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いざクッキング
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鷹臣さんはびっくりするほど優しくて、真っ直ぐに気持ちを向けてくれる。
愛情表現がストレートって言うのかな。聞いてるこっちが恥ずかしくなるような言葉も普通に言ってくれて、不安とかそういう気持ちなんてなくなるくらい想われてるって信じさせてくれるんだ。
でも、僕はそれに、どれだけの好きを返せてるのかな。
大学が休みで、バイトも店長の用事でお休みになった平日の今日、僕はお昼ご飯を食べてからキッチンに立ち、スマホに表示されたレシピと睨めっこしていた。
「えっと⋯玉ねぎは薄切りで、じゃがいもと人参は乱切り⋯」
施設でもある程度は教えて貰ってたけど、どっちかと言えば料理は苦手の部類に入る。
一人暮らしの時はマスターが賄いを作ってくれたり、売れ残りのデザートや軽食を作って持たせてくれたりしてたからどうにかなってたものの、自分で用意しなきゃいけないって時は焼いたお肉を塩コショウとか焼肉のタレで味付けしてご飯に乗せるとかだったから、まともな料理なんてした事がなかった。
焼くだけでも焦がす事あったし。
だから鷹臣さんが作る、見た目も綺麗で味も美味しいご飯を凄いなって思ってた。
今日はせっかく家にいるんだし、いつも作ってくれる鷹臣さんの為に普段のお礼も兼ねて夕飯を用意しようってレシピを検索したんだ。
「お醤油はこれ⋯料理酒は⋯これ? 清酒? でいいのかな」
何か、どれもこれも高そうな調味料で気が引けるけど、使わないと作れないからいいよね? とりあえず、材料は全部揃ったはず。
それからまな板と包丁を用意していざ調理を始めたはいいものの⋯。
「皮剥く道具がない⋯包丁で出来るかな⋯小さい包丁の方がいいかも」
「いた⋯っ。もー⋯また切った⋯」
「お肉を炒めて⋯⋯ひぇっ。あ、油が跳ねる⋯怖い⋯」
「待って待って、焦げる!」
それはもう見事にテンパりまくりで手際も最悪で、鷹臣さんや料理上手な人が見たら頭を抱えてただろうなってくらいひどかった。
何とか完成したけど、野菜の大きさもバラバラでレシピの写真と全然違う。
「⋯しょっぱい」
レシピ通りには作ったのにどうしてか味が濃くて、ピカピカだったキッチンの惨状に思わず溜め息をついてしまった。
こんなのをお仕事で疲れて帰ってきた鷹臣さんに食べさせるわけにはいかない。
バレないように隠して、自分で食べてしまえばいいか。
「⋯ほんと、下手だなぁ⋯」
「そんな事ないよ。凄く美味しそう」
「!?」
冷めるまで待つかと呟きながら蓋を閉じようとした瞬間、頭の上から声が降ってきて蓋を持つ手が握られた。
顔を上げると仕事中のはずの鷹臣さんがいて、僕と目が合うなり微笑んでくれる。
「た、鷹臣さん⋯」
「もしかして、夕飯を作ってくれてた?」
「あ⋯えっと⋯はい⋯こんな事になってしまいましたが⋯」
「遥斗の手料理が食べられるなんて夢みたいだよ」
「でもこれは⋯」
失敗してるしと俯いたら、蓋が取り上げられて鍋の横に置かれ、代わりに両手が掬われ指先に口付けられた。包丁の使い方も下手だから何度か切っちゃって、いくつか絆創膏が貼られてる。
慌てて引こうとしたけどぎゅっと握られてしまった。
「こんなに怪我してまで頑張って作ってくれたんだから、どんな料理よりも美味しいに決まってる。この料理には、遥斗の愛情もたくさん入っている。俺にとっては何よりのご馳走だよ」
味見してないのに美味しそうって、ご馳走だって言ってくれるんだ。
こんなに見た目も悪くて味の濃い料理なんて失敗以外の何のでもないのに。
それに洗い物の溜まったシンクを見ても、ぐちゃぐちゃになったキッチンを見ても怒らなくて、むしろ頑張ったって褒めてくれるなんて。
「夕飯に出してくれるね?」
「⋯⋯はい」
「ありがとう」
それは僕のセリフなのに、嬉しくて首を振る事しか出来なかった。
優しすぎるよ、鷹臣さん。
「あの、それよりどうしてお家に⋯」
「遥斗が一人だから心配になって。そうしたらこんなサプライズが見られて、帰宅した甲斐があったよ」
「⋯僕の為に⋯?」
「遥斗は寂しくても口にしないだろう? 俺としてはなるべくそんな気持ちにはさせたくないからね」
確かにこの広い家に一人は寂しいって思う時もあるけど、今はもう鷹臣さんは絶対帰って来てくれるって分かってるし、一人暮らししてた時よりは全然マシになってるのに。
(忙しいはずなのに⋯いつも僕の事考えてくれてる)
大企業の社長さんで、たくさんの社員さんの上にいる一番偉い人で、本当なら僕とは違う世界にいる人なのにこうして出会えて恋人になれて⋯こんなにも大切にしてくれる。
胸がぎゅーってなって、どうしても触れたくて手を伸ばして鷹臣さんの頬に触れたら目を瞬いたけど、すぐに微笑んで僕の手に自分の手を重ねると顔を近付けて唇を重ねてくれた。
数回啄まれて離れたけど、いつもみたいにして欲しかったな。
「すまない、そろそろ戻らないと⋯」
「ありがとうございます、鷹臣さん。嬉しかったです」
「ん? 何が?」
「いろいろです」
一人でいる僕を気にしてくれた事も、こんな下手な料理を美味しそうって言ってくれた事も、他にもたくさん言い足りないくらいあるけど、それは少しずつ行動で返していけたらなって思ってる。
それでも不思議そうにしていた鷹臣さんだったけど、本当に戻らないといけないらしく少しだけ慌ただしく会社へと戻って行った。
こうして帰って来て貰うのも申し訳ないし、今度からテレビ電話を提案してみてもいいかもしれない。
夜、帰宅した鷹臣さんにジャケットを脱ぐなり「食べよう」と言われた時にはちょっと面食らったものの、美味しいって全部食べてくれてまた作る約束もして、何だかほんの少しだけど自分に自信が持てた気がする。
頑張って鷹臣さんみたいに綺麗で美味しい料理を作れるようになりたいなって思った一日だった。
愛情表現がストレートって言うのかな。聞いてるこっちが恥ずかしくなるような言葉も普通に言ってくれて、不安とかそういう気持ちなんてなくなるくらい想われてるって信じさせてくれるんだ。
でも、僕はそれに、どれだけの好きを返せてるのかな。
大学が休みで、バイトも店長の用事でお休みになった平日の今日、僕はお昼ご飯を食べてからキッチンに立ち、スマホに表示されたレシピと睨めっこしていた。
「えっと⋯玉ねぎは薄切りで、じゃがいもと人参は乱切り⋯」
施設でもある程度は教えて貰ってたけど、どっちかと言えば料理は苦手の部類に入る。
一人暮らしの時はマスターが賄いを作ってくれたり、売れ残りのデザートや軽食を作って持たせてくれたりしてたからどうにかなってたものの、自分で用意しなきゃいけないって時は焼いたお肉を塩コショウとか焼肉のタレで味付けしてご飯に乗せるとかだったから、まともな料理なんてした事がなかった。
焼くだけでも焦がす事あったし。
だから鷹臣さんが作る、見た目も綺麗で味も美味しいご飯を凄いなって思ってた。
今日はせっかく家にいるんだし、いつも作ってくれる鷹臣さんの為に普段のお礼も兼ねて夕飯を用意しようってレシピを検索したんだ。
「お醤油はこれ⋯料理酒は⋯これ? 清酒? でいいのかな」
何か、どれもこれも高そうな調味料で気が引けるけど、使わないと作れないからいいよね? とりあえず、材料は全部揃ったはず。
それからまな板と包丁を用意していざ調理を始めたはいいものの⋯。
「皮剥く道具がない⋯包丁で出来るかな⋯小さい包丁の方がいいかも」
「いた⋯っ。もー⋯また切った⋯」
「お肉を炒めて⋯⋯ひぇっ。あ、油が跳ねる⋯怖い⋯」
「待って待って、焦げる!」
それはもう見事にテンパりまくりで手際も最悪で、鷹臣さんや料理上手な人が見たら頭を抱えてただろうなってくらいひどかった。
何とか完成したけど、野菜の大きさもバラバラでレシピの写真と全然違う。
「⋯しょっぱい」
レシピ通りには作ったのにどうしてか味が濃くて、ピカピカだったキッチンの惨状に思わず溜め息をついてしまった。
こんなのをお仕事で疲れて帰ってきた鷹臣さんに食べさせるわけにはいかない。
バレないように隠して、自分で食べてしまえばいいか。
「⋯ほんと、下手だなぁ⋯」
「そんな事ないよ。凄く美味しそう」
「!?」
冷めるまで待つかと呟きながら蓋を閉じようとした瞬間、頭の上から声が降ってきて蓋を持つ手が握られた。
顔を上げると仕事中のはずの鷹臣さんがいて、僕と目が合うなり微笑んでくれる。
「た、鷹臣さん⋯」
「もしかして、夕飯を作ってくれてた?」
「あ⋯えっと⋯はい⋯こんな事になってしまいましたが⋯」
「遥斗の手料理が食べられるなんて夢みたいだよ」
「でもこれは⋯」
失敗してるしと俯いたら、蓋が取り上げられて鍋の横に置かれ、代わりに両手が掬われ指先に口付けられた。包丁の使い方も下手だから何度か切っちゃって、いくつか絆創膏が貼られてる。
慌てて引こうとしたけどぎゅっと握られてしまった。
「こんなに怪我してまで頑張って作ってくれたんだから、どんな料理よりも美味しいに決まってる。この料理には、遥斗の愛情もたくさん入っている。俺にとっては何よりのご馳走だよ」
味見してないのに美味しそうって、ご馳走だって言ってくれるんだ。
こんなに見た目も悪くて味の濃い料理なんて失敗以外の何のでもないのに。
それに洗い物の溜まったシンクを見ても、ぐちゃぐちゃになったキッチンを見ても怒らなくて、むしろ頑張ったって褒めてくれるなんて。
「夕飯に出してくれるね?」
「⋯⋯はい」
「ありがとう」
それは僕のセリフなのに、嬉しくて首を振る事しか出来なかった。
優しすぎるよ、鷹臣さん。
「あの、それよりどうしてお家に⋯」
「遥斗が一人だから心配になって。そうしたらこんなサプライズが見られて、帰宅した甲斐があったよ」
「⋯僕の為に⋯?」
「遥斗は寂しくても口にしないだろう? 俺としてはなるべくそんな気持ちにはさせたくないからね」
確かにこの広い家に一人は寂しいって思う時もあるけど、今はもう鷹臣さんは絶対帰って来てくれるって分かってるし、一人暮らししてた時よりは全然マシになってるのに。
(忙しいはずなのに⋯いつも僕の事考えてくれてる)
大企業の社長さんで、たくさんの社員さんの上にいる一番偉い人で、本当なら僕とは違う世界にいる人なのにこうして出会えて恋人になれて⋯こんなにも大切にしてくれる。
胸がぎゅーってなって、どうしても触れたくて手を伸ばして鷹臣さんの頬に触れたら目を瞬いたけど、すぐに微笑んで僕の手に自分の手を重ねると顔を近付けて唇を重ねてくれた。
数回啄まれて離れたけど、いつもみたいにして欲しかったな。
「すまない、そろそろ戻らないと⋯」
「ありがとうございます、鷹臣さん。嬉しかったです」
「ん? 何が?」
「いろいろです」
一人でいる僕を気にしてくれた事も、こんな下手な料理を美味しそうって言ってくれた事も、他にもたくさん言い足りないくらいあるけど、それは少しずつ行動で返していけたらなって思ってる。
それでも不思議そうにしていた鷹臣さんだったけど、本当に戻らないといけないらしく少しだけ慌ただしく会社へと戻って行った。
こうして帰って来て貰うのも申し訳ないし、今度からテレビ電話を提案してみてもいいかもしれない。
夜、帰宅した鷹臣さんにジャケットを脱ぐなり「食べよう」と言われた時にはちょっと面食らったものの、美味しいって全部食べてくれてまた作る約束もして、何だかほんの少しだけど自分に自信が持てた気がする。
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