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甘くてあまい

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 何だかいい匂いがしてあったかくて、僕はふっと目を覚ました。ぼんやりと滲む目を数回瞬いたあと視界に入ったものにギョッとする。
 だって目の前に、鷹臣さんの綺麗な寝顔があるんだもん。
 しかも腕枕されてるし、腰には鷹臣さんの腕が乗ってる。

「⋯⋯!」

 危うく大きな声を出しそうになったから慌てて口を両手で押さえ、気持ちを落ち着かせてから現状を整理してみる事にした。
 確か昨日は⋯と思い出したところで一気に顔が赤くなる。

(そうだ⋯⋯昨日、鷹臣さんと⋯)

 胸も前も後ろも触られて、あられもない声を上げて身体を震わせて⋯今思い出しても恥ずかしくて堪らないけど、でも確かに気持ちいいって思った。自分でするのはあんなに怖かったのに、鷹臣さんの指は全然大丈夫だったし。
 これが好きな人効果なんだろうか。

(それにしても⋯鷹臣さんの部屋、初めて見た)

 一緒に暮らし始めて半年。基本的には自分の部屋とリビングにしかいない僕は、トイレとお風呂以外他にどんな部屋があるのか今だに知らないんだよね。
 案内してあげようかって言われたけど、きっと行かないだろうからって遠慮したからこの家の事ほとんど分からない。二人で住んでも広すぎて、ここに一人で住んでた鷹臣さんの気持ちを考えると少し切なくなる。
 僕だったら寂しくて堪らないだろうな。

(僕は少しでも、鷹臣さんの役に立ててるかな⋯)

 家事なんて全然と言っていいほど出来ないし、一応変わらずバイトはしてるけど、鷹臣さんは食費さえ受け取ってくれないから養って貰ってるみたいになってる。自分の為に使っていいよって言われたけど、使い道がないからどうしようか悩んでるんだよね。
 せめて鷹臣さんに何かプレゼントをって思ったけど、社長さんだからいい物ばかり持ってるだろうなって考えたら買うのも憚られて⋯今だに選べていない。
 付き合ったばかりの頃は知らなかったけど、冬には鷹臣さんの誕生日が来るからそれまでには考えておかないと。

「⋯⋯綺麗な寝顔だなぁ⋯」

 一緒に寝ている状態に少しだけ慣れて、いつもは僕よりも早起きな鷹臣さんの寝顔をじっと眺める。
 睫毛も長くて鼻筋もすっと通ってて、唇も薄めだけど荒れてなくて意外に柔らかいんだよね⋯って、鷹臣さんとのキス、思い出しちゃった。

「⋯顔洗ってこよう⋯」

 顔だけじゃなく全身が熱くなってきたから起きるついでにと寝返りを打って反対を向き、鷹臣さんの腕を外すように寝転んだままベッドの端までずれていってたら、不意にお腹に手の平が当てられ進んだ分を戻された。

「!?」
「⋯どこに行くつもりなのかな」

 寝起きの掠れた声に耳元で囁かれビクリと首を竦めると、今度は肩を引かれて仰向けにされ唇が塞がれた。すぐに舌が入ってきて、口の中を舐め回される。

「ん、んぅ⋯っ」
「⋯⋯おはよう、遥斗」
「⋯お、はよう⋯ございます⋯」

 朝から濃厚なキスをされてへたりながら返せば、鷹臣さんはクスリと笑ってまた寝転び僕の頬を人差し指でつついてきた。
 火照りを冷ましに行きたかったのに、結局もっと熱くなっただけだ。

「起きてすぐ遥斗の顔が見られるなんて、幸せだな」
「寝にくくなかったですか?    腕とか⋯」
「全然。むしろ良く眠れたよ」
「なら良かったです」

 確かに熟睡してたと鷹臣さんの寝顔を思い浮かべて小さく笑うと、鷹臣さんが頭を撫でてから枕にしていた腕を抜いて身体を起こし欠伸を零す。追って起き上がった瞬間またキスされて、目を瞬いたら額が合わせられた。

「お腹は空いてる?」
「そんなには⋯」
「ならもう少しゆっくりしようか」
「はい」

 大きくて骨ばった手が僕の頬に触れて擽ってくる。
 躊躇いがちに鷹臣さんの服を摘んだら目を細めてじっと見つめられたから、少しの間のあと唇を引き結び思い切って抱き着いたら強めに抱き返された。

「今日はどうしようか。昨日言ったように、イベント会場にでも行く?」
「⋯⋯お家でゆっくりするのはダメですか?」
「そんな事ないよ。ただ、先週も先々週も忙しくてデート出来なかったから」
「だからです。今日はゆっくり休んで下さい」

 鷹臣さんは休みが来るたびこうして聞いてくれるんだけど、二週連続で日曜日も出勤していてさすがに疲れが見えてる。それに鷹臣さんが仕事の日に僕が家にいると、絶対に一度は様子を見に帰って来てくれるんだよね。
 何度もテレビ電話しましょうとか、大丈夫ですよって言っても「直接顔が見たいから気にしないで」って答えられて、数分程度だけど一緒にいてくれる。
 正直、それ自体は嬉しくて堪らない。ただ、鷹臣さんの負担になってないければいいなとは思うけど。

「あ、そうだ。今日は僕がお家の事をします。そうすれば鷹臣さん、たくさんお休み出来ますよね」

 下手ではあるけど、洗濯も掃除も鷹臣さんがしてるのを見てるし、料理はレシピを見てゆっくり分量を計れば味が濃いとか薄いとかなくなるはず。
 そう意気込んで見上げたら、殊更ににっこり笑った鷹臣さんは僕の頭を撫でるとおもむろに後ろに倒れ込み首を振った。

「それは駄目」
「え⋯な、何でですか?」
、遥斗にしてあげたいからね」
「で、でも⋯僕も⋯」
「その気持ちは嬉しいよ。ただ、俺は君を甘やかしたいから」

 あ、甘やかしたいって⋯⋯そんな事しなくても毎日ずっと甘やかされてるのに。
 鷹臣さんは両手で僕の顎を挟むと数回頬に口付けてから唇を合わせてきた。

「⋯鷹臣さんは、僕を甘やかし過ぎだと思います⋯」
「まだまだ足りない。君はもっと、甘える事を覚えるべきだ」
「⋯甘える事⋯」

 具体的にはどういう事なんだろう。
 考えてみたけどピンともこなくて目を伏せて口をもごもごさせてたら、再び僕を乗せたまま起き上がった鷹臣さんがそのままベッドから降りて立ち上がる。だから必然的に僕は抱っこされる形になったんだけど、目線が高くて少し怖かった。

「た、鷹臣さ⋯っ」
「まずはもう少し慣れて貰わないとだね。今日はたっぷり甘やかしてあげるよ」
「や、あの、それは⋯」

 これ以上甘やかされたら本当の本気でダメになるのに、鷹臣さんはどうしてか楽しそうに部屋を出ると何とも涼しい顔で洗面所へ向かう。
 それからは宣言通り、家の中の移動は常に抱っこになり、食事も着替えも鷹臣さんの手ずからお世話されてしまった。
 僕、こんなだけど成人してるんだけどな⋯いくらなんでも、これには慣れそうにないよ。
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