママ⋯」
「そっか、ママ上手だねぇ。あ、そうだ。ママにここにいるよーって教えてあげたいから、お名前教えてくれる?」
「⋯ひっく⋯⋯あかね⋯」
「あかねちゃんか、素敵な名前だね」
さすが茉梨ちゃん。目線を合わせて優しい声で話し掛けて、同性だから女の子も安心なのかしゃくり上げながらも小さく頷いてる。
僕は立ち上がり辺りを見回してみるけど、人を捜してるような動きをしてる人はいなくて眉尻を下げた。心細い思いをしているこの子を、早くご両親と会わせてあげないと。
「どこまでパパとママと一緒だったか分かる?」
「⋯わかんない⋯」
「そっかぁ。じゃあ呼び出しして貰った方が早いかな」
「インフォメーションなら本館の一階にあったはず」
叶くんがスマホで検索したのか、本館だという建物を指差して茉梨ちゃんに教えてる。頷いた茉梨ちゃんは女の子に笑いかけると、今度は僕と鷹臣さんを見上げてきた。
「宝条さん、遥斗くん。私と叶くんはこの子を連れて行くので、あとで合流でもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
「戻って来る時電話してね」
「分かった。じゃあ、パパとママを呼んでくれるところに行こうか」
「うん⋯」
女の子の手を握り立ち上がった茉梨ちゃんと、女の子を挟むようにして並んだ叶くんが本館へと入っていく。その背中を見ていると言いようのない切なさを感じた僕は、小さく首を振って鷹臣さんを見上げた。
「何だかあの三人、親子みたいですね」
「そうだね。人見知りをしない子で良かったよ」
「見付かるといいなぁ」
「大丈夫、きっと見付かるよ」
僕は親と過ごした記憶はないけど、一人が寂しい気持ちは良く分かる。それに、さっきまで一緒にいた人と離れちゃったら凄く不安にもなるだろうから、すぐにでも再会出来るといいな。
小さい子が泣いてるのを見るのは辛いし。
もう三人の姿なんてとうに見えなくなった本館入口をぼんやり眺めてたら、肩に手が置かれて顔を覗き込まれた。
「俺たちも中に入ろうか。気になったお店があったら教えて」
「はい」
宥めるように頭を撫でられ、その手が僕の手を取り歩き出す。近くにいた子供が不思議そうにその様子を見てたけど、気付いてクスリと笑った鷹臣さんは繋いだ手を見せ付けるように振って中に入った。
こ、これが大人の余裕。
(五歳の差って、案外大きいんだなぁ)
僕はきっと二十五になっても鷹臣さんのように落ち着いた大人にはなれないだろうけど、せめてもう少しだけでも年相応に見られたいな。
人目を引く鷹臣さんだから必然的に手を繋いでいる僕にも視線が集まって照れ臭さを感じつつ、少しだけ勇気を出して繋いでいる方の腕に身体を寄せた僕は、僅かに力を込めて握り返し引かれるままに足を進めた。
いつかもっと勇気が出せたら、隣に並んで歩けるようになるかな。
それから三十分くらいして叶くん、茉梨ちゃんと無事合流出来て、心配だった僕はさっきの女の子の話を聞いてた。
「あの子、ちゃんと親御さんが迎えに来てくれたよ」
「ほんと? 良かった」
「小さい子って一瞬でも目を離すと見失ったりするから、本当に大変だよね」
「これだけ人がいれば埋もれるだろうしな」
そういえば、施設の子たちもよく迷子になってた覚えがある。子供は好奇心旺盛で欲望に素直だから、興味が引かれると反射的にそっちに行っちゃうんだよね。僕が子守りを任された時にそうなったら怒られるから、いつも気を張りすぎるくらい張ってたなぁ。
三人で迷子談義をしていたら、お店での会計を済ませた鷹臣さんが戻ってきて二人に微笑んだ。
「あ、何か買ったんですか?」
「ああ。遥斗の夏用のパジャマをね」
「夏用のパジャマ?」
「何で?」
その反応に二人にはまだ鷹臣さんと一緒に住んでる事を伝えてなかった事を思い出す。鷹臣さんの家に帰る事が当たり前になってたから、もうとっくに言ったつもりでいた。
そんなので怒る二人じゃないけど、大切な友達だから隠し事はしたくなかったのに。
「あ、あのね、実は⋯」
「俺と遥斗、同棲してるんだよ」
意図的じゃないにしろ黙ってた事を謝ろうと思って口を開いたら、鷹臣さんが僕の肩を抱き寄せてサラリと言い放った。
二人の目が点になり、少しの間のあと凄く驚いた顔をする。
「「ええぇぇぇ!?」」
二人の声量に、周りの人たちが一斉にこっちを向いたのは仕方がないと思う。
そういうちょっとした特別感が嬉しい。
出発してから三十分ほど車に揺られて到着した場所は、僕でも知ってるくらい有名な巨大商業施設だった。
知ってるって言っても、実際見るのは初めてだけど。
「叶くん、ここ来たかったところだ」
「あー、そういや言ってたな。電車移動だとあんま買い物出来ないから悔しいって」
「いっぱい買い物してもいいですか?」
「いいよ」
「やったー!」
「すみません⋯」
「元気があっていいね。ああそうだ、良ければ遥斗の好きな物を教えてくれないかな」
「あ、遥斗は⋯」
車から降りたあとあまりの広さに呆然としていた僕は三人の会話は耳に入って来なくて、何店舗入ってるのかも予想さえ出来ないくらい巨大な建物を見上げてた。
水族館も大きかったけど、あそこより大きくて口が開いてしまう。
「そうなんだ、ありがとう。こっそり買わないと遠慮されるから、君たちにも協力して貰おうかな」
「あはは、任せて下さい」
「気を引くのは得意なんで」
「心強いよ」
どこを見ても人がたくさんでぼんやりしてたら、不意に服の裾が引かれて「パパ」と声がした。見ると小さな女の子が大きな目を丸くしていて、僕がパパじゃないと分かるなり泣き出す。
慌ててしゃがみ込み可愛く結われた髪を撫でるけど泣き止みそうにない。
「ど、どうしたの? 迷子になっちゃった?」
「うぇ~⋯」
「大丈夫だよ、泣かないで。パパじゃなくてごめんね」
「遥斗」
きっとどこかでご両親とはぐれてここまで捜しに来たのだろう。僕が似た服を着ていたのか、せっかく見付けたのに違う人で堪えてた気持ちが溢れちゃったみたいだ。
申し訳なくてハンカチで女の子の涙を拭いていたら、気付いた鷹臣さんたちが駆け寄ってきてくれた。
「鷹臣さん」
「迷子かな?」
「だと思います」
「わ、髪可愛いね。誰がしてくれたの?」
「⋯ママ⋯」
「そっか、ママ上手だねぇ。あ、そうだ。ママにここにいるよーって教えてあげたいから、お名前教えてくれる?」
「⋯ひっく⋯⋯あかね⋯」
「あかねちゃんか、素敵な名前だね」
さすが茉梨ちゃん。目線を合わせて優しい声で話し掛けて、同性だから女の子も安心なのかしゃくり上げながらも小さく頷いてる。
僕は立ち上がり辺りを見回してみるけど、人を捜してるような動きをしてる人はいなくて眉尻を下げた。心細い思いをしているこの子を、早くご両親と会わせてあげないと。
「どこまでパパとママと一緒だったか分かる?」
「⋯わかんない⋯」
「そっかぁ。じゃあ呼び出しして貰った方が早いかな」
「インフォメーションなら本館の一階にあったはず」
叶くんがスマホで検索したのか、本館だという建物を指差して茉梨ちゃんに教えてる。頷いた茉梨ちゃんは女の子に笑いかけると、今度は僕と鷹臣さんを見上げてきた。
「宝条さん、遥斗くん。私と叶くんはこの子を連れて行くので、あとで合流でもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
「戻って来る時電話してね」
「分かった。じゃあ、パパとママを呼んでくれるところに行こうか」
「うん⋯」
女の子の手を握り立ち上がった茉梨ちゃんと、女の子を挟むようにして並んだ叶くんが本館へと入っていく。その背中を見ていると言いようのない切なさを感じた僕は、小さく首を振って鷹臣さんを見上げた。
「何だかあの三人、親子みたいですね」
「そうだね。人見知りをしない子で良かったよ」
「見付かるといいなぁ」
「大丈夫、きっと見付かるよ」
僕は親と過ごした記憶はないけど、一人が寂しい気持ちは良く分かる。それに、さっきまで一緒にいた人と離れちゃったら凄く不安にもなるだろうから、すぐにでも再会出来るといいな。
小さい子が泣いてるのを見るのは辛いし。
もう三人の姿なんてとうに見えなくなった本館入口をぼんやり眺めてたら、肩に手が置かれて顔を覗き込まれた。
「俺たちも中に入ろうか。気になったお店があったら教えて」
「はい」
宥めるように頭を撫でられ、その手が僕の手を取り歩き出す。近くにいた子供が不思議そうにその様子を見てたけど、気付いてクスリと笑った鷹臣さんは繋いだ手を見せ付けるように振って中に入った。
こ、これが大人の余裕。
(五歳の差って、案外大きいんだなぁ)
僕はきっと二十五になっても鷹臣さんのように落ち着いた大人にはなれないだろうけど、せめてもう少しだけでも年相応に見られたいな。
人目を引く鷹臣さんだから必然的に手を繋いでいる僕にも視線が集まって照れ臭さを感じつつ、少しだけ勇気を出して繋いでいる方の腕に身体を寄せた僕は、僅かに力を込めて握り返し引かれるままに足を進めた。
いつかもっと勇気が出せたら、隣に並んで歩けるようになるかな。
それから三十分くらいして叶くん、茉梨ちゃんと無事合流出来て、心配だった僕はさっきの女の子の話を聞いてた。
「あの子、ちゃんと親御さんが迎えに来てくれたよ」
「ほんと? 良かった」
「小さい子って一瞬でも目を離すと見失ったりするから、本当に大変だよね」
「これだけ人がいれば埋もれるだろうしな」
そういえば、施設の子たちもよく迷子になってた覚えがある。子供は好奇心旺盛で欲望に素直だから、興味が引かれると反射的にそっちに行っちゃうんだよね。僕が子守りを任された時にそうなったら怒られるから、いつも気を張りすぎるくらい張ってたなぁ。
三人で迷子談義をしていたら、お店での会計を済ませた鷹臣さんが戻ってきて二人に微笑んだ。
「あ、何か買ったんですか?」
「ああ。遥斗の夏用のパジャマをね」
「夏用のパジャマ?」
「何で?」
その反応に二人にはまだ鷹臣さんと一緒に住んでる事を伝えてなかった事を思い出す。鷹臣さんの家に帰る事が当たり前になってたから、もうとっくに言ったつもりでいた。
そんなので怒る二人じゃないけど、大切な友達だから隠し事はしたくなかったのに。
「あ、あのね、実は⋯」
「俺と遥斗、同棲してるんだよ」
意図的じゃないにしろ黙ってた事を謝ろうと思って口を開いたら、鷹臣さんが僕の肩を抱き寄せてサラリと言い放った。
二人の目が点になり、少しの間のあと凄く驚いた顔をする。
「「ええぇぇぇ!?」」
二人の声量に、周りの人たちが一斉にこっちを向いたのは仕方がないと思う。
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