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一生大切な友達

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 鷹臣さんに甘やかされるようになって数日。
 少しずつ暑くなってきて、日中でも汗ばむようになってきた今日この頃、僕は別の事で頭を悩ませていた。

「ねぇ、茅ヶ崎くん。いつも迎えにくる人ってお兄さん?」
「すっごいイケメンだよね」
「ってか、私あの人見た事あるんだけどモデルだったりする?」
「名前はなんて言うの?」
「良かったら紹介して欲しいなぁ」

 週中の水曜日はバイトがない日なんだけど、鷹臣さんが僕を一人で帰したくないからって会社を抜けて迎えに来てくれるようになった。何回も「大変だからいいです」って断るもののダメの一点張りで、本当の恋人になってからの過保護が加速してる気がする。
 でもそれはそれで嬉しいからいいんだけど、そうして大学の前で待つ鷹臣さんの姿が学内で有名になってしまい、今まで関わりのなかった女の子たちが鷹臣さんについて声をかけてくるようになった。
 あの容姿だから気持ちは分かるとはいえ、あの人は僕の恋人だし女の子たちとは初対面だから上手く話せなくて⋯困惑しているうちに何コイツみたいな顔をして去って行く。
 でも中には執拗い人もいて、僕は本当に困ってた。

「お願い、連絡先だけでも教えて」
「か、勝手にそんな事出来ないよ⋯」
「えー、大丈夫だって。ね?」

 明らかに鷹臣さんにアプローチするって分かってて教えたくないし、鷹臣さんだってさすがに怒る。
 でもこの子は引く気がないのかグイグイ来るから、どうしたら諦めてくれるか分からなくて困惑してると目の前に腕が差し込まれて驚いた。

「こーら、無茶言わないの」
「何よ、茉莉」
「人の連絡先を許可もなく教えられないのは当たり前でしょ?」
「別にいいじゃない。ケチ」
「良くないよ、もう」

 茉莉ちゃんが間に入り、僕の代わりに少しキツめに言ってくれたおかげでさっきの子は立ち去ってくれたんだけど⋯女の子に庇われるなんて情けないなぁ。
 しゅんとしてる僕の隣に腰を下ろした茉莉ちゃんは、苦笑しながら頬杖をつく。

「毎日大変だね」
「鷹臣さん、魅力的だから」
「そういえば、叶くんが興奮して電話掛けてきたよ」
「え、そうなの?」
「〝画面で見るより全然イケメン。しかも背が高かった〟って」
「やっぱり高いよね。何センチなんだろう」

 あまり講義が被らない叶くんとは帰りが重なる事はほとんどないんだけど、ある日たまたま帰る時間が同じで門のところまで一緒に行った時、鷹臣さんに紹介したんだよね。
 叶くん、放心状態だったなぁ。
 平均が分からないから何とも言えないけど、やっぱり叶くんから見ても高いんだと思ってたら、茉莉ちゃんが柔らかく微笑んで僕の頭を撫でてきた。

「?」
「私の事も、今度紹介してくれると嬉しいな」
「もちろん。絶対する」

 叶くんも茉莉ちゃんも、僕にとっては凄く大事な友達だ。叶うなら一生付き合っていきたいと思えるくらい大好きな二人。
 きっと鷹臣さんも僕と同じように思ってくれるよね。
 もしかしたら、鷹臣さんも二人と友達になるかもしれないし。
 そうしたら四人で遊びに行けたりするのかな。何だっけ、二組の恋人同士が一緒に出掛けるのって⋯⋯そうだ、ダブルデートだ。それが出来るかもって考えたらワクワクしてきた。
 出来たらだけど、鷹臣さんに提案してみようかな。



 バイトが終わり、迎えに来てくれた鷹臣さんと一緒に帰宅して鼻歌混じりに自分の部屋で荷物を片付けていたら、不意にクスリと笑い声が聞こえて後ろから抱き締められた。

「ずいぶんと楽しそうだけど、何かいい事でもあった?」
「えっと、いい事というか⋯鷹臣さんに聞いてみたい事があって」
「聞いてみたい事?」

 髪に頬擦りされドキドキしながらも腕の中で振り返り、顔を上げたらすぐに額に薄い唇が触れてくる。
 まだジャケットを着てるからシワにならない程度に摘んだらその手を取られて背中に回された。反射的に引っ込めそうになったけど、思い切って身を寄せれば鷹臣さんの腕の力が強くなる。

「それで、何が聞きたいのかな?」
「こ、このまま、ですか?」
「なら抱っこにする?」
「いえ、このままで大丈夫です」

 せめてソファにでも座ってと思ってたら違う提案をされていしまい、慌てて首を振ると笑いながら「残念」と言われてしまった。鷹臣さん、たまにだけどこうして僕の反応を見て楽しんでる気がする。
 笑ってくれるならいいけどと思いつつ、僕は大学で思った事を話し始めた。

「あの、以前に僕の友達を紹介したじゃないですか」
「確か⋯宮代叶くん、だったかな」
「はい。あの時は傍にはいなかったんですけど、叶くんには彼女さんがいてその子も僕の友達なんです。だからぜひ、鷹臣さんに紹介したいなって思ってて」
「それは嬉しいな」
「それで、もし叶くんやその子と鷹臣さんが仲良くなったら⋯えっと、だ、ダブルデートが⋯出来るんじゃないかなって⋯」

 何だか言ってて恥ずかしくなってきた。
 話自体は恥ずかしがるような内容じゃないんだけど、意気込み過ぎてるかなとか、もし鷹臣さんが嫌だったら一人で盛り上がってる事が恥ずかしいなって。
 そもそもこの話。叶くんや茉莉ちゃんにだってしてないのに。

「⋯⋯し、してくれます、か⋯?」

 尻すぼみになりながら視線だけで見上げて問い掛けると、目を細めた鷹臣さんの手が顎に触れ、上向かされて唇が塞がれた。
 突然のキスに困惑してたら舌が入ってきて口の中をまさぐられる。
 散々舐められて息苦しくなってきた頃に離れたけど、どうして今そんなキスをされたのか分からない僕はただ目を瞬くしか出来ない。

「⋯っ⋯ぇ⋯?」
「そんな可愛いお願い、俺が断ると思った?」
「⋯嫌だったらどうしよう⋯とは思いました⋯」

 鷹臣さんは優しいけど、他の人と一緒っていうのは嫌かなと思ってたからそう答えたら、ふっと笑って頬に口付けられる。

「遥斗がしたい事を嫌だなんて思わないよ。⋯⋯ああでも、一つだけ駄目な事はあるかな」
「何ですか?」
「俺と別れる事」

 確かに今までも肯定的だったけどと思ってたら、一度も頭にすら浮かんだ事のない話をされてギョッとした。
 僕が鷹臣さんに愛想を尽かされるならともかく、僕の方からなんて絶対にないのに。

「そんな事、言う訳ないじゃないですか⋯」
「良かった」

 少しだけむくれて返すとそれにふわりと笑った鷹臣さんは僕の頭を撫で、スマホを取り出して何かを打ち込み始める。しばらく操作してから戻し、おもむろに僕を抱き上げるとリビングへと歩き出した。

「とりあえず、夕飯でも食べながら話そうか」
「は、はい」

 結局抱っこされてしまいリビングのソファで降ろされた僕は、ジャケットを脱いで黒いエプロンを身に着けキッチンに立つ姿を見つつスマホで叶くんにメッセージを送った。
 明日、茉莉ちゃんとも話せるといいな。
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