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恋人のために

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 お風呂を上がってから寝るまでの時間は、僕と鷹臣さんが唯一同じソファに座ってまったり出来る時間だ。
 恋人になった今はもれなくいちゃいちゃタイムになってるけど。

「ん⋯っ、ふ⋯ぁ、ん⋯」

 最近のキスは舌を絡める事が当たり前になってて、でも僕は慣れてないから応えるのも下手でいつもいっぱいいっぱいになってる。
 しかもこのキス気持ち良くて、腰元が熱くなってもじもじしちゃうから鷹臣さんにバレないかひやひやだ。生理現象と言えばそれまでだけど、キスだけで反応してしまうなんてはしたないと思われたら恥ずかしすぎる。

「ん、ん⋯っ⋯⋯んん⋯!?」

 酸素が足りなくなってきたのか頭がクラクラしてきて、掴んでいた鷹臣さんの服を更に強く握って耐えてると、部屋着の裾から鷹臣さんの手が入ってきた。大きな手が肌を撫で背中を這い上がってゾクゾクする。

「⋯っ、た、かおみ、さ⋯」
「⋯⋯触るのは駄目?」
「ダメ、じゃない⋯けど⋯」
「恥ずかしい?」
「うぅ⋯⋯」

 頬から首筋に口付けられ身体が勝手に震える。
 こうやって触るのって⋯もしかしなくても鷹臣さんは僕と、その⋯したいって思ってくれてるって事だよね⋯?
 僕だって何も知らないほど子供じゃないし、ちゃんとしたやり方は分からないながらも理解はしてるけど⋯それは男女の場合だ。
 男同士はさすがに分からないし、僕もどうしたらいいのか分からない。
 そもそも男同士って出来るのかな。
 このままどこまでされるんだろうって思ってたけど、鷹臣さんは背中を撫でる以外はしなくて、ずっと首の付け根や広めの襟から見えてる肩にキスしてる。

「擽ったい⋯」
「嫌じゃないなら、たまにでいいからこうして触れさせて欲しい」
「⋯はい⋯」

 嫌なんて、そんな事あるはずないから小さく頷けばぎゅっと抱き締められ、顔を上げた鷹臣さんにまたキスされた。
 鷹臣さんが触りたいって言ってくれるの嬉しい。

(もし本当に鷹臣さんがこの先に進みたいって望んでくれるなら⋯)

 僕だって受け入れたいって思ってる。
 未知の世界だし、予想もつかないから怖いって気持ちはあるけど、鷹臣さんなら絶対ひどい事はしないって信じられるから。

「愛してるよ、遥斗」
「僕も⋯ん⋯っ」

 熱くてぬるぬるしてる舌が絡まり合い飲み切れなかった唾液が口の端を伝う。
 もう手に力が入らないほどくたくただし、キスが終わったらきっとまたヘロヘロになるんだろうけど、幸せで胸がいっぱいでずっとこのままでいたいなって思った。
 その為には、僕もちゃんと応えられるようにならないと。



 翌日の午前、大学のカフェテリア。

「あの、叶くん⋯相談してもいい?」
「うん? いいよ、どした?」
「あの、ね⋯その⋯⋯⋯お、男同士って、どうしたら出来ると思う⋯?」
「へ?」

 今日は茉莉ちゃんとは別の講義を取っている叶くんと他愛もない話をしていた僕は、隣にカップルが座った事に気付いてある事を思い出し、思い切ってそう問い掛けてみた。
 ぽかんとする叶くんに諸々の事情を説明しもう一度どうしたらいいのかと口にすれば、叶くんは少し考えたあとテーブルに頬杖をつく。

「まぁ宝条さんだって男だし、恋人とそういう事したいと思うのは当然だわな。別にそれは遥斗としても嫌とかではないんだろ?」
「⋯う、うん⋯でも恥ずかしくて⋯」

 今更になって普通は友達にこういう事は相談しないのかもって思ったけど、叶くんは茶化す事も笑う事もなくて真剣に答えてくれてる。
 僕としても心配はあれどもちろん嫌じゃないから頷けば、クスリと笑った叶くんが少し考えたあと人差し指を立ててきた。

「遥斗はそういうのとは無縁そうだもんな。でも、さすがに俺も男同士は分かんないし⋯⋯⋯あ、そうだ。こういう時こそネットじゃないか?」
「ネット?」
「今は何でも調べられるからな。どうやるのかくらいはありそう」
「⋯そっか、調べれば良かったんだ。ありがとう、叶くん」
「内容が内容だし、なるべく一人で調べた方がいいかもな」
「うん」

 あんまりスマホで調べ物をする事がなかったから思い付かなかった。
 でもこれでいろいろ知れれば鷹臣さんばかりにして貰わなくて良くなるかもしれないし、僕の勉強にもなるからいい事尽くめかも。
 さっそく夜調べる事に決めてカバンを手に立ち上がった僕は、茉莉ちゃんを待つらしい叶くんに手を振ってカフェテリアをあとにした。


 バイトを終えて鷹臣さんと帰宅し、いつものようにドキドキする時間を過ごして部屋へと戻りベッドへと入るなり念の為頭まで布団に潜ってスマホを開く。どう調べようかと考え、とりあえず男同士と入れてみたら候補にキスとか恋愛とか出て来た。
 少し悩んで、〝やり方〟と追加してみるとぎょっとするような単語が飛び込んできたから思わず閉じてしまう。

(え⋯っと⋯)

 頭の中で思う事さえも恥ずかしすぎて若干テンパりつつももう一度開き、震える指でその文字をタップした僕は、読み進めていくうちに顔に熱が集まっていくのを感じながらも最後まで目を通し力尽きた。

(お、男同士ってお尻使うんだ⋯⋯そう、だよね⋯そこしかないもんね⋯)

 でも本当にこんなところで出来るの? しかも準備が凄く大変そうだし⋯ローションってなんだろう。ネットでも買えるみたいだけど、買っておくべき?

(⋯⋯それに⋯自分でも準備出来るって書いてあった⋯)

 何でもかんでも鷹臣さんに任せっぱなしなのも悪いし、自分で出来る事があるなら頑張ってみるべきだ。
 ただ、本当にこういう事をする相手が僕でいいのかなって不安はあるけど、もしそうなれた時、鷹臣さんの負担は少ない方が絶対いい。

(鷹臣さんの為だもんね⋯頑張ろう)

 新しい事に挑戦するのはいつだって緊張するけど、好きな人の為ならきっといくらだって力が湧いてくる。
 だけど今はもう頭がパンパンだからまた明日もっとちゃんと勉強する事にして、アラームをセットしてスマホを閉じた僕はペンギンを抱き寄せ目を閉じるのだった。
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