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優しさで溢れる

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 ある日の日曜日の駅前広場。
 目の前で茉莉ちゃんがすっごくにこにこしてて、その隣にいる叶くんはちょっとだけ緊張してるから、僕は大丈夫なのかなって少し心配になってしまった。
 どうしてこんな状況になってるのかと言えば、少し前に茉莉ちゃんに紹介とダブルデートの話をしたら二つ返事でオーケーしてくれて、改めて鷹臣さんの都合のいい日を聞いて場を設けたのが今日だったんだけど、せっかくだからそのままデートに行こうって言われたんだよね。
 だから〝ダブルデート出来たらいいな〟って思った日から半月も経たずな叶って若干驚いてた。
 でも楽しみではあるから、とりあえず茉莉ちゃんの紹介をしようと思って鷹臣さんを見上げる。

「じゃあ改めて。僕の友達で、叶くんの彼女でもある茉莉ちゃんです」
広瀬 茉莉ひろせ まつりです、宜しくお願いします」
「宝条鷹臣です。遥斗と仲良くしてくれてありがとう」
「お父さんみたいな事言ってる⋯」

 確かに、言葉だけ聞けばお父さんみたいだ。
 叶くんの呟きに苦笑してたら、鷹臣さんが僕の肩を抱き近くにあるコーヒーショップを指差した。

「車に乗る前に何か買って行こうか」
「僕、行って来ますよ」
「一人は危ないから駄目。宮代くんと広瀬くんは何がいいかな」


 コーヒーショップに行くだけなのに危ないって、鷹臣さんは僕を有り得ないくらい鈍臭いと思ってるのかな。もしかして、良く抱き上げられるのって本当にそう思ってるから?
 確かに躓いたりぶつかったりはしょっちゅうだけど、そこまで心配されるほどじゃないと思うんだけどな。

「遥斗、行くよ」
「あ、はい」

 悶々としてると、呼ばれて手を引かれコーヒーショップへと連れて行かれる。
 そういえばバイト先は喫茶店だけど、コーヒーショップに入るのは初めてだ。物珍しくて列に並びつつキョロキョロしてたら肩を叩かれ天井を示された。

「どれがいい?」
「えっと⋯」

 顔を上げるとメニューがあったんだけど、何か、似たような名前の飲み物があるから混乱する。

「⋯ミルクティーで」
「トッピングとかはいい?」
「良く分からないので大丈夫です」

 トッピングって何だろう。
 頭の中をハテナマークでいっぱいにしながらも列が進んでレジに立ったら、お姉さんが鷹臣さんを見て顔を赤くしわたわたし始めた。
 そうだよね、こんなイケメンが来たらそうなるよね。
 だけど鷹臣さんは気付いていないのか気にしていないのか、僕に食べ物はいらないかとか聞きながら注文していく。
 飲み物だけで良かったから首を振って答え、どうにか商品を受け取るとまた手を引かれてお店から出た。
 叶くんと茉莉ちゃんと合流し、鷹臣さんの車が停まっている駐車場に移動して乗り込みデート先に向かう。運転はもちろん鷹臣さんで、助手席が僕、後部座席には二人が座ってるんだけど、茉莉ちゃんのおかげで車内は賑やかだ。

「あの、質問いいですか?」
「どうぞ」
「遥斗くんのどこを好きになったんですか?」
「ま、茉莉ちゃん⋯っ」

 何を聞いてるんだと慌てて後部座席を振り返るけど、にこっと笑って前を向くよう人差し指で示される。仕方なく顔を戻したけど、そういう話を友達に聞かれるのは慣れてないから恥ずかしい。
 そもそも僕、人を好きになったのも恋人が出来たのも初めてなのに。

「最初は、苦手な事でも一生懸命に頑張るところに惹かれてね。見ているうちにどんどん好きになって、今ではもう可愛くて仕方ないんだよ。どうしようもないくらい遥斗に溺れてる」
「わーぉ」
「熱烈だな」
「⋯⋯⋯」

 マズい、これは僕の方がダメな話だ。
 熱すぎて、指摘されなくても分かるくらい顔が赤くなってる気がする。
 茉莉ちゃんは、予想していた以上の答えが貰えて満足なのか聞こえてくる声が凄く弾んでて、呆気に取られている叶くんとは対照的だ。
 それよりも、どうして鷹臣さんはそんなにスラスラ言えるんだろう。

「あらま、遥斗くん真っ赤。ごめんね、恥ずかしかったかな。ちょっと姉心が湧いちゃって⋯」
「だ、大丈夫⋯」
「こういう、初心なところも可愛いんだ」
「デレデレですね」
「デレデレだよ」
「⋯うぅ⋯もうやめて下さい⋯」

 変なところで意気投合する二人に居た堪れなくて、両手で顔を覆って俯いたら頭が撫でられた。手の大きさ的に鷹臣さんだろうけど、当分はこの体勢から動けないと思う。
 何せ火が出そうなくらい全身が熱くて、車内は涼しいのに汗が滲んできたんだから。

「ところで、俺は君たちのお眼鏡には適ったのかな」
「⋯?」
「別に本気で疑ってた訳じゃないんですよ。遥斗くんの顔見たら、ちゃんと幸せなんだって分かるし。本当に純粋に気になっただけなんです」
「まぁ、俺らにとって遥斗は大事な友達だから⋯念には念をって感じで」
「つまり?」
「つまり、宝条さんなら安心して遥斗くんを任せられるって事です!」
「茉莉ちゃん⋯叶くん⋯」

 そんなに僕の事を思って考えてくれてたんだ。
 二人の優しさと温かさで胸がぎゅうってなって、さっきまであんなに恥ずかしかったのに全部吹っ飛んでいった。
 僕も二人の事ずっとずっと大事にしたい。二人は友達だってこれからも胸を張って言えるように、二人にも僕と友達で良かったって思って貰えるように頑張ろう。
 そう決めた僕は、両手で頬を軽く叩いて気合いを入れた。
 三人ともびっくりしてたけど、これは自分で頑張らなきゃいけない事だから内緒だ。
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