25 / 46
頭の中は君のことばかり(鷹臣視点)
しおりを挟む
季節が春を迎え、至るところで開花した桜を楽しめるようになった頃、遥斗は無事大学三年生になり将来に向けていろいろ考え始めていた。
就職が一番丸いと思っているようだが俺としてはなるべく家にいて欲しくて、もっと言うなら今のバイトも辞めて俺が遥斗の全てを面倒見たいと思っているが、頑張り屋の彼の事を考えるとそんな自分勝手は言えない。
俺は遥斗の自由を奪いたい訳ではないからな。
結果として遥斗がどんな道を選ぶのかは分からないけど、彼の為になるなら応援するし力になるつもりではいるのだし。
いつだって俺は、遥斗に一番近い存在でいたいから。
付き合って三ヶ月。
最近の遥斗が殊更に可愛くて、俺は日々自分の欲望と戦っていた。
恥ずかしがり屋の遥斗は現在自分から俺に触れようと頑張ってくれているらしく、ふと見た時に俺に手を伸ばしている姿を良く見かけるのだ。
ただ出来ても服を握る事くらいで、微かに引かれて振り向くと顔を真っ赤にしていたりしてそれがまた可愛くて堪らない。
もともと人との接触が苦手な遥斗はそれこそ顔を見て話せるようになるまでにも時間が必要で、自分から手を伸ばすなんてなかなかに難しいはずだ。それでも頑張ろうと行動してくれる気持ちだけで充分嬉しいのに本人は納得してない。
人一倍頑張るという言葉が遥斗にとって呪縛のようになってなければいいんだが。
「俺としては、もっと遥斗を甘やかしたいんだけどな」
「社長は淡泊な方だと思ってたのですが、本気で好きな人が出来るとどろっどろな溺愛体質になるんですね」
「どろっどろ⋯」
表現としてそれはどうなんだ。
だが確かに、遥斗に対してだけは今まで抱いた事のない気持ちばかりが湧いてきて俺自身も驚いている。
「社内一の愛妻家である原田さんもびっくりの寵愛ぶりです」
「遥斗が可愛いんだから仕方ない」
「それは分かりますけど」
「君は分からなくていい」
「うわぁ⋯独占欲まで発揮してるんですか」
やだやだと言いながら手にしていた資料を戻しに行く町田くんを見送り、スマホを取り出して写真フォルダを表示させる。
水族館デート以降もこっそり写真を撮っていて、最新のものは今朝撮った寝顔だ。
遥斗は朝が弱いのか起きるまでに少し時間が掛かるようで、自主的に起きる事もあるけど一週間の半分以上は俺が起こしていた。
可愛らしい寝顔が見られる事は幸せではあるが、どうせなら隣で見たいしあわよくば同じベッドで眠りたい。
(眠るだけならしてくれるかもしれないが⋯隣にいれば触れたくなるから難しいな⋯)
ただでさえ傍にいるだけで触れたくて堪らないのに、同じベッドに入ったらすぐにでも組み敷いてしまうだろう。今だってどうにかキスだけで留めているんだから、そこは褒められてもいいとは思うんだが。
「社長⋯警察のお世話になるような事だけはないようにして下さいね」
画面に写る遥斗の寝顔をじっと見ていたら、ひょいっと覗き込んできた町田くんが顔を引き攣らせてそんな事を言ってきた。
急いで消してスマホを伏せて置き頬杖をつく。
「遥斗なら恥ずかしがりながらも許してくれる」
「いい年した大人が五つも下の子に甘えないで下さいよ」
「恋人に甘えられるのは彼氏の特権だよ」
「せいぜい捨てられないように頑張って下さい」
本当に遠慮もしないで物を言ってくる人だ。
肩を竦め仕事をしようとパソコンを開くと、町田くんは秘書モードに切り替え待っていた茶封筒を差し出してきた。
受け取り、中身を確認すると遥斗のストーカーに関する書類のようで、すでに特定し依頼した弁護士に内容証明も送って貰ったらしい。我が社の顧問弁護士からの紹介だから任せたがなかなか俊敏に動いてくれる。
「遥斗さんのポストに入っていた物は全て弁護士に預けております。⋯ほんと、私が先に入って良かったですよ。玄関ポスト、エグい物入ってました」
「エグい物?」
「使用済みのコンドームです。おかげで足が付けられましたが、さすがに遥斗さんの写真が汚れていた時は吐き気を催しましたね」
「⋯⋯⋯ソイツは殴ってもいいんだったか」
あんなにも純粋で穢れを知らない遥斗に何て物を⋯。腸が煮えくり返りそうなほどの怒りを抑えながら呟いたら、茶封筒を引き上げた町田くんがにっこりと首を振った。
「お気持ちは分かりますし私としてもぜひぶん殴って頂きたいのですが、下手をしたら暴行罪になりますので我慢して下さい」
「腹立たしいな。⋯ん?」
「どうされました?」
普段から温厚と言われている私は、基本的には誰かに対して腹を立てる事は滅多にない。理不尽な事をされれば怒りはするが、それでも人を殴りたいと思ったのは初めてだ。
怒髪天を衝くとはまさにこの事かと歯噛みしていると伏せていたスマホが震え、首を傾げる町田くんに「いや」とだけ返し確認する。大学にいるはずの遥斗からのメッセージだったのだが、その内容は俺を慌てさせるには充分だった。
『お仕事中にすみません。体調を崩したので今日のバイトはお休みを頂きました。もうお家にいるのでお迎えも大丈夫です。お仕事頑張って下さい』
遥斗にとってバイトは生きる理由と意味であり、あの喫茶店は第二の家とも呼べる存在だ。
少し前、迎えに行ったら顔色の悪い遥斗がいて、体調が悪いなら休んだ方がいいと言ったら「楽しくて仕方ないんです」と答えたくらいバイトに対して大きな思いのある遥斗が休みを貰うだなんて、これは由々しき事態だった。
「社長?」
「遥斗が体調不良だ、すぐに俺の家に医者を手配してくれ」
「あ、え⋯わ、分かりました」
「少しだけ様子を見てくる」
「十四時から商談がありますので、それまでにはお戻り下さい」
「分かった」
ほんの僅かでも遥斗の容態を見て知っておかないと落ち着かない。
時間を確認し立ち上がった俺は、町田くんに見送られながら社長室をあとにした。
帰りにいろいろ買っていかなければ。
就職が一番丸いと思っているようだが俺としてはなるべく家にいて欲しくて、もっと言うなら今のバイトも辞めて俺が遥斗の全てを面倒見たいと思っているが、頑張り屋の彼の事を考えるとそんな自分勝手は言えない。
俺は遥斗の自由を奪いたい訳ではないからな。
結果として遥斗がどんな道を選ぶのかは分からないけど、彼の為になるなら応援するし力になるつもりではいるのだし。
いつだって俺は、遥斗に一番近い存在でいたいから。
付き合って三ヶ月。
最近の遥斗が殊更に可愛くて、俺は日々自分の欲望と戦っていた。
恥ずかしがり屋の遥斗は現在自分から俺に触れようと頑張ってくれているらしく、ふと見た時に俺に手を伸ばしている姿を良く見かけるのだ。
ただ出来ても服を握る事くらいで、微かに引かれて振り向くと顔を真っ赤にしていたりしてそれがまた可愛くて堪らない。
もともと人との接触が苦手な遥斗はそれこそ顔を見て話せるようになるまでにも時間が必要で、自分から手を伸ばすなんてなかなかに難しいはずだ。それでも頑張ろうと行動してくれる気持ちだけで充分嬉しいのに本人は納得してない。
人一倍頑張るという言葉が遥斗にとって呪縛のようになってなければいいんだが。
「俺としては、もっと遥斗を甘やかしたいんだけどな」
「社長は淡泊な方だと思ってたのですが、本気で好きな人が出来るとどろっどろな溺愛体質になるんですね」
「どろっどろ⋯」
表現としてそれはどうなんだ。
だが確かに、遥斗に対してだけは今まで抱いた事のない気持ちばかりが湧いてきて俺自身も驚いている。
「社内一の愛妻家である原田さんもびっくりの寵愛ぶりです」
「遥斗が可愛いんだから仕方ない」
「それは分かりますけど」
「君は分からなくていい」
「うわぁ⋯独占欲まで発揮してるんですか」
やだやだと言いながら手にしていた資料を戻しに行く町田くんを見送り、スマホを取り出して写真フォルダを表示させる。
水族館デート以降もこっそり写真を撮っていて、最新のものは今朝撮った寝顔だ。
遥斗は朝が弱いのか起きるまでに少し時間が掛かるようで、自主的に起きる事もあるけど一週間の半分以上は俺が起こしていた。
可愛らしい寝顔が見られる事は幸せではあるが、どうせなら隣で見たいしあわよくば同じベッドで眠りたい。
(眠るだけならしてくれるかもしれないが⋯隣にいれば触れたくなるから難しいな⋯)
ただでさえ傍にいるだけで触れたくて堪らないのに、同じベッドに入ったらすぐにでも組み敷いてしまうだろう。今だってどうにかキスだけで留めているんだから、そこは褒められてもいいとは思うんだが。
「社長⋯警察のお世話になるような事だけはないようにして下さいね」
画面に写る遥斗の寝顔をじっと見ていたら、ひょいっと覗き込んできた町田くんが顔を引き攣らせてそんな事を言ってきた。
急いで消してスマホを伏せて置き頬杖をつく。
「遥斗なら恥ずかしがりながらも許してくれる」
「いい年した大人が五つも下の子に甘えないで下さいよ」
「恋人に甘えられるのは彼氏の特権だよ」
「せいぜい捨てられないように頑張って下さい」
本当に遠慮もしないで物を言ってくる人だ。
肩を竦め仕事をしようとパソコンを開くと、町田くんは秘書モードに切り替え待っていた茶封筒を差し出してきた。
受け取り、中身を確認すると遥斗のストーカーに関する書類のようで、すでに特定し依頼した弁護士に内容証明も送って貰ったらしい。我が社の顧問弁護士からの紹介だから任せたがなかなか俊敏に動いてくれる。
「遥斗さんのポストに入っていた物は全て弁護士に預けております。⋯ほんと、私が先に入って良かったですよ。玄関ポスト、エグい物入ってました」
「エグい物?」
「使用済みのコンドームです。おかげで足が付けられましたが、さすがに遥斗さんの写真が汚れていた時は吐き気を催しましたね」
「⋯⋯⋯ソイツは殴ってもいいんだったか」
あんなにも純粋で穢れを知らない遥斗に何て物を⋯。腸が煮えくり返りそうなほどの怒りを抑えながら呟いたら、茶封筒を引き上げた町田くんがにっこりと首を振った。
「お気持ちは分かりますし私としてもぜひぶん殴って頂きたいのですが、下手をしたら暴行罪になりますので我慢して下さい」
「腹立たしいな。⋯ん?」
「どうされました?」
普段から温厚と言われている私は、基本的には誰かに対して腹を立てる事は滅多にない。理不尽な事をされれば怒りはするが、それでも人を殴りたいと思ったのは初めてだ。
怒髪天を衝くとはまさにこの事かと歯噛みしていると伏せていたスマホが震え、首を傾げる町田くんに「いや」とだけ返し確認する。大学にいるはずの遥斗からのメッセージだったのだが、その内容は俺を慌てさせるには充分だった。
『お仕事中にすみません。体調を崩したので今日のバイトはお休みを頂きました。もうお家にいるのでお迎えも大丈夫です。お仕事頑張って下さい』
遥斗にとってバイトは生きる理由と意味であり、あの喫茶店は第二の家とも呼べる存在だ。
少し前、迎えに行ったら顔色の悪い遥斗がいて、体調が悪いなら休んだ方がいいと言ったら「楽しくて仕方ないんです」と答えたくらいバイトに対して大きな思いのある遥斗が休みを貰うだなんて、これは由々しき事態だった。
「社長?」
「遥斗が体調不良だ、すぐに俺の家に医者を手配してくれ」
「あ、え⋯わ、分かりました」
「少しだけ様子を見てくる」
「十四時から商談がありますので、それまでにはお戻り下さい」
「分かった」
ほんの僅かでも遥斗の容態を見て知っておかないと落ち着かない。
時間を確認し立ち上がった俺は、町田くんに見送られながら社長室をあとにした。
帰りにいろいろ買っていかなければ。
374
お気に入りに追加
468
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話
Q.➽
BL
やんちゃが過ぎて爺ちゃん陛下の後宮に入る事になった、とある貴族の息子(Ω)の話。
爺ちゃんはあくまで爺ちゃんです。御安心下さい。
思いつきで息抜きにざっくり書いただけの話ですが、反応が良ければちゃんと構成を考えて書くかもしれません。
万が一その時はR18になると思われますので、よろしくお願いします。
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる